高垣彩陽&豊崎愛生「トゥインクルクス」インタビュー|正反対の2人だから生まれるもの──“つながり”が形になったコラボ曲 (3/3)

彩陽ちゃんの歌は、ギリギリであればあるほどいい

──この機会にもう1つ伺いたいことがありまして。高垣さんと豊崎さんは、お互いの声やボーカルスタイルにどのような特徴や個性があると思っていますか?

高垣 前から思っていたんですけど、今回「トゥインクルクス」とともに、カップリングでお互いのソロ楽曲を2人で歌ってみて、改めて愛生の声質は唯一無二だなと。しかもその声で語りかけるように、寄り添うように歌えるのは本当にすごいことだと再認識しました。私はソロのとき、けっこう濃いめに味付けしてしまったり、自分の感情を押し付けるような歌い方をしてしまったりして、ディレクターさんから「トゥーマッチだよ」と言われることがよくあって。でも愛生はいつも優しく、リスナーの気持ちにスッと届く歌を歌っている。それは私にとってはめちゃくちゃ難しいことなので、サラッとやってのける愛生はカッコいいなと思います。たぶん、愛生は声優としてはもちろん、ラジオパーソナリティーとしても“話す”というスキルがものすごく高いから、それが歌い方にも反映されているというか、愛生の歌の魅力につながっているのかもしれない。

豊崎 彩陽ちゃんの歌の好きなところは2つあって。まず、彩陽ちゃんは「You Raise Me Up」(2010年7月発売の1stシングル「君がいる場所」カップリング曲)のような曲ではオペラ的な歌唱もできるし、もちろんポップスもロックも歌えるし、できることがすごくたくさんあるんだけれど、私は、彩陽ちゃんの真骨頂は低音にあると思っているんです。だから、彩陽ちゃんの低めのアルトがカッコよく響いて、大人の女性感を引き出してくれるんじゃないかという狙いで、カップリングでは私の「See You Tomorrow」(2013年9月発売の2ndアルバム「Love letters」収録曲)という曲を一緒に歌わせてもらいました。もう1つ、本人は意図していないところだから申し訳ないんですけど、彩陽ちゃんの歌は、ギリギリであればあるほどいい。

豊崎愛生のステージの様子。

豊崎愛生のステージの様子。

──ギリギリであればあるほど(笑)。

高垣 それって、メンタルが?

豊崎 メンタルもそうだし、例えばアニメ「戦姫絶唱シンフォギア」シリーズの楽曲とか、音程やリズムも含めてものすごく難しいことをやっているじゃない。そういう曲を必死で、戦いながら歌うのがいいんだよ。こんなになんでもできる人が、メンタル的にも技術的にもギリギリの状態で、ギリギリの歌を歌っている姿に、私は「ああああ! 彩陽ちゃあああん!!!」と心を動かされてしまうんです。

高垣 崖っぷちの高垣彩陽。

豊崎 それだ。彩陽ちゃんはライブですごいカリスマを発揮するんですけど、それも本人は意図していないというか、狙ってできることじゃないし、私には真似できない。たぶん、彩陽ちゃんが崖っぷちに追い込まれたときに起こるケミストリーみたいなものがあるんですよ。まあ、今回のシングルには崖っぷち感は全然ないんですけど。

高垣 楽しい1枚だからね。

豊崎 崖っぷちの彩陽ちゃんのよさは、彩陽ちゃんのソロで感じてもらえたらいいなと思います。音楽って不思議で、ただ上手に歌えばいいわけじゃないというか……いや、彩陽ちゃんは歌のスキルもめちゃくちゃ高いんですけど、本人の意図しないところで感動を呼んだりするので、一緒にいて面白いです。

楽しく真面目に音楽を作っていたら、いいことがある

──先ほど豊崎さんから、高垣さんの低音を引き出すためにカップリング曲に「See You Tomorrow」を選んだというお話がありましたが、高垣さんはなぜ「私の時計」(2015年11月発売の2ndアルバム「individual」収録曲)を?

高垣 愛生って、ロックを歌うときはおしゃれなロックを歌うイメージがあったから、私の曲でおしゃれなロックってなんだろう? ピアノロック? じゃあ、末光篤さんが作編曲してくださった「私の時計」がいいんじゃないかと。あと、愛生はチャットモンチーが好きだと以前言っていたんですけど、「私の時計」の作詞はチャットモンチーの橋本絵莉子さんなんですよ。それもあり、私の曲の中では素直でカジュアルな言葉が並んでいると思っていて、そんな歌を愛生の声で聴きたかったんです。さらに、この曲ではミトさんがベースを弾いてくださっているので、“縁”という意味でもぴったりだなって。

──高垣さんは今回のシングルを「楽しい1枚」と表現しましたが、カップリングも含めてその通りですね。

高垣 カップリングの2曲はどちらも10年ぐらい前にリリースした曲で、しかもどちらもアルバムの中の1曲なので、もしかしたらこのシングルで初めて聴いてくださる方もいるかもしれない。一方、昔から知ってくださっている方は、それぞれの曲との思い出とともに、今の私たちを感じてもらえると思います。

