ナタリー PowerPush - 高橋洋子
運命を切り開く強さを携えた新しい「エヴァ」のテーマ
1995年放送のアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のテーマソング「残酷な天使のテーゼ」を歌うシンガーとして、国内のみならず世界中でその名を知られる高橋洋子。彼女の力強く伸びやかな歌声はエヴァの世界観をいっそう盛り上げ、その後の劇場版アニメやゲーム、パチンコなどの関連作品でも、彼女の歌声はエヴァの世界と切り離せない重要な要素として登場する。3月27日にリリースされた最新シングル「暫し空に祈りて」は、パチスロ版エヴァの最新機種「EVANGELION」のために書き下ろされた楽曲だ。
ナタリー初登場となる今回のインタビューでは、デビュー以前の貴重なエピソードから「新世紀エヴァンゲリオン」との出会い、そして新作「暫し空に祈りて」まで、これまでの活動を広く語ってもらった。
取材・文 / 坂本寛(タブロイド) インタビュー撮影 / 佐藤類
ユーミンのコーラスで学んだプロ意識
──まずは高橋さんのこれまでの活動について聞かせてください。音楽活動はどのようにスタートしたんですか?
小学2年から高校2年までは、滝野川少年少女合唱団という、日本でも1~2位を争うくらい古くからある合唱団に所属していました。高校ではバンドを組んだり。そのあと音大に行きながら、軽音楽のサークルに入ってオーディションを受けたりしていました。
──プロとして活動を始めた最初の頃には、久保田利伸さんや松任谷由実さんのバックコーラスをされていたとか。
はい。最初は久保田さんのアルバム「GROOVIN'」(1987年4月発売)のツアーで、コーラスに欠員が出たということでオーディションを受けまして。そのツアー限定で受けたお仕事だったので、それが終わって普通の生活に戻るのかなと思っていたら、流れで今度はユーミンのツアーのオーディションのお話をいただいて。アルバムで言うと「ダイアモンドダストが消えぬまに」(1987年12月発売)から「DAWN PURPLE」(1991年11月発売)まで、その時期のライブに約5年間、コーラスとして参加させていただきました。
──まさにユーミンが記録的な大ヒットを連発していた頃に、ずっと参加されていたわけですね。ユーミンのツアーというと、いつもとんでもなく大がかりな印象がありますが、歌だけではなくて、踊りも?
まさに「究極の立ち仕事」とはこのことで(笑)。それまで踊ったことはぜんぜんなかったのに、いきなり「それじゃ、ここで2回転ターン」とか言われて「えっ! そんなのどうやって回るの!?」って(笑)。「何回やったらできるようになるの!」とか怒られて、泣きながらやってましたね。
──ユーミンのツアーでは奥井雅美さんともご一緒されていたんですよね。
奥井さんとはその前にWinkのツアーでも一緒になったことがあって。彼女がユーミンのツアーでコーラスやりたいと言っていたので、オーディションがあるよと紹介しました。確か「天国のドア」(1990年11月発売)と「DAWN PURPLE」のツアーを一緒に回りましたね。
──どのくらいの数のライブをこなす感じだったんでしょうか?
「ダイアモンドダスト~」のときは小ホールツアーでいろんなところを回る感じだったので、たぶん100本は超えてましたね。最初は80本とか聞いてたんですけど、どんどん追加公演が増えていって。スタッフとはずいぶん長い間一緒にいました。そこから大ホールツアーになると本数は減るんですけど、今度はステージいっぱいを使う演出だから移動距離が大変で(笑)。ああいう大規模な演出というのも、当時のユーミンが火付け役だったと思います。大道具さんや照明さんも本当にプロフェッショナルの集まりで。「マディーロッキーシンクロシステム」とか、日本で初めての技術が使われていたり。それだけプライドもあるから「できないことは何もない」って感じなので、自分がアーティストだというよりは、職人集団の中にいるという意識のほうが強かったと思いますね。
軽いノリで決まった「残酷な天使のテーゼ」
──それではソロデビューされてから「残酷な天使のテーゼ」までのお話を。歌手としての活動と並行してアニメのお仕事もされていましたが、特に当時は「アーティストがアニソンを歌う」ということに対する意識が、今とは違ったんじゃないかなと想像するんですが。
「サイレントメビウス」とか「B型同盟」とか、スタジオミュージシャンとして1曲ごとに参加するという形で、譜面と歌詞を渡されてスタジオに行って、とにかくすぐ録ってサッと帰るみたいな(笑)。「ママたちの受験戦争」みたいなお昼のドラマもあれば、CMもあったり。そういうお仕事の中のひとつという感じだったので、特にアニメだから好きとか嫌いとか、そういう感じはまったくなかったです。
──いわゆるアーティスト的な葛藤みたいなことはなかったわけですね。やはり職人的な意識で。
それに実は、さかのぼると小学校のときに「ふしぎなメルモ」の主題歌をカバーしたことがあって。そのバージョンが入ったCDも出てるんです(「復刻 手塚治虫作品傑作集 / 鉄腕アトム」1998年9月発売)。小学生の私に会えますので(笑)、機会があったら聴いてみてください。
──むしろ「新世紀エヴァンゲリオン」をきっかけに、いろいろ考えざるをえなくなった?
