高橋洋子「Final Call」インタビュー|エヴァンゲリオンと共に歩んだ26年「ありがとう」を、君に

高橋洋子の新曲「Final Call」がリリースされた。

「Final Call」は「エヴァンゲリオン」25周年を記念したパチンコ「新世紀エヴァンゲリオン~未来への咆哮~」の新規搭載曲として書き下ろされた楽曲。テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主題歌で、「エヴァ」シリーズを象徴する楽曲でもある「残酷な天使のテーゼ」を歌い続けてきた高橋が自ら作詞を手がけている。

26年もの間続いてきたエヴァが、今年3月公開の映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」でついに完結した今、高橋はエヴァファンとして、そして「エヴァ」シリーズ公式アンバサダーとして何を感じ、どんな思いを作品に込めたのか。「Final Call」を紐解きつつ、エヴァとの歩みを振り返ってもらった。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 塚原孝顕

「高橋洋子、始まったぞ!」

──「Final Call」、さっそく聴かせていただきました。めちゃくちゃモダンでカッコよく、最近の洋楽的なテイストとJ-POPらしいわかりやすさのバランスが絶妙な1曲だと思いました。

ありがとうございます。そういうふうにしたかったので、すごく的確な感想でうれしいです。

──この曲はエヴァンゲリオン25周年記念作品として作られたパチンコ「新世紀エヴァンゲリオン~未来への咆哮~」の新規搭載楽曲でもありますが、まず制作はどういうところからスタートしたんですか?

「エヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズは今年公開された「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で完結したわけですが、このオファーをいただいたときはまだ何もわからない状況で、「最後の映画になるであろう」とだけ聞いたんです。私自身「エヴァンゲリオン」の大ファンで、テレビシリーズも映画も何回観たかというくらい観ていますし、再放送があるとそれも観てしまうほど(笑)。また私は「エヴァンゲリオン」シリーズの公式アンバサダーとして応援隊長のようなことをやらせていただいているので、ファンとアンバサダー両方の側面から、ついに完結を迎える「エヴァ」のための楽曲を作りたいと思って。それでまず「Final Call」というタイトルが浮かんだんです。

高橋洋子

高橋洋子

──タイトルありきだったんですか。

はい。それをプロデューサーにお話ししたら「すごくいいタイトルだと思います」と言っていただけたので、そこから楽曲を作り始めました。「Final Call」と聞くと寂しげな終わりのような雰囲気があるかと思うんですけども、実はスタートの合図というか。明日へ向かう大きな力になるような、そういう楽曲にしたいと考えました。

──なるほど。Masaya Wadaさんに作曲を依頼した理由は?

Wadaさんは英語も堪能で、いろんなアーティストさんに楽曲提供したり、ご自身もソロアルバムを出されたり、それこそ最近はBTSの作品でボーカルディレクターを務めたりといろいろ活躍されていますが、私は以前から鷺巣詩郎先生の作品をはじめ、いろいろな制作現場でご一緒する機会が多くて。同志みたいな感覚もあったので、「いつか一緒に何かやりたいね」という話を何年も前からしていたんです。今回はそのテーマ性含めて「彼がいいな」と思い、自然な流れでこうなりました。

──Wadaさんとは楽曲についてどのようなお話をしましたか?

彼のサウンドはポップなんだけどおしゃれ。しかも英語で歌っている楽曲が多くて。世界中の「エヴァンゲリオン」ファンのことを考えれば英語もアリなんですけども、特に今回は遊技機を通して聴いていただく方たちの姿を思い浮かべたときに、日本語のほうがいいだろうなと。だけど、それでもおしゃれな感じにしたいなという思いがあったので、そのイメージのもと作ってほしいとお願いしました。

──メロディやサウンド含め、内に入り込むというよりは外に向けて放つポジティブさが印象的です。「残酷の天使なテーゼ」のAメロのような空気感が備わった、エヴァらしい要素が随所から感じられました。アレンジに関してはいかがでしょう?

Wadaさんは洋楽的要素で日本のポップスを書けるしアレンジすることもできる、本当に多才な方で。最初のデモでは彼が仮歌を入れてくれたんですけど、少し高めのキー設定だったんです。なので、サビで「Final Call」と歌うところが私だと裏声で歌うような設定になっていたんですね。「エヴァンゲリオン」シリーズを通じて皆さんが一番“高橋洋子の歌”と感じる音域って、実は高い音を地声で張って歌う声だと思うので、そのあたりをどうしようかと相談して。裏声で歌うのも新しいアプローチで面白かったんですけど、やっぱりこのシリーズを通した高橋洋子のイメージを考えると、高い地声で歌うからこそ伝えられるメッセージ性もあるんじゃないかと。いろいろ試した結果、現在のキーで録音することになったんです。

──そうだったんですね。間奏では「エヴァ」シリーズ本編でも使われている劇中効果音がふんだんに取り入れられています。

今回は特に遊技機を通じて聴いてくださる、長い間応援してくださったファンの方もいらっしゃるので、騒がしい空間でも紛れることなく聞こえて、ちょっとワクワクするような音をセレクトさせていただきました。「こういう感じで入れたら面白いよね」とピックアップしたいろんな音をWadaさんに入れてもらったんです。あとは音が左右に移動しているので、ヘッドフォンで聴いていただくとより楽しんでいただけると思います。

高橋洋子

高橋洋子

──この曲はイントロがなく、高橋さんの歌から始まります。過去の「エヴァ」シリーズの楽曲も同様の構成で始まるパターンが多いですが、そこは意識されたんですか?

