ナタリー PowerPush - 竹内まりや

クリス松村と紐解く「Mariya's Songbook」

子育てが一番大変だった日々こそ一番たくさん書いてた

竹内 そういえば、不思議なんですけど、子育てが一番大変だった頃に実は一番たくさん曲を書いてたことになるんですよ。1日中オムツを替えて授乳してっていう生活の中で、何かを表現したいと思う欲求はやっぱり募るわけですよね。だから、赤ちゃんが寝てからバーッと書く、その集中の度合いは自由な今よりもずっと濃かったんだろうなって。

左からクリス松村、竹内まりや。

クリス プライベートなことですみませんが、何年でしたっけ? 娘さんがお生まれになったの。

竹内 84年ですね。

クリス え! もうもっとも! アイドルに曲を書いてる時期じゃないですか。

竹内 赤ちゃんがまだ小さい頃に岡田有希子さんのスタジオに通ってたのを覚えてます。

クリス 赤ちゃんにつきっきりな中で、曲を書く気持ちになれるんですか?

竹内 ふと表現したい欲求が湧いたり、頭で鳴ってるメロディをどうしようかとは思うんだけれど、今は自分が表に出て歌う状況ではないと。だとしたら……っていう気持ちがたくさん曲を書かせたんだと思います。そこにオファーっていうものも弾みになって。あれほど集中して書けたのはやっぱり若さもあるし、今はそこまではできないんですけど。

クリス ただ、それを聞くと興味深いのは「元気を出して」。84年ですよね。この歌詞はご自分に半分重ねていたりするんですか?

竹内 いえ、そういうわけではないです。「元気を出して」は、失恋して泣いている友達を励ますような女の子同士の曲はあまりなかったので、そういうものを作ろうと思って。

クリス なるほど。今のお話を聞いたら、もしかしたら「元気を出して」って別の思いがあるのかなと思って(笑)。

竹内 私はカーリー・サイモンとジェームス・テイラーの夫婦がすごく好きだったんですが、カーリーが離婚後に「TORCH」っていう失恋の曲ばかりを集めたアルバムを出したときに、傷心した彼女を励ますように、失恋した女の子を励ます歌を作りたいと思ったのがきっかけですね。その頃ちょうどひろ子ちゃんからのオファーがあって、天使のようなひろ子ちゃんのあの声ならまさにそのテーマにぴったりだと思って、一気に書きましたね。

初めてデートしたって曲がいったいいくつあるの?

竹内 それにしても、30曲全部聴いて、私は男の子と初めてデートするって歌がよっぽど好きなんだなって気付きましたよ(笑)。

クリス あはは(笑)。

竹内 初めてデートしたって曲がいったいいくつあるの?っていう。「ファースト・デイト」はもちろんだけど、「MajiでKoiする5秒前」も渋谷で初めて待ち合わせてデート。あと「リトル プリンセス」の「腕につかまって歩くのが夢だった」とか、男の子と初めて手をつないで歩くみたいなワクワク感がよっぽど好きなんでしょうかね(笑)。

クリス あと“ディズニー・ウォッチのぞきながら待つ私”っていういじらしい感じもね(笑)。

竹内 そうそう。恋が成就してからより、これから恋が始まるんだっていうときのキラキラときめく感情が、自分の作るティーンエイジポップスの歌詞のテーマとしては一番大きいのかなあって。あの人に打ち明けたいとか、気付いてほしいとか……ちょっと切ない感情。

クリス松村

クリス 「どうすればいいの?」「私ってバカね」みたいなものとか。

竹内 ははは(笑)。

クリス かわいいですよね。

竹内 恋が始まったあとよりも、彼と仲良くなりたいなとか、なれたらいいなって憧れている時期が一番キラキラしててときめくわけで。実際にお付き合いが始まったら、ジェラシーが生まれたり、面倒くさくなったり、だんだんいろんな問題をはらんでいくじゃないですか。そうなる前の、一瞬のきらめきを歌にしたいんだと思います。

監督の気分でドラマを作る

クリス それを経て、もっとも悲しい結末が「終楽章」なんですよね。薬師丸ひろ子さんの。

竹内 ははは、そうきたか(笑)。

クリス きらめく美しい状態を汚くしたくないから私は終わらせたいっていう。

竹内 クリスさんのためにあるような歌ですね(笑)。これ以上2人の関係を続けられないと女性側が切り出す歌。ひろ子ちゃんの声に大いに救われてますけど、あれも女性の強さが表れてるというか、けっこう主張のある主人公ですよね。あなたが好きよ好きよ、ハッピーハッピー、だけだと全然ドラマにならないので、一度恋が終わるとか、再会するとか、未練があるとか、陰影があるほうが歌としてはドラマティックですよね。

クリス そういう詞を書かれるときって、女優の気分みたいになるんですか?

