SWALLOW|“本当の自分たち”が鳴らす音

SWALLOWが新曲「ULTRA MARINE」を1月23日に配信リリースした。

SWALLOWは青森県三沢市出身のスリーピースバンドで、昨年5月までNo titleというバンド名で活動していた。No titleはLINE社主催の「LINEオーディション2017」で総合グランプリを受賞したことをきっかけに、結成からわずか1年で2018年にLINE RECORDSよりデビュー。当時高校生であったが、学業とバンド活動を両立させながら順調にリリースを重ね、青森朝日放送「めざせ甲子園2018」のテーマソングを手がけるなど、活躍の場を広げていった。2019年に入ると、3人は大学受験のためバンド活動を一時休止。昨年それぞれ大学に進学し、6月にはNo titleからSWALLOWに名を改めて活動していくことを発表した。

音楽ナタリーでは地元の青森を離れ、関東に拠点を移して活動するSWALLOWにインタビュー。改名に至った経緯や新曲「ULTRA MARINE」について聞いていく中で、No title時代とは異なる3人の姿が浮かび上がってきた。

取材・文 / 中川麻梨花 イラスト / 工藤帆乃佳(SWALLOW)

青森を離れて

──前回3人にインタビューさせていただいてから(参照:No title「ねがいごと」インタビュー)、2年以上経っておりまして。その間に受験期で活動を休止したり、高校を卒業して進学で上京したり、バンド名を改名したり、いろんなことがあったと思います。

工藤帆乃佳(G, Vo) そうですね。

工藤帆乃佳(G, Vo)

──3人にとって地元の青森はとても大事な場所だとおっしゃっていたので、そこから離れるというのは人生の中でもけっこう大きなことだったのではないかと思います。上京してからもうすぐ1年ということで、新生活にはだいぶ慣れましたか?

工藤 はい。3人とも楽しく生活していますね。でもやっぱり青森のほうがごはんがおいしいなって(笑)。食材の味がそもそも違うところが……。

安部遥音(G)種市悠人(Key) うんうん。

──なるほど(笑)。青森の三沢市は魚介類が新鮮でおいしいと聞きますし、それは確かに地元の味が恋しくなりそうです。

種市 帰省したくなることもあるんですけど、新型コロナウイルスの影響でなかなか帰れないんですよね……。

──受験期を終えてバンド活動を再開して、いざ上京したのに、コロナの影響でなかなかライブができない状況ですが、そんな中でSWALLOWはLINE LIVEをうまく活用していますよね。毎週日曜に配信で楽曲を披露しています。

SWALLOW

工藤 LINE LIVEは1回1回充実させていこうかなと思ってがんばっています。それぞれ学校があって常に集まれるわけではないので、毎週日曜はLINE LIVEのほかにも、3人の練習の時間に使ったりしています。

──でもLINE LIVEの画面には帆乃佳さんと安部さんの2人しか映っていなくて、種市さんは映らず、横から鍵盤の音だけが聞こえてきます(笑)。画面に映らないのはこだわりなんですか?

種市 (笑)。

工藤 映るのがちょっと恥ずかしいみたいなんですよ。そんなこと言ってる場合じゃないよという(笑)。ここぞというときにはカメラの前に出てきてもらうようにします!

自分たちのやりたいことに気付いた

──昨年6月にバンド名をNo titleからSWALLOWに変え、11月に改名後初となる楽曲「SWALLOW」をリリースされました。今回の新曲「ULTRA MARINE」も含め、バンド名だけではなく曲の雰囲気もNo title時代からガラッと変わったような。

工藤 変わりましたね。

──改名を発表したときに帆乃佳さんが「自分と向き合う時間が増えた受験期をきっかけにこれまで誰かのためにどこか偽って表現していた自分たちに気付いた」「他人のためだけに生きるのは今後一切やめにしようと決意しました」と意思表明されていましたが、受験期にいったい何があったんですか?(参照:No titleが改名、新バンド名はSWALLOW「自己を表現する自由を大切にしたい」

工藤 あははは(笑)。そんなこと言ってましたっけ。大学を受験するときに志望理由を書いたんですけど、私は芸術系の大学なので、「自分のやりたいことは何か?」みたいなことを問われることが多くて。それでいろいろと自分の考えを整理する機会があったんです。そもそも活動休止に入る直前から、なんとなく「自分たちのやりたい音楽って本当にこれなのかな?」という疑念が3人ともあって。

──当時は同世代の背中を押すような、学生ならではの視点の楽曲が多かったですよね。

工藤 そう。No titleはみんなを応援する高校生バンドで、青春してる感じの曲が多かった。でも自分たちがやりたいことと合っているのかなと思って……もちろんあの頃いろんな経験をさせてもらって、それが無駄だったとか、嫌々やってたとか、そういうわけではなく。結成してから1年で「LINEオーディション2017」をきっかけに突然デビューして、音楽歴も浅いし、当時は自分たちが何をやりたいのかわからなかったんですよ。そういう時期を経て、自我が芽生えて、やっと自分たちのやりたいことに気付いたという感じです。

安部 僕も楽曲の方向性やライブの見せ方において、「これが正解なのかな?」と引っかかるところはあって。

種市悠人(Key)