高垣彩陽

高垣彩陽

豊崎 これはあとからディレクターさんに聞いた話なんですが、「トゥインクルクス」の制作は「すべてのクリエイティブが前向きだった」とのことで。例えばミトさんにはタイトなスケジュールで、しかも白紙同然のお題でオファーしたのにもかかわらず「うん、大丈夫。なんか、もう浮かんだ」みたいな感じで乗っかってくださって。そこから、作詞をriyaさんにお願いすることも含めて、ミトさんの中でどんどんアイデアが膨らんでいったそうなんです。

高垣 作家さんだけじゃなくて、さっき少し話したビジュアルワークのスタッフさんとか、クリエイティブチームの皆さん全員が「高垣と豊崎だったらこうしよう、ああしよう」と、私たち同様に楽しんでくださってね。

豊崎 あと、ツーマンライブで「トゥインクルクス」を初披露したときは、ミトさんがベースを弾いてくださって。

高垣 そうそう。「トゥインクルクス」のレコーディングは愛生の歌録り、楽器録り、私の歌録りという順番だったんですけど、楽器録りがすごくよかったらしくて。ミトさんが「あの日、ベース持っていけばよかった。僕も弾きたかった」とおっしゃっていたので、ディレクターさんが、たぶん軽い気持ちで「ライブにスペシャルゲストとして来ちゃう?」と聞いたら「弾いていいの!?」と喜んでくださったんですよ。ライブ当日のベーシストはバンマスでもある山田章典さんだったので、当然山田さんの確認を取っていただいたところ、山田さんも「いいですね!」と面白がってくださったそうで。あれよあれよと「ミトさんが来てくれるって!」みたいな。

──そうやって作家やチームのスタッフが前のめりになるのも、お二人がそれぞれいい関係を築けているからでは?

高垣 だとしたら、こんなにうれしいことはないですね。

豊崎 ね、うれしいね。「高垣と豊崎で、なんか楽しいことやります。一緒にやってくれる人、この指止まれ!」って言ったら……。

高垣 皆さんが「わーい!」って集まってくださって。楽しく真面目に音楽を作っていたらいいことがあると教えてくれた、そんな1枚です。

豊崎 これから聴いてくださる方にもその楽しさは伝わると思っているので、みんなで便乗して、「トゥインクルクス」な気持ちを共有してもらえたらなおうれしいです。

高垣彩陽&豊崎愛生

高垣彩陽&豊崎愛生

プロフィール

高垣彩陽(タカガキアヤヒ)

1985年10月25日生まれ、東京都出身の声優 / アーティスト。音楽大学の声楽科出身で、その卓越した歌唱力を生かし舞台女優としても活躍している。2006年2月に声優デビュー。2009年2月に同じミュージックレインに所属する寿美菜子、戸松遥、豊崎愛生とともに声優ユニット・スフィアを結成した。2010年7月にはシングル「君がいる場所」をリリースし、ソロデビュー。2011年11月にカバーミニアルバム「melodia」を発表し、12月に初のコンサートツアー「Memoria×Melodia」を開催した。その後もオリジナル楽曲はもちろん、カバーミニアルバム「melodia」をシリーズ化させ、定期的に音楽作品を発表。2016年11月に東京・Bunkamuraオーチャードホールでクラシカルコンサートを実施した。2019年8月に「戦姫絶唱シンフォギアXV」のエンディングテーマを表題曲としたシングル「Lasting Song」を発表。2020年にソロアーティストデビュー10周年を迎え、2021年4月にベストアルバム「Radiant Memories」をリリースした。2024年4月に東京・立川ステージガーデンで豊崎愛生とのツーマンライブを開催。6月に高垣彩陽&豊崎愛生名義でコラボシングル「トゥインクルクス」をリリースした。

豊崎愛生(トヨサキアキ)

1986年10月28日生まれ、徳島県出身の声優 / アーティスト。2009年放送のテレビアニメ「けいおん!」で主要キャラクターの1人、平沢唯を演じて一躍脚光を浴びた。同年2月には同じミュージックレインに所属する寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥と共にユニット・スフィアの活動を始め、10月にシングル「love your life」でソロデビュー。好きな音楽のジャンルはパンクロックからフォークソングまで幅広く、その嗜好や知識を自身の作品にも反映し、こだわりを持って音楽制作に取り組んでいる。レコード店に足繁く通うアナログ愛好家の一面もあり、2017年に初のベストアルバム「love your Best」をリリースした際には、念願のアナログ盤も発表した。2021年6月に5年ぶりのオリジナルアルバム「caravan!」を発表。7月にワンマンライブ「LAWSON presents 豊崎愛生 コンサート2021~Camel Back hall~」を計4公演行った。2024年4月に東京・立川ステージガーデンで高垣彩陽とのツーマンライブを開催。6月に高垣彩陽&豊崎愛生名義でコラボシングル「トゥインクルクス」をリリースした。