音楽ナタリー PowerPush - スズム
リアル“ネットネイティブクリエイター” メジャーシーンを推して参る!
スズム、スズム節を考える
──その「やりたい放題を詰め込んだ軌跡」という名の楽曲群なんですけど、ピアノの使い方が特徴的な曲が多いなと思っていて。高速ビートと歪みまくった轟音ギターにいかにヌケのいいピアノを乗せるか、いかにピアノをエモく響かせるかっていうことに確実にこだわってるよな、っていう印象を受けました。
そうですね。DTMを始めた頃からピアノにはこだわりがありました。当たり前なんですけど、打ち込みで鍵盤を使う以上、ピアノは弾けたほうがいいんだろうなと思ってたし、もともとPE'Zや東京事変のメンバーだったヒイズミ(マサユ機)さんとか上原ひろみさんのファンだったので。あと、身近なところにまらしぃっていうピアニストもいましたし。
──だからなんでしょうけど、どの曲もピアノは手弾きですよね?
はい。録ったあとでクオンタイズ(タイミング補正)はかけてますけど、基本的にはMIDIキーボードを使ってリアルタイム入力(シーケンスソフトに1音1音数値入力するのではなく、手弾きで音符を入力する方式)してますね。で、さらにそのピアノの波形を切り刻んでグリッチ(音色を電子的に歪ませたり、フレーズを高速ループしたりするエフェクト、手法)してみたり、リバース(逆回転)させてみたりして、ほぼ生演奏のピアノをなんかエレクトロっぽい感じにするのが好きなんです。
──確かにイントロからAメロに移るときなんかにドラムのフィル代わりにエディットしまくったピアノを入れているのも、スズムさんらしさかなっていう気はしました。
ニコ動に投稿した動画によく「スズム節」っていうコメントが付くことがあるので、一度自分なりに「スズム節とは何か?」って考えてみたことがあるんですけど、まさに今の話にあったようなサウンドのことを言われている気がするんですよね。テンポはBPM200くらいでリズムは四つ打ちで、うるさいギターとガチャガチャしたピアノが入っている曲をスズム節って言うんだろうなって。
ネットで見つけたプレイスタイルと大衆性
──そのスズム節っていつ、どのように発明したものなんですか?
「これだ!」って見つけた瞬間があったわけではないんですけど、なぜこういうアレンジ、展開の曲を作るようになったかっていうと自分のバックボーンの1つに「演奏してみた」があるからなんです。「演奏してみた」カテゴリで活動している人って、動画の中では、普段バンドなんかで音を合わせるときよりも個性的で派手なプレイをしてるんですよね。
──「ベースを弾いてみた」っていうタイトルの動画を投稿する以上、そのベースを派手に魅せたいですもんね。
そうなんですよね。でも僕はバンドの経験がないから、バンドでの彼らの姿を知らなくて。ギターやベースやドラムっていうのは「演奏してみた」の人たちみたいに派手に弾くもんなんだって思っていた。「演奏してみた」動画が僕のプレイの教科書だったんです。だからもう1つ気付いたスズム節の特徴に、ベースが動きすぎるっていうのもあって。たまにほかの人とベースでセッションすると「もうちょっとルート音を押さえてくれる?」って言われたりしますし(笑)。
──そうやって音楽に対する知識や情報のほぼすべてをネットで仕入れたこと、言い換えるなら多くの人が通るだろう基本的な音楽体験をしていないことってスズムさんにとっては最大の武器になってますよね。
そうですね。音楽理論やバンドマンのあるべき姿を知らないことはむしろ強みだと思ってます。だからこそ音楽歴1年そこそこでコンテストに応募したり、ネットで曲を発表したりっていうムチャができたんだろうし、そうやって理屈を知る前に多くの人に聴いてもらえる場所に出て行くことができたからこそスズム節が完成したんだとも思ってますし。自分でも自分の曲が音楽的なセオリーから外れていることは前々からわかってはいたんです。でも僕にとってはそれがカッコいい音だったから、そのまんま公開してしまった。そうしたら「それ面白いじゃん」って言ってくれる人がけっこういてくれたんですよね。そのおかげで、たとえそれがセオリーからは外れていても大衆性のある音楽を目指すべきだ、僕がカッコいいと思っていて、しかもみんなも喜んでくれる音楽を作るべきだ、っていい意味で開き直ることができたんだと思ってます。
