Taikiのベストアルバム「Taiki THE BEST」が7月12日にリリースされた。
2011年より俳優・山崎大輝として活躍する傍ら、2018年以降はミュージシャンとしても活動しているTaiki。ベストアルバム「Taiki THE BEST」は、1stシングル「Imagenerations」やテレビアニメ「八十亀ちゃんかんさつにっき 3さつめ」の主題歌にもなった「雑草魂なめんなよ!」、シドのマオ(Vo)と明希(B)が提供した「終わりの始まり」といった楽曲が収められ、Taikiの5年間の音楽活動の集大成のような作品に仕上がっている。音楽ナタリーでは、本作のリリースを記念してTaikiにインタビュー。印象的な収録曲について語ってもらいつつ、これまでの音楽活動を振り返ってもらった。
取材・文 / 真貝聡撮影 / 藤記美帆
「うわあ、このタイミングか……」
──1stシングル「Imagenerations」の発売から丸5年を迎えたタイミングで、ベストアルバムがリリースされましたね。
ベストアルバムを制作するにあたり、これまでリリースした楽曲をすべて聴き直したんですけど、「このときはこういう気持ちで歌っていたな」「この曲を初めて聴いたときは、こんな感情だったな」など、いろんな記憶がよみがえってきて胸が熱くなりました。ベストアルバムと銘打っていますが、僕にとっては初めてのアルバムでもあるんです。5年の積み重ねがこうして1つの作品になったのは、とても感慨深いです。「Taiki THE BEST」は、そのときどきでの僕の思いや趣向が反映されている1枚だと思いますね。これまでの活動を通して、自分自身の考え方や自分が表現したいこと、そして“Taiki像”がどのように変わっていったのかを知れた作品でもあります。
──Taikiさんは、俳優として2011年に活動をスタートされましたが、そもそも音楽をやりたくて芸能の世界に足を踏み入れたんですよね。
14歳のときに「第23回 ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で審査員特別賞をいただいて、俳優としてキャリアをスタートしました。でも内心は「本当は音楽をやりたいんだよな」と思っていたんです。それから8年ほど、ドラマや舞台などのお仕事をいただく中で、「きっと音楽の仕事はやらないんだろうな」と思いまして。自分は俳優として生きていこう、と決意を固めました。ちょうどそんな心の切り替えができたタイミングに、「曲を出しませんか?」というお話をいただいて……。音楽活動は予期せずスタートしましたね。
──役者1本で生きていく決心が固まっていたからこそ、手放しでは喜べなかった?
そうですね。気持ちとしては「うわあ、このタイミングか……」みたいな。それまではいつでも音楽活動を始める心構えができていたんですけど、話をいただいたときは心構えができていなかったので「あ、どうしよう!?」と困惑しましたね。もちろん、ありがたいお話ではありましたけど、お声がけいただいたときはまったくアーティストとしてのビジョンが見えていなかったです。「どう取り組んでいくべきなんだろう?」という感じでスタートしました。
──そもそも音楽活動の話は、どこから舞い込んできたんですか?
事務所の方から聞いたんですが、舞台でご一緒した作曲家のマチゲリータさんが「何か一緒にやれないかな?」と、以前から気にかけてくださっていたそうなんです。ただ、その頃は「宇宙戦隊キュウレンジャー」の撮影を控えていたタイミングで。撮影が始まると音楽に集中する時間を作れないのでしばらく待ってもらっていて、「キュウレンジャー」の撮影が終わったときに「本格的に音楽活動をやろう」と動き出しました。アーティストとしての売り方どうこうを考えるよりも、「僕とマチゲリータさんの好きなモノを曲に詰め込みたいよね」というのが始まりでした。決まっていたのはそれだけで、先のことを考えて打った一手ではなかったです。
──まずは、やってみようと。
そうです。そうして「Imagenerations」を書いていただきました。マチゲリータさんには、あえて「この曲にはどういう意味が込められているんですか?」と聞いたことはないんですが、僕がアーティストとして活動していくうえで最初の楽曲だったので、これから始まる未来への光をマチゲリータさんが僕に見せてくれている、と受け取りました。誰かの応援歌であり、僕自身への応援歌でもある、と解釈しています。
──「Imagenerations」を制作していたときの、印象に残っている思い出はありますか?
喉の調子がそんなによくなかったときに、一度レコーディングをしたんですけど、あまりいい声の乗り方をしなかったんですよね。初めてのシングルなので大切に歌いたい、という話になり無理をせず、また数日後に改めて歌わせてもらったのを覚えています。とにかく何度も歌いました。あと、2曲目「Heigh-Ho」は、落ちサビに「怖いなあー、怖いなあー……」という、僕が稲川淳二さん風に語ったセリフを逆再生した音が裏に入っています(笑)。マチゲリータさんは、しっかりした音楽の基礎を持っている方なんですけど、型破りな曲作りをされる方でもあるんですよ。今となれば「音楽はこんなに自由で楽しいんだよ」と、僕に教えてくれていたんだと思います。
人間らしく表現できるようになった曲
──「まずやってみよう」で始めた音楽活動でしたが、実際に動き出してTaikiさん自身の手応えや周りの反応はどうでしたか?
