竹原ピストル|揺らぐことがなかった歌うたいとしての信念

ライブはやりたいけど、みんなでスカッと楽しくできるようになるまで待とう

──再びアルバムの話に戻りますが、コロナ禍だから書けた曲もありますか?

そこまで深い部分ではないですけれども、3曲目の「御幸橋」は去年の春、最初の緊急事態宣言下において、なぜか朝散歩する習慣が付きまして。そこで見える情景を書いた曲です。あとはコロナ禍になる前に書いた曲ですけど、あとからハマってきたなと思ったのが「今宵もかろうじて歌い切る」ですかね。ライブなんて歌い手だけいても成り立たない。聴いてくださる人がいてやっと成り立つものじゃないですか、当然のことながら。だから「お客さんのおかげで、どうにか今日も何とか歌うたいであることができました」という感謝の気持ちが歌に乗るようになってきました。

──ところで詞を書くことは苦ではない?

年々楽しくなってますね。「これ、だいぶいいんじゃないか? なんかちょっとコツをつかんだような気がする」と思いながら。

──竹原さんの詞は「Float Like a Butterfly, Sting Like a Bee !!」のように頭から一気に書き上げた印象のある曲も多いですが、実際はどういう作詞スタイルなんでしょうか。

最初からズラッと書いて結論へ向かう書き方はあまりしたことがないですね。癖のようなものだと思うんですけれども、まずサビのフレーズを先に考えて、何をもってここへ行き着いたかを考えることがすごく好きで。そういう書き方の曲が一番多いですね。「あっかんべ、だぜ故郷」も強いエネルギー持った言葉を頭サビに持ってきていますが、そこにつなげる描写なんてどうとでもなるっちゃなるじゃないですか? 文鎮のように動かない目印というかサビがあるから。それを考えるのが楽しくて。

竹原ピストル

──旅行で目的地まで飛行機で行くのか、各駅停車で行くのか考えるのが楽しい、みたいな。

うん。目的地は決まっているけれども、どれだけイメージした理想のたどり着き方に近付けていけるかという感じですかね。あえて遠回りしたり。今回のアルバムも相変わらず旅芸人テイストの曲が多くて、ひさしぶりに里帰りしたから書いた「あっかんべ、だぜ故郷」だったり、旅行で沖縄に行ったときに作った「南十字星(はいむるぶし)」だったり。

──曲を作る時間帯や場所は決めてらっしゃるんですか?

あまり決めてないですね。以前はどこでも何をやっててもポコンと浮かんできたんですけど、とにかく言葉を書くことがどんどん好きになってからは意識的にノートを持って散歩しながら「何か浮かばねえかな」って無理くりひねり出すこともやるようになりました。俳句の入門書を読んで、五七五で何かまとめてみようと考えてみたり。

──散歩しながらの景色でしょうけれど、Twitterでもよく公園や山で見つけた昆虫の写真を上げてらっしゃいますね。

昆虫ってグダグダ考えず、ただそこにぽつんと生きてるような感じに映って、心が落ち着くんですよね。健気だけど最強だなと思って興味あるんです。

──今作に収録された「夏のアウトロ コオロギの鳴く頃」も楽しい楽曲で、思わず踊りだしたくなります。

ちょっと軽い感じになればいいかなと思って後半に突っ込んだので、そう思っていただけたらうれしいです。

──本来ならばこのアルバム発売直後から新たな全国弾き語りツアーも始まる予定でしたが、それも中止になってしまって。

状況も悪くなってきてるし、お互いモヤモヤしたままやるのも嫌だなという思いもあって判断しました。ライブはすごく好きだし、もちろんやりたいけど、みんなでスカッと楽しくできるようになるまでもうちょい待とうか、みたいな感じですね。

──アルバムのラストに弾き語りバージョンで収録された「リョウメンシダ」は首都医校・大阪医専・名古屋医専のテレビCMソングでしたが、この曲がコロナ禍でがんばっている医療関係者の皆さんの力になってくれたらいいですね。

