高橋洋子の通算30枚目のシングルが完成した。そのタイトルは「EVANGELION ETERNALLY」。高橋の代表曲「残酷な天使のテーゼ」をはじめとする「エヴァンゲリオン」関連楽曲を多数世に送り出してきた大森俊之とのタッグによる「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース×バンダイナムコ」プロモーションソング「罪と罰 祈らざる者よ」、「エヴァ」シリーズ遊技機への提供曲「Teardrops of hope」「Final Call」、そして「シン・エヴァンゲリオン劇場版」劇中曲「what if?」の歌唱バージョンと、「エヴァ」とともに歩んできた高橋の“エヴァ愛”が詰まった4曲入りの作品だ。
物語としては完結した「エヴァ」だが、高橋はこの壮大な物語を“ETERNALLY”、作品を愛する人々の中で続いていくものだと受け止めている。彼女はこのシングルにどのような思いを込めているのか。本人へのインタビューでその真意を紐解く。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 柏井彰太
「ライブってこういうものだったんだな」と再確認
──3月26日、4月1日に東京と兵庫で「『エヴァンゲリオン』ウインドシンフォニー」が開催されましたが、ご出演されてみていかがでしたか?
何度かご一緒させていただいているシンフォニーの皆さんなので、もちろんはじめましてではないんですが、今回新たな楽曲をプラスして、自由に掛け合いをするカデンツァというパートを鷺巣(詩郎)先生が入れられまして。当日リハーサルしかなく、本番に突入したので、口から心臓が飛び出そうだったんですけど(笑)、お客さんもそれが面白かったと感じてくださったようで。というのも、このコロナ期間は皆さんライブ感というものを経験する機会があまりなくて、それをこのウインドシンフォニーを通してひさしぶりに味わうことができた。ライブというのはお客様が現地にいらっしゃるから作れるものであって、例えば席の近い方は私たちの汗まで見えるかもしれないし、後ろの方では何かしらの物音がエコーで響いていく、そういう現地音までをも体感することを含めてライブなわけで。それを双方がそれぞれの形で感じ、楽しむことで、「ライブってこういうものだったんだな」と再確認できたんじゃないかという気がしています。
──特にここ数年は配信ライブが主流になったことで、ライブの臨場感や緊張感みたいなものが伝わりにくくなっていましたし。
Twitterなどを通じて「おしゃれをしてライブに行きました。ひさしぶりにヒールを履いて足が痛かったけど、それ以上にライブを生で体感できたことがうれしかった」というコメントをいただいたんですが、オンラインライブだったら家でパジャマのまま観ることもできますし、途中で席を外すこともできますよね。でもライブ会場で観ると咳払いひとつに緊張するというのも含めて、演者とお客様が一緒にその場を作っていくことがライブというものなんだなと、改めて痛感しました。
──お客さんにとってはその日に何を着て、何時に家を出て……というところからライブが始まっているわけですものね。そう考えると、2023年に入ってから規制が緩和され始めたことで、少しずつコロナ禍前の日常を取り戻し始めているのかなと。
でも、私の中では「戻る」というよりも、新しい形になっているなと思うことが多くて。パンデミック以降はみんなステイホームなどを通じて自分を見つける時間を作れたことで、人間関係やお金の使い方も変わったんじゃないかと思うんです。そういうことを踏まえたうえで、じゃあ次はどう生きていくかという岐路に立たされて、進み始めたところが今のポジションなのかなと思うので、実際にやっていることは変わらないかもしれませんが、やっている私自身が変わったということをみんながそれぞれ体感しているのかなと思っています。
──また神戸公演の前日、3月31日にはソフトバンクホークスの開幕戦セレモニーにサプライズ出演しました。
自分でも映像演出に感動してしまって、出ていくのを忘れてしまいそうになるという(笑)。もちろん事前にリハーサルはしたんですけど、そのときも「今回のためだけに作ったんだ!」とみんな映像に見入ってしまったほどで。あの日福岡PayPayドームにいらした方にとっては、あの映像も私が出ていって歌うこともすべてサプライズだったわけで、ミサトさんがあんなふうにホークスの皆さんやお客様に話しかけたかと思ったら、高橋洋子本人が歌うことでどよめきもあり、そのあとに選手たちや藤本博史監督が出てくる。出演時間は短かったものの、すごく貴重な機会をいただけてたくさんのエネルギーをもらいましたし、私自身も同様のエネルギーを発することができた。そこもライブならではという経験をさせていただきました。
現役バリバリ「魂のルフラン」チームによる王道エヴァソング
