デビュー5周年イヤーの竹内アンナが「at FIVE」で示した自己肯定感、アコギの可能性 (2/3)

竹内アンナがオラオラ言ってます

──「at FIVE」は約1年ぶりのCD作品で、EPとしては2年4カ月ぶりのリリースとなります。

アルバムはわりとコンセプト重視で制作しているんですが、EPに関しては毎回コンセプトやジャンルに縛られず、いろんな竹内アンナを見てもらいましょうと、実験的な作品集にしていて。今回もかなり遊び散らかしている1枚になっているんじゃないかな(笑)。でも、アコースティックギターと自分の歌が軸としてあるので、ジャンルやサウンド感は違えど全曲を通して「あなたへのオススメプレイリスト」を聴いているような気分になってもらえると思います。

──特に新曲2曲、「WILD & FREE」「生活 feat. パジャマで海なんかいかない」がまさに遊び散らかした感満載で。

やりたい放題やりました(笑)。どっちもすごく面白い試みができたと思っていて、リードトラックの「WILD & FREE」は今の私だから伝えられる自己肯定感を詰め込んだ1曲です。先ほど話したように、この2年ぐらいで歌詞の中で言葉の使い方がだいぶ変わったなと感じていて、より伝わりやすいようにストレートな言葉を選ぶようになってきたんですけど、今回も「ド派手に下剋上」とか、「あたしの人生 あたしがいなきゃ 始まらないでしょ」とか、強気にオラオラ言っています(笑)。この曲は過去のメモに残っていた「全て伏線になる my magic」というフレーズからスタートしていて。コロナのせいでうまくいかないことがあったり、それ以外にもいろんな挫折や失敗を経験したりして、そのたびに落ち込んできたけど、自分がこの人生の主人公だと思えば挫折も失敗もこの先何かを成し遂げるうえでの伏線に思えるなと。アニメやマンガの主人公もトントン拍子でうまくいくことは少ないですし、主人公だからこそ負けたりうまくいかなかったりと遠回りをして、それが必ずすべて伏線になってるじゃないですか。だから、「この失敗もいつかハッピーエンドにつながると考えれば、すべて大丈夫」と思えるように、この曲を書きました。

竹内アンナ

──なるほど。

このEPのリリースは2月下旬ですが、これからの季節は新しいことを始めたり、新たな環境に身を置いたりすることが多いので、そういうときにこの曲を思い出してもらえたらなと。うまくいかないことがあっても「でも、私が主人公だから。どんとこい!」と胸を張ればいいし、思い切り間違えたとしてもその失敗がまた自分自身の味になるはずだから、そう感じてもらえるように強気な目線で書きました。

──意外と「自分が主人公」って考え方を忘れがちなんですよね。人によっては「いやいや、自分はモブだから」と消極的になってしまうこともありますし。

そうそう。「どうせ私は」と思っちゃうかもしれないけど、あなたの人生を面白くできる人は、あなたしかいないわけで、あなたの人生にあなたがいなかったらその物語は完結しない。主人公不在のストーリーなんて面白くないんだから、あなたがいつでも中心にいることは忘れないで、と伝えたいです。下を向いてしまうときに「WILD & FREE」を思い出してもらってもいいし、自分にブーストをかけたいときに聴いてもいいのかな。

──この曲ではこういった歌詞がラップ調で表現されていますが、それによって言葉の意味がより強調されますね。

私はラッパーではないので、言葉を畳みかけるという意識でラップを取り入れているんですけど、そういう歌い方ってとても言葉を立たせてくれるので、鋭く投げたいときはラップ調にしています。

──「サヨナラ」や「あいたいわ」ではメロディメーカーとしての側面が強く提示されている一方で、「WILD & FREE」や「生活」ではメッセンジャーとしての意識が色濃く表れていて、EPを通して表現者、ソングライターとしての竹内さんの優れたバランス感が伝わってきます。

ありがとうございます。「サヨナラ」や「あいたいわ」は歌詞やサウンドがかなりストレートですが、「WILD & FREE」「生活」はまた別のベクトルで書いた曲で。「生活」はパジャマで海なんかいかないをゲストに迎えて作った曲です。全編にわたってこういうラップ的な歌い方に挑戦するのは初めてでした。「新しい場所で新たな未来を心待ちにしている」ということを歌った内容なんですけど、そういう歌詞を明るく歌うのではなくて、わりとカオスなサウンドに乗せてラップ調で歌うと面白いんじゃないかなと、自分的に新しいトライでした。この曲は作り方も面白かったですね。最初にパジャ海のBesshoさんからざっくりしたコードの付いたデモ音源をいただいて、それを私が「Aメロはこっちに移して、テンポはこれくらいにして」と切り貼りして。テンポも進行もパートごとにバラバラでクリックが使えないから、スタジオにみんなで入っていっせーので録る、ということを何回も繰り返したんですよ。そのライブ感が、まさに歌詞の中で言っている「live the live」……つまり今を生きるというメッセージにつながっていて、今この瞬間に出せる音に乗せてこの歌詞を歌えたのは本当によかったです。

