鈴村健一がアーティストデビュー10周年を記念したベストアルバム「鈴村健一 10th Anniversary Best Album "Going my rail"」をリリースする。
声優として活動している鈴村が2008年に自身名義で本格的に音楽を始めてから、今年で丸10年。ベストアルバムでは、その間に生み出されてきた楽曲が“Joyful Disc”“Nature Disc”という2枚のCDにまとめられた。収録曲には“Anniversary Edition”“Live Arrange Version””New Vocal”としてあらためて再録されたナンバーも多数含まれ、さらには「Go my rail」「この世界の好きなところ」という2つの新曲も収められる。“過去”をまとめるだけでなく、“未来”に繋がる最新の鈴村の思いをしっかりと感じ取ることができる仕上がりとなった。
音楽ナタリーでは鈴村にインタビューを実施。アーティストとして歩んできたこの10年間、そして本作に込めた思いについて話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 須田卓馬
- 鈴村健一「鈴村健一 10th Anniversary Best Album "Going my rail"」
- 2018年5月9日発売 / バンダイナムコアーツ
-
[CD+DVD]
4860円
LACA-9575~6
- CD収録曲
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Joyful Disc
- in my space
- The whole world
- ミトコンドリア -Live Arrange Version-
- ポジティヴマンタロウ
- NAKED MAN
- おもちゃ箱
- シンプルな未来(New Vocal)
- CHAPPY
- HIDE-AND-SEEK
- All right
- シロイカラス -Anniversary Edition-
- あいうえおんがく
- SHIPS -Live Arrange Version-
- ハナサカ
- Go my rail
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Nature Disc
- INTENTION(New Vocal)
- brand new
- あすなろ -Anniversary Edition-
- ALL GREEN
- messenger
- CHRONICLE
- Landscaper
- そりゃそうです
- スケッチ
- Butterfly
- 月とストーブ -Live Arrange Version-
- ロスト
- 太陽のうた
- and Becoming(New Vocal)
- この世界の好きなところ
- 初回限定盤DVD収録内容
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- Go my rail (Music Video)
- 鈴村健一 Live Tour 2017「NAKED MAN」(Life is like it / あすなろ / 夕暮れタイムトラベル / CHAPPY / NAKED MAN / home sweet home)
- 鈴村健一「鈴村健一 10th Anniversary Live "lo-op"」
- 2018年5月9日発売 / バンダイナムコアーツ
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[Blu-ray]
9504円
LABX-8266~7 -
[DVD]
7344円
LABM-7249
- DISC1
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鈴村健一 10th Anniversary Live "lo-op" 2017.10.8 (sun) パシフィコ横浜 国立大ホール
- INTENTION
- The whole world
- ALL GREEN
- ハナサカ
- home sweet home
- 月のうた
- Butterfly
- CHRONICLE
- ロスト
- 月とストーブ
- スケッチ
- おもちゃ箱
- CHAPPY
- シロイカラス
- HIDE-AND-SEEK
- All right
- in my space
- あいうえおんがく
- 太陽のうた
- ポジティヴNAKED MANタロウ
- ミトコンドリア
- SHIPS
- ひとつ
- and Becoming
- DISC2(Blu-rayのみ)
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- 鈴村健一 10th Anniversary Live "lo-op" ライブドキュメンタリー
ライブを意識した楽曲制作
──鈴村さんは今年でアーティストデビュー10周年を迎えられます。
はい。今改めて振り返ればあっという間でしたけど、その間にはいろんなことがあったなと思います。それまで音楽をまったくやっていなかった人間が急に音楽活動を始めたわけなので、最初はとにかく新しいことだらけでしたね。CDを作ることも、作詞をすることも、ライブをすることもすべてが自分の中では新しく刺激的なこととして第一歩を踏み出して。そこから10年続ける間にはいくつかの山場があったような気がします。
──活動の中ではさまざまな変化もあったかと思います。
一番大きいのはライブに関してじゃないかな。音楽活動を始めた時点では、自分がライブをするイメージが実はあまりなかったんですよ。別にライブをやりたくなかったわけではないけど、ライブをするために音楽を始めたわけでもなかったと言うか。いざ「ライブをやりましょう」という話になったときには、「やります!」なんて顔をしたわけですけど(笑)、実際やってみるとそのハードルはものすごく高くて。「こんなに大変なものなんだ!」と思ったんですよね。だから、ライブを楽しめるようになるまでにものすごく時間がかかりました。今はもうともかくライブが楽しくて仕方がないので、そこが一番大きく変わったところだと思いますね。
──ライブを楽しめるようになるために、試行錯誤を繰り返していた感じですか?
