ナタリー PowerPush - 高橋優
2ndアルバム「この声」に込めた意志
いかに自分が楽しむかってことを大切にしたいなと思うんです
──「一人暮らし」に出てくる「水道光熱費に家賃 / 払った残りの自由 / それで今月は何をするか / 考える時間が好き」という歌詞が、すごく共感できて好きです。
ありがとうございます! 個人的なことだからこそ、共有できることもあると思うんです。何か特別なことが起こったから書いた曲だけじゃなく、ただ日常を切り取ったものも作ってみようと思って生まれた歌ですね。
──そういえば高橋さんがブログで「明日は休みだから、映画でも行きたいな」って書いていたことがあって、ほぼそのままの歌詞が「蓋」にありますよね。
これも前回のアルバムでは出せなかった表情ですね。「真面目に考えなきゃいけないことには蓋をしちゃえ」っていう曲だから、普通に考えたら怒られちゃうような歌詞なんだけど。
──でも最後の「いかに都合良く生きれるか人生」っていうフレーズは真理だと思います。
それ、僕の音楽のテーマでもあるんです。僕は今まで、そう言ってくれる曲をほとんど聴いたことがなくて。悩んで苦しんで都合悪く生きろって言われている気がして、みんなで不幸自慢をしているのが不可解で。不謹慎って言われるかもしれないけど、いかに自分が楽しむかってことを大切にしたいなと思うんです。
──ただパーソナルな話題や思いを歌うと、届く場所が狭くなりがちというか、「そんなことないんじゃない?」と否定的に受け取られる場合もありますよね。
でも、自分の色を出していないと、高橋優である意味がないから。僕は友達と何人かで集まったときに、自分の意見を思うままに喋ってる中の1人でいたいんです。近所のお母さんたちが「私はあの俳優大好き!」「えー、全然カッコよくないじゃん!」っておしゃべりしている中のひとつの意見でいい。それは常にテーマとして持っていますね。皆さんの気持ちを代弁するようなカリスマって言われるようなシンガーを、正直全然目指してない。だから偏ってていいと思うんですよ。全部ひっくるめて「つまり人間とは!」って大きく歌うつもりはなくて、「僕はこう感じているけど、あなたはどう思う?」ってキャッチボールができたらいいなって。僕の気持ちが正しいか間違っているかより、一緒に探そうよっていうニュアンスかな。
──自分の歌を押しつけたくない?
そうですね。みんなに神のように崇拝されているカリスマシンガーの役割なら、僕は結構です。むしろそういう人が現れたとき「アイツの言ってること信じられるの?」って疑問を持っていたい。僕は押しつけられることの苦しみも知っているつもりだし、人を疑いがちだけど、信じたいとは思ってます。ただ、信じるべきだって言い切ることはできない。その素直なスタンスのままでありたいんです。
全体のストーリーが見えるアルバムにしたかった
──今作のイメージはいつ頃から持っていたんですか?
前作が完成したあと、すぐですね。次は2ndアルバムに向けた活動がしたいと思っていたから、去年の6月に出したシングル「誰がために鐘は鳴る」からアルバム作りが始まっていた気がします。
──1stアルバムの直後から?
これは僕の元々の性格で、こだわった作品作りがしたいんですね。前のアルバムは当時の自己ベストだし、どの曲も自分の代表作だと思ってるけど、だからこそ好きなものをかき集めた印象も強いんです。そうすると、まだ表現していない気持ちや見せていない一面もたくさんある気がして、それはアルバム全体を見通して作らないとできないのかなと。だから次は全曲を通して聴いたときに、バラエティに富んでいて、ストーリーが見えるアルバムにしたかったんです。
──でもかなり精力的に活動されている中でのアルバム作りには、大変なことも多かったのでは?
確かに時間に追われていたし、ストックも100曲くらいはあるから、それでまとめちゃおうかと思った瞬間もあるんです。過去の曲も自信作だし、今までの自分を知ってもらう意味でも悪くないんじゃないかなって。でも、やっぱり嫌で。
──なぜですか?
“リアルタイム・シンガーソングライター”だから。今日思ったことを今日歌うと言いながら、過去の曲を集めてリリースするのはどうかなって。もちろん、今の自分が新鮮に歌えるなら昔の曲を入れてもいいと思うんです。でも当時とは心境が変わっていることもあるし、今は共感できないなって心のどこかでほんの少しでも思っていたら、それは歌う意味がないから。だったら時間がなくて大変で、無理やり吐き出す形になってしまっても、今考えていることを曲にしたいという気持ちが強くあった。だから今作は、未発表の曲がたくさん収録されたアルバムになりましたね。
──ちなみに前作は「自己紹介になる1枚」とおっしゃってましたが、今作はどんなものになりましたか?
高橋優をもっと知ってもらえる、改めて名刺代わりになる作品になりましたね。これで初めて僕の音楽を聴く人にも自信を持ってオススメできます。自分の考えや雰囲気、伝えたい思いにすごく幅広さが出たなと思っているので。
CD収録曲
- 序曲
- 蛍
- 誰がために鐘は鳴る
- 雑踏の片隅で
- 気ままラブソング
- あなたとだから歩める道
- 卒業
- この声
- 一人暮らし
- 誰もいない台所
- 蓋
- 絶頂は今
- セピア
初回限定盤特典内容
- DVD ~ドキュメンタリー2012 “卒業”+MUSIC VIDEO 1.誰がために鐘は鳴る / 2.誰もいない台所 / 3.卒業
- “高橋優全国ツアー~この声って誰?高橋優じゃなぁい?2012” バックステージ招待抽選参加券(各会場5名)
高橋優(たかはしゆう)
1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月に初の全国流通盤「僕らの平成ロックンロール」を全国リリースする。その後ワーナーミュージック・ジャパンと契約し、2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でデビュー。2011年4月にリリースされたメジャー1stアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」はロングヒットを記録する。その後もコンスタントにシングルを発表し、2012年3月に2ndアルバム「この声」をリリース。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声で、支持を集めている。