ネガティブや不幸せを含めた前向き
──堀江さんが作・編曲のみならず作詞まで手がけたのは……。
堀江 ころあずさんの現場では初めてですね。なんとなく「これは自分で作詞したい」と思ったんですよね。彼女も3年ほどアーティスト活動を続けてきて、きっとぼちぼち「歌えてうれしい」「芸能界だー楽しい」みたいな時期は過ぎていると思うんですよ。
田所 もともとなかったかもしれない(笑)。
堀江 まあね(笑)。根がネガティブな人だし、いいことも悪いことも含めて、思い出の蓄積は3年で十分溜まっているんだろうなと思ったら、書いてみたくなったんですね。僕はポジティブもネガティブもわかっている人の歌詞を書くのが好きなので。「ストーリーテラー」もいたずらに前向きなだけではない、ネガティブな要素や不幸せなことも含めた前向きさを表現したくて、彼女にそういう歌詞を書くなら今このタイミングじゃないかなと思ったんです。
──先ほどおっしゃっていた、身の丈感のある主人公が先導するようなポジティブさと言うか。
堀江 うんうん、まさにそのイメージですね。説得力がない人が歌っても一緒に行こうとは思わないだろうし、行きたくてもそうはいかない事情がある人もいる。その事情すらもわかってあげられるような歌を歌える人が歌うべきで、今の彼女にはそれが歌える。
──根がネガティブとは言え、人前に立って言葉を届ける立場にいると、やはり先導する役割を求められると思うんですね。田所さんは性分と求められる役割のバランスをどう考えているんでしょうか?
田所 自分が人に影響を与える立場だとは全然思えないですね(笑)。なろうとも思わないし、なれるとも思えないですし。「みんなに笑顔を届けたい」「みんなに元気を出してほしい」という強い思いを持っている方はすごいなと思うんですけど、私にはそういう気持ちがあまりなくて(笑)。結果的にみんなに楽しいと思ってもらえたらうれしいけど、楽しさを強要しようとは思わないです。逆に一緒に悲しんだり怒ったりはしたいです。ライブでもずっとみんなが笑顔じゃなくてもいいし、一緒にイライラしたり悲しんだりしてくれてもいい。
堀江 ライブ中にイライラするの?(笑)
田所 あはは(笑)。なんでしょうね、わかりやすい“元気の源”とかになりたいわけじゃなくて、いろんな気持ちのときに……勝手に利用してほしいと言うか。
──そんな性格を持った人のわりには、ずいぶん気持ちを前向きに引っ張ってくれるアルバムだなと思いますけど。
田所 好きなことをしてるだけなんですよ。なので私の音楽を聴いてどう感じてほしいとか、そういうのはないです。
堀江 人が勝手に付いてくるタイプだと思いますよ。「あ、俺も付いてっていいスか」みたいな、そういう強さがある人だと思います。
耳当たりがよすぎるほどよい田淵智也のワードチョイス
──4曲目の「ギミーシェルター・ブライトネス」は堀江さんの作・編曲で、作詞はUNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんです。
堀江 こちらは発注から「ストーリーテラー」とは真反対で、「もう好き勝手にやってください」と言われて作った曲です。アルバム制作の後半で、ある程度曲がそろってきた中でバリエーションを広げる1曲……メッセージ性よりも耳が気持ちいい曲、ライブで楽しめるような曲が欲しいということだったので「じゃあ僕が書きます」と。ライブの風景を思い浮かべながら、コール&レスポンスなんかも入れていき、物理攻撃で殴るような曲にしたかったと言うか。すぐにワンコーラスできて、作詞はどうしようかなと思ったときに、田淵さんがいいんじゃないかなって。
──田淵さんも田所作品では常連ですね。
堀江 田淵さん個人でもQ-MHzでも参加されてますよね。僕も個人的にお世話になっていて、悩み事があるときなど一番に相談できる先輩なんです。彼の歌詞が僕は大好きで。耳当たりがよすぎるほどいいんですよ。音で聴いたときにリズムとマッチするワードチョイスが素晴らしい人なので、この曲には絶対に合うんじゃないかなと。これまで何度か一緒に曲を作ってますけど、田淵さんが作詞で僕が作曲という組み合わせは実はこの曲が初めてで。念願が叶いました。こちらからオファーをしたのも初めてだったんですよ。
──ここ数年、アニソンや声優アーティストの音楽でロックが急速な進化を遂げているように感じているんです。90秒ほどの短い時間にキャッチーな要素を詰め込むアニソンの様式がうまく作用しているのかなと思うんですけど、中でも堀江さんと田淵さんはキャッチーなロックを作る名手だと思います。
堀江 いやいや、そう言っていただけるのはうれしいけど、田淵さんがいる限り僕はどこまで行っても2番手ですね。ころあずさん現場にQ-MHzが上陸してきたときは「うわっ」と思いましたよ(笑)。
──腕利きがどんどん集まってきたという印象はありますね。
田所 なんかすごいですよね……私が歌っていいのかなって思っちゃう(笑)。
──田所さんに引き寄せる何かがあるからこそだと思いますけど。
堀江 うん、そう思いますよ。皆さん売れっ子だし、オファーがあれば必ず書くというわけじゃないだろうから、シンガーとして惹き付けられるものがあるからこそ書いてるんじゃないかな。
Q-MHz現場はキャピキャピしてる
──6曲目の「Pajama KINGDOM」はそのQ-MHzが作詞・作曲で、堀江さんがアレンジを担当しています。
堀江 これまでも何度かQ-MHzさんのアレンジをやらせてもらいましたけど、いやもう、すごいプレッシャーですよ。メンツがメンツなんで。自分も職業作家の端くれだけど、皆さん一時代を築いた先輩たちですからね。あと怖いのは、あそこベーシストが多いんですよ(笑)。
──田淵さんも黒須克彦さんも個性強めのベーシストですからね(笑)。ベーシストとしても後輩である堀江さんが先輩のベースラインを組むという。
堀江 相当な気合いで臨んでますけど、あの人たちの現場、すごく楽しいんですよ。言い方悪いですけど、いい歳した大人がワイワイやってる。
田所 確かに。すごいキャピキャピしてますよね(笑)。
堀江 こういう仕事のスタイルもあるんだと感心しちゃうと言うか、ハッとさせられますね。Q-MHzさんの発注は毎回アレンジャーの意見を尊重してくれる節があって、今回もそうでした。「ちょっと古めかしい、ゴーゴーやブギウギを現代的な解釈に落とし込んでほしい」というテーマだけいただいて、あとは自由にやらせてもらいました。
──いくらでも編曲できる人たちがわざわざ外部にアレンジを頼むのはなぜなんでしょうね?
