ナタリー PowerPush - 竹内まりや
クリス松村と紐解く「Mariya's Songbook」
竹内まりやが他のアーティストへ提供した楽曲の、オリジナル歌手による音源を一堂に集めた2枚組コンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」がリリースされる。今作には、約30年にわたって書かれた多くの提供曲の中から本人が厳選した30曲を収録。さらに初回限定盤ではボーナストラックとして4曲の“Mariya's Demo”も堪能できる。リスナーはこの作品で、改めて竹内まりや作品の魅力を発見することになるだろう。
今回の特集では、邦洋問わず音楽好きとして知られ、特に80年代アイドルに造詣の深いクリス松村とまりやの対談が実現。意義深いトピックを交えながら、2人の楽しいおしゃべりは途切れることなく盛り上がり続けた。
取材・文 / 鳴田麻未 撮影 / 平岩享
“ネタ”がやれることの面白さを味わってきた
竹内 クリスさんは今年の達郎のツアーパンフレットで達郎とも対談していただいて、ありがとうございました。お宅に2万枚くらいCDやDVDやレコードがあるほど、すごく音楽に精通していらっしゃる方で。
クリス いや、一般的にはすごいかもしれませんけど、何しろ達郎さんの奥様にそんなことを言っても、達郎さんはその3倍4倍あるので(笑)。
竹内 いやいや、達郎は音楽が職業だからっていうこともありますし。そういうレコードコレクションはメディアで紹介されたことはあるんですか?
クリス チラッとぐらいですね。今も、達郎さんが「サンデー・ソングブック」で紹介されて「あ、いいな」と思ったものを買ってるので増え続けてるんです。新曲も大事なんですけど、知らない古い曲の掘り起こしっていうのがすごく楽しいし、まだ勉強の最中なんですよ。
竹内 でもすごいですよ。その記憶の確かさとか分析力も含めて、実に音楽的ですよね。フォローされている幅も広い。だから今回、アイドル歌謡的なものも含めて私の提供した曲の歴史を語るには、クリスさんが一番適任だなと思ったんです。
クリス 本当にありがたいです。でも昔から「結局何が好きなの?」って周りに質問されちゃうぐらいなんです。Il Divoを聴いてから、まりやさんを聴いて、そこから松本伊代さんにつながって……ってどういうこと?って(笑)。
竹内 好きな音楽の幅が広いってことですよね。
クリス そうです、そうです。それに、つながってるところもありますよ。このアルバムだって、結果としてまりやさんとつながっていたんだ!って気付く作品があったり、恥ずかしながら初めて知るアーティストさんがいたり。そこからまた掘っていくことができますから。
竹内 だから音楽の面白さはジャンルじゃないんですよね。私も興味を惹かれるからいろんな方に書かせていただいたんだと思うんです。オファーがあっても自分と接点を見つけられないものはたぶん書けない。その人が表現するものの中に、何か1つでも興味が見出せたらどんなジャンルでも楽しい。その聴き方に関してはすごくよくわかりますね。
クリス 提供されてる曲も、AOR色の強いものもあれば、ロック、ティーンエイジポップスというか“スクール歌謡”もあって。これらがまりやさん1人から出てきてるものだから面白い。いろんなジャンルから音を取ってきていますよね。
竹内 私もいろんな音楽が好きだから。自分で歌うときもできたら多様な音楽性を出したいとは思うんだけど、自分で表現するには限界があって、他人のキャラクターとか声によって開けられる引き出しっていうのがあるんです。だから例えば(広末)涼子ちゃんならばこういうものを歌ってほしいと思って「MajiでKoiする5秒前」を書くときの楽しさ!