試行錯誤していましたね。5年目くらいのタイミングでライブに目覚めた瞬間があったような気がしていて。楽曲を制作するときにすごくライブを意識するようになって、ライブ仕様の曲が増えていくんですよ。そのエポックとなったのが「SHIPS」(2014年5月発売のアルバム「VESSEL」収録)。あそこを起点として、ライブでみんなと一体になって遊ぶ感覚に気付いていったところはありました。それまでは単純に作った曲をライブでやるという認識でしたけど、それ以降は制作とライブがお互いいい形でフィードバックし合うようになりましたからね。今回のベストは時系列で曲が並んでいないからちょっとわかりづらいけど、確実にその変化を感じてもらえる内容にはなっていると思います。
胸を張って音楽活動をやっていこう
──歌に関しても10年分の変化、進化が感じられます。
昔はやみくもに歌っていた感じがあったけど、今は歌に対する自分の中でのアプローチ……特に技術的なアプローチが確実に変わってきています。今回のベストには再録した曲がいくつかあるんですけど、実際歌ってみると当時と今の感覚がだいぶ変わっていることに自分でも驚いて。喉の使い方が全然違うんですよ。昔はライブの度に声が枯れていたから、楽屋に必ず大根のしぼり汁を常備してたんです。それを飲むと喉の枯れが治るので。でも、今は喉飴の1つも舐めなくなりましたから。
──活動の中で喉が鍛えられたわけですね。
そう。ライブにおける声の使い方を自分なりに研究したことで喉をコントロールできるようになって、歌へのアプローチが劇的に進化したんですよ。そのことはレコーディングにも生かされるようになったし、もっと言えば声優の仕事にも生きてくるようになって。わかりやすいところで言うと「おそ松さん」というアニメで僕はイヤミというキャラクターを演じているんですけど、みんなによく「喉がしんどそうだね」って言われるんです。でも僕としては全然しんどくなくて。これはやっぱり10年間の音楽活動の中で、音楽的な喉の開き方をコントロールできるようになったからだと思うんですよ。声の表現という意味では声優も音楽も繋がっている。当たり前のことですが、この10年は改めてそこに向き合えた歴史でもあるんですよね。
──冒頭で「この10年にはいくつかの山場があった」とおっしゃっていましたが、その中で特に大きなターニングポイントになった出来事は?
僕の中で大きかったのは2011年の東日本大震災ですね。僕はあの震災の直前に「CHRONICLE to the future」というアルバムを出して、そのあとにはライブツアーも決まっていたんです。でも、当時は「音楽活動なんかやってる場合じゃないよ」という空気がものすごくあった。エンタテインメントというものがなくなってしまうような空気があったんです。実際、大変な思いをされている方がたくさんいたわけだから当然のことではあるんだけど、でも自分の仕事の意義がなくなっていく感じがとてもしんどかったんですよね。
──でも鈴村さんは予定通りライブツアーを行うことを決断されましたよね。節電のためにアコースティックスタイルでの開催になりましたが。
はい。あの時期は“不謹慎”という言葉がすごく使われていたんですけど、そうじゃない視点もあると僕は思ったんです。誰かを助けるためには、まず「自分は大丈夫だ」というところまでメンタリティを持っていけないだろうか、音楽やアニメという表現の仕事が誰かの心に余裕を生んでくれるんじゃないか、と。だから僕は予定通りツアーを開催する決断をしました。それで、そのライブを通して“エンタテインメントが存在する必然性”を改めて感じることができたので、1人でも心を動かしてくれる人がいるなら、これからも胸を張って音楽活動をやっていこうという気持ちになれたんです。
──そういった経験を経たことで、鈴村さんの音楽表現がよりストレートになった印象もあります。
確かに変わったと思います。作詞に関して言うと、初期の頃はちょっと難しい言葉を使おうとか、誰も使ってない言葉を探してみようとか、そういう手法を取っていたんですよ。例えば“楽しい”という感情を表現するときに、いかに“楽しい”という言葉を使わずに伝えられるかとメタファーを必死に探したりしていました。そこには“芸術的でありたい”という気持ちもあったし、照れ隠しみたいなものもあったんですよ。直接的な言葉を使うことが、こっ恥ずかしいと言うかね(笑)。でも、震災以降はすごくシンプルな言葉を使うようになっていきました。「messenger」(2012年5月発売のシングル表題曲)では、それまであえてあまり使ってこなかった“愛”という言葉を使ったりもしてますし。もう遠回しに書く必要はないなって思うようになっていったんですよね。
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未来はわからないけど、それが楽しい
ツアー情報
- 鈴村健一 満天LIVE 2018 "Going my rail"
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- 2018年6月2日(土)山梨県 河口湖ステラシアター
- 2018年6月3日(日)山梨県 河口湖ステラシアター
- 鈴村健一(スズムラケンイチ)
- 1994年にアニメ「マクロス7」で声優デビュー。2008年10月に自身名義で1stシングル「INTENTION」をリリースし、音楽活動をスタートさせた。2009年10月 初のフルアルバム「Becoming」発表し、翌年1月に本作を携えてワンマンツアー「鈴村健一 1st Live Tour 2010 "Becoming"」を行う。2011年3月に2ndアルバム「CHRONICLE to the future」を発売。2011年4月に東名阪ワンマンツアー「CHRONICLE to the future」を、震災を受けて節電アコースティック編成で決行する。2012年に音楽活動開始5周年を記念して、5月にシングル「messenger」、8月にミニアルバム「互」を立て続けにリリース。同年9月より全国ツアー「5th Anniversary Live Tour 『INTENTION 2012』」を開催した。2014年5月に約3年ぶりフルアルバム「VESSEL」を発表。2015年5月に山梨・河口湖ステラシアターにて初の野外ワンマンライブ「満天LIVE 2015」を行った。2016年11月より初のアジアツアー「brand new world」で香港、台湾、中国へ。2017年に10周年記念ライブ「鈴村健一 10th Anniversary Live "lo-op"」を神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールで行った。2018年5月に「鈴村健一 10th Anniversary Best Album "Going my rail"」を発表。2018年6月に3回目の河口湖ステラシアターでのライブ「満天LIVE 2018 "Going my rail"」を行う。
2018年5月9日更新