音楽ナタリー PowerPush - スズム
リアル“ネットネイティブクリエイター” メジャーシーンを推して参る!
スズムのメジャー1stアルバム「八日目、雨が止む前に。」がリリースされた。
スズムは2011年の初投稿以来、動画共有サイトを舞台にオリジナルのボーカロイドナンバーはもちろん、既発のボーカロイド曲のカバーバージョン、アレンジバージョンなどを多数発表するクリエイター。その2012年には150Pらとともに物語と音楽のメディアミックス企画「終焉ノ栞プロジェクト」を立ち上げ、2013年、メジャー流通アルバムとなる150P「終焉-Re:write-」に作詞家兼ストーリーテラーとして参加し、またプロジェクトの楽曲をモチーフにしたライトノベル「終焉ノ栞」を刊行。さらに同年、アニメ「ダンガンロンパ The Animation」のエンディングテーマに採用されたスズム feat. そらる名義のシングル「絶望性:ヒーロー治療薬」もリリースしている。
作詞家、作曲家、アレンジャー、そして作家として才能を奮う、文字通りのマルチクリエイター・スズムとはいったい何者なのか? 今回ナタリーでは彼のメジャー初のアルバム「八日目、雨が止む前に。」の聴きどころとともに、その横顔に迫った。
取材・文 / 成松哲
初音ミクって人はいろんな歌を歌ってるんだなあ
──音楽活動を始めたのはいつ頃なんですか?
高校2年になったばっかりの頃にギターを始めてるから何年前になるんだろう? 今22歳だから……6年前ですね。
──高2で音楽を始めるってちょっと面白いですよね。例えば高校入学と同時に軽音部に入部した人は多いのかな?っていう気もするんですけど、なんで17歳のときに「よし、ギターをやろう!」と?
いや、実はヌルっと始めたというか……(笑)。
──ヌルっと?
高校はバンド活動禁止の学校だったから「よし、やるぞ!」っていう気持ちで始めたわけでもないんですよ。何かきっかけがあるとしたら、今も僕が曲を投稿しているニコニコ動画を知ったからっていうことだと思いますし。というのも僕、中3の秋頃に推薦受験で高校を決めちゃったので、その冬、ヒマになっちゃったんですよ。
──いつも一緒に遊んでた同級生はその冬こそ受験大詰めの時期だから。
はい。だからといって1人で夜遊びをするような勇気もなかったから家に引きこもるしかなかったんですけど(笑)、その頃、僕の受験が終わったからっていうことでようやく実家にインターネットが導入されたんです。実家は静岡の田舎なので、たぶん東京の人なんかに比べると遅いと思うんですけど、まあそれでも家族の間で「インターネットを引こう」って話になり、それから当時オープンしたばっかりだったニコニコ動画を観るようになって。最初はMAD動画を観ていたんですけど、そのうち「演奏してみた」カテゴリっていうものがあって面白い人、ユニークな人、カッコいい人が集まってるっていうことを知って。そのあと「演奏してみた」みたいに既存の曲をカバーするだけじゃなくて、自分たちで作ったオリジナル曲を発表できるカテゴリもあって、そこでは“初音ミクさん”という人が人気らしいということを知り……。
──へっ!? 初音ミクのことを“人”だと思ってたんですか?