もともと僕が音楽をやりたかったことを知ってくださっているファンの方が多かったこと、そして“俳優・山崎大輝”のファンの方も抵抗を持たずに聴いてくださった印象がありました。なので「受け入れてもらえるんだな」とうれしかったですね。そもそも、音楽には相性があると思うんですよ。パクチーが苦手な人は、どうやってもなかなか舌が受け付けないですよね? 音楽も同じだと思っていて、どうしてもいいと思えない作品ってあると思うんです。にもかかわらず、多くの方が「よかったです!」と言ってくださったのは本当にうれしかった。手応えも感じましたし、自分が想像できていなかったことを実際にやってみたことによって次のビジョンも見えてきて、より活動したい意欲が湧きました。
──2ndシングル「Multicolored World!」は、ミュージックビデオもさることながら楽曲自体もすごくさわやかな印象を受けました。
「Imagenerations」は僕とマチゲリータさんのやりたいことを詰め込んだ曲だったので、「Multicolored World!」では周りの意見を取り入れて、どんな反応がリスナーから返ってくるのか知りたいと思い制作しました。視野を広げて、自由に作ってみようと。その結果、とても明るいポップソングに仕上がりました。
──「Imagenerations」然り「Multicolored World!」然り、サウンドもメッセージもキラキラした楽曲というのが共通していますよね。そんな中、前作と大きく違うのは2ndシングルからTaikiさんが楽曲制作に関わるようになったこと。特に、Taikiさんが作詞作曲された「vivid sky」は、これまでと違うダークな表情を見せています。「また僕が僕を騙してる」から始まり「誰に指さされても あぁまだ いやまだ 遅くないでしょう?」というフレーズに着地しますが、今までは周囲の思い描くTaikiのイメージに従って生きてきたけど、「ここからは誰にどう思われても、本当の自分を出す」「それを始めるのは今からでも遅くないだろ」という宣誓の歌に感じました。
そうなんですよ! 少しネガティブ要素も含んだ楽曲になっていますけど、より自分の内面を出すきっかけとなるような曲にしようと思って作りました。
──「vivid sky」でTaikiさん自身の内面を解放できたからこそ、求められてる自分と、見せたい自分をいいバランスで出せるようになったと思うんですよね。その結果、3rdシングル「雑草魂なめんなよ!」という、とことんコミカルで思い切りエンタメに振り切った曲を歌えたんじゃないかなと。
おっしゃる通りです! そこまで自分のことを俯瞰して見れていなかったんですけど、デビュー曲から現在までの変化を考えると、ちゃんと流れがあったなと再確認しました。
──「雑草魂」は全身全霊で人を楽しませようとしているTaikiさんの思いがにじみ出ていて、すごく好感が持てるんですよね。
ハハハ、僕も大好きな楽曲です。「雑草魂」は曲と歌詞を別々に選ばせてもらったんですけど、まず曲が決まったときに「こんなにはっちゃけていて大丈夫ですか?」と確認しました。
──明らかに、これまでの曲調と違いますからね。
そうそう(笑)。そこからいろいろな歌詞を見させていただいたんですけど、どれだけ考えても「雑草魂なめんなよ!」のインパクトに勝てるものはないなと思いまして。「この歌詞でいきましょう」と言ったら、スタッフさんから「えっと……本当にいいですか?」と何度も確認をされました(笑)。「雑草魂」の制作で一番印象深いのは、アーティスト写真撮影のとき、テストで撮ってもらった写真が採用されたこと。その後いろんなパターンを撮影していただいたんですけど、結局テストの写真が構図も顔も一番ツボで、しっくりきちゃったんですよね。それが思い出深いです(笑)。
──この曲は一聴するとコミカルな印象が強いですけど、実は歌詞でいいことを言っているんですよね。
そうなんですよ! 「何気ない 言葉で 傷ついた時 誰のための人生だ?(気にすんな!)」のフレーズとか、めちゃくちゃ元気をもらえますよね。当時はコロナ禍の真っ只中で、暗いニュースが続いていて、「雑草魂」は意外と時代とリンクしたことを歌ってるなと。だからあのタイミングで出せてよかったと思います。とにかくコメディテイストに寄った、バラエティ色の強い曲で、この楽曲を作ってから「別に気負わなくていいんだな」と思えるようになったんです。アーティストとして、人間らしく表現できるようになったきっかけの曲となりました。
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「終わりの始まり」という宝物を磨く