思うままに歌えばよくない?
──「Anti world」のトラックは、シリアスかつシンフォニックなロックサウンドですね。
楽曲はいくつかの候補の中から選ばせていただいたんですけど、睦月(周平)さんが書いたこの曲を聴いた瞬間に「これだ!」と思って、私の強い希望で決めちゃいました。いろんなアニソンを聴いてきた中で、例えば「歌入りじゃなくてイントロ入りがいいな」とか「サビの音数はそんなに多くないほうがいいな」とか「あんまりトリッキーすぎない、どちらかといえばストレートな曲がいいな」とかあれこれ考えていたんですけど、そのイメージにこの曲がばっちりハマったんですよ。
──おっしゃる通りアニソンらしいキャッチーさもあります。
それでいてどこか儚さもあって、それが作品の世界観にもマッチしているんですよね。
──高槻さんのボーカルもシリアスで、やはり芯の強さを感じます。
ありがとうございます。「Anti world」は自分で作詞もしているし、自分の思った通りに歌えました。もともと私のレコーディングは早く終わるほうなんですけど、かなりスムーズだったんじゃないかな。
──当然、ソロで歌うのとAqoursで歌うのとでは違いがありますよね?
やっぱりAqoursでは国木田花丸として歌っているので、ニュアンスの付け方も花丸ちゃんの付け方だし。ちょっと鼻にかかった声でピッチを高くして歌うのがすごく難しかったんですよ。なので、ソロで豪快に歌ったときに「すっごい気持ちいい!」って思いました。いくらビブラートをかけてもいいし、自分の好きなニュアンスを付けても誰にも何も言われない(笑)。
──僕はいわゆる声優アーティストをよく取材するのですが、だいたいソロデビューする前にキャラソンを歌われていて、いざ自分名義で歌うとなったときに「自分の声とは?」と戸惑ったという方も珍しくありません。でも高槻さんは、今のお話ぶりからすると……。
特に戸惑いはなかったというか、「自分の思うままに歌えばよくない?」って。頭で考えるというよりは、感覚的なものに従っているのかもしれません(笑)。
鼻歌で作りました
──カップリングの1曲目「I wanna be a STAR」は、表題曲とは打って変わってリラックスしたR&Bナンバーですね。冒頭でもかつて「スターになる」と思っていたとのお話がありましたが……。
実は、2020年の私の目標も「スターになる」なんですよ。なので、そのことについて書きたいなと思って作詞を始めたんですけど、歌詞を書きながら「こんなメロディがいいな」というのを思い付いたので、そのまま歌ってスタッフさんに送ったんです。そしたら、そこにバックトラックが付いて1曲作り上げていただいた感じで。
──あ、そういう感じだったんですね。この曲は作曲クレジットにも高槻さんのお名前があったので、作曲の勉強などもされたのかなと。
いや、全然してないです。今、ギターの練習はしているんですけど、「I wanna be a STAR」は鼻歌で作りました。アレンジ面ではちょっとゆるい、“chill”って感じの軽く聴いてもらえるような曲にしたいという要望をお伝えして。
──ボーカルも「Anti world」とはまったく雰囲気が違いますよね。
「Anti world」は過去の、心を閉ざしていた頃の自分の気持ちも入れて歌っているので、ああいう尖った歌声になったんだと思います。一方、「I wanna be a STAR」は歌うというよりはしゃべるようなテンションで歌おうと思って。だから自分の中では「あんまり歌ってないなー」という感じなんですよ(笑)。
──鼻歌がベースになっている曲だから、そういうナチュラルで優しい歌声になったのかなと、ふと思いました。
ああ、確かに自分が一番楽に歌える感じの曲になっていますね。ただ、終盤の「I wanna be a STAR」を繰り返すパートはちょっと遊びつつ、アーティスティックにカッコよくキメたかったので、そこはけっこう作り込んで歌いました。
──ゴスペル感があって、フェイクも堂に入っていますよね。
それも感覚です(笑)。
──感覚ですか。あるいは高校時代にアニソンカフェで100人組手みたいなことをしていた経験が生きているのかも。
それは、自分の中でちゃんと糧になっているという実感がありますね。あと私は、音楽に関してはけっこう雑食で、アニソンだけじゃなくて洋楽も聴くので、いろいろ聴いてきた中で「きっとこんな感じかな?」って。
──ちなみに、アニソン以外はどんなのを聴くんですか?
最近はもっぱらK-POPですね。もともとTWICEは好きだったんですけど、Nizi Projectに影響されて。
──そういう趣味性も今後の活動に生きるといいですね。
うんうん。ラップとかにも興味ありますし。
恥を捨てました
──「I wanna be a STAR」の歌詞は、曲名だけ見たときは高槻さんの野望みたいなものを語っているのかと思ったのですが、めちゃくちゃリスナーに寄り添うタイプの歌ですね。
ふふふふ(笑)。ざっくり言うと「みんなに勇気をあげるよ」という歌詞なんですけど、私の中では「いつでもみんなの背中を押せる存在であり続ける」という覚悟があるので、それをここで宣言しておくという意味合いもあります。
──その宣言が押し付けがましくないのもとてもいいなと思いました。
それはすごく意識しました。だから、「君のスターになるよ」という自分の目標を一方的に押し付ける自己満足な歌にしたくないと思いながら、みんなに語りかけるように歌詞を書きました。例えば「紡ぐ星座の中のひとつでも あげるよ とびきりの勇気」というフレーズには、今の私はAqoursというグループで紡いでいる星座の中の1つの星だけど、それでも誰かが私を見て、勇気を出してくれているといいなという気持ちを込めていたり。
──作詞の方向性も「Anti world」とはまったく違いますね。
そうですね。でも、私には特にロジックがあるわけではなく……。
──お話を伺っているとそんな感じですよね。
やっぱり感覚的にやっているというか、別の言い方をすれば素直な感じで。いわゆるアーティストの何がカッコいいかって、みんなが「ダサい」とか「恥ずかしい」とか思うようなことも言えたりやれたりするところだと思うんですよ。というか、それを堂々とできる人がアーティストなんじゃないかなって。
──なるほど。
だから私は、ソロでアーティスト活動をするにあたって恥を捨てました。それまでの自分だったら、例えば頭の中にメロディが浮かんでも「いや、作曲の勉強とかしたことないし、こんな素人のメロディを人に聴かせるなんて恥ずかしい」と思っていたんです。でも、やると決めた以上は、自分が思いついたことは恥ずかしがらずに表に出していこうと。そこから何か素敵なものが生まれるかもしれないし、失敗を恐れずチャレンジしていこうと決めたんです。
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愛の質量って、どれくらい?