音楽ナタリー Power Push - 竹原ピストル
真性“歌うたい”のたぎる決意
パズルみたいに組み合わせるのが好き
──「高円寺」は日本のフォークの伝統を受け継ぐようなナンバーですよね。実際に高円寺に住んでいたことがあるんですか?
住んでいるというか、自宅は京都なんですけど東京にいる時間も長いから、事務所が高円寺にボロアパートを借りてくれてるんですよ。自分はよくこういう書き方をするんですけど、まず、「今日のことなのに まるで昨日のことのように覚えているよ」というフレーズが浮かんだところから始まってるんですよね。「このフレーズ、いいじゃないか」と思って、コイツをどこに使おうか?って考えるんです。そこから「高円寺を舞台にしたらハマりそうだな」っていう。要するに「このフレーズがあれば、曲が成り立つ」ということですよね。感情のままに書くということはあまりなくて、1つのフレーズを基にして、パズルみたいに組み合わせるのが好きなんです。その接続面がピタッとハマると、すごくうれしいですよ。
──なるほど。「へっちゃらさ、ベイビー」の場合は?
「トンネルを抜けた先には、きっとただトンネルを抜けた先があるだけだよ」ですね。このサビのフレーズ、すごい気に入ってるんですよ。「その先には道が開けている」とか「止まねえ雨はねえ」とか、バカじゃねえか?と思ってるので。実際はもっと過酷だし、現実があるだけというか、「いや、これが続くだけだぜ」っていう。そこに、「そういえばこの前『今、ウチの店の○○ちゃんが来てるんだけど、ずっと泣いてるんだよね』ってメールが知り合いから来てたな」っていうことを思い出して「君があの店で泣き明かしたってこと、知っていたよ。」っていう歌詞を書いたり……。いろんなエピソードを混ぜて作ったのが「へっちゃらさ、ベイビー」ですね。
──無責任に前向きなことを歌いたくない、と?
そういうことを歌っている人を否定しているわけではなくて、「俺に言われてもしょうがないだろうな」っていう考えが働くんですよね。そんなことを俺ごときが歌うなよって自分で否定してしまうというか、全然身の丈に合ってないですから。ただ、「トンネルを抜けた先には~」というフレーズは、なるようになるというニュアンスでもないし、安心感も含まれている気がしていて、我ながら絶妙だなって思ってるんですよ。そういう言葉が浮かんできたときが一番うれしいんですよね。特にこの曲は気に入ってるんですよ。なんか優しいじゃないですか。
──曲の軸になるフレーズはいつも意識して探してるんですか?
そうですね。人が言った言葉がヒントになることもあるし。「月夜をたがやせ」の「のんでる場合じゃないからこそ のまずにいられねーんだよな」という歌い出しは、佐藤洋介さんがポロッと言った言葉なんですよ。「うわ、ダメだなーこの人」って思って(笑)。
やっぱり人物ですよね
──前作「BEST BOUT」に続き、今回も佐藤さんがサウンドプロデュースを手がけていますが、音楽性の幅がさらに広がってますよね。
洋介さんの中で試行錯誤があったかもしれないですね。僕は「こんな曲ができました!」って提出してるだけなんですよ。ライブの合間に曲を書いて、それを洋介さんに渡して、アレンジしてもらって。もちろんサウンド面でも前作との差別化を図ってくれただろうし、聞こえ方はかなり違ってると思います。
──ピストルさんのほうから「こんな感じでお願いします」っていうリクエストはしないんですか?
うすらボンヤリしたことだけですね。「こういう道を男が1人で歩いていて、ここでシーンが変わって、最後はこうなります」とか、「浮浪者たちが駅前で酒を飲んで踊っていて」とか、万事そんな感じなんで。アレンジしてもらったものを聴いて「まさにこれ!」ということもあるし、自分のイメージとは違うこともありますけど、そこは2人で作ってるわけですから、片方だけの感性を押し付けてもしょうがないというか。お互いに執着している点が違うのも面白いし、自分としても何が返ってくるのか楽しみにしてるんですよ。基本的には歌詞とメロディが決まれば、どんなアレンジでもかまわないって思ってるので。
──歌に確信が持てれば、どんなサウンドでも大丈夫っていう。
そう。「あとはなんでもいいぜ」って言えば悪い意味になりますけど、洋介さんのことは信頼できる相棒だと思ってますから。前作を作ったことで、僕がどれだけ洋介さんを信じているかアルバムを聴いてくれた人はわかってくれたと思うし……。やっぱり人物ですよね。1曲に対して、どれだけ精神を削ってくれてるかも感じられますから、洋介さんからは。もちろん腕前のよさが大前提ですけど、これだけなんでも話せる人もいないし。
──その人が信頼できるかどうかって、音楽を作る上でやっぱり重要ですからね。
うん、すごい重視しますね。前にやってた野狐禅のメンバー(濱埜宏哉)も完全に人間性で選びましたから。ピアノもろくに弾けなかったけど、面白いヤツだなって。僕ね、ギャーギャーうるさく言ってるように見せかけて、けっこう言いたいことが言えなかったりするんですよ。人に対して「そうじゃねえだろう」なんて絶対に言えない性質なので、柔らかい口調でなんでも話せるっていうのが、一緒に音楽をやるための絶対条件なんですよね。
──わかるような気がします。1人で活動しているのも、そういう性格だからかもしれませんね。
あ、そうですね。弾き語りが一番しっくりくるっていうのも、そういうことだと思うし。しくじるときも自分のせい、うまくいったら全部自分で持っていけるっていう。だから信頼できる人と一緒にやって、「曲ができました。あとはよろしくお願いします」という今の制作のやり方はすごくいいんですよね。自分の速度をキープしながら進んでいけるので。僕もすごくラクだし、アレンジも素晴らしいですから、なんの文句もないです。洋介さん、仕事はなかなか遅い方ですけど(笑)、音楽の道の究め方が本当にすごいので。
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収録曲
- youth
- 全て身に覚えのある痛みだろう?
- 午前2時 私は今 自画像に描かれた自画像
- じゅうじか
- 高円寺
- へっちゃらさ、ベイビー
- 月夜をたがやせ
- よー、そこの若いの
- ぼくの夢でした
- 石ころみたいにひとりぼっちで、命の底から駆け抜けるんだ
- トム・ジョード
竹原ピストル(タケハラピストル)
1976年生まれ、千葉県出身。大学時代の1995年にボクシング部主将として全日本選手権に出場した経験を持つ。1999年に野狐禅を結成。2003年にデビューし、6枚のシングルと4枚のアルバムをリリースした。2009年に野狐禅を解散後、ソロ活動を開始。年間250~300本のライブ活動をしながらリリースを重ねる。2014年、野狐禅デビュー時に所属していたオフィスオーガスタに復帰し、10月にスピードスターレコーズよりニューアルバム「BEST BOUT」をリリースする。2015年11月にメジャー2作目となるアルバム「youth」を発表。歌手活動のほかに熊切和嘉監督作品「青春☆金属バット」、松本人志監督作品「さや侍」への出演など、俳優としての顔も持つ。