高槻かなこ|アニソンへの愛と信念を胸にソロアーティストデビュー

高槻かなこが10月14日にソロデビューシングル「Anti world」をリリースする。

2015年より「ラブライブ!サンシャイン!!」の国木田花丸役でスクールアイドルグループ・Aqoursのメンバーとして活動してきた高槻。ずっとアニソン歌手を夢見てきた彼女は、テレビアニメ「100万の命の上に俺は立っている」のオープニングテーマを表題曲とした本作で満を持してソロアーティストとしての道を歩き始めた。シングルにはシンフォニックなロックナンバー「Anti world」のほか、落ち着いた雰囲気のR&B「I wanna be a STAR」、キュートなディスコチューン「アイシテルは♡グラム?」と異なるテイストの3曲を収録。すべての作詞を高槻自ら手がけ、「I wanna be a STAR」では作曲にも携わっている。

音楽ナタリーでは高槻にインタビューを行い、シングルの制作過程や彼女の根源となっているアニソンに対する強い思いに迫った。

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 斎藤大嗣

アニソンは生きる希望だった

──高槻さんは小学生の頃から「歌手になる」という夢を明確に持っていたそうですね。

はい。ただ、当時はざっくりと「スターになる!」みたいな感じで(笑)。芸能人になることを考えたとき、私は特に歌が好きだったので、歌手を選んだんだと思います。

──歌を好きになったきっかけは?

高槻かなこ

たぶん、きっかけはモーニング娘。さんですね。私は3人姉妹の真ん中で姉も妹も歳が近かったので、家ではいつもモー娘。さんやミニモニ。さんの真似をして歌ったり踊ったりしていました。あと、どういう流れだったか覚えていないんですけど、小学4年生のときになぜか私が1人でクラスのみんなの前で歌を歌うことになって、そこから人前で歌うのが楽しくなったんですよね。

──J-POPの教室にも通っていらしたんですよね?

そう、小6のときに。でもそれは、もともとバトントワリングを習っていたんですけど、その教室の定員がいっぱいになっちゃって、たまたま空きがあったのがJ-POP教室だったという(笑)。

──ははは(笑)。その後、高校生のときにアニソンに興味を持ち始めたと。

中学生のときに不登校になって、ずっと家にこもってアニメを見ている生活だったんです。でも、その頃の私は歌手よりも女優になろうと思っていて。当時ミュージカルにもハマっていて、劇団に入っていたんです。そのあと高校生になってから、店員がアニソンを歌うアニソンカフェでバイトを始めて、また歌うことが楽しくなったんです。しかも、そこでアニソンの魅力をたくさん知ることもできたので、以降ずっと「アニソン歌手になる」という夢を持ち続けて今に至ります。

──高槻さんが当時感じたアニソンの魅力って、言葉にできます?

当時の私はまったくリア充じゃなかったし、自分の現実がすごく嫌で。だから現実逃避するためにアニメばっかり見ていたんですけど、アニメがあったおかげで生きていられたなと思うところもあって。そこで流れるアニソンって、やっぱりJ-POPとは違うんですよね。J-POPは歌詞に自分を投影して聴くことが多いと思うんですけど、私には投影できる自分がいなかったんです。一方でアニソンは、そのアニメの世界観に浸れるから、歌詞の中で描かれるキャラクターにも共感できたりする。それがすごく素敵で。当時はそこまで深く考えていなかったんですけど、今思えばそれがアニソンの魅力であり、大袈裟に言えば自分にとってアニソンは生きる希望だったなって(笑)。

──先ほどおっしゃったアニソンカフェで、高槻さんは1500曲ものアニソンを覚えたそうですね。

そのお店はお客さんからリクエストされた曲をスタッフの子たちが歌うシステムだったんですけど、私はとにかくたくさん歌いたくて。だって、バイト中に歌えるなんてめちゃめちゃ楽しいじゃないですか。だから毎月40曲以上覚えて、気が付いたら1500曲ぐらいになっていたんです。

──そして2015年にAqoursとしてデビューしますが、これは厳密には高槻さんが夢見たアニソン歌手ではないわけですよね?