クリス ああーなるほど。
竹内 「けんかをやめて」(河合奈保子)もそうですけど、私が歌ったらおかしいよなっていう。まあ、あとで歌ったりしてるんですけど(笑)。
クリス おかしいっていうかエグくなっちゃうっていうか。
竹内 かなりエグいです(笑)。年齢にも合わないし。「家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)」を私が歌うことは自然でも、「MajiでKoiする5秒前」はちょっとネタっぽい感じになる。KINYAさんに書いた「涙のデイト」なんかネタ以外の何物でもないけど(笑)。その自分とは違う“ネタ”がやれることの面白さを味わってきたんだなって、今回聴き返してすごく思いました。
「リンダ」がなければ達郎と結婚していなかったかも
クリス 雑談から流れのように始まってしまいましたけど、アルバムの中身のお話を聞きますね。人に曲を書くというのは、1980年にアン・ルイスさんへの「リンダ」から始められて。
竹内 「リンダ」は、友達のアンから「『涙のワンサイデッド・ラヴ』みたいな曲を歌いたいから、まりや書いてくれる?」って頼まれて、そういうタイプならすぐに書けそうだなと思って作った曲です。そのとき達郎を呼んでコーラスしてもらったことが、私たちが付き合うきっかけになったから、アンにあの曲を書いてなければ達郎と結婚していなかったかもしれないと思うと、ちょっと感慨深い曲ですね。
クリス 79年に出たアルバム「ピンク・キャット(Pink Pussy Cat)」を達郎さんがプロデュースされて、その縁からつながってっていうことですよね。
竹内 はい。共通の知り合いでしたから。
クリス さっき「フィーリングがなければ書かない」とおっしゃいましたけれども、私の知る限り、なんの依頼も受けていない段階で作ったのは「けんかをやめて」が最初ではないかと……。
竹内 あ、そうかもしれないですね。
クリス 河合奈保子さんのイメージを浮かべて。
竹内 私がデビューした次の年からたのきん(トリオ)や(松田)聖子ちゃんなどのアイドルが台頭してきて、テレビ番組を観るといろんな子たちが歌ってた。そこで河合奈保子ちゃんがハツラツと歌う「スマイル・フォー・ミー」を聴いて、「彼女はしっとりとした歌を歌ってもきっと似合うだろうなあ」と考えてたら、なんとなく「けんかをやめて」のフレーズが浮かんできたんです。そしたら本当に間もなくでしたね、コロムビアから奈保子ちゃんに曲を書いてくださいって、偶然のように。「あ、実はこんな曲があります」って言って出したんです(笑)。
クリス ええ、ええ。
竹内 「けんかをやめて」がリリースされた直後、たまたま達郎や(筒美)京平先生、うちの小杉(理宇造)社長たちとニューヨークへ行ってたんですね。そのとき京平先生が「今週のチャートに入ってる奈保子ちゃんの曲、あれいい曲だね」と言ってくださったんです。うわあ、京平先生に褒めていただけたのなら本望だなあと思ったのを、今でもすごく覚えてますね。
クリス もちろん曲もいいけど、あの詞ですよね。
竹内 そうですね。詞は、一言で言えば男の子を二股かけてしまってごめんなさい、というお話。ひどいですよね(笑)。それなのに、奈保子ちゃんが歌えばかわいくて自然かなという。
クリス ええ、本当に自然ですよね。やっぱりモテる女の子なわけじゃないですか。それでエグく言うと“こっちのコマ”と“こっちのコマ”に取り合いをされるっていう。
竹内 そうそう(笑)。私がもともと幼い頃に聴いてた、洋楽ポップスを訳詞したティーンエイジ・ラブソングの中には、そんな「どっちのボーイフレンドがいいのかしら」みたいなたわいのない歌詞がたくさんあって。それを浴びるように聴いて育ったので、ああいうテーマはよくある種類のものだったんです。でも、あとで自分で歌ったときにさすがに「これって何様のつもり?」って気持ちにはなりましたけどね(笑)。まあ、歌の中の話ですから。でも、奈保子ちゃんが歌うと、ちょっとワガママな女の子の揺れてる気持ちが自然に聞こえてくる。
クリス これで曲調が「Hey! Baby」みたいだったら60年代のアメリカンポップスになるんですよ。だけどこういうサウンドだから、何様だろうって感じる人がいたのかもしれませんね。しかもまりやさんの歳でこういう曲を書けちゃうっていう。
竹内 私の曲の中では“何様ソング”の代表みたいなことになってますよね(笑)。確かに、「REQUEST」(1987年に発売されたセルフカバー入りのアルバム)で歌うのにちょっと抵抗があったのはこの「けんかをやめて」だったんです。メロディは今でも大好きなんですけどね。少女の心の機微が伝わる奈保子ちゃんの歌は、改めて聴いてもやっぱり上手だなあと思います。
