音楽ナタリー PowerPush - 竹原ピストル
悪魔に魂を売りつけた リスタート盤
悪魔に魂を無理やり売りつけた
──アルバムの収録曲についても聞かせてください。まず1曲目の「RAIN」には「ぼくの魂を買ってくれる悪魔なんてもうどこにもいなかったよ」という歌詞がありますが、これは事務所やレコード会社から声がかからなかった時期のことですよね?
あ、よく読み取っていただいて。それはもう、「誰か見つけてくれ」と思いながらライブをやってたときのことですね。なんていうか、「こうやってライブを続けていけば、生活はできる」っていうのはあったんです。せいぜい「健康に気を付けよう」くらいのことで。でも、それとは別に夢があるじゃないですか。天下を取りたいとか、めちゃくちゃ売れたいとか。そこに勝負をかけられるタイミングって、限りがあるような気がしてたんですよ。「そういうチャンスがこなかったらどうしよう」っていう焦りもあったし。ただ暮らしていくためだけのライブ活動になってしまったら面白くないし、上を目指してがっついていく気持ちがなくなるのも怖かったんですよね。
──年齢も関係ある?
あると思いますね。閃きみたいな部分が涸れてくるというか……。曲を書く行為って、自分に対して詰将棋をやってるようなところがあるんですよ。「この描写は前にもやったな」とか「このテーマは何曲も書いた」とか。聴いてくださる方は気にしてないかもしれないけど、自分は気になりますからね。同じテーマでも、記録を更新するような曲が書けたり、別の隙間を突ければいいんですけど。
──そういう試行錯誤の末、ついにチャンスが巡ってきたわけですよね。デビュー当初に在籍していた事務所のオフィスオーガスタに戻り、メジャーレーベルからアルバムがリリースされるわけだから。竹原さんの魂を買ってくれる悪魔がいたっていう……。
ええ(笑)。「悪魔に魂を売った」なんて言い回しは甚だ古いですけど、「メジャーに行って変わった」っていうことをネガティブなニュアンスで言う人はすごく多いじゃないですか。それを逆手に取ってるところもあるんですよね、この曲は。「こっちから売りつけに行ってるんだよ。何か悪いか?」っていう。まあ、今回はかなり無理やり売りつけてますけどね(笑)。
松本人志にも捧げた「俺のアディダス」
──「俺のアディダス~人としての志~」は松本人志さんにも捧げた曲と言えそうですね。松本さんとの出会いは、やはり大きかったですか?
いやー、大きかったですね。ちょうどその頃って、何回目かの「俺、ここまでかもしれない」と思ってた時期なんですよ。だから映画の話があったときは「ほら、やっぱり見ていてくれたんだ!」っていう安心感がすごくあって。
──松本さんは野狐禅の時代から「いい」って言ってましたよね。
ラジオでそういうふうに言ってくれてたみたいですけど、まさか映画の主題歌を歌ってほしいっていう話がくるなんて思ってないですから。「自分がやってきたことは正しかった」って報われたところもありましたね、正直。
──でも、話がきたときは平静を装ったとか。
そうです(笑)。すぐに喜ぶとカッコ悪いかなって思って。最初に話を持ってきてくれたのは映画のプロデューサーさんと松本さんのマネージャーさんなんですけど、たぶん、僕のことを“孤高の歌い手”みたいな感じで見てたと思うんですよ。そのイメージを裏切っちゃいかんと思って、「まあ、話くらいは聞きますよ」くらいの受け答えで(笑)。内心は「おい! すげえことになってるぞ!」って思ってたんですけど。実際、孤高でもなんでもないんですけどね。友達も多いし、ツアーも楽しく回ってるし。
──「さや侍」には役者としても出演。その他にも「青春☆金属バット」「フリージア」「海炭市叙景」などの作品にも出演していますが、役者の活動の中で得たものはありますか?
どうですかね? とにかく芝居に関しては、監督が「こうやって」って言う通りにやってるだけなんで。ひどいときは監督に見本を見せてもらって、それをマネしたこともありますから。映画のストーリーから閃きをもらって曲ができることはありますけどね。
──「俺のアディダス~人としての志~」もまさにそうですよね。
はい。松本さんがアディダス好きだから、こういう曲を書いてみようと思ったので。これを作ってから、俺も慌ててアディダスの靴を買いました(笑)。
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- ニューアルバム「BEST BOUT」/ 2014年10月22日発売 / Victor Entertainment / VICL-64224
- [CD] 3132円 / VICL-64224
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収録曲
- RAIN
- 俺のアディダス~人としての志~ (Album ver.)
- 東京一年生
- ばかやろ。
- どっちみち どっちもどっちさ
- LIVE IN 和歌山
- ちぇっく!
- テイク イット イージー
- カウント10
- カモメ
- わたしのしごと
- マイメン
竹原ピストル(タケハラピストル)
1976年、千葉県生まれ。大学時代の1995年にボクシング部主将として全日本選手権に出場した経験を持つ。1999年に野狐禅を結成。2003年にデビューし、6枚のシングルと4枚のアルバムをリリースした。2009年に野狐禅を解散後、ソロ活動を開始。年間250~300本のライブ活動をしながら、2013年までにシングル1枚、ミニアルバム1枚、アルバム4枚を発表する。2014年、野狐禅デビュー時に所属していたオフィスオーガスタに復帰。10月22日にスピードスターレコーズよりニューアルバム「BEST BOUT」をリリース。歌手活動のほかに熊切和嘉監督作品「青春☆金属バット」、松本人志監督作品「さや侍」への出演など、俳優としての顔も持つ。