はい。今作の作曲はWadaさんにお願いしたんですけど、「残酷な天使のテーゼ」の編曲や「魂のルフラン」の作編曲を手がけた大森俊之さんとは今でも一緒に作品を作っていて、「エヴァ」のほかの作品でも一緒にやっているんです。大森さんが当初「エヴァ」に携わり始めたときに「歌始まりの曲はいっぱいあるけど、高橋洋子が『エヴァンゲリオン』を歌ううえで歌始まりは絶対に必要不可欠。だから僕らはそこを大事にしていこう」とおっしゃっていて。それは私たちにとっても同様で、遊技機で使用する楽曲をオーダーいただいたときも「歌始まりでお願いします」と言われたり、そこは共通認識だと思うんです。なので、もちろん今回も歌始まりですし、気合いを入れてやらせていただいています。

──アカペラ調で歌から始まると、ドラマチックさがより増しますものね。

そうですね。「高橋洋子、始まったぞ!」という感じになると思うので。

ファンと公式アンバサダー、両方の気持ちを込めて「ありがとう」

──作詞は高橋さんが担当されていますが、どんなメッセージや思いを乗せようと考えましたか?

ファン目線での「こうだったらいいな、こういうふうになったらいいな、こういう言葉を聞きたいな」という思いと、アンバサダーとしてはこの26年間応援してくださった皆さんに対してきちんとお礼を伝えたいという思い、その両方を込めました。

──高橋さん目線での、シンジくんをはじめとする「エヴァ」のキャラクターたちに向けた思いがひしひしと伝わってきました。

よくインタビューで推しキャラというか「誰が一番好きですか?」と聞かれてきたんですけど、テレビシリーズや映画を観るたびに毎回変わるんですよ(笑)。私が置かれている状況や心理状態、あとはそのとき世界的に何が起きているかによって目線も変わっていたんですけど、いざ「エヴァンゲリオン」が終わるとなったときに、やっぱりシンジくんを描かないわけにはいかないと。それはアルバムの中の写真のように美しい記憶として残っているイメージを歌詞に乗せることでもあるわけですが、その中にはシンジくんもいるけどカオルくんもいるし、見方によってはレイちゃんもいるしアスカもいるし、ユイさんもいるしゲンドウさんもいる。「エヴァンゲリオン」ってそういう作品じゃないですか。そういう一種独特な世界観の詞を書いてみたかったんです。

──きっと26年経ったからこその、今の視点もあるんでしょうね。それこそキャラクターに対して、この人に昔は共感できなかったけど、今なら気持ちがわかるということもありますし。

その代表的なキャラクターがゲンドウさんでしょうね。子供のときに「エヴァ」を観ていたという人から、「自分は今、ゲンドウの立場になっている」とよく聞くんですよ。ご自身も人の親になったことで、ゲンドウの気持ちが理解できるようになったと。26年という歳月はそういう現象も生み出しているんだと思います。

高橋洋子

高橋洋子

──その歌詞の締めくくりが「ありがとう、さようなら、『ありがとう』」という、本当にシンプルで一番伝わりやすいフレーズです。この言葉に込めた思いは?

ファンとしての私は「エヴァンゲリオン」に「ありがとう」、アンバサダーとしての私はリスナーの皆さんに「ありがとう」、シンジくんに「ありがとう」、それぞれ1人ひとりに「ありがとう」と伝えるためにこの曲を作ったといっても過言ではないので、結果こういう歌詞になりました。最初は「さよなら」で終わる予定だったんですが、「寂しすぎる」という意見があったので「ありがとう」で終わろうと。それが一番必要な言葉だったんだと思います。

──「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を観る前に制作されたとおっしゃっていましたが、結果として映画ともリンクした歌詞になりましたね。

正直ホッとしたんですよ。ノーヒントの中で制作し始めたので、思いがけない方向に進んでいたらどうしようかと思っていたんですけど、結果みんなが思っていることはそんなに違わなかった。ストーリーという意味ではなくて、伝えたかった思いはこういうことだったんでしょうね。

──わかります。実際に映画を観終えたときと、この曲を聴き終えたときの余韻は、僕の中ではかなり近いものだったので。

ああ、よかったです。私も含めて“「エヴァ」ロス”の方々は大変な気持ちでいるはずなので(笑)、この楽曲をなんとか明日への活力に変えてほしかったんです。例えば学園祭の後夜祭で焚き火を囲んでいるときって、なんだか寂しいじゃないですか。特に最後の学年の人たちは「この仲間たちともこれが最後だな」という思いがあると思うんですけど、でもこれは決して終わりじゃなくて、明日から始めるための勇気や力になるんだという終わり方にしたいと思ったので、そういう気持ちを込めて書きました。

──確かに、学園祭が終わるときのあの喪失感みたいな感覚って独特ですものね。

そうなんですよ。準備段階では本当はやりたくなかったはずなのに(笑)。だけど終わりがあるから次があるし、あの喪失感を経験すると大人になっても立ち返る場所を作れるような気がするんです。子供が初めて自分たちで作った世界みたいな、そこにすごく似ている感覚があるんですよね。