TAEYOが新作「ORANGE」をリリースした。
Taeyoung Boyから名義を改め、5月にポニーキャニオンからメジャーデビューしたTAEYO。「ORANGE」はChaki Zulu、BACHLOGIC、CELSIOR COUPEらを迎えて制作された作品で、配信盤には6曲、CDにはボーナストラックを追加した7曲が収録された。メジャーデビューにあたっての決意や希望だけでなく苦悩をも刻印した本作は、Taeyoung Boy時代からのリスナー、このタイミングで彼を知った人、その両方を魅了できるパワーにあふれている。
音楽ナタリーではTAEYOに2カ月連続でインタビューを実施(前編:TAEYO「Let me down」インタビュー)。後編では「ORANGE」についてたっぷりと話を聞いた。
取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 入江達也
このままじゃ完成させられない
──「ORANGE」に収録されている6曲は、1日の流れに則ってストーリーが進んでいくように感じました。
ざっくり言うと“夏”ですね。「ある夏の日のいろんな時間やシーンを切り取りたいな」と思いながら作り始めたんで。
──世の中には「夏だ! ビーチだ! パーティだ!」という方向の作品もたくさんありますが、それとは違って内省的な印象です。
それも書きたかったけど、得意じゃないのかもしれないです(笑)。そもそもパーティみたいな曲を書いたことがないし、作ってみたら結局この感じになりました。夏という季節を背景に、今の自分の思いや人生観みたいなものをかけ合わせて。
──作っていくうちにそういう方向性になったんですか?
ですね。最初に「Alright」のもとの曲みたいなのができたんですよ。内容は完成版とほとんど変わらないんですが、まだ気持ちが定まってなかった。その次に作った「Let me down」を作る過程で落ちたり上がったり、迷ったり、また落ち込んだりして。そこを乗り越える過程で、だんだんとイメージがつかめた。一度方向性が見えたら、そのイメージが広がっていきました。
──そうした心の動きはメジャーデビューにあたって生じたものですか?
インディーズで最後に出した「NAMINOUE」も「ORANGE」の制作の過程で作った曲なんですよね。当初「これがメジャー第1弾でもいいな」と思ってたんですけど、途中で「これじゃないかも」と感じて。1つ迷い始めたら、なんだか全部わかんなくなった(笑)。1つひとつ、全部疑っちゃうっていうか。「俺のどこがよくて契約してくれたのかな?」みたいに、身内を疑う的な(笑)。
──それはしんどそうですね……。
「Let me down」を作っていく過程でもプロデューサーのChaki(Chaki Zulu)さんとはいろんな話をさせてもらったんですが、俺が迷ってるタイミングには、それが辛辣なダメ出しに聞こえちゃってたんですよね。未来へ向けてのアドバイスだったんですけど、もう見失っちゃってるから、Chakiさんに電話して「このままじゃ完成させられないです」みたいな話をして。トラックもほぼ完成してて、メロもほぼ固まったタイミングで、いきなり「できない」とか言い出すなんて超失礼な話じゃないですか。それなのにChakiさん、怒るどころか「そうだよな」って、さらにいろんな話をしてくれたんです。それで「もう1回チャレンジしよう」という気持ちが湧いてきたんですよね。前回話した「絶対にここまで振り切ったほうがいい」みたいなやり取りをしながら、楽曲以上に精神的に導いてくれて。Chakiさんのおかげで、改めてスタートできたんです。
──綱引きをしたのは具体的にどの部分ですか?
みんなにとってはすごく些細なことかもしれないけど、曲を作る人間からしたら全部がすっごく大事なんですよね。例えば「Let me down」の「このままじゃ愛は歌えないよ」という部分はChakiさんの「何が言いたいの?」という根本の問いかけを起点にして詰めていって。サビの部分もかなり進化しました。クサくなく英語に置き換えたり、「Stay with me, don't let me, don't let me down」というところの声を加工したり。ポジティブなワードだけじゃなく、「淀んで」「沈んで」みたいなネガティブな言葉を入れて対比を出したのも、Chakiさんの提案です。いろんな気持ちを超えてこの曲を完成させられたことにすごく達成感があって、チームのみんなも「すげえいいね!」って言ってくれて、「よし、この感じでやってみよう!」と思ったんです。
がっつりヒップホップじゃない
──そこから順調に走り出した感じですか?
もう1曲、「All I have」も大きなきっかけになりました。これは「Let me down」と同じ時期に並行して作った曲ではあるんですが、「ORANGE」に入れるための曲じゃなかったんですよね。プロデュースしてもらったCELSIOR COUPEは俺がいつも行ってるスタジオのオーナーエンジニアでトラックメイカーでもあるんですけど、2人でスタジオで雑談してて、「ブーンバップっぽいビートないすか?」と言ったらこのトラックが出てきて。めっちゃ気に入って、そのまま勢いというか、遊びのノリで作っちゃったんですよ。デモをチームに聴かせたら「いいじゃん」という話になって、改めて録り直しました。この曲って、がっつりヒップホップなわけじゃないじゃないですか。ちょっとシティポップっぽくもあって。「All I have」が入ったことで、「なんでもありでいいんだ、自由なんだな」と思えて、いろんなことができる作品になったと思います。
──「Let me down」と「All I have」の2曲が前後してできたことで、作品全体のトーンが決まっていったんですね。
そうですね。この2曲の役割が見えたことで、表題曲「ORANGE」となる曲に取りかかるモチベーションが生まれましたね。
──CELSIOR COUPEさんとはかなり前から一緒に仕事していますよね。
ずーっとレコーディングやミックスを担当してくれていて、一番近くで見てくれてるし、一番俺をわかってくれてる人です。一緒に曲を作ったのは初めてなんですけど、このタイミングでやれてよかったですね。タイトル曲の「ORANGE」はまっさらな状態、ゼロから2人で作っていきました。
──「ORANGE」の話にいく前に「Calm」のことも聞きたいんですけど、この曲はアコースティックギター中心で、ヒップホップのトラックとしてはかなり異色ですよね。
ヒップホップじゃないですね(笑)。そうなるように意識したわけじゃなくて、自然にこうなったんです。ジャスティン・ビーバーの「Changes」を聴いて、なんか気持ちがフィットしたんですよね。そこでCELSIORと話して、ギターだけの曲を作ろうと。彼にその方向の俺の好きな曲を何曲も聴かせながら、“森”“光”みたいな、ネイチャー系、オーガニック系の言葉を書き出してワードマップにしてつなげていくという作業を初めてやりました。
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