音楽ナタリー Power Push - 高橋優
自分の中にあるものを全部出したアルバム「来し方行く末」全曲解説
人を憎む気持ちを無理に抑えると、急にナイフが飛び出す
9. アイアンハート
──終盤にハードな曲が入ってきました。SNSが手軽な反面、人との距離感を曖昧にしている中、沁みる言葉が並んでますね。
ちょっと前まではケンカなんてダメだと思ってたんです。みんな仲よくなればいいのに、受け入れ合おうよっていう理想を歌にしたこともあったんですけど、最近は誰かのことを嫌いになったり、憎んだり、なんなら殴り合うこともあっていい。喜怒哀楽があるほうが正常だと思うんです。それを無理に隠そうとしたり抑えようとするから、急にナイフが飛び出してきたりする。心が鉄の人なんて絶対存在しないし、アイアンハートになれないからこそ何か同じテーマで笑えたり、話をするだけで人と人はつながっていられる。そういう思いからこの曲は始まりました。怒りたいなら怒る、好きなら好きって言うシンプルな気持ちが、今はSNSとか見ても複雑になってる気がするんです。なのでサビでは「分かり合えなくてもいいさ 笑い合うことができるなら」って、これ見よがしに繰り返しています。
10. Cockroach
動物ソングと別に「蛍」(2ndアルバム「この声」収録)とか「蝉」(3rdアルバム「BREAK MY SILENCE」収録)とか、“虫ソングシリーズ”というのもあって、その最新作です。Cockroach=ゴキブリは超嫌われてますよね。
──嫌われ度ではトップクラスでしょう。
自分はどちらかというと好かれてるものより嫌われてるものにシンパシーを感じるんです。もちろんゴキブリは気持ち悪いですし、ああいったフォルムの虫は嫌いですけど、すごく生命力が強かったり、地球にいる歴史的には人類より先輩というじゃないですか? 僕ら人間も八方美人かましたり、仕事の軸がないように見られると「お前は結局何がやりたいんだ?」って怒られたりすることがあるかもしれない。だけども絶対に生き残りたいんだっていうプライドだけは持って、いろいろ表情を変えたり、やりたいことを変えたりしながらやっていくのも、1つの手段だなと思ったんです。「なんでもやります、その代わり誰よりも長生きしてやる。はいつくばってでも前に進んでやるぞ」っていう。その生命力とか執着心は、ある意味最後の「BEAUTIFUL」につながっていくんですけど、そんなふうに生きている人間のことを肯定できたらいいなって。
──ライブ映えする楽曲なので、非常に盛り上がるでしょうね。
「Cockroach」と「Mr.Complex Man」はライブも意識しながら作りました。僕の中では「さあ、こっから行くぞ!」みたいな。「Mr.Complex Man」もコール&レスポンスで「Yeah! Yeah! Yeah!」ってみんなで叫べたらいいなって。
心の壁を越えて言葉を届けるのは難しいけど、やってみる価値はある
11. 光の破片
──アニメ「orange」オープニングテーマです。
僕の中でけっこう不思議な話なんですが、この曲、最初から絵がずっと浮かんでたんです。キラキラしてる絵で。僕が作った曲の中ではボーカルがかなりハイトーンなんですけど、そうさせてもらったのはキラキラな感じにしたかったからで。テーマは万華鏡です。人と人を万華鏡の石に見立てて、重力に逆らえずにくっついたり、またバラって離れたり。人も誰かと誰かが仲よくなってくっついて集団ができたり、グループの解散みたいにバッと離れて「お前とはおしまいだ」って言ったりするけど、その人間模様が万華鏡のように美しいんじゃないかなって思ったんです。ミュージックビデオも同じく万華鏡をテーマにして。僕もいろいろリクエストさせてもらったんですけど。そのMVで初めて賞をいただいて。
──「MTV VMAJ 2016」最優秀邦楽男性アーティストビデオ賞を受賞されました。
楽曲を書いたときからずっと浮かんでいた絵みたいなものが、そうやってMVになったときに賞をいただけたというのは自分の中ですごく意味のあることだな、ありがたいことなって。
12. BEAUTIFUL
──アルバムの最後を飾るにふさわしい壮大な曲です。
この曲で終わるようなアルバムを作りたいと思って。ここから今回の「来し方行く末」の制作が始まりました。
──これは「君は美しい」というひと言にすべてが込められていますね。
今は言葉がどんどん希薄になっていってるというか、誰かの心まで届きづらくなってる世の中な気がしていて。例えば、「きれいですね」と言っても、ハイハイと軽く受け流せるほうが普通っていうか。それをひと言ひと言「えっ、それどういうことですか?」って受けとめるシーンって、どんどん減ってる気がするんです。ネットのニュースにしても1個1個の記事をじっくり読むというより、みんなとにかく次から次へとじゃないですか? そういう中で「いやいや、ちょっと立ち止まってみて。あなたは本当に美しいんだよ」って言いたい曲なんです。あなたが壁を作ってることも知ってるし、その壁をぶっ壊したいと思ってるわけでもない。相手との距離感は縮まることはないんだけど、いろんなシチュエーションを経て、ようやくそのひと言が言える。心の壁はみんなあるし、その壁を飛び越えて言葉を届けることはすごく難しいけど、やってみる価値があるんじゃないじゃないかなと思って。
──それを「BEAUTIFUL」と言えるところが素晴らしいです。
「かわいい」だと女子に向けてですけど、「美しい」は男性にも言える言葉ですからね。あなたの生き方、がんばってる姿が美しいっていうのは、男女問わず言えることだと思って。この曲はラブソングと言うよりはライフソングとして、人生をテーマに書かせてもらいました。
──12月からのツアーでも重要な楽曲になるんじゃないでしょうか。
そうですね。たぶんテーマになってくると思います。