──あと今回のアルバムってトラックリスト、特に小品のインスト曲の置き位置が面白いと思っていて。
あっ、あのインスト曲って場面転換のための曲なんです。
──ですよね。ド派手なリードシンセを弾きまくる1曲目のインスト曲のあと「心臓コネクト」までのアルバム序盤戦は威勢のいいまさにスズム節の楽曲が並んで、その後メロウなインスト曲を挟みつつ、やっぱりメロウな「タイムマシンに乗って」へとつなげたりとか。後半戦もハウシーなインスト曲のあとにダンスチューンが並んでいますし。
実はもともとスズム節の曲ばっかりを作るタイプではなかったので。ギターをうまく弾けなかったっていうのもあってハウスをやっていた時期もありますし、今回のアルバム用の新曲の「八日目、雨が止む前に。」みたいないわゆるポップスも昔から書いてましたし。今回のアルバムではそういう一面も知ってもらいたかったですし、あと1枚通してスズム節だと聴き疲れすると思うんですよ。でもせっかくなら何度も繰り返し聴いてもらえるアルバムにしたいから、そういうハウス系の曲やポップス系の曲も入れたくて。で、スズム節とその手の曲をスムーズにつなぐためにはどうすればいい?って考えたときに思い付いたのが、インスト曲を使ってあえて大胆な場面転換をしちゃうことだったんです。
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- メジャーデビューアルバム「八日目、雨が止む前に。」 / 2015年2月4日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 初回限定盤A [CD+DVD] / 3240円 / GNCL-1247
- 初回限定盤B [CD2枚組] / 3240円 / GNCL-1248
- 通常盤 [CD] / 2160円 / GNCL-1249
CD収録曲
- Manifesto(inst)
- 人類五分前仮説
- 灰色少年ロック
- 心臓コネクト
- Promulgation(inst)
- あのタイムトンネルを抜けて。
- イグジスタンス
- レトルトアイロニー
- Enactment(inst)
- 革命性:オウサマ伝染病
- 世界寿命と最後の一日
- 八日目、雨が止む前に。
- Execution(inst)
初回限定盤A付属DVD「あの日見た夢の箱。」収録内容
- 過食性:アイドル症候群
- 赤心性:カマトト荒療治
- へたくそユートピア政策
- 桜色タイムカプセル
- 嘘つきピーターパン
- 世界寿命と最後の一日
- 心臓コネクト
- ハロウィン遅刻パーティー
初回限定盤B付属CD「続・ケビョウニンゲン」収録曲
- Endless
- 絶望性:ヒーロー治療薬
- 過食性:アイドル症候群
- 赤心性:カマトト荒療治
- へたくそユートピア政策
- 桜色タイムカプセル
- 好き勝手いうな
- うたかた、夏の終わりに隠した
- 嘘つきピーターパン
- 独りの君と一人の僕に
- Valedictory
スズム
ボカロP、作詞家、作家として活動するクリエイター。2011年の初投稿以来、さまざまなオリジナル曲、カバー曲を動画共有サイトに投稿し、通算3000万再生を記録する。またその一方で2012年には音楽と物語のメディアミックス企画「終焉ノ栞プロジェクト」に作詞家兼ストーリーテラーとして参加し、2013年には、プロジェクトの首謀者・150Pによるメジャーアルバム「終焉-Re:write-」に歌詞を提供したり、プロジェクトのストーリーをノベライズした「終焉ノ栞」を刊行したりと多彩な才能を発揮する。さらに同年には、クリエイター集団・あすかそろまにゃーずの盟友にしてボーカリスト、そらるとの共作でシングル「絶望性:ヒーロー治療薬」をリリース。表題曲がアニメ「ダンガンロンパ The Animation」のエンディングテーマに採用される。そして2015年2月、完全新作のオリジナルアルバム「八日目、雨が止む前に。」をリリースした。