tacica「AFTER GOLD」インタビュー|結成20周年目前 これまでの歩みを今、確かめる (2/2)

“錆びた金”=「AFTER GOLD」

──アルバム「AFTER GOLD」は、tacicaの鳴らすギターロックのよさ、歌声とメロディのよさに、味わい深さや人生観なども加わってまさに活動の集大成的な作品になっていると感じました。制作にあたっては事前にどんなイメージがありましたか?

猪狩 2022年に出した「singularity」というアルバムは、ジャケットのテーマが“無人探索機に積んでいるゴールドディスク”で。偶然どこかの星に着陸したときに地球の紹介ができるようにいろんな情報がそのレコードに入っている、というイメージだったんです。実際にデザイナーがNASAに許可を取ってくれて、あのCDジャケットが実現したんですけど、今回は「錆」のイメージなんですよ。僕がよく行くギターのリペア工房にも、いい感じに錆びているビンテージの楽器が置いてあったりして、いいなと思って。「錆って面白いかも」と思って調べていたら、純金は錆びないけど、純金じゃない金は錆びるってことも知って。純金じゃない金が錆びてるというイメージで「AFTER GOLD」にしました。

──バンド初期以来の合宿レコーディングが行われたそうですが、なぜやろうと思ったんでしょうか。

猪狩 さっきお話ししたインディーズからメジャーに切り替わった「parallel park」というアルバムは伊豆で合宿レコーディングして作ったものだったんです。今回は高崎にあるTAGO STUDIOがいいと噂でずっと聞いていたので、そこで録ってきました。中畑(大樹 / サポートドラム)さんと、野村(陽一郎 / プロデューサー兼エンジニア)さんと一緒に行ったんですけど、すごくいいスタジオで3人一緒にせーので録音できて、2泊3日のうち2日で全部録れちゃったので、残りの1日で歌も追加で3曲録りました。個別にレコーディングしていくより、みんなでドンッと音を出したほうがやっぱり早いなと思いましたね。それに合宿だと、みんながひとつの方向に向ける時間が長いのもいいんですよね。朝から夜までやっても、みんなそれぞれの家に帰るとやっぱり1回リセットされちゃう何かがあると思うので。合宿だとすぐに昨日の続きの話ができる、そのリセットされない感じがひさしぶりでした。

小西 逆に言うとそれ以外何も手につかないよね(笑)、合宿レコーディングはそれぐらい没頭できる時間でした。

「物云わぬ物怪」の奇怪なエピソード

──「日進月歩」「花束と音楽隊」などエネルギッシュで熱量あふれるサウンドが特徴的な曲も収録されています。今のお二人の中にある原動力、音楽に向き合うときに出てくるパワーはどんな思いが根底にあるんですか?

小西 音楽をすることがライフワークみたいになっちゃってる節もあるんで、楽器を弾くことも音楽を聴くことも続けることが大変だなと思うこともないし、日常の一部なんですよね。

小西悠太(B)

小西悠太(B)

猪狩 僕は音楽に飽きたら終わりかなと思ってて。それでも、なんか常に納得してない部分があるから続けてるんでしょうね。それは別に自分たちの見られ方とかそういうことではなくて、自分たちから生み出した物に対して、まだ納得できない部分があるんだろうな。今回もアルバムを作り終えて、出がらしじゃないですけど、「もうやらなくていいかな」なんて思うんだけど、結局今もまた曲を作っていたりします。だから原動力みたいなものってあんまり意識してないかもしれないですね。

──それってアルバムの最後に収録されている「物云わぬ物怪」にもつながってくる話ですよね。まだ自分の中に、表に出さなきゃいけない何かがあるぞっていう。

猪狩 そうか、そうですね。「物云わぬ物怪」はこの作品における最も象徴的な曲だと思っています。ただ、これはけっこう不思議なんですけど、僕はこの曲を作ったことを忘れていたんですよ。セッションデータみたいなものがあって、何気なしに聴いたら、アレンジとか全部できてた。それを今回ほぼそのまま録音したんですけど、そのセッションデータを誰が弾いたのかもよくわかんないんですよね。

──データに日付とか残ってないんですか?

猪狩 それは残ってて、何年か前のものだったんですけど。ドラムも俺こんな打ち込みできないよなと思って中畑さんに聞いてみたけど、中畑さんも「俺はこのデータをもらってない」って言うし。謎ですね。

小西 俺もそのデータを聴いたけど弾いてない気がするんだよね。

──謎が解明されてないですけど(笑)、この曲ができたときはすぐにリリースしようと思わなかったってことなんですかね。

猪狩 たぶん、よくないと思ったんでしょうね。でも今は歌詞も含めてすごくしっくりきてるので、寝かせるのってけっこう大事なのかもしれないなと思いました。

最近変化したこと、変化していないこと

──そして「SOUP」は序盤の重たいグルーヴ感と、途中からの鮮やかなメロディ展開がカッコいい1曲です。

猪狩 冒頭でベースとドラムだけで粘るアレンジは今じゃないとできなかったかもしれないですね。ある程度、歳を取らないとできない。今回の制作では余計なことをしない、いらない音は入れないというのはテーマの1つとしてあったような。なので「SOUP」は特に、音と音の隙間を感じてもらえたらと思います。

──tacicaの音楽の中にあるメッセージを大切に聴き続けているリスナーの方もたくさんいらっしゃると思いますので、歌詞のお話も。「夢中」は内省的な歌詞ですが、1コーラス目と2コーラス目で心情が変わります。猪狩さんはどんな心情でこの歌詞を書かれたんですか?

