ナタリー PowerPush - 高橋優
2ndアルバム「この声」に込めた意志
僕は特別じゃない
──アルバムタイトルにもなっている「この声」はかなり古い時期の曲だそうですね。
6年か7年前ですね。
──なぜ今回この曲を入れて、かつタイトルに使用したんですか?
できたころから、路上ライブではずっと1曲目に歌っていた曲なんです。ニューヨークの路上でライブしたときもそうだったし、今年1月の「胡座」という弾き語りでも1曲目にしました。それは選手宣誓というか、自分の決意表明のような曲だから。この声を届けたい、という曲の内容が自己紹介の意味合いを担っている気がしているんです。1stアルバムに入れようかと思ったんですけど、全体のバランスを考えて外した曲でもあって。だから今回ついに収録できた上に、今の僕の気持ちにぴったりだからそのままタイトルにしようと。
──ところで高橋さんは、今は自分の声って好きですか?
改めてそう訊かれると恥ずかしいですね(笑)。好きとは思わないけど、ごく一般的な男性の声ですよね。際立った特徴もないから。
──もっと変わった声にしたいと思ったこともあります?
全部裏声で歌おう、クセを付けようとしたこともありますよ。でもありのままの声で歌うことによって、もしも「高橋優には魅力があるよね」って感じてもらえるときがきたら、「こんな普通の自分にできるんだからみんなにもできるよ」って言えると思ったんです。小細工や特殊なことはせずに、この声で歌うことで勇気を与えられる存在になれたらいいなって。だから誰かが「高橋の声は唯一無二だ」って言ったら、僕は言い返せる。「だったらすべての人の声が唯一無二ですよ」って。なぜなら僕は特別じゃないから。それは人生とか性格とか、なんにでも当てはまりますよね。
──自然体でいようと思えたのはいつごろですか?
でも……ここ数年ですね。それまでは結構、悩んだりもしたので。
──「この声」を今聴いてみて、当時と心境の違いは感じますか?
この曲、現実離れした表現を使ってますよね。あまりこういうタイプの曲は書かないので、夢があるなって客観的に思います。「この唄をあの空に響かせて / 少しでも優しい雨降らせたい」って、科学的に不可能だし、当時はこんなメルヘンな心境だったんだなと(笑)。でも「この声を届けたい」という気持ちは時間が経った今も変わらないので、根っこの部分は変わってないんでしょうね。
その日その日の気持ちで歌うのが純粋な音楽の楽しみ方
──収録曲でほかに古いものというと?
「セピア」は10年前からありました。
──10年ですか! 10年前というと路上で歌い始めたころ?
そうですね。でも、歌わなかった時期がない曲なんです。メッセージと自分の考えにブレがないというか、いつでも噛み締められる。今でもこの曲を歌うと情景が浮かぶし、心の中で熱くなるものがあります。それがなくなるとストックに入れて歌わなくなるんですけど、これは今でもぐっとくる曲ですね。だから大切な何かがこもっているんだと思います。
──歌うときは作った当時の心境に戻るんですか?
いや、今の気持ちのままですね。
──そのほうが嘘じゃないから?
純粋にただ楽しみたいからですよ。当時を振り返るって決めてしまうと表現できるものが狭くなってしまうし、それが苦しいときもあるので。その日その日の気持ちで歌うのが、純粋な音楽の楽しみ方かなと思うんです。
CD収録曲
- 序曲
- 蛍
- 誰がために鐘は鳴る
- 雑踏の片隅で
- 気ままラブソング
- あなたとだから歩める道
- 卒業
- この声
- 一人暮らし
- 誰もいない台所
- 蓋
- 絶頂は今
- セピア
初回限定盤特典内容
- DVD ~ドキュメンタリー2012 “卒業”+MUSIC VIDEO 1.誰がために鐘は鳴る / 2.誰もいない台所 / 3.卒業
- “高橋優全国ツアー~この声って誰?高橋優じゃなぁい?2012” バックステージ招待抽選参加券(各会場5名)
高橋優(たかはしゆう)
1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月に初の全国流通盤「僕らの平成ロックンロール」を全国リリースする。その後ワーナーミュージック・ジャパンと契約し、2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でデビュー。2011年4月にリリースされたメジャー1stアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」はロングヒットを記録する。その後もコンスタントにシングルを発表し、2012年3月に2ndアルバム「この声」をリリース。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声で、支持を集めている。