1つ正解を出せた
──今作は攻めた曲がそろってますね。ここからはタイトル曲の「ORANGE」の話に移れればと思います。
落ち込んでいたところから抜け出してからは、どんどんいい感じに作業が進んでいったんですが、全体像が見え始めたときに「なんかすごいの1曲入れたいな」と、疾走感と勢いのある曲が欲しいと思い始めたんです。そのとき、ザ・ウィークエンドの新譜をめっちゃ聴いてて、CELSIORも大好きだったんで「爆音で聴きません?」とスタジオで流して。2人して「ホントにヤバいよね」とか言いながら曲を作り始めました。トラックからメロまで延々と2人でやり取りして、一番時間をかけて作りましたね。自分で1つ正解を出せたと思う曲です。
──正解というのはどういう意味合いで?
ラップとかリリックとか全部含めて、“TAEYOとしてのあり方”みたいなものです。もしこの曲をTaeyoung Boyとして作っていたら、もっとヒップホップサウンドで、もっと強いことを言う曲になってたと思うんですけど、そのTaeyoung Boy感もありつつ、今のTAEYOにできることをバランスよく盛り込めたなって。「俺ってこういうことなのかな」と自分ですごく納得がいったんですよ。Taeyoung Boy時代から好きでいてくれる人も絶対に気に入ると思うし、新しいリスナーも好きになってくれると思うし、多くの人に聴いてもらえる可能性を一番秘めた曲だと思います。
──それで作品のタイトルも「ORANGE」になったんですか?
はい、イメージとしてずっとあった楽曲がやっとできたなと。スタジオでリリックを書きながら、曲の中に“オレンジ”をたくさんちりばめていきました。
──「まじ洗いざらい出した俺はfly / 失うもんない橙のsky」というリリックがカッコいいですね。
自分なりに振り切ってる部分です。「ORANGE」のリリックはどこを取っても好きかもしれないですね。
──「俺星の一部 血走ってachieve 不確かなVIP」あたりから踏みまくりでキマっていますね。こういうところがTaeyoung Boy感?
だと思います。あと、実はラジオボイスっぽくなるブリッジの部分に、昔作った曲のリリックをそのまま入れてるんですよ。知ってる人が聴いたらグッとくるかなって。ホントはその曲をそのまま持ってこようと思っていろいろ試したんですが、うまくハマらなかったんで録り直して、スクラッチを入れてサンプリングっぽく処理してもらいました。
──アイデア山盛りですね。
音数がたいぶ増えたことで、ボーカルのトラック数も半端ないことになって。聴かせたい音が聞こえなくなったりして、最後の最後までだいぶ揉みました。最終的にいい感じになったんでよかったです。
ほかの人には絶対作れない
──BACHLOGICさんプロデュースの「Intro」は最後に作ったんですか?
中盤あたりですね。これは前からあったトラックで、「絶対1曲目に入れたい」と思ってたんです。BLさんに「ラップしたい」と言ったら賛成してくれて、思いっきりラップしました(笑)。とりあえず勢いがほしくて。
──1曲目でガツンとラップを聴かせて2曲目はまるごと歌で……と、全編にわたってメリハリが効いた作りになってますね。
そこはちょっと意識しました。「ギャップを絶対に出したほうがいい」とChakiさんに言われてたんで。今後もいろんなことに挑戦したいですが、ラップと歌のバランスはこのままでいきたいなと思ってます。あまり中途半端なことしてても……とも思いますけどね。“歌ラップ”みたいなことやってる子、今の日本のアングラなシーンにはめちゃめちゃ多いし、そういうのとはまた別のものにしたくて……でも、たぶん大丈夫です。この感じはほかの人には絶対作れないと思うんで。
──“この感じ”をもうちょっと具体的に言うと?
言葉にするのが難しいんですけど、さっき言った“歌ラップ”みたいにAuto-Tuneかけてメロ付けてラップしてる曲って、その人、個人の結晶なんだけど、それ以上でもそれ以下でもないというか、その先に届くかどうかはあまり興味がないというか、そんな気がするんですよ。でも、今の俺は歌ってるのは自分のことかもしれないけど、たくさんの人に届けたいという思いが強くなってて、共感してもらえるならリリックに自分の内面や弱みもさらけ出したい。メロディもすげえ考えてるし、とにかくみんなに伝えたいから。曲が俺だけのものじゃなくて、聴く人のものになってほしくて、そうなり得るポテンシャルを持つための時間は惜しまないです。
──普遍性を持たせるための工夫をしているということですね。ところで送っていただいた音源に「Grey」という曲が入っていたんですが、これはどういう扱いになるんですか?
