音楽ナタリー PowerPush - 高橋優

最高傑作「今、そこにある明滅と群生」全曲を語る

高橋優が4枚目のアルバム「今、そこにある明滅と群生」をリリースした。自分の本心やつらい過去までをさらし、“みんなで声を上げよう”と宣言して世に放った前作「BREAK MY SILENCE」から1年。念願だった武道館公演も成功させた今、次の一歩に向けて彼はどんな思いを抱き、制作に臨んだのか。アルバムに収録された全11曲それぞれについて、じっくりと話を聞いた。

取材・文 / 田島太陽 撮影 / 佐藤類

誰かの言葉を聞くために僕が声を上げる

──前作の「BREAK MY SILENCE」は、自らの沈黙を破って“のろし”を上げた作品でした(参照:高橋優「BREAK MY SILENCE」インタビュー)。あれから1年が経ち、何かが変わった実感はありますか?

高橋優

ライブの雰囲気が変わりましたね、ガラッと。

──具体的にどんなふうに?

ヤジが多くなりました(笑)。それは嫌なものじゃなくて「高橋ー!」みたいな温かい声で。少し前まではお互い様子をうかがってる部分があったと思うんですけど、今はみんな好き放題言ってくれるようになりましたね。この前、阿部真央さんとツーマンライブをやらせてもらったときは「もっとしゃべってー」って言われて調子に乗っちゃって、1時間くらいずっとトークしちゃった。

──1時間!!

しゃべりすぎですよね(笑)。でも、ライブに来てくれる方たちと、ちゃんと人間関係が育めてる感じがするんです。それがうれしい。今までは「僕の歌を聴いていただきます」って感覚だったけど、最近は「そろそろ歌っていい?」みたいな。「歌っちゃっていいっすか? もっと話します? どうする?」って一緒に話し合ってる感覚がすごく強くなりましたね。

──高橋優っていうアーティストを理解してくるお客さんが増えたってことですかね。

「沈黙を破ろう」という去年のコンセプトを受け止めてくれた方がたくさんいたんでしょうね。それだけに、悩んだんですよ。そのお客さんたちの雰囲気が大好きだったし、僕自身もっと応えたいと思ったからこそ、次の一言やアクションを慎重にしないとって。声を出そうって言ったけど、じゃあ僕は実際にどんな声を上げるのか?ってことですよね。それを考え出したのは、去年の武道館公演(11月24日)の前後くらいからかな。

──その悩みが消えた瞬間はあったんですか?

長い時間をかけて考えて掘り下げていきましたね。それで行き着いたのが、自分が声を上げること自体は大切ではなくて、誰かの言葉を聞くために僕が声を上げるんだってことだったんです。悩んでいる人には聞いてほしい言葉や言いたいことが必ずあると思うんです。それを引き出してあげること、スッと言わせてあげることが、優しさであって愛なんじゃないかなって。

──それも前作でチャレンジしたからこそ気付けたことですよね。

そうですね。僕も友達から相談を受けたりするんですけど、「こうすればいいよ」なんていうアドバイスはあまり大事じゃないって思い出したんですよ。それよりも、相手が言いたい言葉を自然と言わせてあげることが救いになる。だからライブでももっと僕の正直な姿を見せていくことで、みんなの言いたかったことが聞こえるようになるといいなと思います。

今まででよりも愛に満ちたアルバムになった

──前作の「CANDY」では、過去のイジメという今まで歌えなかったことも曲にしました。それによる変化はありましたか?

うーん、「CANDY」に関しては、これからもちゃんと付き合っていかないといけないんですよ。こういうことを歌うことに決めた自分と聴いてくれる人たちと一緒に、ちゃんと維持していく必要があるのかなって。というのは、あの歌がすべての答えではないから。まだ選手宣誓みたいなものだと思うんですよ。

──選手宣誓?

高橋優

歌いながら探していくための、最初の一歩というか。僕はなぜいじめられたのか、人はどうして仲間外れにしたり人を傷付けるのか、という問題の答えを探していきたいんです。でもそんな簡単にわからないし、まだ手応えもないですね。あの曲を書いてよかったとも思ってないし、書かなきゃよかったとも思ってない。これから慎重に、すごく大事にあの曲を歌っていけば、自分なりのヒントが見つかっていくのかなって。

──では今作はなぜ「今、そこにある明滅と群生」というタイトルにしようと?

前作を経てライブをして、いろいろ考えたんですよ。それで気付いたのは、僕がすべての悩みを解決してあげることなんてできないけど、僕が照らしてあげられる闇もきっとあるはずということ。これは「パイオニア」を作ったときに感じたことですね。「太陽と花」でも「太陽は自らを焼いて光る」という歌詞があるように、まずは僕自身がしっかり光らないといけない。でも僕だって笑えない日はあるし、ふさぎ込む日もある。それは誰しも同じで、みんな波打つようにして、明るくなったり暗くなったり明滅しているものなんです。僕が光れたらその力をみんなに与えたいし、僕が光れなくなったら別の誰かの光を分けてほしい。そうすればみんなの明滅には大切な意味があるし、みんなが元気になれるんじゃないかなって。

──実際アルバムが完成して、どんな作品になったと感じていますか?

「最高傑作です」みたいなことはいろいろな方にお話してるんですけど、もっと具体的に言えば、今までよりも愛に満ちたアルバムになったと思うんです。僕が持ってる愛の形を、楽曲の中でちゃんと表現できたなと。それは自信を持っていますね。

ニューアルバム「今、そこにある明滅と群生」/ 2014年8月6日発売 / unBORDE
初回限定盤 [CD+DVD] 3672円 / WPZL-30896~7
通常盤 [CD] 3240円 / WPCL-11944
収録曲
  1. BE RIGHT
  2. 太陽と花
  3. 裸の王国
  4. 明日への星
  5. WC
  6. 同じ日々の繰り返し
  7. ヤキモチ
  8. 旅人
  9. パイオニア
  10. おやすみ
初回限定盤DVD 収録内容
  • BE RIGHT(Studio Live)
  • 太陽と花(Studio Live)
  • ヤキモチ(Studio Live)
  • 明日への星(Studio Live)
  • 8月6日(Studio Live)
高橋優(タカハシユウ)
高橋優

1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月に初の全国流通盤「僕らの平成ロックンロール」を全国リリース する。2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でメジャーデビュー。2011年4月にリリースされたメジャー1stアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」はロングヒットを記録する。その後もコンスタントに作品を発表し、2013年は7月にアルバム「BREAK MY SILENCE」を発表したあと、11月に初の日本武道館公演を開催。2014年8月には4thアルバム「今、そこにある明滅と群生」をリリースした。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声で、支持を集めている。