堀江 そうなんですよね。明らかに自分たちでやったほうが早い人たちが頼むんだから、それなりの理由があるんだと思いますけど、ヒヤヒヤもんですよ。
田所 それだけ期待されてるってことですよね。
──全体にこれだけそうそうたるアレンジャーやプレーヤーがそろっている中で、「スーパースタールーザー」では田所さんもギタリストとして演奏に参加していますね。
田所 いやもう、恥ずかしいですよ! ホントにやめてほしいですね(笑)。
──自分で演奏したいわけじゃないんですか?
田所 いやいやいや。でもうれしかったですね、挑戦させていただいて。
──ギターをもっと極めていきたいとは思わないんですか?
田所 うーん、そうでもないですねー。
堀江 正直だな(笑)。
田所 でも「自分で弾ける曲が1曲できた」という事実がうれしくて。
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忘れらんねえよ柴田にシンパシー
- 田所あずさ「So What?」
- 2017年10月25日発売 / Lantis
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初回限定盤 [CD+Blu-ray]
5184円 / LACA-35659 -
通常盤 [CD]
3240円 / LACA-15659
- CD収録曲
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- 涙 one of them
[作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、滝善充] - 1 HOPE SNIPER
[作詞・作曲・編曲:Q-MHz] - ストーリーテラー
[作詞・作曲・編曲:堀江晶太] - ギミーシェルター・ブライトネス
[作詞:田淵智也 / 作・編曲:堀江晶太] - スーパースタールーザー(So What? mix)
[作詞:こだまさおり / 作・編曲:山本陽介] - Pajama KINGDOM
[作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:堀江晶太] - そう上手くいかないものです。
[作詞:田所あずさ / 作曲:楠瀬拓哉 / 編曲:eba] - DEAREST DROP
[作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:増田武史] - Crying
[作詞:こだまさおり / 作曲:藤末樹 / 編曲:山本陽介] - 僕は空を飛べない
[作詞・作曲:田淵智也 / 編曲:eba、高瀬一矢] - Aiming for Utopia
[作詞・作曲・編曲:Q-MHz] - I can't live without you.
[作詞:田所あずさ / 作・編曲:黒須克彦 / ストリングスアレンジ:秋月須清] - 運命ジレンマ
[作詞・作曲:田淵智也 / 編曲:eba] - ころあるき
[作詞・作曲:柴田隆浩 / 編曲:山本陽介]
- 涙 one of them
- 初回限定盤Blu-ray Disc収録内容
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2016年10月8日(土)にLIQUIDROOMで開催されたライブ「Azusa Tadokoro LIVE 2016 ~before the CUE/DISTORTION~」の模様を完全収録。
ライブツアー
「AZUSA TADOKORO LIVE TOUR 2017 ~So What?~」
- 2017年12月2日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2017年12月9日(土)上海 バンダイナムコ上海文化中心 未来劇場
- 2017年12月16日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 田所あずさ(タドコロアズサ)
- 1993年11月10日、茨城県生まれの声優アーティスト。2011年に行われた声優オーディション「第36回ホリプロタレントスカウトキャラバン~次世代声優アーティストオーディション~」でグランプリを受賞した。アニメ「アイカツ!」の霧矢あおい役や、ゲーム「アイドルマスターミリオンライブ!」の最上静香役などの声優として活動するかたわら、2013年12月に1stソロライブを開催。2014年7月にはデビューアルバム「Beyond Myself!」、2015年4月に1stシングル「DREAM LINE」を発表した。以降も精力的に音楽活動を重ね、2017年4月には6thシングル「DEAREST DROP」をリリース。全国8会場を回るライブツアー「AZUSA TADOKORO LIVE TOUR 2017 ~DilEMmA~」を経て、10月には通算3枚目となるオリジナルアルバム「So What?」を発表する。
- 堀江晶太(ホリエショウタ)
- 5月31日生まれ、岐阜県出身。10代の頃より作編曲家として活動し、上京後に音楽制作会社に入社する。2011年にボカロP・kemuとして、イラストレーターのハツ子、動画クリエイターのke-sanβ、アドバイザーのスズムからなるKEMU VOXXを結成し、動画共有サイトに楽曲を投稿。いずれも大きな反響を呼ぶ。2013年に独立して以降は、LiSA、ベイビーレイズJAPAN、茅原実里、田所あずさらに楽曲を提供。アレンジャー、コンポーザーとしての地位を確立させる。PENGUIN RESEARCHのベーシストとして、2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャーデビューし、バンドマンとしても精力的に活動中。