──ここまでのお話を聞いていると、「エヴァンゲリオン」がまだ現在進行形で生き続けていることを実感します。だからこそ、今回のシングル「EVANGELION ETERNALLY」のタイトルはグッとくるものがあるんです。
そう、続いていくんです。
──しかも、この作品が高橋さんにとって通算30枚目のシングルになるという。
それをさっき聞いて驚いたんです(笑)。そういうところには本当に無頓着で、デビュー30周年のときもファンの方の「おめでとう!」というコメントで「ああ、今日だったんだ!」と知ったほどですから。自分の誕生日も忘れちゃうようなタイプで、メモリアルが超苦手。なので、私としては1年にだいたい1枚出したくらいの感じなのかな、というくらいのものなんです。
──そういう節目を「エヴァンゲリオン」関連作品で飾れるというのも、また印象深いですね。
いつもさまざまな場所でお話ししているのですが、「エヴァンゲリオン」の楽曲を歌えたことが私自身にとって大きなギフトだと思っていて。当初はこんなに長くヒットするとも想像できなかったし、こんなに長く歌えるとも思っていなかった。でも、年月を重ねていく中で、例えば作詞家の先生と何年も経ってからお会いしたり、庵野(秀明)監督とも機会があってご一緒させていただいたり、声優陣の緒方(恵美)さんやめぐちゃん(林原めぐみ)とも仲よくさせていただくようになったり。それぞれの中でいろんなことがあった「エヴァンゲリオン」との約30年なんですよね。もちろん、影響力が大きいだけに決して順風満帆ではなく、自分なりに考えたりする機会も多かった。私の中で言うと、そんなにすごい作品になると知らないまま主題歌を歌って、すぐにヒットしたわけではなく再放送を繰り返していくうちに世の中がざわめき始めて、気付いたらファンの方に「(劇場版の)最後はどうなるんですか?」と聞かれるようになっていた(笑)。自分でも作品に触れていくうちに大好きになっていって、その中でファンとしての立場で語れることも増えましたし、関係性が増えた今は、状況としては本当に変わったなと思います。
──ここからは収録曲について1曲ずつ触れていけたらと思います。まずは本作のリード曲でもある「罪と罰 祈らざる者よ」について。
(作曲・編曲を手がけた)大森俊之さんと私の“エヴァコンビ”という形でタイアップのオーダーがありまして、すぐに「これぞ大森×コンビだとわかるようなものでお願いします」「冒頭は歌始まりでお願いします」「荘厳でドキドキするような、あの感じでお願いします」というわかりやすいキーワードをいただいたので、ある意味作り方としてはスムーズに進めることができました。
──実際、王道の“エヴァソング”感満載ですものね。
今までやってきたことを全部入れるみたいな(笑)。で、面白いのが、コーラスのレコーディングのときにみんなで記念写真を撮ったんですけど、実は「魂のルフラン」のときと同じメンバーだったんですよ。あと、エンジニアも当時と同じ方で、そこに大森さんと私がいて……1997年のメンバーとこうやって再び「エヴァンゲリオン」楽曲でご一緒できたことも感慨深かったです。
──1997年当時のメンツが今も現役バリバリという事実もすごいですよね。
年月が経ってもみんな第一線で活動していて、なおかつ誰も衰えていない。体力的には衰えていますけど(笑)、プロの音楽家としての才能や技術は衰えてないというところが、すごく誇らしかったです。
──この1曲で「ああ、エヴァだ!」という感情が一瞬にして湧き上がってくる、しかも往年の魅力をしっかり備えつつも現代的なテイストも随所にちりばめられていて、しっかり2023年の楽曲として成立している。
ああ、そう言っていただけてよかった(笑)。
──この曲は高橋さんが作詞を手がけていますね。
いつも曲を聴いたイメージから作詞するんですけど、私は立ち位置的にいつも母性を意識してきたので、そこは外さない。かつ、この楽曲は「いつものエヴァンゲリオン」だけに限定したものではないので、ストーリーが限定されないような形で書かせてもらいました。「エヴァンゲリオン」って“祈り”という要素がなんとなく見え隠れしているように感じていて。直接的に祈っているシーンはないんだけど、罪とか誰もが持っている普遍的なテーマが常に哲学的に存在している作品だと私は思っていて。その回答を与えるというのではなく、だけどわかりやすく皆さんにお届けすることは考えました。それと、「エヴァンゲリオン」の楽曲はたくさんの方がカラオケで歌ってくださるんですよね。歌われる方はものすごいチャレンジャーだなと常に思っているんですけど、そういう意味では今回も難しい曲ではあるものの、また皆さんにチャレンジしてもらえるようにと少し意識しています。
──あと、これはミックスやマスタリングによるものなのかもしれませんが、ボーカルがガツンとくる音ですよね。そこも印象的だなと思って。
配信で聴くよりもCDのほうがより顔が見える感じにしています。ミックスまでの音よりもマスタリングしたもののほうがより深みがあるというか、距離感がすごく出ていて。なので、ぜひCDを爆音で再生してもらいたい仕上がりです。