猪狩 「夢中」は僕がソロの弾き語りライブで長い期間演奏してきた曲で、ライブで披露しながら歌詞が変化していきました。これまであまり他者を意識しない歌詞がほとんどだったんだけど、弾き語りライブをするようになって、目の前に人がいる状況で歌詞をブラッシュアップしていけるのはここ最近の一番の変化で。それが顕著に出た曲なのかな。なので「夢中」という曲の中で伝えたい根っこの部分は変わってないけど、例えば言い回しの部分で「誰かが目の前にいて歌うとき、俺はこういう言い回ししないわ」と自分で気付いて、そこで歌詞が変わっていきました。

猪狩翔一(Vo, G)

猪狩翔一(Vo, G)

──こうして素晴らしいアルバムを引っさげて20周年を迎えようとしているtacicaですが、2人とも40代になり、バンド活動を長く続けてきた今、お互いの変化をどう感じていますか?

猪狩 いや、高校のときから何も変わってない感じがありますね。小西は普段からあんまり抑揚がないんですよ。誰に対しての接し方もそうだし、日によって変わったりもしないし、いつも平熱って感じがする。でも僕はわりと機嫌悪いときもあるし……。

小西 熱が出たらもうダメだよね?(笑)

猪狩 そう。さっきまですっごい元気だったのに、体温を測って熱があるってわかった瞬間に「もうダメかも……!」ってなるタイプだから(笑)。まあ、そういう2人でやってます。

公演情報

tacica 20th anniversary tour "AFTER GOLD"

  • 2024年11月9日(土)東京都 東京キネマ倶楽部
  • 2024年11月16日(土)京都府 京都MOJO
  • 2024年11月17日(日)石川県 金沢GOLD CREEK
  • 2024年11月29日(金)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
  • 2024年11月30日(土)岡山県 YEBISU YA PRO
  • 2024年12月15日(日)長野県 LIVE HOUSE J
  • 2024年12月21日(土)新潟県 CLUB RIVERST
  • 2024年12月22日(日)宮城県 ROCKATERIA
  • 2025年1月12日(日)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2025年1月25日(土)千葉県 KASHIWA PALOOZA
  • 2025年1月26日(日)静岡県 Shizuoka UMBER
  • 2025年2月8日(土)熊本県 Django
  • 2025年2月9日(日)福岡県 INSA
  • 2025年2月11日(火・祝)香川県 DIME
  • 2025年2月22日(土)大阪府 Shangri-La
  • 2025年2月23日(日)愛知県 ell.FITS ALL
  • 2025年3月1日(土)北海道 BESSIE HALL

猪狩翔一 oneman live “単独飛行vol.4”

2025年3月2日(日)北海道 musica hall cafe

※猪狩翔一(Vo, G)の弾き語り公演


tacica live 2025「集う鹿」(※FC限定ライブ)

2025年4月5日(土)神奈川県 新横浜 NEW SIDE BEACH!!


tacica結成20周年記念公演「水母の骨」(クラゲノホネ)

2025年4月6日(日)東京都 ヒューリックホール東京

プロフィール

tacica(タシカ)

猪狩翔一(Vo, G)、小西悠太(B)からなるロックバンド。2005年に北海道・札幌で結成。地元を拠点にライブ活動をしながら、叙情的な世界観と骨太のロックサウンドを武器に知名度を全国区にする。2007年6月リリースの初音源「Human Orchestra」は各種インディーズチャートで1位を記録。2008年10月には所属レーベルをSME Recordsに移し、さらに活動を活発化させる2009年には2ndアルバム「jacaranda」をリリース。2014年9月にはアニメ「ハイキュー!!」の第2クールエンディングテーマ「LEO」を発表し、2015年に結成10周年を迎えた。2016年2月、「ハイキュー!! セカンドシーズン」のエンディングテーマを含むシングル「発熱」をリリースした。2020年にプライベートレーベル・SEMELPAROUSを設立。2021年にはリクエストライブ「三大博物館 Re:quest~探求者の再訪~」、初のファンクラブ限定ライブ「集う鹿」を行い、初のベストアルバム「dear, dear」をリリースした。コンスタントに音源のリリースとライブを重ねる中、2024年9月に配信シングル「物云わぬ物怪」」を発表し、10月に9thアルバム「AFTER GOLD」をリリース。11月から2025年3月にかけてワンマンツアー「tacica 20th anniversary tour "AFTER GOLD"」を開催。新たに2025年4月6日にヒューリックホール東京にて「tacica 結成20周年記念公演『水母の骨』」の開催が発表された。