ナタリー PowerPush - 高橋優
2ndアルバム「この声」に込めた意志
1stフルアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」からわずか11カ月。“今日思ったことを今日歌う”高橋優が早くも2ndアルバム「この声」をリリースする。今まで彼は、初期騒動に駆られるように社会を、人生を、恋愛を歌ってきた。しかし濃密な日々を過ごした2011年に得た経験が反映された今作では、その世界観が大きく広がっている。具体的で個人的な願いやストーリーが集約され、今までの良さも引き継ぎながら、彼の新たな一面を存分に楽しむことができる作品となった。
今回の特集では、高橋に1stフルアルバム以降の1年間を振り返り、制作の背景と自らの「声」にかける思いを語ってもらった。
取材・文 / 田島太陽 インタビュー撮影 / 中西求
ライブでは精神論よりも方法論が必要
──まずは2011年のことから伺います。3枚のシングルと1stアルバムのリリース、さらに2度の全国ツアーも行い、高橋さんにとって実りのある1年間だったんじゃないですか。
本当にいろいろな経験ができましたね。特にツアーを2度やれたことは大きくて、やってみて初めてわかる方法論が想像以上に多かったんです。最初のツアーでは「全国を回れるんだ!」って感動のほうが強かったんですけど。
──方法論というと?
このセットリストだと喉がつらくなるとか、この曲はどう動けばいいとか、ギターは何本必要なのかとか。せっかくライブをやれてる以上はいいライブにしたいし、お客さんと一緒に楽しみたいし、「今が最高!」と思ってもらいたいじゃないですか。そんなステージにするためには、精神論よりも方法論が必要なんだとわかって、もっとやれることがあるんだなと気付いたんです。
──ツアーを行ったことで、アルバムに対する感じ方が変わりましたか?
そうですね。それまでは一生懸命歌うことで精一杯だったというか、自分の中で完結してたんです。でも、この歌でこんなリアクションをされるんだとか、意外と盛り上がるんだとか、たくさんの光景が見れたことで、それぞれの曲に対する思い入れも変わりましたね。長い時間をかけて初めてお客さんとのつながりを感じられたのがうれしかったです。
真面目じゃない高橋優も表現したくなった
──そんな1年を経て完成したニューアルバムは、「毎日嫌なこともあるけど楽しく生きようよ」というポジティブで軽やかなイメージが強いですよね。前作は「希望」や「絶望」というフレーズが印象的でしたが、歌詞がすごく等身大になって、より“リアルタイム・シンガーソングライター”らしくなったというか。
今回はパーソナルな気持ちを歌いたかったんですよね。聴いてくれる人と1対1の関係になりたいなって。誰か1人に対してギター1本で歌うイメージ。そういう曲だけ収録したかったんです。それはツアーを回って、待ってくれている人がいることを知ったのが大きい。例えば最初のツアーの追加公演では、ファンの方が「福笑い」を歌ってくれて、一緒に合唱したんですよ。あれはすごく貴重な瞬間で、間違いなく僕の自信になりましたから。
──前回のインタビューでは「自分が思っていることしか歌いたくない」とおっしゃってましたが、それが間違っていないという確信が得られた?
はい。僕が伝えたいのはいつだって前向きなメッセージ、笑顔や絆や幸せなんです。それを「そんな恥ずかしいこと歌えないよ」って思う自分よりも「いやあるんだ、歌うんだ」って思う自分のほうが圧倒的に強くなった。「福笑い」の歌詞にある「世界の共通言語は英語じゃなくて笑顔だと思う」というフレーズは、当時は「思う」というニュアンスが強かったんです。でも今は言い切れます。
──だからこそ、パーソナルなことも歌ってみようと思えたんですね。
ツアーで、自分はもっとやれるって気持ちを持てたことで、僕の違う一面も見てもらいたい思いも強くなったんですよ。前回は出せなかった、真面目じゃない高橋優も表現したくなった。シリアスな話に興味のない、のんきな部分だってあるし、もっと気楽に自分の気持ちを伝えたいなって。だから個人的なメッセージが濃厚になったんだと思います。
CD収録曲
- 序曲
- 蛍
- 誰がために鐘は鳴る
- 雑踏の片隅で
- 気ままラブソング
- あなたとだから歩める道
- 卒業
- この声
- 一人暮らし
- 誰もいない台所
- 蓋
- 絶頂は今
- セピア
初回限定盤特典内容
- DVD ~ドキュメンタリー2012 “卒業”+MUSIC VIDEO 1.誰がために鐘は鳴る / 2.誰もいない台所 / 3.卒業
- “高橋優全国ツアー~この声って誰?高橋優じゃなぁい?2012” バックステージ招待抽選参加券(各会場5名)
高橋優(たかはしゆう)
1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月に初の全国流通盤「僕らの平成ロックンロール」を全国リリースする。その後ワーナーミュージック・ジャパンと契約し、2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でデビュー。2011年4月にリリースされたメジャー1stアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」はロングヒットを記録する。その後もコンスタントにシングルを発表し、2012年3月に2ndアルバム「この声」をリリース。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声で、支持を集めている。