──確かに、このEPの中でも「生活」が放つ生々しさは別格ですね。

毛色が全然違いますよね(笑)。そこが面白いんじゃないかなと。

──スリリングなバンド演奏とポエトリーリーディングにも通ずる歌唱が紡ぎ出す、緊張と緩和が交互に訪れる独特の気持ちよさがこの曲の肝かなと思います。

緊張感と楽しさの間で揺れている感じも、この曲の主人公の気持ちにリンクしているんじゃないかなと。そういう意味でも、私も歌っていて終盤に向けて力が入りますし、とてもエモーショナルでした。あと、歌詞の内容的に説教くさくならないように気を付けていて。「こういう考え方があるよ」と歌詞の中で伝えてはいるけど、それは提案であって押し付けたいわけではないから、あくまでも音楽でアイデアをシェアするという位置付けでありたいなと思います。

竹内アンナ
竹内アンナ

実験は大成功

──それにしても本当に5曲バラバラで聴き応えがあり、まさに先ほどおっしゃったようにプレイリスト感覚で楽しめる1枚ですね。

本当ですね(笑)。全編を通して一瞬を表現することをテーマとして設けていて。例えば、「あいたいわ」だったら主人公の女の子が好きな人に電話するかしないかで悩んでいるシーンを切り取っているし、「made my day feat. Takuya Kuroda / Marcus D」では朝起きるか起きないかというダラダラした時間を、「サヨナラ」では部屋で女の子がぽつんと座って、前へ歩き出そうかどうしようかと考えている一瞬を切り取っている。喜怒哀楽、いろんな瞬間って自分が気付かないうちに過ぎ去っていることも多いと思うんです。それをガッとつかんで丁寧に広げることもあれば、「WILD & FREE」みたいに強く広げたり、「あいたいわ」みたいに大袈裟に広げたりと、色は違えどつながりのあるグラデーションみたいな1枚になったかなと思います。

──おっしゃる通り、全体的にオムニバス感はあるものの、日常の一瞬を切り取っているという点で統一性がありますね。

曲を書くときは日常で感じたことや自分が実際に見たり聞いたりしたものをベースにしているし、誰もが経験する日常の中にあるものを表現していきたいなと思っていて。特に今回のEPではその日常がフォーカスされたのかな。

──それと興味深かったのが、「生活」以外の楽曲がほぼ3分前後ということ。

「生活」に関してはライブ感重視だったので結果的に4分近くになりましたが、ほかの曲は3分前後、「WILD & FREE」なんて3分切ってますしね。どの曲も要素が多いから、3分ちょっとで満足できる濃度かなと思います。

──その濃さも相まって、トータルで20分に満たないものの、聴き終えたあとの満足度はかなり高いと思います。

満足してもらえるのと同時に、また戻ってきたくなる感じも出せていたらいいなと。この5曲をループで聴きたくなるサウンド感にもなっているかなと思います。特にEPに関してはそのときの私がやりたいことを、フリーズドライじゃないですけど(笑)、新鮮な状態で出せているので、このEPシリーズは今後も続けていきたいですし、特に今回の「at FIVE」では今までで一番実験的なことができたんじゃないかと。

──そういう意味では、今回の実験はご自身の中でもかなり手応えがあるんじゃないでしょうか。

大成功ですね。毎回のことなんですけど、曲を作るたびに「これをやったんだったら、次はこういうこともやってみたいな」と新たな選択肢が増えていって。この「at FIVE」で今までやったことがないことにトライできたからこそ、まだやれていないことも発見できました。完成したばかりですけど、すでに次の一歩が見つけられた気がします。

──この経験は、過去にトライしてきたものにもさらに違った形で影響を及ぼすでしょうし。

いろんなサウンドにトライすることで、もちろん楽曲制作もですし、ライブパフォーマンスにもすごく生きてきます。私はいろんな編成でライブをやっていて、その編成ごとにアレンジも変わってくるんですけど、「こういう曲をやったから、こんなアレンジもできるよね」と楽曲とライブの両方によい影響が生まれます。