そうですね。もう代名詞ですからね。1991年にバラードシンガーとしてデビューしてますけど、誰も知らないですから(笑)。「逢いたい時にあなたはいない…」っていう、中山美穂さんと大鶴義丹さんが主演で、フジテレビの月9ですよ。そんなすごい視聴率のドラマで挿入歌(「P.S. I miss you」1991年12月発売)のお話があって、「すごいチャンスだから」って。そしたらジャケットの写真撮影が間に合わなくて、結局使われたのは時計の写真(笑)。でも結局テレビでは流れなくて。売れないだろうと思っていたら、神様は見てくださっているというか、とある有線の方がずっとかけてくださって、上半期の有線大賞新人賞の候補に入ったんです。そのあと並河祥太さんから、日本テレビで石田ひかりさん主演の「悪女(わる)」というドラマの挿入歌(「もう一度逢いたくて」1992年6月発売)のお話をいただいて。じゃあ前の曲を一緒にカップリングにしようって、ここでようやく顔入りのCDが出て(笑)。
──そのシングルで日本レコード大賞の新人賞を獲られたわけですよね。
でも、スーパーに行っても誰も気づかないですよ(笑)。基本的に前に出るのが苦手というか、裏方で静かに静かに活動していたような歌手ですから。その後レコード会社の社長に「歌の勉強がしたいです」って伝えたら、「じゃあ留学する?」ってことでロサンゼルスに半年留学することになって。それこそマイケル・ジャクソンのボイストレーナーの方に教わったり。戻ってきたら今度は「ニューヨークに行く?」って言われたんですけど(笑)、「いや、もうそろそろ活動したいです」っていうことで、以前お仕事でご一緒させていただいていた大森俊之さんにお電話をして。
──そこからつながっていくわけですね。
「ちょうど、あるアニメのエンディングでスタンダード曲の『FLY ME TO THE MOON』をいろんな歌い手がカバーする企画があるから、よかったらスタッフに声かけてみるよ」って。当時は別のレコード会社に所属していたので、そちらの問題がなければということだったんですが、「いいんじゃない?」って簡単にOKが出まして。それでキングレコードの大月俊倫さんにご連絡しましたら「じゃあ主題歌も歌えば?」って(笑)。
収録曲
- 暫し空に祈りて
[作詞:及川眠子 / 作曲・編曲:大森俊之] - 宇宙の唄:サークル・マインド
[作詞・作曲:福澤諸 / 編曲:笹路正徳] - 暫し空に祈りて(Off Vocal Version)
- 宇宙の唄:サークル・マインド(Off Vocal Version)
高橋洋子(たかはしようこ)
8月28日生まれ、東京都出身の歌手。2歳からピアノを習い始め、8歳で少年少女合唱団に入団するなど、幼い頃から音楽に囲まれた環境に育つ。1987年には久保田利伸のコンサートツアーのサポートメンバーとしてステージにたち、その後松任谷由実をはじめとする数々のアーティストのコンサートツアーやレコーディングに参加。CMやボイストレーナーなど活躍の場を広げ、1991年にはソロデビューシングル「P.S. I miss you」で日本レコード大賞新人賞ほか多数の新人賞を受賞。1995年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマ「残酷な天使のテーゼ」を歌い脚光を集めた。その後もさまざまなアニメのテーマ曲やCMソングを担当。コンスタントにオリジナル作品を発表している。2013年3月27日にはニューシングル「暫し空に祈りて」がリリース。表題曲はパチスロ「EVANGELION」のテーマソングに起用された。