種市 自分たちが表現したいものをあまり正確にできていないなという気持ちはずっとありました。

──自分たちが歌いたいこと、表現したいことが明確になっていくにつれて、やっている音楽とのズレを感じてしまったということですよね。

工藤 うん、新しくやりたいことを見つけたという感じです。曲作りとかライブの経験を経て、音楽のやり方を覚えていって。それで自分たちのやりたいことがやっとわかってきたときには、地元の青森を中心にもう“No title=青春してる高校生バンド”というイメージが定着してしまっていて。「超えて」や「アオゾラ」のような応援ソングを書いているバンドということで、求められる楽曲もそういうものになっていくんですよ。それが素の感じでできなくなってしまった。そういう意味で「これまで誰かのためにどこか偽って表現していた自分たちに気付いた」という言葉になったんだと思います。

──活動休止中もNo titleは6カ月連続でデモ音源を配信していました。そのうち「White」や「Crinum」といった楽曲には、そういった「自由になりたい」「自分の人生は自分のもの」という気持ちが反映されているように思えました(参照:高校生のNo title、未完成のデモ音源を6カ月連続配信「私たちの『今』が詰まっている」)。

工藤 その通りですね。あれらのデモを録ってた頃にはそういう思いが蓄積されていたので、楽曲にも反映されていると思います。

──それまでは等身大でストレートな歌詞が印象的だったんですが、この期間に発表していたデモ音源くらいから、歌詞が文学的というか抽象的になっていますよね。

工藤 そこが面白いところで。No title時代に等身大だと思われていた楽曲は、わりと等身大を演じていました。高校生らしい若々しさをイメージして書いていたので。そのあとに発表していたデモのほうが、むしろ自分たちにとって等身大だったりするんです。

安部遥音(G)

安部 デモはドラムとベースを入れないで、歌、ギター、ピアノのみで作って。音が少なくなると1人ひとりの役割も大きくなるので、そういうところも自分たちについて考えるきっかけになったのかもしれません。

種市 デモの段階なので、自分の弾きたいフレーズをそのまま使っていて。ありのままの自分たちをさらけ出しているような感じになっていると思います。そのあたりからバンドの方向性が変わっていきましたね。

本来の芸術の力を取り戻したい

──改名に関してはすんなり決まったんですか?

工藤 No titleという名前のまま、作品だけを少しずつ変えていくっていう方法ももちろんあったんですけど、やっぱりNo titleというバンドのイメージを1回ガラッと変えたいなって。

種市 元気な高校生というイメージを払拭したいって、最初から話していた覚えがあります。

工藤 だから3人とも改名することには前向きでした。

安部 バンド名はけっこう悩みましたけどね。

SWALLOW「SWALLOW」ジャケット

工藤 そもそも「SWALLOW」という曲が先にあって、そこからバンド名を取ったんです。ツバメは自由や繁栄のシンボルとして知られているし、“故郷への愛”という意味もあるらしくて。そういう話を経て、バンド名としていいんじゃないかなということになりました。

──デビュータイミングで「No titleらしさとはどういうことだと思っていますか?」と質問したとき、「まだテーマが決まってないからこれからテーマを決めていくことがNo titleらしさを作っていく」と安部さんがおっしゃっていました(参照:No titleインタビュー)。“No title”だったところからSWALLOWという名前が付いて、自分たちのテーマが決まった感覚はありますか?

工藤 うーん。バンド名の元になった「SWALLOW」の歌詞からは自由に飛び立っていく姿勢を感じ取っていただけるんじゃないかなと思うんですけど、あの歌詞の通り、自分たちがやりたいことを素直にやっていく。人のための商品ではなく、作品を作る。「テーマといえばこれです!」というわけではないんですけど、強いていうなら、そういう姿勢を継続していくことですかね。

──人のための商品ではなく、作品を作る……改名時の帆乃佳さんのコメントに「売れるとか売れないとかいう問題は、たしかに、音楽がビジネスである以上、切実なことではあります。ですがそれ以上に、自己を表現する自由を大切にしたいのです」という言葉がありましたが、今の音楽シーンに対して思うところもあったりしますか?

工藤 正直、あります。音楽や美術って、もともとは人々にとって自由を求める手段だったと思うんです。ただ、現代ではそれがビジネスというものになっていって、本来の意味合いがどんどん失われてきているなと感じることが多くて。今はSNSでバズれば有名人になれるから、バズるために音楽をやっている人もいっぱいいると思うんですよ。No titleも思いがけずSNSに上げた動画がバズったことがきっかけで知られるようになったので、自分たちに対する戒めもあるんですけど。本来の芸術の力を取り戻したい。そういうものを求めていきたいという意味で、先ほども商品ではなく“作品”という言葉を使いました。そういうモヤモヤした気持ちは受験期にもあったんですけど、その正体がわからなくて。上京してから大学で芸術に関するいろんなことを勉強するようになって、その気持ちをやっと言語化できるようになりました。

──SWALLOWとして新たに出発して、No title時代に感じていた違和感みたいなものは、もうなくなりましたか?

工藤 たぶん今も模索中です。自分たちの技術が至らないがために、「こういうことを表現したいのにやり方がわからん!」みたいなことは続くと思うんです。だからこれからのバンドのあり方としては、まず技術の向上を怠らないこと。技術があってこそ自分のやりたいことをちゃんと形にできるので、そういう姿勢を継続して、イメージを形にしていきたいと思っています。