音楽ナタリー PowerPush - 高橋洋子

ボーカリストとして、母なる者として 今、伝えたいこと

「クロスアンジュ」に触れた私が表現したいこと

──「新しい星」は作曲も高橋さんが手がけているので、その作曲術を伺おうと思っていたのですが、先ほどおっしゃっていたエンディングテーマフェチという部分にヒントがあるような気がしました(笑)。

私、もともとはバラードシンガーですから。本来は速い曲を歌う人ではないんですよ(笑)。しかも普通はキャリアを重ねるごとに歌う曲のテンポってゆっくりになりそうなものなのに、私はなぜか年々曲が速くなってきているという(笑)。

──「真実の黙示録」の速さと激しさたるや……。

歌えるものなら、ぜひどうぞ!って感じですよね(笑)。ただいくらカップリングにはアニメの制作スタッフからオーダーがあるわけではないからといって、アニメをまったくなかったことにして曲を作るわけにはいかない。「真実の黙示録」のカップリングで「チャンチキおけさ」を歌うわけにはいかないですよね(笑)。「クロスアンジュ」や「真実の黙示録」という作品を受け止めた私のやりたいことってなんだろう?と考えたときにふと思い出したのが、自分のエンディングフェチ的な素養なんです。エンディングフェチの私の思う、アニメのエンディングに似合う優しいバラードに乗せて母の言葉を歌えたらいいよねって。

──ではこれからも「真実の黙示録」的な“激しさ”と、「新しい星」的な“優しさ”の2本立てで名曲を生み出していくことになりそうですね。

そうですね。できることならなんでもやりたいですから(笑)。あっ、あと「真実の黙示録」と「新しい星」、両方とも皆さんにもぜひ歌っていただきたいなと思っていて。実は「新しい星」のほうが音域が広いので、まずはこの曲で発声練習をしてから「真実の黙示録」を歌っていただけるとちょうどいいと思っています(笑)。

──でも「歌えるものなら、ぜひどうぞ!」という曲なんですよね?(笑)

実はサビをノンブレスで歌い切っていたり、本当に難しいんですよ!(笑) でもだからこそ挑戦してみてほしいですね。

──そして我々は「クロスアンジュ」のどこかで「新しい星」が流れることを期待しながら見守っていきたいと思います(笑)。

皆さん、署名活動をお願いします(笑)。もちろん「真実の黙示録」が流れるオープニングも楽しんでくださいね。

ごはんをふわっと盛る天才とギュッと盛る天才

──あっ、最後にその“激しい”サウンドと“優しい”サウンドの違いに関して聞かせてください。「クロスアンジュ」の編曲は大森さん、「新しい星」の編曲は笹路正徳さん。シングルには2人のスーパーアレンジャーが参加されています。先ほど大森さんの話題は出ましたが、笹路さんとのお仕事はいかがでしたか?

私、笹路さんが大好きなんです。もちろん、大森さんのことも大好きなんですけど、大森さんはもはや肉親のようなものですから(笑)。で、ご存知の通り、笹路さんはそうそうたるアーティストの面々とお仕事をされています。スピッツもそうですし、コブクロもそうですし、aikoさんもそうですし、数え切れないぐらい。それだけに大森さんや眠子さんとはまた別のタイプなんですけど、やっぱり本当に素晴らしい方だし、プロ中のプロ。私が知り合ったアレンジャーの中では頂点の存在です。……あっ、もちろん大森さんも頂点の一員ですよ(笑)。

──それは僕にも読者にもちゃんと伝わっていると思います(笑)。笹路さんが頂点の一員であるのはなぜなんでしょう。

音へのこだわりがとにかくすごいんです。スタジオに入ったら、いろいろな場所で手を叩いて音の響きをチェックして、いい音のする場所が見つかったらブースの中に固定されているマイクの位置すらも変えてしまいますから。

──まさに空気を読んで録音するんですね。

「新しい星」はとても音数が少ない曲なんですが、笹路さんは空気を読みながら、その少ない音をそれぞれ巧みに粒立てることができる。音が少ないはずなのに音像がすごく立体的になるんです。ふわっと盛ってあるごはんみたいに(笑)。そのふわっとしたごはんの盛り方、立体感のある音像の作り方について天性ともいえる才能を持っている方なんだと思っているし、レコーディングが楽しくて仕方ないので、帰りたくなくなるくらい大ファンなんですよ。自分の歌入れは終わっているのにずっと聴いていたい。あの素晴らしいスタジオワークを皆さんにお見せできないのが本当に残念なんですけど、私は勝手に1人スタジオで堪能させていただいてます(笑)。

──対する大森さんが頂点に君臨する理由は?

ギュッとごはんを盛る名人なところでしょうね。きらびやかで、しかも音圧の高いオケを作る名手だからカラオケだけ聴いていても「カッコいい!」ってなっちゃうんですよ。大森さんの曲はカラオケだけでもドキドキできる。「魂のルフラン」もアレンジは大森さんですが、この曲のカラオケなんて、めちゃくちゃカッコいいですからね! 「真実の黙示録」もやっぱりカラオケの時点で成立していましたし。

──ではその大森さんのアレンジと笹路さんのアレンジを堪能できる、カップリングのインストゥルメンタルバージョンも今回のシングルの聴きどころですね。

相当具だくさんのシングルです(笑)。片やフォアグラとかトリュフなどの豪華な食材が散りばめてあって絶妙に調和している曲。片や素材のよさを徹底的に生かした曲。どちらも素晴らしいアレンジャーの仕事なので、ぜひ聴いてみてください。

高橋洋子(タカハシヨウコ)

8月28日生まれ、東京都出身の歌手。2歳からピアノを習い始め、8歳で少年少女合唱団に入団するなど、幼い頃から音楽に囲まれた環境に育つ。1987年には久保田利伸のコンサートツアーのサポートメンバーとしてステージに立ち、その後松任谷由実をはじめとする数々のアーティストのコンサートツアーやレコーディングに参加。CMソングのボーカリストやボイストレーナーなど活躍の場を広げ、1991年にはソロデビューシングル「P.S. I miss you」で日本レコード大賞新人賞ほか多数の新人賞を受賞。1995年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマ「残酷な天使のテーゼ」を歌い脚光を集めた。その後もさまざまなアニメのテーマ曲やCMソングを担当。コンスタントにオリジナル作品を発表している。2015年1月21日にはニューシングル「真実の黙示録」をリリース。表題曲はテレビアニメ「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞(ロンド)」の後期オープニングテーマに採用されている。