竹内 女優というより自分で映像を作ってる感じですね。

クリス ああ、監督のほう。

竹内 登場人物をこう配置して、この女優にはこういう強気なセリフを言わせてみるとか、ちょっと場をしっとりさせてみようとか。どこか客観的な視線で見てる気がしますね。物語を考えているときは、私は男でも女でもなくて、真ん中に居て中性になってる感じ。

クリス 歌うほうも、女優活動されてる方も多いから表現されるのがうまいですよね。

竹内 みつきちゃんも女優さんだし、松たか子さんも、薬師丸さんも、涼子ちゃんも。森(光子)さんという大女優も。

クリス 芦田愛菜ちゃんも!

竹内 特に女優さんに書いてるという意識で作ってはいなかったので、改めてこうやって集めると、けっこう書いてたことに気付きますね。女優さんはやっぱり歌手一本じゃないからか、技術云々じゃなくて独特な歌世界を持ってらっしゃると思うんですよね。歌手一本の人とはまた違う世界がそこに展開します。声の中に人生が見えるような。

コンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」/ 2013年12月4日発売 / Warner Music Japan
コンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」
初回限定盤 [CD2枚組] / 2940円 / WPCL-11618~9
通常盤 [CD2枚組] / 2940円 / WPCL-11666~7
DISC 1:Mariya's Songbook
  1. みんなのハッピーバースデイ(芦田愛菜)
  2. リンダ(アン・ルイス)
  3. ファースト・デイト(岡田有希子)
  4. けんかをやめて(河合奈保子)
  5. 駅(中森明菜)
  6. 色・ホワイトブレンド(中山美穂)
  7. Miracle Love(牧瀬里穂)
  8. 待ちぼうけ(堀ちえみ)
  9. 元気を出して(薬師丸ひろ子)
  10. MajiでKoiする5秒前(広末涼子)
  11. みんなひとり(松たか子)
  12. いのちの歌(茉奈佳奈)
  13. 特別な恋人(松田聖子)
  14. 夏のモンタージュ(みつき)
  15. Subject:さようなら(松浦亜弥)
[Bonus Track(Mariya's Demo)]※初回限定盤のみ
  1. ときめきの季節(シーズン)(中山美穂シングルカップリング提供曲)
  2. ミック・ジャガーに微笑みを(中森明菜アルバム提供曲)
DISC 2:Mania's Songbook
  1. 涙のデイト(KINYA)
  2. リトル プリンセス(岡田有希子)
  3. Invitation(河合奈保子)
  4. Hey! Baby(森下恵理)
  5. とまどい(広末涼子)
  6. OH NO, OH YES!(中森明菜)
  7. Sweet Rain(桑名将大)
  8. Dreaming Girl~恋、はじめまして(岡田有希子)
  9. 55ページの悲しみ(増田けい子)
  10. 夏のイントロ(福永恵規)
  11. リユニオン(松たか子)
  12. 終楽章(薬師丸ひろ子)
  13. 声だけ聞かせて(松田聖子)
  14. Guilty(鈴木雅之)
  15. 月夜のタンゴ(森光子)
[Bonus Track(Mariya's Demo)]※初回限定盤のみ
  1. 夏のイントロ(福永恵規シングル提供曲)
  2. MajiでKoiする5秒前(広末涼子シングル提供曲)
竹内まりや(たけうちまりや)

1978年、シングル「戻っておいで・私の時間」でデビュー。「SEPTEMBER」「不思議なピーチパイ」など次々とヒットを飛ばす。山下達郎と結婚後は作詞家、作曲家として「元気を出して」「駅」など多くの作品を他の歌手に提供する傍ら、1984年に自らもシンガーソングライターとして活動復帰し、1987年に発表した「REQUEST」以降すべてのオリジナルアルバムがミリオンセールスを記録している。また、1994年発表のベストアルバム「Impressions」は350万枚以上の記録的な大ヒットとなり、日本ゴールドディスク大賞ポップス部門(邦楽・女性)でグランプリアルバム賞を受賞。ベスト盤ブームの先駆けとなった。2007年、6年ぶりとなるアルバム「Denim」を発表。2008年にはデビュー30周年を記念した自身初のコンプリートベストアルバム「Expressions」をリリースし、オリコン週間ランキングでは3週連続1位を獲得。2010年12月には10年ぶりのライブ「souvenir again」を日本武道館と大阪城ホールで行った。その後もコンスタントに作品を発表。2013年12月、デビュー35周年記念企画として、他アーティストへの提供楽曲を集めたコンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」をリリースした。

クリス松村(くりすまつむら)

外交官の長男としてオランダの政治都市ハーグで誕生。5歳のとき受験のため帰国し、学習院初等科に入学後イギリスへ。帰国後日本に在住するも、学生時代にアメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、フランス、オーストリア、ポルトガル、エジプト、ギリシャなどの海外各都市を回る。大学卒業後、広告代理店に勤めるも激太り。3カ月で30kgのダイエットに成功。インストラクターへ転身する。現在はタレントとして活躍する傍ら、邦楽、洋楽問わずの音楽好きが高じてCDの音楽解説も。アナログ盤、CD、DVDなど約2万枚を所有し、現在も収集中。