CD限定のボーナストラックです。6曲目の「Alright」のあとに5秒くらい空けて入れてあります。ホントは本編に入れたかったんですけど、6曲にすると決めていたんで。でも、ボーナスで逆によかったかなと思います。
──すごくいい曲なので、もったいないですけどね。
自分も大好きな曲です。昨日知り合いと電話していたら、「『Grey』が一番よかった」と言われました。俺は「ORANGE」の次に気に入ってる曲かもしれないです。CD限定になったことでより特別感が出て、逆に大事に聴いてもらえるかもなと思ってます。リリックは重いかもしれないけど、だからこそ聴いてもらいたいです。「Grey」を作る中で、自然、地球、人間のエゴとか、そういう要素が自然と出てきたんですよね。青春時代にDef Techをめっちゃ聴いてたんで、その影響もあるような気がします。外出自粛期間中にいろんなラッパーが“STAY HOME”をテーマにした曲を出していて、俺のとこにも“STAY HOME”関連の企画がいくつか回ってきましたけど、1つもやらなかったんですよ。自分としては何かしっくり来なくて。その代わりに、自分なりにじっくりと考えて「Grey」を作れたんで、結果的にとてもよかったですね。
──作品全体を通して、一番徹底的にこだわったのはリリックですか?
そうですね。ホントに何回も書き直しましたから。今まで歌詞をないがしろにいてたわけではないんですが、やっぱりどこかノリやグルーヴを優先してたし、自分もそういう視点でヒップホップを聴いていて。でも、日本に限るとわりとみんな歌詞に注目するじゃないですか。俺は日本で日本人として活動してるわけだから、「何言ってるかわかんないけどカッコいい」みたいなレベルはもういいって思ったんですよ。少なくとも今、俺がやる必要はないかなって。そういうのは得意なやつがやればいいし、ノリやグルーヴを重視したカッコいい曲も出てくると思うけど、「これからは、ちゃんとみんなの耳に入るリリックを書こう」と俺は考えてます。今回もノリがよくて、かつ聴けるような作品を作ったつもりです、自分としては。
光を探して試行錯誤する
──TAEYOさんは以前から「日本の音楽シーンを変えたい」とよく言っていますよね。どういうふうに変えたいんですか?
根本的に音楽が好きな人が増えてほしいんです。俺、音楽大好きだから。なんとなくだけど、俺が思っているほどそういう人多くなくて。音楽を音楽として聴いてない人が多いなと感じているんです。あとはシーンというより人間的な問題なのかもしれないけど、みんな広い心と視野を持って生きたほうがいいというか、何かを好きな人も嫌いな人も視野が狭いなって思うんですよ。好きであることも嫌いなことも別に悪くないのに、お互いに固執したり叩いたりするじゃないですか。競い合って切磋琢磨するのはもちろんいいことなんですけど、異なるものを認められないのはよくないと思うんです。みんなが広い心と視野を持てるようになれば、いろんな音楽がどんどん出てくると思いますし。
──アーティストがそういう音楽以外の要素を重視しすぎるのは音楽好きとしてはうれしくないかもですが、まずはそういう人たちにも届けていかないと何かを変えることもできませんからね。
ホントそうだと思います。狭いとこでいくら言ってても、なんにもならないんですよね。アングラであぐらかいてても、同じことしてても変わんないなって。俺がそこを最初にブチ抜いていけたら最高だなと思ってます。
──そういう俯瞰的な目線はいつから持てるようになりましたか?
最近、だんだんとですね。やっぱりChakiさんの存在がでかいかもしれないです。ChakiさんはJ-POPとかチャートの上位に入るような仕事もしながらYENTOWNでヒップホップも作ってるから、説得力が違うんですよ。日本人として日本語の音楽をやってる以上は、光を探して試行錯誤し続けなきゃいけないなと思いますね。
──そのためには「テヤンくんカッコいいから好き!」みたいな人たちもガンガン取り込んでいくと。
そうです。それは全然間違ってないと思いますし、そういう理由で好きになってくれた人たちにも、今まで見たことのないものを見せてあげたいですね。