そうなってくれたらうれしいです。医療従事者を志す学生さんのための楽曲ということだったので、ふわっと余韻の広がる曲にしたかったなという思いはあります。「スイミー」(絵本作家レオ・レオニの代表作のひとつ)ってあるじゃないですか? ちっちゃい魚が集まって巨大な魚のシルエットを作る……ああいうイメージですね。リョウメンシダという植物自体にそういう特徴があって、個体が1つの大きなシルエットを構成するスイミーみたいな植物なんですよ。それが人と人とのつながりと似ていて、いいなあと思って。

竹原ピストル

お客さんは自分を歌うたいとしてくれている存在

──ジャケットデザインについてもお聞かせください。今までとひと味違う感じですね。

竹原ピストル「STILL GOING ON」初回限定盤ジャケット

カッコいいっすよねえ、これ。今回もずっと一緒にやってる福政良治というデザイナーに任せたんですけれども、水たまりに映り込んだ景色を撮ったと言ってました。

──ちなみに「STILL GOING ON」というタイトルに込めた思いは?

これが味も素っ気もない話なんですけど、前回の全国ツアーの折り返しぐらいのタイミングで福政良治がツアーグッズのカタログの片隅に「STILL GOING ON」と書いていたんです。「これどういう意味?」と聞いたら、「いや、ツアーまだまだ続くから、まだまだ続くよっていう意味で入れたんです」と返してきた。「カッケえ言葉だなあ」と思って、それを盛り込んだ曲を入れたから、このタイトルになりました。

──長いキャリアのある竹原さんが、「まだまだここから行くぞ」という強い意志を込めたように感じられました。

もちろんその気持ちは強いアルバムですね。ライブ活動に関しても、曲作りにしても。それも「コロナ禍でまたイチからやり直しかあ」というがっかりしたニュアンスではなく、すがすがしい気持ちで。とにかく最初にお話した通り、悲観的になる人が周りにいなかったことに救われました。ほっとかれてたら、たぶん自分自身もウワーっとなってたと思いますけど、いろいろ引っ張り回されたり、ドラマに誘ってもらったこともひっくるめて、ありがたかったですね。

──内面では悩んだ時期もあったのかなと思っていましたが、お話をうかがって安心しました。

歌への愛着や執着はアルバムに存分に封じ込めたつもりです。あとはやっぱり自分を歌うたいとしてくれているお客さんの存在ですよね。その感謝は改めて強く感じる今日この頃です。配信ライブでも視聴者数を見ながら「ああ、俺はこの人たちに食わしてもらってるんだなあ」と思いながら歌うわけだし、そういうのをひしひしと感じながら過ごしているコロナ禍ですね。

竹原ピストル
竹原ピストル(タケハラピストル)
竹原ピストル
1976年生まれ、千葉県出身。大学時代の1995年にボクシング部主将として全日本選手権に出場した経歴を持つ。1999年に野狐禅を結成。2003年にデビューし、6枚のシングルと4枚のアルバムをリリースした。2009年に野狐禅を解散後、ソロ活動を開始。年間250~300本のライブ活動をしながらリリースを重ねる。2014年、野狐禅デビュー時に所属していたオフィスオーガスタに復帰し、10月にスピードスターレコーズよりニューアルバム「BEST BOUT」をリリースする。2015年11月にメジャー2作目となるアルバム「youth」を発表。2017年4月にアルバム「PEACE OUT」をリリースし、同年末に「第68回紅白歌合戦」に初出場を果たす。2018年12月に初の東京・日本武道館公演を行い成功を収めた。2021年8月にニューアルバム「STILL GOING ON」をリリースした。歌手のほかに俳優としての顔も持ち、映画「永い言い訳」の演技が評価され「第40回日本アカデミー賞」優秀助演男優賞を受賞している。