音楽ナタリー PowerPush - 高橋優
最高傑作「今、そこにある明滅と群生」全曲を語る
05. WCネットの中傷はトイレの排泄物と同じ
──「WC」というと、トイレのこと?
そうですね。簡単に言うと、ネットにある悪口みたいなものを指していて。
──これもずいぶん踏み込んだ歌ですね。
本当にひどい中傷もあるし、根も葉もない話もありますよね。でもこれはトイレで行われる行為と一緒で、書いている人たちにとっては必要な作業なのかもしれないと思うんです。だって排泄物を溜め込むほうが不健康じゃないですか。彼らにとっては出さないとしょうがないものであって、自然現象みたいなものなのかなと。何かを批判したりしなければその人のバランスが取れないのであれば、それはもうしょうがない。
──つまり深い意味はないんだと。
そうですね。「あいつマジ終わってる」とか「クソワロタwww」とか書かれたとしても傷付く必要はないんですよ。書いた人はきっとブリーッとウンコするのと同じ気分だから。トイレの中の排泄物を指差して「汚い!」って言ってもしょうがないじゃないですか。
──本当にその通りだと思うんですけど、だったらそんなものはスルーして過ごすほうが健康的ですよね。でも優さんはあえて便座のフタを開けて、排泄物を見つめて曲にしたわけじゃないですか。その理由は?
苦しんでる人を知っているから。意外なほどいっぱいいるんですよ。
──優さんの知り合いなどでも?
はい。僕もデビューして4年経って、それなりにミュージシャンや俳優やお笑いの友人もできたんですけど、本当に頭を悩ませてる人が多いんです。すごく人気もあってみんなから愛されていても、どうしても批判のほうに目がいっちゃうんですよね。だから「そんなものは気にしないでいいんだ」って歌ってあげたかった。本当に「リング」の呪いのビデオみたいなものなんですよ、見なきゃいいのについ再生して呪われちゃう。だから僕は友人が携帯を開いたら「それは呪いのビデオだから見ちゃだめだ!」って言ってあげたいんです。
06. 同じ日々の繰り返しどんな状況であっても主人公は自分自身
──「同じ日々の繰り返し」はとても等身大で、ストレートなメッセージが込められていますね。
例えば上司とか姑とか、大きな存在に振り回されちゃってる人っていると思うんです。自分の考えがわからなくなっちゃって、すごく受動的な状態っていうのかな。それはちょっと悲しいことだと思うんです、僕は。
──そうですね、わかります。
例えば両親に「こういう人生を歩みなさい」って言われても、決意するのは自分じゃないですか。それを思考停止して言われたままに動いて、全部誰かのせいにしていても何も変わらない。どんな状況であっても主人公は自分自身だし、その主観を大事にしてほしい。だから歌詞にある「アドリブがちょっと苦手な しかめっ面の主役にさあエールを」っていうのが、すごくシンプルな本心です。
次のページ » 07. ヤキモチ「予定調和をなくしたくて」
- ニューアルバム「今、そこにある明滅と群生」/ 2014年8月6日発売 / unBORDE
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3672円 / WPZL-30896~7
- 通常盤 [CD] 3240円 / WPCL-11944
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収録曲
- BE RIGHT
- 太陽と花
- 裸の王国
- 明日への星
- WC
- 同じ日々の繰り返し
- ヤキモチ
- 旅人
- 犬
- パイオニア
- おやすみ
初回限定盤DVD 収録内容
- BE RIGHT(Studio Live)
- 太陽と花(Studio Live)
- ヤキモチ(Studio Live)
- 明日への星(Studio Live)
- 8月6日(Studio Live)
高橋優(タカハシユウ)
1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月に初の全国流通盤「僕らの平成ロックンロール」を全国リリース する。2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でメジャーデビュー。2011年4月にリリースされたメジャー1stアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」はロングヒットを記録する。その後もコンスタントに作品を発表し、2013年は7月にアルバム「BREAK MY SILENCE」を発表したあと、11月に初の日本武道館公演を開催。2014年8月には4thアルバム「今、そこにある明滅と群生」をリリースした。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声で、支持を集めている。
04. 明日への星「時代のせいだ」って言ったらおしまい
──「明日への星」では、冒頭で「貸したお金が返してもらえなくて電気代が払えなくなった」とありますよね。これは事実?
そうなんですよ。大学生の頃ですね。
──超いい人じゃないですか。
そうですか? でも女性の方と話すと、「要領悪いんですね」みたいに言われますよ。「お金ないのに貸しちゃうんですね」って。別にいいじゃないか!(笑)
──「ボーリング」とかもそうですけど、自分のダメな部分を認めて歌にして、それでも笑っていこうっていう姿勢には、同じ男性としてすごく共感する部分があります。
そう言ってもらえると救われますよね。自分がカッコ悪いことを歌っても嘆きにしかならないから、それを経てどうなるのか、どうなりたいかが大事だと思うんです。歌にして表現するために、自分の経験の中から大切なものを題材に選んでいく感覚ですね。
──ということは、その出来事は優さんの中でも大きな事件だった?
何かしら引っかかっていたエピソードではあったんですよね、どういうことだったんだろうって。これは僕1人の問題ではなくて、相手とのつながりで起こったことでもあるから。それを「相手が悪い」とか「時代のせいだ」って言ったらおしまいで、「それで僕らはどうする?」「どこに行く?」というワクワクを考えるためには必要な経験だったと思ってます。
──やっぱり、自分の失敗をさらけ出しても前を向こうとする姿勢が、優さんの信頼できるところなんだろうなと思います。
いや、褒めすぎですよマジで(笑)。要は失敗を繰り返してる人間だってことで、成功し続けていたらその歌しか書けないんですよ。だから自然のなりゆきだし、僕は過去の失敗も絶対に必要な過程だったって信じてるだけで。「明日への星」ではつながりを大切にしたいってことが言いたくて、僕は絶対に君を1人にはさせないっていうメッセージなんです。僕はカッコ悪いし、失敗ばかりだけど、それでも絆を大事にしたいんだっていう決意ですよね。