今まではずっと「白黒ハッキリ」をテーマにしてきたけど……

5. 拒む君の手を握る

──先ほどダメな男の歌とおっしゃっていた曲です。

この曲に変態さや狂気を感じるとおっしゃる方もいれば、逆にこれが一番萌えソングだとおっしゃってくださった方もいたんです（笑）。アルバムを聴いてくれた人たちの感想が一番楽しみな曲です。拒まれた経験がある人じゃないと、もしかしたら想像しづらいかもしれない。モテちゃってしょうがない男性とか、女性でも両思いしか経験したことない人からすると、「何これ？」って思うかもしれないんですけど（笑）。僕の場合、ハッピーな恋愛というより、すれ違ったり思いが届けきれないことで生じる男女関係のズレが面白いんじゃないかと思うんです。

──歌が生まれる瞬間ですね。

それが全部ガチッと合う恋愛、これから僕、商品化されると思うんです。VR（バーチャルリアリティ）とか人工知能で自分にとっての一番いい相手を作るという。人間相手だとそうはいかないじゃないですか？ 自尊心とか自我があるから。その自我と自我のぶつかり合いとすれ違いとこすれ合いみたいなところで、僕はよくこういう曲ができるんです。付き合ってるかどうかわかんないみたいな関係って、今けっこう多くないですか？

──ああ、“友達彼氏”とか。

「友達みたいな関係なのに、あの夜は何だったんだろう……？」みたいな。僕はそういう話を聞くのすごいイヤだし勝手にしてくれと思うときもあるんですけど、この曲ではあえてこの2人は付き合ってるのかどうかわからないふうにしました。女の人の靴音も本物のハイヒールを持ってきてもらって、ドラムのターキーさんにリズムを刻んでもらって録音したんです。この女の人はこれから本当に好きな男の人に会いに行くのか、家に帰るのか、拒まれたくてわざと気を引こうとしてるのか。いろんな女性に見えるようにしたくて。逆に追っかけてる男性のほうも自分に余裕がありつつ「今日は側にいてくれよ」って言ってるのか、なんなら結婚指輪を持ってるぐらいの男なのか、わからない。でも、そのわからない関係性が面白いし、いい意味で見苦しい。そういう曖昧な感じの関係がこのご時世すごく多い気がして。

──白黒ハッキリしたものと、曖昧なものが今回のアルバムの中には混在してますね。

デビューしてからずっと「白黒ハッキリ」みたいなことが自分の中でテーマになってたし、正しさはこうだ、みたいなことを歌わなくちゃいけない気がしてたんです。でも、それが押し付けになったら絶対よくないし、いろんな切り口からいろんな人の明日がふわっと見えてくる楽曲もあっていい気が最近してきたんです。なので、あえてこういう曲を書いてみました。

6. 象

──2年前に楽曲提供した曲ですが、今回セルフカバーしようと思ったのは？

タイミングさえあれば自分のものとしていつか歌える日が来たらいいなと思っていたんです。アレンジももっと派手に変えたほうがいいかなってアイデアもあったんですけど、以前聴いてくれた方でも「あっ、こう変わるんだな」っていうのがわかりやすいようにあえてフレーズも変えず。ただ、歌が高橋優になってるってふうに聴いてもらいたいなと思いながら録りました。

──ここでも「10年後またここで会おうよ」というタイムカプセル感のある歌詞を書いていて、のちのち効いてきそうですね。

これを書かせてもらったとき、そのグループの10周年だったんですけど、「10年間、こうだったね」よりは、僕の場合「さあ、こっから次の10年どうしよう？」って考えるほうが前向きかなと思って10年後って言葉を入れたんです。奇しくも僕も去年デビュー5周年をやらせてもらったし、今回アルバムタイトルにも「行く末」という言葉が入ってるし、自然とこの曲が今回のアルバムにマッチしてるような気がしました。「駱駝」（ベストアルバム「高橋優 BEST 2009-2015『笑う約束』」収録）、「犬」（4thアルバム「今、そこにある明滅と群生」収録）などに連なる“動物ソングシリーズ”の1つです。

ばあちゃんの歌と、赤ちゃんの歌

7. 悲しみのない場所

──今年9月からオンエア中のJA全農あきた「あきたこまち」新CMソングです。2年前、同CMソングに使用された「同じ日々の繰り返し」（4thアルバム「今、そこにある明滅と群生」収録）とはまた違うアプローチですね。

僕にとって、あきたこまち＝故郷（ふるさと）なんです。去年の7月にデビュー5周年を記念して秋田でフリーライブをやらせてもらったり、今年の3月に母校である中学校の卒業式にサプライズで歌いに行かせてもらったり、9月に「秋田CARAVAN MUSIC FES 2016」っていう野外音楽フェスをやらせてもらったり。去年と今年でふるさと秋田に対して人生の中で一番振り返る時間が長かったんです。自分が秋田に産まれたというのはどういうことだったんだろうとか、高橋家はどんな家だったんだろうかとか。そういうことを考えていたら、死んだばあちゃんのことが浮かんできたんです。

──ここで歌われている「君」は、おばあちゃんのことなんですね。

僕、ばあちゃん子だったんです。この「悲しみのない場所」は、「ばあちゃんに宛てて書いた曲って今までなかったなあ」というところから始まってます。

──ここ2年間の活動は高橋さんの中で大きいものだったんですね。

大きいですね。

8. 産まれた理由

今年の2月に書いた曲で、お世話になってるスタッフの結婚式をきっかけに書かせてもらった曲なんですけど……最近、秋田でライブをやると、うちの両親とか親戚が観に来るんですよ。前は歌をやることに反対してた家族が。それが今や応援してくれるようになってきたことに対して、自分もいろいろ思うことが増えて。「産まれた理由」みたいな曲が出てくるんだなって自分で書いてて驚いたんです。「ねぇお父さん」なんて歌い出しの曲、僕一生書くことないと思ってたんですけど、書いちゃった、みたいな（笑）。

──あはは（笑）。

この曲を作るとき、2月に結婚したカップルからいつか子供が産まれてきて、その子供が言葉を覚えたあとで、お父さんとお母さんに対してこういうことを言ってたら、それは“幸せ”っていう風景なんじゃないかなって想像したんです。例えば、結婚する人たちに対して「おめでとう」「幸せになってね」って言うじゃないですか？ その言葉に代わる曲を書きたかったんです。

──いいお話です。

結婚式って、ある意味これから子供が産まれてくる一番のきっかけになる日じゃないですか？ だからこのタイトルで、これから産まれてくる子の気持ちを想像して書いたんです。結婚式で歌う機会も今年はすごく多くて。フェスに出るより、結婚式のサプライズ登場で歌った回数のほうが断然多いです（笑）。

──結婚式でのサプライズっぷりは、Maroon5の「Sugar」のミュージックビデオといい勝負ですね（笑）。

比較対象がでかくなっちゃってますけど（笑）。後日談ですが、この曲のきっかけになった女性スタッフに先日、赤ちゃんができたんですよ。今おなかが大きいから、12月からのツアーを一緒に回れないんです。でも、幸せになってほしい思いで書いたから夢が実現したなって。産まれてくる子がいつの日かこういう言葉をお父さんとお母さんに言う日が来たらいいなと思ってます。