音楽ナタリー PowerPush - 竹原ピストル
悪魔に魂を売りつけた リスタート盤
2009年に野狐禅を解散して以降、ソロのシンガーソングライターとして年間250~300本のペースでライブ活動を行ってきた竹原ピストル。松本人志監督の映画「さや侍」(2011年)で主題歌「父から娘へ~さや侍の手紙~」を担当するなど徐々に注目を集めてきた彼が、10月22日にスピードスターレコーズよりニューアルバム「BEST BOUT」をリリースした。彼自身が「ここからが本当のスタート」と位置付ける今作によって、その強烈な存在感、生々しい息づかいを感じさせる歌はさらに広く知られることになりそうだ。
今回ナタリーでは、竹原本人にこの5年間を振り返ってもらいつつ、「BEST BOUT」に込めた思いを語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / グレート・ザ!歌舞伎町
「俺は間違ってない」という証明
──まずはソロ活動をスタートさせた当時のことから聞きたいと思います。野狐禅を解散させた後、すぐにライブを始めてますよね?
始めたッスね。というより“始めちゃった”と言ったほうがいいのかもしれないですけど。その頃はフラフラするのが好きな時期だったから、すぐに音楽活動をするんじゃなくて、いろんなところを旅して過ごそうと思ってたんですよ。でも、いろんな人に(野狐禅の)解散について「間違ってるぞ」みたいなことを言われて。そのことに腹も立ったし、「いや、そんなことはない。俺は間違ってないよ」という気持ちが生まれてきて……。周囲を納得させたいとも思ったし、同時に「ホントに俺は大丈夫だよな?」という自問もあったから、結局はすぐに始めちゃったんですよね。
──自分は間違っていないことを証明しようとした?
そういう気持ちもあったと思います、正直。だからってわけでもないですけど、ライブを始めたとき、野狐禅でお世話になったライブハウスは全部外したんですよ。“どのツラ下げて”っていう部分もあったし、野狐禅のときに頼ってた人にそのまま頼り続けることにも抵抗があったから。で、知らないお店を開拓していったんですよね。その中で(野狐禅時代に付き合っていた人と)縁があってつながって「また会えてよかったな」ということはありましたけど。
──野狐禅のときのつながりを使えば、手間はかからなかったと思うんですが。
確かにスムーズだったかもしれないけど、自分としては“元・野狐禅の竹原”っていうことではなくて、ド新人のつもりだったから。とにかく「ゼロから始めるんだ」っていう気持ちが強かったというか。あと(野狐禅時代の)相方にも失礼になる気がしたんですよね。野狐禅で積み上げたものに乗っかったら、「面白くないな」って思うかもしれないし。もちろんそんなことを思うような人間ではないんですけどね、相方は。
常に新しい曲がベスト
──竹原さんなりの筋の通し方だったんでしょうね、きっと。それにしても年間250から300本のライブって、普通じゃないですよね。
それくらいの数になったのは、4年目くらいからですけどね。1年目、2年目くらいまでは「こういう人間がいる」っていうことをいろんな人に覚えてもらいたかったんですよ。それを続けているうちに知り合いも増えたし、たまたまライブを観てくれたイベンターさんからも声がかかるようになってきて。あと、例えば大阪で単発のライブをやるだけでは絶対に赤字になるんですよ。だから、その行き帰りの途中にもライブをどんどん入れようっていう発想もあって。暮らしていくためには、ある程度の本数はやらなくちゃいけないっていうか、一応カミさんからも「これだけは家に入れてほしい」っていうノルマを言われてたので(笑)。
──大事なことですよね。誰しも稼がなくちゃ生活できないわけだから。
根性のない言い方かもしれないけど、歌うこと以外、うまくやれるイメージが湧かなかったんです。暮らしのために手堅く稼げるのが歌だったっていうか。もちろん、ライブが好きじゃないとやれないですけどね、これだけの本数は。
──当初、野狐禅の歌は歌ってなかったんですよね?