そうですね。やっぱり高槻かなことして、自分自身の気持ちと歌でアニメの世界観を表現するというのが目標だったので。

──その夢がついに叶うわけですが、ソロデビューが決まったときのことは覚えています?

Aqoursを5年間続けていて、ほかのメンバーもソロデビューしていたので、自分のソロデビューが決まったからといって「やったー!」みたいに歓喜することはなくて。「やっとスタートラインに立てたな」という感じでした。

この気持ちは私にしか代弁できない

──デビューシングルに収録された3曲は、それぞれまったくテイストが違います。これは意図的に?

そうですね。私がアニソン歌手になりたかった理由の1つは、いろんな世界観の楽曲を歌いたかったからなんです。なので最初から「高槻かなこはこういうジャンルの曲を歌う人」みたいにイメージを固定したくないなと思って。まずは表題の「Anti world」を作って、そこから考えていきましょうと。

──「Anti world」を軸に、カップリングでは別のことをやろうと。

はい。結果的に、自分をプレゼンするという意味でもそれぞれ世界観の違う3曲をデビューシングルで歌えたのはよかったなと思っています。

──その3曲すべての作詞を高槻さんがなさっていますね。

作詞自体は、Aqoursとは別のBlooDyeというユニットでも何曲かやらせていただいていて。でも、歌手を目指すようになった10代の頃からなんとなく「アーティストといえば作詞するでしょ」と思って、何かいい言葉が浮かんだら書き留めておくようにしていたんですよ。なので歌詞のストックはいっぱいあります。

──とはいえ表題曲「Anti world」はアニメ「100万の命の上に俺は立っている」のオープニングテーマです。タイアップ曲の作詞はハードルが高かったのでは?

最初はそう思って作詞家さんに依頼していたのですが、原作を読んだときに主人公の四谷(友助)くんと自分にはすごく重なる部分があると感じて。「この気持ちは私にしか代弁できないかも」と、勢いで自分に書かせてくれるようお願いしました。

──「重なる部分」というのは、具体的には?

四谷くんは田舎で生まれ育ったんですけど、急に都会に引っ越して心を閉ざしてしまい、そこから異世界に転送されて人との絆を感じていくんです。私自身もさっき中学で不登校になったと言いましたけど、その原因が、小6の卒業間際にいきなり関東の都会から関西のちょっと田舎に引っ越したことだったんです。だから、そのときの気持ちを思い出しながら、私の言葉で歌詞にしたいなって。

──その歌詞は、例えば「正義感で何を語ろうと 勝ったもん勝ちだろ」「僕らが未来を壊す」など、攻撃的あるいは反抗的と言ってもいい、強い言葉で書かれていますね。

四谷くんとその仲間たちは思春期の高校生ですけど、そんな彼らがかなり切羽詰まった、生きるか死ぬかのシビアな世界に転送されてしまうんです。だからその世界に抗うような、ストレートで、それでいて皮肉っぽい言葉選びを意識しました。

──僕は高槻さんに対して勝手に「芯の強そうな人」というイメージを持っていたので、「Anti world」の歌詞は非常に高槻さんらしいと思いましたし、そういう曲が1stシングルの表題になるのはすごくいいなと。

ありがとうございます。確かに、私は何か言うときは言い切るようにしています。言霊じゃないですけど、例えば「○○になりたい」じゃなくて「○○になる」と言ったり。だから「Anti world」の歌詞も全部そういう感じで書いているんです。あと「Anti world」の主人公は未熟なんですけど、だからこそ強い言葉で言い切ることによって自分を奮い立たせるというか。言葉の力が彼を引っ張っていってくれるといいなという気持ちもありました。