──たくさんの方に聴いていただきたいアルバムですね。全曲振り返っていただきましたが、改めて、かなり手応えを感じてらっしゃるんじゃないでしょうか。
どうでしょう? 今はある意味空っぽというか、自分の中にあるものを全部出したような気持ちです。またいろんな情報や経験が自分の中で吟味されて、言葉や音楽になって出てくると思うんですけど、ここ2年間で表現したかったことはこのアルバムで表現できたなという思いはありますね。
- ニューアルバム「来し方行く末」 / 2016年11月16日発売 / unBORDE
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 4212円 / WPZL-31246~7
- 通常盤 [CD] / 3240円 / WPCL-12461
CD収録曲
- Mr.Complex Man
- 君の背景
- さくらのうた
- 明日はきっといい日になる
- 拒む君の手を握る
- 象
- 悲しみのない場所
- 産まれた理由
- アイアンハート
- Cockroach
- 光の破片
- BEAUTIFUL
初回限定盤DVD収録内容
- 秋田CARAVAN MUSIC FES 2016 at グリーンスタジアムよこて 2016.9.3-4
- 秋田フェスお蔵入り映像「ユウタイム~あきたの時間」
- 林卓の活躍 in 秋田フェス
高橋優 全国ホール&アリーナツアー 2016-2017「来し方行く末」
- 2016年12月3日(土)
- 埼玉県 狭山市市民会館(ファンクラブ限定公演)
- 2016年12月11日(日)
- 石川県 本多の森ホール
- 2016年12月17日(土)
- 福島県 郡山市民文化センター 大ホール
- 2016年12月18日(日)
- 新潟県 新潟県民会館
- 2016年12月20日(火)
- 長野県 ホクト文化ホール 中ホール
- 2016年12月21日(水)
- 埼玉県 大宮ソニックシティ
- 2016年12月25日(日)
- 沖縄県 沖縄市民会館
- 2017年1月7日(土)
- 宮城県 仙台サンプラザホール
- 2017年1月8日(日)
- 宮城県 仙台サンプラザホール
- 2017年1月14日(土)
- 福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 2017年1月15日(日)
- 鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
- 2017年1月21日(土)
- 香川県 レクザムホール
- 2017年1月22日(日)
- 高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
- 2017年2月3日(金)
- 広島県 広島文化学園HBGホール
- 2017年2月4日(土)
- 山口県 周南市文化会館
- 2017年2月10日(金)
- 秋田県 秋田県民会館
- 2017年2月12日(日)
- 岩手県 盛岡市民文化ホール
- 2017年2月19日(日)
- 熊本県 荒尾総合文化センター
- 2017年2月20日(月)
- 大分県 ホルトホール大分
- 2017年2月26日(日)
- 岡山県 岡山市民会館
- 2017年3月11日(土)
- 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2017年3月12日(日)
- 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2017年3月18日(土)
- 北海道 わくわくホリデーホール
- 2017年3月19日(日)
- 北海道 わくわくホリデーホール
- 2017年4月1日(土)
- 神奈川県 横浜アリーナ
- 2017年4月2日(日)
- 神奈川県 横浜アリーナ
- 2017年4月16日(日)
- 大阪府 大阪城ホール
「高橋優 来し方行く末ダイニング」
東京都港区高輪4丁目10-8 ウィング高輪WEST-III 1階 あきた美彩館内
2016年11月16日(水)~11月30日(水) 期間限定オープン
※CDの販売期間、並びに時間は2016年11月16日(水)~11月20日(日) 11:00~20:00
アルバム「来し方行く末」の発売を記念してオープンしたダイニングで、アルバム収録曲をテーマにしたコラボフードメニューを用意。店内はのれん、のぼり、看板、ランチョンマットなどの装飾物が高橋優の「来し方行く末」にちなんだもので埋め尽くされ、高橋優の写真やレコーディング秘話が展示される。
また、11月16日から11月20日までの間に店舗でアルバム「来し方行く末」を購入すると、「秋田CARAVAN MUSIC FES 2016」で撮影された写真を使った5種類のポスターが日替わりでプレゼントされる。
高橋優(タカハシユウ)
1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移す。2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でメジャーデビュー。2011年4月にリリースされたメジャー1stアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」はロングヒットを記録する。2013年11月には初の日本武道館公演を開催。2015年7月にはメジャーデビュー5周年を記念した初のベストアルバム「高橋優 BEST 2009-2015 『笑う約束』」をリリースした。2016年9月には地元・秋田のグリーンスタジアムよこてで野外音楽フェス「秋田CARAVAN MUSIC FES 2016」を開催。同年11月に5枚目のオリジナルアルバム「来し方行く末」を発表。12月からは神奈川・横浜アリーナ2DAYSを含む、全国ホール&アリーナツアー「来し方行く末」を開催する。