歌わないと言ったことは一度たりともないし、思ったこともないんですけどね。これは今も変わらないんですけど、「新しい曲のほうがいい」って思ってるんですよ、自分では。だから、セットリストを組んだときに(野狐禅の曲は)入ってこなかったと言ったほうがいいのかもしれないですね。
──お客さんに野狐禅の曲を求められることは?
ありましたよ。1人でゼロから始めると言っても、最初の頃は野狐禅から引き続き応援してくれるお客さんが多かったですからね。自分としては「こっちのほうがいいから」と思って新しい曲をやってたんですけど、お客さんから野狐禅の曲をやってほしいって言われたら、もちろんやってたし。覚えてない曲はできないですけど(笑)。それから時間が経つにつれて、「あの曲は今歌っても恥ずかしくない」と思える曲がわかってきたんですよね。だから今回のアルバムも「カモメ」っていう野狐禅の曲を再録して入れてるんです。意地になってたつもりはないんですけど、やっと客観視できるようになったのかもしれないですね。
──新しい曲って、やっぱりツアーの合間に書くことが多いんですか?
そうですね。移動中だったり、ライブが終わった後だったり。ライブ以外のときは、だいたい曲のことを考えてるので。
──見える風景とか、出会った人によって曲の幅も広がりそうですね。
そうですね、誰かが言ったことが曲につながることもあるので。あとは競演した人たちですよね。年間300本くらいライブをやってるから、その2、3倍くらいは他の人たちのライブも見るわけじゃないですか。その中で「今の歌を聴いて、心が震えた」ということもあるし、逆に反面教師というか、「こういうふうに歌われると、自分は嫌悪感があるのかもしれない」ということもあって。
──それを自分の曲に反映させる?
すぐにマネできることもあるし、「こういう部分は捨てよう」ってこともあって。削ったり足したりしてるわけだから、曲も変わっていきますよね。それは歌い方、ライブ運びも同じなんですけど。
──だからこそ、「新しい曲のほうがいい」と言い切れるのかも。
そうだと思うんですけどね、自分では。「あの頃の自分にあって、現在の自分にはない」っていうのは、一切ないと思ってるので。いい曲が書けたと思っても、すぐに「まだ行けるな」って思うし、もうちょい“伸びしろ”みたいなものがあるんじゃないかって、うっすら感じてるんですよ。あと、そのときに感じてたことが曲にけっこう出てるんですよね、振り返ってみると。「このときは旅行気分で楽しくツアーやってた」とか「このときは“これからどうするか?”って悩んでた」とか「“もうダメかもしれない”と思ってた」とか「松本(人志)さんの映画に誘ってもらって、“まだ行けるかも”と思ってた時期」とか。
──モチベーションにも波がある?
はい。だから、これだけライブをやり続けてるのかもしれないですね。休むといろいろ考えてしまうじゃないですか。「明日もまた、真剣にやらなくちゃいけないことがある」っていう問答無用の状況があることで、自分自身も救われているというか。
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- ニューアルバム「BEST BOUT」/ 2014年10月22日発売 / Victor Entertainment / VICL-64224
- [CD] 3132円 / VICL-64224
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収録曲
- RAIN
- 俺のアディダス~人としての志~ (Album ver.)
- 東京一年生
- ばかやろ。
- どっちみち どっちもどっちさ
- LIVE IN 和歌山
- ちぇっく!
- テイク イット イージー
- カウント10
- カモメ
- わたしのしごと
- マイメン
竹原ピストル(タケハラピストル)
1976年、千葉県生まれ。大学時代の1995年にボクシング部主将として全日本選手権に出場した経験を持つ。1999年に野狐禅を結成。2003年にデビューし、6枚のシングルと4枚のアルバムをリリースした。2009年に野狐禅を解散後、ソロ活動を開始。年間250~300本のライブ活動をしながら、2013年までにシングル1枚、ミニアルバム1枚、アルバム4枚を発表する。2014年、野狐禅デビュー時に所属していたオフィスオーガスタに復帰。10月22日にスピードスターレコーズよりニューアルバム「BEST BOUT」をリリース。歌手活動のほかに熊切和嘉監督作品「青春☆金属バット」、松本人志監督作品「さや侍」への出演など、俳優としての顔も持つ。