ナタリー PowerPush - 竹達彩奈
「チーム竹達」プロジェクトの全貌に迫る
「作曲:筒美京平」
──1stシングル「Sinfonia! Sinfonia!!!」、2ndシングル「♪(おんぷ)の国のアリス」と少しずつアーティスト竹達彩奈像が見えてきたところで、満を持しての3rdシングルが筒美京平先生の書き下ろしというのはすごく驚きましたし、ナタリーのニュースでも大きな話題を集めました(参照:ナタリー - 竹達彩奈、新曲は筒美京平!時空を超えたポップ職人集結)。小林さんは近年の筒美さんの作品で編曲をやられてるんですよね。
小林 ええ。元はと言えば、実はこのプロジェクト自体がそこに向けられたものだったんですよ。
沖井 そこにたどり着くためには誰が必要か、という。
──楽曲制作のプロセスはどのように?
小林 この曲はまず京平さんが、声優兼ボーカリスト竹達彩奈という人を見たときに、ひとつ閃いたと。この子だったらこれだろうというテーマがまずあったんです。それが「電車男」。ひとつのテーマを元に、アイドルだろうが誰だろうがしっかりと“音楽”を作る、というのが京平さんの作り方なんですよ。今回は「電車男」とELO(ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA)。今の竹達彩奈を使って本格的なジャパニーズELOを作っちゃおう、というのが狙いですね。そこには一切の妥協はないぞと(笑)。
沖井 このテンポのポップスって、今の日本ではなかなか聴けないものですよね。本物の王道のジャパニーズポップス。奇をてらわない王道のポップスって、今みんなやらないんですよ。やればいいのに。そこにこのプロジェクトのガチ具合がわかるというか。言うなればギミックゼロですよ。3rdシングルのこのタイミングで、きちんとしたいい曲を聴きやすい音、ポップな歌詞で伝えるのはある意味勇気の要ることで。でもこれがやれるのはリスナーの力も大きいんですよ。1stのときインストアライブをやったじゃない?
竹達 はい。沖井さんと小林さんにも出てもらって。
沖井 あのとき、始まるまで実は結構ビビッてたんだよ。これが受け入れられるのかなって。でも彼ら竹達彩奈ファンの音楽を消化する胃袋たるや。ちょっと毒を吐きますけど、90年代の渋谷系とか言われてたムーブメントって、ものすごく垣根を狭く狭くした、外に対して攻撃的な文化だったでしょう? なんだったんだろうあれはって僕は思うんだけども、アニソンや声優系の音楽を聴いてるリスナーはそれとは対極で。ものすごい吸収力、ものすごい消化力ですよ。だから僕はこの「時空ツアーズ」を聴いたときに「このお客さんたちに向けてこれをやらないでどうするか」と思いましたね。絶対受け入れてくれるだろうし、この最高のポップスで堤防が決壊すればさらにダーッと広がっていくと思うんですよ。「時空ツアーズ」は間違いなくいい音楽だし、こういう曲がもっともっと広がればいいなって。
えっ、丸飲み?
──竹達さんの世代だと、きっと筒美先生の名前を意識して音楽を聴くということはなかったですよね。
竹達 はい。日曜の夕方6時半に毎週聴いていた音楽が筒美さんの作品だった、というのを最近知りました(笑)。
──今回の「時空ツアーズ」は歌謡ポップス史の流れにある、言わばド王道で。筒美先生の名前を意識しないまでも聴いていたであろう、なじみのあるポップスだと思うんですよ。最初はどんな印象でしたか?
竹達 すごく耳なじみが良くて、聴いてるとなんか溶けちゃいそうな(笑)。聴きやすいし、覚えやすいし……。
沖井 それでいて引っかかりのある感じ。
竹達 そうなんですよ。耳に残るメロディっていうんですかね。ずーっと聴いていたくなるし、聴き終わっても余韻が残るというか。言葉にできない感情がふわーっと広がるんですよ。
──それこそがまさに、日本の音楽史を彩ってきた“京平マジック”ですよね。
沖井 そうだね、うん。1980年代の終わりまでは、日本のポップスはこういったものがスタンダードだったんだけど、90年代以降はタイアップが優先になったりして、ポップスの主流が変わってしまったんですよ。本来あるべき王道のポップスがなくなってしまっている。それを復活させるいいチャンスなんじゃないかなって僕は思いますね。
──そこに独特なヒネリ方をした、いしわたり淳治さんの作詞が乗っているという。竹達さんはこの歌詞をどう捉えて、どう消化しましたか?
竹達 うーん、どうなんだろう。消化できてるのかなあ。
沖井 えっ、丸飲み?