クリス 上手ですよね。「♪ごめんなさいね 私のせいよ」、あのあたりの抑揚っていうか、あれはすごいです。
竹内 ささやくように歌ったり、張って歌ったりね。あの曲、歌唱指導は全然してないんですよ。
- コンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」/ 2013年12月4日発売 / Warner Music Japan
- コンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」
- 初回限定盤 [CD2枚組] / 2940円 / WPCL-11618~9
- 通常盤 [CD2枚組] / 2940円 / WPCL-11666~7
DISC 1:Mariya's Songbook
- みんなのハッピーバースデイ(芦田愛菜)
- リンダ(アン・ルイス)
- ファースト・デイト(岡田有希子)
- けんかをやめて(河合奈保子)
- 駅(中森明菜)
- 色・ホワイトブレンド(中山美穂)
- Miracle Love(牧瀬里穂)
- 待ちぼうけ(堀ちえみ)
- 元気を出して(薬師丸ひろ子)
- MajiでKoiする5秒前(広末涼子)
- みんなひとり(松たか子)
- いのちの歌(茉奈佳奈)
- 特別な恋人(松田聖子)
- 夏のモンタージュ(みつき)
- Subject:さようなら(松浦亜弥)
[Bonus Track(Mariya's Demo)]※初回限定盤のみ
- ときめきの季節(シーズン)(中山美穂シングルカップリング提供曲)
- ミック・ジャガーに微笑みを(中森明菜アルバム提供曲)
DISC 2:Mania's Songbook
- 涙のデイト(KINYA)
- リトル プリンセス(岡田有希子)
- Invitation(河合奈保子)
- Hey! Baby(森下恵理)
- とまどい(広末涼子)
- OH NO, OH YES!(中森明菜)
- Sweet Rain(桑名将大)
- Dreaming Girl~恋、はじめまして(岡田有希子)
- 55ページの悲しみ(増田けい子)
- 夏のイントロ(福永恵規)
- リユニオン(松たか子)
- 終楽章(薬師丸ひろ子)
- 声だけ聞かせて(松田聖子)
- Guilty(鈴木雅之)
- 月夜のタンゴ(森光子)
[Bonus Track(Mariya's Demo)]※初回限定盤のみ
- 夏のイントロ(福永恵規シングル提供曲)
- MajiでKoiする5秒前(広末涼子シングル提供曲)
竹内まりや(たけうちまりや)
1978年、シングル「戻っておいで・私の時間」でデビュー。「SEPTEMBER」「不思議なピーチパイ」など次々とヒットを飛ばす。山下達郎と結婚後は作詞家、作曲家として「元気を出して」「駅」など多くの作品を他の歌手に提供する傍ら、1984年に自らもシンガーソングライターとして活動復帰し、1987年に発表した「REQUEST」以降すべてのオリジナルアルバムがミリオンセールスを記録している。また、1994年発表のベストアルバム「Impressions」は350万枚以上の記録的な大ヒットとなり、日本ゴールドディスク大賞ポップス部門(邦楽・女性)でグランプリアルバム賞を受賞。ベスト盤ブームの先駆けとなった。2007年、6年ぶりとなるアルバム「Denim」を発表。2008年にはデビュー30周年を記念した自身初のコンプリートベストアルバム「Expressions」をリリースし、オリコン週間ランキングでは3週連続1位を獲得。2010年12月には10年ぶりのライブ「souvenir again」を日本武道館と大阪城ホールで行った。その後もコンスタントに作品を発表。2013年12月、デビュー35周年記念企画として、他アーティストへの提供楽曲を集めたコンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」をリリースした。
クリス松村(くりすまつむら)
外交官の長男としてオランダの政治都市ハーグで誕生。5歳のとき受験のため帰国し、学習院初等科に入学後イギリスへ。帰国後日本に在住するも、学生時代にアメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、フランス、オーストリア、ポルトガル、エジプト、ギリシャなどの海外各都市を回る。大学卒業後、広告代理店に勤めるも激太り。3カ月で30kgのダイエットに成功。インストラクターへ転身する。現在はタレントとして活躍する傍ら、邦楽、洋楽問わずの音楽好きが高じてCDの音楽解説も。アナログ盤、CD、DVDなど約2万枚を所有し、現在も収集中。