──それがソロアーティストの強みですものね。

何にでも染まれるのがソロの身軽さだと思うので。

竹内アンナ
竹内アンナ

アコギの中でどれだけ自由になれるのか

──5月にはdawgssとのスリーピース編成による全国ワンマンツアーが始まります。

ちょうど先日、dawgssの初ライブを観てきたんですけど、もともとわかってはいたけどやっぱりすごい2人で。同世代のミュージシャンと3人で、近い距離で音をぶつけ合えるのがめちゃくちゃ楽しみですし、すごい2人と一緒だとお互いに刺激をもらえる。トリオ編成でだいぶストイックな形だからこそ、また新しいアレンジで提示できる楽曲もたくさんあると思います。もちろん原曲もたくさん聴いてもらいたいけど、このライブならではのアレンジも絶対に面白いことになるので、ぜひ皆さんに遊びに来てほしいです。

──このEPの収録曲も披露されるかと思いますが、トリオ編成でどうアレンジが変わるのか気になります。

私は普段楽曲を作るとき、制作段階では一旦ライブのことは置いておいて、まず楽曲として面白いものを作ろうとするんです。で、完成したあとに「これ、ライブでどうしよう?」と考えるんですけど、それが自分への挑戦として楽しくて。原曲からガラッと変わるものもありますが、それもライブの醍醐味だと思っているので、今度のツアーではどんなベクトルのアレンジになるのか、楽しみにしてもらいたいです。

──編成によってアレンジが変わることで、曲が常に成長や変化を遂げていくから、竹内さんのライブはどれも見逃せないんですよ。

去年はソロツアーとバンドツアーと弾き語りツアーをやったんですけど、ソロツアーではギターを持ちつつルーパーとかサンプラーとか機材を取り入れて音圧を厚めにして、弾き語りツアーに関しては完全にアコギ1本のアレンジでした。その間にスリーピースでのライブもあったし、私とドラムだけのツーピースというストイックな編成もあって。おっしゃっていただいたように本当にその都度アレンジが違うから、私も毎回新鮮な気持ちで曲と向き合えるし、曲を新しく作り直すぐらいの気持ちでアレンジしていますね(笑)。

──いい意味でひとつの形に固執していないからこそ、いろんな可能性を生み出しているのかなと。

アコギという軸は私にとって一番大切なものだから、それはブレないようにしているんですけど、そのアコギの中でどれだけ自由になれるのかが大切で。例えば、ルーパーを使えばギターを置いてステージ上を走り回ることもできるし、「アコギを持っているから」「シンガーソングライターはこうだから」とかあまり枠を決めすぎずに、ライブスタイルをいろんな方向に広げていきたいなと思っています。

竹内アンナ

──ツアーが終わって夏になると、ついにデビュー5周年を迎えます。春には誕生日を迎えて25歳になるわけですが、20代後半と10周年に向けてどんな音楽活動をしていきたいですか?

私はギターをガシガシ弾くほうですけど、どうしても「女の子でここまで弾くのね」という見られ方をするんですね。別にギターって男女関係なく持てる楽器だし、性別とか年齢関係なく「ギターってこんなにカッコいい楽器なんだよ」といろんな人に知ってもらいたい。私のプレイを見て「ギターってこんなに素敵な楽器なんだ。私もやってみたいかも」と思ってくれる人を増やしたいですし、そのきっかけになるような楽曲を作りたいし、そんなライブをしたい。その過程で私自身もギターをもっと追求したいですし、今でこそ機材とかいろいろ使っているんですけど、最終的にはアコギ1本でどれだけ人を踊らせられるかということに挑戦したくて。クラブには行ったことないけど、アコギ1本でまるでクラブのようにフロアを盛り上げるみたいな(笑)、それぐらいのイメージでアコギの可能性を見つけたいなと思っています。加えて、ずっと自分の中でのテーマでもある自己肯定感、自分の好きなものを好きでいること、自分を愛すことを、常々自分に問いかけていきたいし、そこから浮かんだアイデアや選択肢をみんなにその都度シェアしていけたらいいなと思います。

──そういう経験が、今後の人生観や生き方にも影響を与えるでしょうし。

この5年間だけでも、いろんな経験をしたおかげで生まれた曲がたくさんありました。これから25歳になり、デビュー5周年以降もたくさん泣いて笑って、いろんな人に出会うと思うんですけど、アーティストとしてそれをひとつ残らず吸収して自分のものにして、1つひとつ花を咲かせるように曲としてアウトプットしてみんなに届けていきたいです。