竹達 ずっと胃に残ってる感じ(笑)。
「筒美京平ブランド」のプレッシャー
──ボーカルスタイルについては今回どう考えましたか? 個人的な印象としては、ボーカルスタイルも「王道アイドルソング」に近付けているように感じたのですが。具体的には2コーラス目「革命前夜ドキドキしてる」の頭の「ドッ」という歌い回しが特に。
小林 ふふふふ(笑)。
竹達 ここは伊達さんマジックです。最初は平坦に「ドキドキーしてるー」って歌ってたんですよ。そしたら伊達さんが「……それもいいんだけど、ちょっとアクセントをつけて跳ねさせてみようか」って。
沖井 京平さんの音楽は洋楽からの影響が強いけど、絶妙なところで日本的なコブシみたいなものを持ってくるんですよ。この「ンドッキードーキー」も、言ったらコブシですよ。そういうところも含めて、日本の王道アイドルポップスになっている気がしますね。
──竹達さんは、きっと周りの方から強烈な「筒美京平ブランド」についていろいろと聞いていると思いますけど、それは結構なプレッシャーなのでは?
沖井 そんなに感じてないみたいだね(笑)。
竹達 感じてましたよー! レコーディングの前日が一番つらくて、胃に穴が開くかと思ったんですから! お腹の中からいろいろ出ちゃいそうな気持ちで夜が明けて。気負いすぎちゃって、考えれば考えるほどよくわからなくなっちゃったんですよね。
沖井 でもね、リズム録りのときの僕もそうだった。「ヤッベ、明日は京平先生の曲でベース弾くんだ」って。前もってものすごいベースラインとか考えて死ぬほど練習して行ったんだけど、先生のマネージメントの相茶さんに「うーん、ちょっとそれ違うと思います」って言われて頭パーン!と真っ白になった(笑)。俊太郎くんとも相談して「これは個性でアプローチするものではなくて、ベーシストとしてきちんと弾くべきだな」と、リズムの拍の取り方から考え直して。
小林 この曲は、沖井礼二史上最もラインが動いてないベースじゃないですかね(笑)。
沖井 いやあ、試されたねえ(笑)。でも本来ベースはルートとキックとのバランスで表現する楽器だから。「ああ、ベースってこういう楽器だった」と。シンプルなリズムの上にきらびやかなサウンドが乗る。「これが筒美京平サウンドだよ、これだこれだ」と噛み締めながら弾きました。目からウロコでしたね。
──筒美先生の曲である以上、否が応でも日本のポップス史の1ページとしてカウントされてしまいますよね。
沖井 歴史の1ページにならざるを得ない。なってしまったからね。
竹達 ……。
──なんとも言えない表情をされてますけど(笑)。
竹達 「これで大丈夫だったのかな」って今でも思ってます。私でよかったんだろうか、とか……。
沖井 いや、それは正解でしょう。この曲は明らかにあなたのために書かれた曲だから。あなたが歌わなければいけなかった曲ですよ。
ディレクター伊達 これはストック曲ではなく、30曲ほどの彼女が歌ったキャラソンを資料に聴いていただき、彼女の声の響きなど緻密な計算のうえに作られた楽曲なんですよ。アニメカルチャーが広がったからこそ、筒美先生は今、竹達彩奈に曲を書く意義とモチベーションを持ったんだと思うんです。先生はこの5年ほど新規アーティストへのシングル書き下ろしはしてこられなかったんですけど、彼女の存在に興味を持っていただけたからこそ書いてみようかと思わせられたんだと思います。
- ニューシングル「時空ツアーズ」 / 2013年1月9日発売 / PONY CANYON
- ニューシングル「時空ツアーズ」初回限定盤[CD+DVD] 1850円 PCCG-1318
- ニューシングル「時空ツアーズ」通常版[CD] 1350円 PCCG-70171
収録曲
- 時空ツアーズ
- Hey! MUSIC BOYS & MUSIC GIRLS!
- 時空ツアーズ(Instrumental)
- Hey! MUSIC BOYS & MUSIC GIRLS!(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- 時空ツアーズ(Music Video)
竹達彩奈(たけたつあやな)
埼玉県出身の声優アーティスト。2009年放送のテレビアニメ「けいおん!」中野梓役で大きな注目を集める。「けいおん!」から派生したユニット「放課後ティータイム」では数々のヒット曲を生み、2009年12月には神奈川・横浜アリーナ、2011年2月には埼玉・さいたまスーパーアリーナにてコンサートを行った。2012年4月には初の個人名義によるシングル「Sinfonia! Sinfonia!!!」でソロアーティストとしてデビュー。同年9月には2ndシングル「♪(おんぷ)の国のアリス」を発表した。2013年1月9日には3rdシングル「時空ツアーズ」をリリース。