ナタリー PowerPush - SxOxU
本格的ソロプロジェクト始動で松本素生が取り戻した初期衝動
今回は歌詞のメッセージ性という点で音楽を伝えたくなかった
──このアルバムでは歌詞が英語詞で統一されていますが、これは素生さんがイメージしたものを英語に訳してもらったんですか?
作詞家のArataさん(Mika Arata)に完全に任せちゃった部分もあるし、「Don't want to be alone」だったら仮歌で「♪Don't want to be alone~」とサビで歌ってたから、そのまま生かされたりと、半々ですね。今回は歌詞のメッセージ性という点で音楽を伝えたくなかったというのがあって。邦楽はそういう聴き方だと思うし、俺もそういう聴き方をしてるけど、やっぱり歌詞で感動する部分ってありますよね。だけど今回は、もうちょっとサウンドの鳴り方でいろんなことを伝えたかったので。
──歌詞が英語になったことでより匿名性が強まって、逆に聴き手に“GOING UNDER GROUND松本素生のソロ”というイメージを与えにくいし、すごいフラットな気持ちで音に接することができると思うんです。
ソロを作っていて一番嫌なのが、「GOINGでやればいいじゃん」って言われることなんですよ。それだったらやった意味がないし、やっぱり聴いてもらいたいと思ってやってるわけだから、そこはデカいです。あとは、バンドで10年くらい日本語詞でがんばってきた人がソロを出すときにいきなり英語詞になって、「今までの10年は何だったの?」みたいな。ちょっとボケてると思うし、ある意味ギャグですよね。
──テーマのひとつにある「90'sオルタナギターロック」って、あの当時も実際にはそんなにメッセージ性の強い歌詞ではなかったと思うんですよ。
そうなんです。WEEZERの1stアルバムも最初は輸入盤で聴いて、日本盤が出てから歌詞の対訳を観たら「なんか、そんなにいいこと言ってねぇな」とちょっとガッカリしたり。そこで逆に「なんでいいこと言わなきゃいけないんだっけ?」って思えたんですよね。でも、「なんでだっけ? みんながそうしてるから?」と自分の中で答えが見つからない。音楽の道を選んで人生ふざけながらやってるのに、無意識のうちにまっとうなレールの上に乗りたがってる自分もいて、「これは危険だぞ」と。「邦楽はこういう形でしょ」というレールに、知らず知らずのうちに乗っかろうとしている。今回のソロ活動って音楽を続けていく中で、そういうレールから再び逸れていくタイミングだったのかもしれないですね。今までは自分の中にあるいろんな要素を、GOING UNDER GROUNDというフィルターを通して変換しなくちゃいけないと思っていた。でも、そうじゃなくてもいいんだと思ったら、俺の思う音楽を全部、どんどん出していっていいんだ、そうしないとコミュニケーションが始まらないんじゃないかって気がしてきたんです。
「あ、俺1stアルバムをもう1回作れちゃった」
──ここまで話を聞いて思ったんですが、SxOxUというのは文字どおり「音楽」……“音を楽しむ”というところに立ち帰ったプロジェクトなのかなと。
結果的にそうなったし、恐らく無意識下ではそうしたかったんでしょうね。外に一歩出て新しいバンドで一から始めてみて「あっ、衝動で音楽を鳴らすのってこういうことか!」というのがわかったんです。
──初期衝動を新しいバンドで取り戻したんですね。
改めて「あ、俺1stアルバムをもう1回作れちゃった」って感動しましたね。
──とても1stアルバムらしい音だけど、10代や20代のときに作っていたら絶対違うものになるでしょうね。今の素生さんだからやれたっていうのもあるし、このメンバーだったからこそ出てきたっていうのもあるし。
うん、いろんなことがいい方向に作用したなという気はしますね。ヒダカさんと一緒にやらなかったら、こうはならなかったと思うし。ただ、それをヒダカさんがどこまで把握してたのかっていうのも謎ですけど(笑)。でも、次もこのメンバーでやるとなると、衝動だけでは作れなくなってくると思いますよ。
──じゃあSxOxUは今後も継続的に活動していくんですか?
そのつもりです。でも、今はいろいろ出し切って空っぽになっちゃったから、しばらくはないかもしれないけど、多分やりたくなるときが来ると思います。自分の中で沸々と沸き上がってきて、「あ、これはSxOxUでやったら絶対カッコいいな」と思ったらSxOxUでやるし。だから、ムラムラしてきたらSxOxUでやるっていう感じですよ(笑)。
CD収録曲
- Don’t want to be alone
- Funny Sunny Day
- Roller Coaster
- Summer’s gone
- VOID
- Departure
- Remember
- Don’t want to be alone
SxOxU(そう)
GOING UNDER GROUNDの松本素生によるソロプロジェクト。ヒダカトオル(BEAT CRUSADERS)をプロデューサーに迎え作り上げられた楽曲は、90'sオルタナギターロックサウンドにルーツを持つ。全曲英語詞が付けられていることも特徴。2009年9月に配信シングル「Summer's gone」、11月にマキシシングル「Funny Sunny Day」、12月にミニアルバム「SxOxU」を立て続けにリリース。同作には田淵ひさ子(G/bloodthirsty butchers)、みずえ(Dr/つしまみれ)、岩崎なおみ(B)、藤原寛(B)&後藤大樹(Dr/ともにandymori)がレコーディングに参加し、エモーショナルで生々しいバンドサウンドを鳴らしている。