ナタリー PowerPush - 高橋優
新たな“原点”がここに「僕らの平成ロックンロール(2)」
高橋優がまだインディーズで活動していた2009年に発表したアルバム「僕らの平成ロックンロール」は、社会や愛や他人に対する自分なりの本音を全力でぶつける彼の、原点とも言える作品だった。それから3年半。彼が7曲入りアルバム「僕らの平成ロックンロール(2)」をリリースする。
ドラマ、映画、CMなどで多くの楽曲が使用され、着実なステップアップを遂げている彼が、なぜ今、このタイトルでの作品発表に至ったのか。その真意と、同日リリースされる初めてのライブDVD「高橋優LIVE TOUR~この声って誰? 高橋優じゃなぁい? 2012 at 渋谷公会堂2012.7.1」について、併せて話を訊いた。
取材・文 / 田島太陽 インタビュー撮影 / 高田梓
※アルバムタイトルの「(2)」はマル2が正式表記です。
大きな変革の時期がやってきた
──いきなりなんですが、髪バッサリ切りましたね。
そうなんです。実は今回の作品のテーマでもあるんですけど、初心に戻りたいと思って。札幌で路上ライブをやっていた頃の髪型なんです。
──そうでしたか! では今回の作品が生まれた経緯から教えてください。
元々12月にシングルをリリース予定だったんですけど、曲がどんどん書けてしまう現象があったんです。それをストックしていつか発表するんじゃなくて、今すぐ出したいですってわがままを言わせてもらって。
──曲ができる時期だった?
というより、自分の中での大きな変革の時期がやってきたような気がして。
──変革というと?
音楽を始めた頃って、ただ曲を書いてただ歌っていたわけじゃないですか。でもデビューしてからは、リリースの計画があったり、誰かとの共同作業になったり、アルバムのコンセプトに向けてどんな作品を書くかって考え方になって。それはもちろん貴重な経験だったしプラスになったけど、今は全部取っ払って、路上の頃の感覚に戻りたかったんです。だからアルバムとしての収まりの良さやバランスとかは全然考えなかった。今の衝動がそのままCDに入っていれば、いびつでもいいやって。
──なぜ今、路上の頃の初心が必要になったんでしょう?
多分いろんな要因があって、誰かに優しくしてもらったり、うまくいかなかったり、なかなか家に帰れなかったり、ライブにも成功と失敗があったり。そういった日常の中で、どうしたらいいんだって考える機会が多くあったんだと思います。
──では今振り返って、2009年の「僕らの平成ロックンロール」はどんな作品でした?
あの頃は気取ってましたね。力んでいるというか、カッコつけてるというか。世間やリスナーや、自分が社会と呼んでいる何かに対してケンカしなきゃいけないと思っていました。
──それと比べて、3年半経った今回の「2」はいかがですか?
曲を作る段階からすごく楽しめていて、自然体なものが出てきた感じですね。だからこれを受け入れてもらえないなら諦めがつくというか。もちろん怖いし、悪口は言われたくないけど、それくらい好き勝手やらせてもらったアルバムです。
なぜ自分は歌っているのかわからなくなることが怖い
──歌がどんどんシンプルというか、パーソナルな方向に向かっていますよね。
そうかもしれないですね。今回やりたかったことのひとつは、素の自分で相手に歩み寄ることだったんです。僕はこう思っているから、一緒にやってみないっすか?って。5曲目の「微笑みのリズム」は特にそのタイプ。今までは提案なんてしたくなくて、僕が思ったことを表現できればいいと思ってた。でもそこにあまり広がりを感じなくて、今回はもっと心を開いてみようと。
──曲を作るモチベーションが変わった?
変わったというか、いくつか種類がある感じですかね。ただ今は、すぐに評価しようとする人たちとか、評論家みたいな人たちへの苛立ちがずっとあります。僕は純粋に音楽を楽しみたい人たちと向き合っていたい。でもメジャーでリリースするとそれだけじゃないでしょ。ランク付けされるし、売れる人が正しいしチヤホヤされる。それが悪いとは思わないけど、僕はそことズレていたい。もちろんたくさんの人に聴いてほしいけど、流行なんて知らねーよって言っていたい自分がいるんです。だから今は、自分が売れるかどうかは別にして、やりたいことを思いっ切りやろうって。
──2009年の「僕らの平成ロックンロール」も、ある種の苛立ちが根底にあったわけですよね。それとは違う感情?
前は、もっと敵が多い気がしていました。東京という都会も人も怖かった。今は誤解とか、力技でねじ伏せられている世界があることが怖い。大人になるにつれて「しょうがないよね」とか「これくらいで手を打とうよ」みたいな話って増えるじゃないですか。そこに恐怖を感じていて、自分が好きなことが何か、なぜ自分は歌っているのかわからなくなることが怖いし、それなのに勝手に評価されて「高橋優がやりたことってコレなのね」ってまとめられちゃうのも怖い。だからそこに噛み付いていきたくて。
- ミニアルバム「僕らの平成ロックンロール(2)」 / 2012年12月26日発売 / unBORDE
- 「僕らの平成ロックンロール(2)」
- 「僕らの平成ロックンロール(2)」初回限定盤[CD+DVD] 2415円 WPZL-30492~3
- 通常盤[CD] 2100円 / WPCL-11273
CD収録曲
- ボーリング
- 夜明けを待っている
- 今、君に会いにいく
- 昨日の涙と、今日のハミング
- 微笑みのリズム
- 発明品
- I LOVE YOU
初回限定盤DVD収録内容
- ボーリング(MUSIC VIDEO)
- 夜明けを待っている(MUSIC VIDEO)
- 発明品(MUSIC VIDEO)
- MVメイキング+マル秘映像
高橋優(たかはしゆう)
1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月に初の全国流通盤「僕らの平成ロックンロール」を全国リリースする。2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でデビュー。2011年4月にリリースされたメジャー1stアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」はロングヒットを記録する。その後もコンスタントにシングルを発表し、2012年12月には7曲入りアルバム「僕らの平成ロックンロール(2)」とライブDVD「高橋優LIVE TOUR~この声って誰? 高橋優じゃなぁい? 2012 at 渋谷公会堂2012.7.1」を同時リリース。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声で、支持を集めている。