ナタリー PowerPush - tacica
スタッフが語る、tacicaの5年間とこれから
3人で演奏してることを生かせるアルバム
──そうして届いた5周年記念ミニアルバム「jibun」ですが、関わられた皆さんにとっては、どんな印象でしょうか。
湯浅 演奏面ではレベルアップしていますけど、猪狩くんには変わらないコンセプトがあるんで、根っこは変わっていないと思います。ただ、僕としては、「sheeptown ALASCA」がtacicaを手伝うようになった1作目なんですけど、その当時はまだライブを生で観たことがなかったんですよ。なので、CDとして完成度の高いものを作ろうとするがあまり、スリーピースなのに楽器を重ねたり、音で遊びすぎちゃったかなって。今回はライブを何回か観て、スリーピースならではの音数が少ないけどカッコいいっていうところを、リアリティを持って体験できたので、それを意識して、3人で演奏してることを生かせるようなアルバムを作ろうって思ってました。
──その原点回帰的な発想は、5周年っていう節目ともシンクロしていますね。
湯浅 そうですね……たまたまですけどね(笑)。
石川 5周年記念作品ってうたっているのも、たまたまデビュー作の「Human Orchestra」をリリースしてからちょうど5年後になる今年の6月27日が水曜日……つまり、CDが発売できる曜日だったんで、盛り上がって、フォーマットとして5曲入りのミニアルバムを出してみようと(笑)。それだけなんですよね。だから、作品自体は、5周年だからとか関係なく、今の彼らが収められたものになっていると思います。
──「jibun」っていう象徴的なタイトルも気になりますね。
石川 これは猪狩のインタビューを聞いていて、なるほどなって思ったんですけど、みんな自分のことを自分って言うじゃないですか。自分っていう一人称はみんなのものなんですよね。猪狩は、自分のことを、なんら特別なことのない普通の人間だと思っていて、そんな1人の人間が自分を見つめて、掘り下げて、言われたら痛いこととかも歌詞には書いているから、みんなに共感してもらえる自信があると。自分が普通の人だから。だから、ある種、みんなのものだよっていう意味の自分なのかなって……彼の言葉を受けて、僕なりに解釈するとそんな気がしていますね。あとは5周年なんで、時分っていうダブルミーニングもあるから、アルファベット表記になっています。
湯浅 へえー、なるほど。
──湯浅さんは、知らなかったんですね。
湯浅 そうですね(笑)。
石川 冗談はよく言うのにね(笑)。大切な話はあんまりしない。俺も取材で知ったんだもん。
湯浅 「タイトル、何になったの?」「jibunです」「そう」……それで終わります(笑)。
石川 わかってるでしょ? みたいな感じだよね(笑)。
──現場の和気あいあいとした空気が伝わってきます(笑)。
湯浅 昨日も猪狩くんはうちで作業してましたよ。彼の家だと、曲ができてもレコーダーで録るくらいしかできないので、うちでパソコンを使って「ドラムとベースが入るとこんな感じだよ」ってイメージを形にして、それを彼が持って帰って膨らませるっていう。
石川 あと、湯浅くんのハウススタジオ行くと、ブースがあるんで大声で歌えるんですよ。
湯浅 でも、昨日は半分はコーヒーの話してYouTube観て、っていう感じでしたけど(笑)。猪狩くんは喫茶店で働いていたことがあるみたいで、うんちく話がはじまると、結構長いですよ(笑)。
──YouTubeでは、音楽関連の映像を観ることが多いですか?
湯浅 そうですね。これカッコいいんですよって教えてくれるんです。最近はジャック・ホワイトですね。
石川 Third Man Records(ジャック・ホワイトが主宰するレーベル)大好きだからね。
湯浅 ジャック・ホワイトからいろんなバンドを教えてくれるんですけど、数が多過ぎて覚えられない(笑)。
10年後も笑顔で迎えられたら
──では最後に、これからtacicaにどんなバンドになっていってほしいですか?
高橋 ちっちゃいところからやってきたので、メンバーの中で大きいステージに立ちたいとか、もっといっぱい作品を聴いてほしいっていうのも、あるっちゃあると思うんですけど、どんな状況になっても、音楽をやることに対するイメージは変わらないと思うんですね。その延長上を進んでいってくれればいいかな。
湯浅 彼らがやりたいようにやっていくのが一番いいと思うし、僕がこうなってほしいっていうのは、あまりないです。売れたらうれしいけど(笑)、売れることばかりを望んでいるわけではないかな。もちろん成長はしてほしいですけどね。でも僕は音楽を作るのを手伝う立場なので、音楽を続けてほしいなってくらいですかね。音楽をもっと追求して、いいものができるように……僕もその最中にいる人間なので。
石川 僕はロックバンドの音楽の成長は、ほぼイコールで人間の成長だと思っていて、人間が成長しないと音楽が成長しないと思うんです。だから、いろんな意味で、外とのつながりを持って、彼らのスピードでいいから成長して、それがいい形で音楽に反映できる環境を、チームで作っていきたいという思いが一番大きいですね。やりたいことが一時期できなくなった人たちなので、やりたいことをやれることの大切さ、喜びも知っているから。それを1年1年、1作1作積み重ねて、10年後も笑顔で迎えられたらなって思っています。
──皆さんが純粋にtacicaの音楽を信頼していることが伝わってきます。
石川 tacicaは、例えば猪狩がインドとかに行って1カ月後にすごい格好して帰ってくるとかない限り(笑)、変わらないと思うんです。だから、tacicaはずっとここにいるから、最初は取っつきにくいかもしれないけど、仲良くなったらずっと仲いい友達みたいな、聴き手にとってそういう存在になってくれたらいいなって思いますね。やってる音楽は普遍的なんで、より多くの人に聴いてほしいですけど、変なドーピングして、メジャーだから、とかっていう枕詞が必要な環境には置きたくないんですよね。
ニューアルバム「jibun」/ 2012年6月27日発売 / SME Records
CD収録曲
- CAFFEINE 咖啡涅
- RAINMAN 雨人
- HUMMINGBIRD 蜂鳥
- ANIMAL 動物
- SUN 太陽
初回限定盤 DVD収録内容
- 黄色いカラス
- 人間1/2
- HERO
- 人鳥哀歌
- メトロ
- アトリエ
- 神様の椅子
- 命の更新
- ドラマチック生命体
- 不死身のうた
tacica(たしか)
2005年に札幌で結成されたスリーピースバンド。 メンバーは猪狩翔一(Vo, G)、小西悠太(B)、坂井俊彦(Dr)の3人。札幌を拠点としてライブ活動をスタートさせ、叙情的な世界観と骨太のロックサウンドが絡み合うステージで、着実にファンを増やしていく。2008年4月発売の1stフルアルバム「parallel park」はオリコンインディーズチャートで3位を記録した。同年10月に所属レーベルをSME Recordsに移し、さらに活動を充実させる。2009年には2ndフルアルバム「jacaranda」をリリース。バンド史上最大規模の全国ツアー「パズルの遊び方」も大成功のうちに終了した。2010年4月、全国ツアーと初の日比谷野外大音楽堂ワンマン公演を目前に控えて、坂井が病気療養に入りライブ活動を休止する。その後同年9月に坂井が退院してバンドに復帰。2011年3月に約1年ぶりとなるシングル「命の更新」を発売し、4月には約2年ぶりのオリジナルアルバム「sheeptown ALASCA」をリリースした。2012年6月、デビュー5周年を記念したミニアルバム「jibun」を発売する。
2012年7月20日更新