思ってました(笑)。「初音ミクって人はいろんな歌を歌ってるんだなあ」「本当に1人なのか? 実は何人もいるんじゃないか?」って。で、のちのち「あっ、機械なのか」って気付くという。当時の僕は本当にその程度しか音楽知識を持ってなかったんですけど、そのニコニコ動画や初音ミクとの出会いをきっかけにDTMに興味を持って、高校2年生の頃からフリーソフトを集め始めたり、機材を買い漁ったりするようになったんです。で、その頃、ホントに偶然なんですけど、ある飲み会に出ていた母親を迎えに行ったら、そこにいた知り合いのおじさんから「やるよ」ってギターを譲り受けまして。それが音楽活動を始めたきっかけ。だからヌルっとしてるんです(笑)。
──いや、むしろ“ヌルっと”していない気がします。音楽を始めたきっかけそのものがネットで、しかもメジャーデビューした人なんて相当珍しいし、新しいですから。ボカロPの中には、もともとバンドマンとして“リアル”な活動していた人も多いわけですし。
確かにそういう意味では僕は完全に“ネット発”、“バーチャル発”ですね。音楽のルーツ自体ニコニコ動画ですから。中学生の頃、ORANGE RANGEとか、YUIとか、BUMP OF CHICKENとかも聴いてましたけど、音楽的な意味で本当に影響を受けた存在はsupercellのryoさんですし。
1人で音楽を作ることが楽しくて仕方ない
──フリーソフトを集め始めて、ギターをもらい受けたばかりの頃はどんな曲を作ってたんですか?
本当に最初の最初にやったのは、ニコ動なんかでは定番といえば定番なんですけど、ファミリーマートの入店音のコピーですね。そこからいろんな曲をコピーしつつ、徐々にオリジナル曲を作る方向にシフトしていて、音楽歴1年くらい、高校3年生になるかならないかの頃に某コンテストに応募してみまして。ちょうどその冬にもらったお年玉なんかを使って機材を一式揃えることができたので「ちょっと応募してみようかな?」ってポンと曲を送ってみたら、賞をいただいたりもしてました。
──おおっ!
で、それがきっかけになって市のイベントのテーマソングを作らせていただいたり、着うたの打ち込みのお仕事……っていうほど大げさではないんですけど、アルバイトをやるようになって。当時はそういう活動をしていましたね。
──音楽歴わずか1年で入賞した勝因ってなんだと思います?
なんだったんでしょうね。そのコンテストって一般の部と高校生の部があったのに、間違えて一般の部に送っちゃってたし(笑)、今もそうなんですけど、その頃って今以上に音楽理論なんてわかってなかったですし。……逆に僕がバンドを組んでなかったからなのかなあ。当たり前なんですけどバンドを組むと対人関係にも時間を割かれることになりますよね。でも僕は対人関係を上手に進めるのがあんまり得意ではなくて。だからバンドを組まずに、ずっと家で1人で曲を作っていたっていう面もあるんですけど、その頃は、その1人で音楽を作ることがホントに楽しくて仕方なかったんです。確かにキャリアで考えたらたったの1年だったんですけど、その1年間って毎日毎日、ホントに何時間もDTMをやってましたから。友達と遊ぶ時間やゲームをやる時間を惜しんで音楽にのめり込んでいたのが、いい方向に転がったのかな?っていう気はします。
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- メジャーデビューアルバム「八日目、雨が止む前に。」 / 2015年2月4日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
- 初回限定盤A [CD+DVD] / 3240円 / GNCL-1247
- 初回限定盤B [CD2枚組] / 3240円 / GNCL-1248
- 通常盤 [CD] / 2160円 / GNCL-1249
CD収録曲
- Manifesto(inst)
- 人類五分前仮説
- 灰色少年ロック
- 心臓コネクト
- Promulgation(inst)
- あのタイムトンネルを抜けて。
- イグジスタンス
- レトルトアイロニー
- Enactment(inst)
- 革命性:オウサマ伝染病
- 世界寿命と最後の一日
- 八日目、雨が止む前に。
- Execution(inst)
初回限定盤A付属DVD「あの日見た夢の箱。」収録内容
- 過食性:アイドル症候群
- 赤心性:カマトト荒療治
- へたくそユートピア政策
- 桜色タイムカプセル
- 嘘つきピーターパン
- 世界寿命と最後の一日
- 心臓コネクト
- ハロウィン遅刻パーティー
初回限定盤B付属CD「続・ケビョウニンゲン」収録曲
- Endless
- 絶望性:ヒーロー治療薬
- 過食性:アイドル症候群
- 赤心性:カマトト荒療治
- へたくそユートピア政策
- 桜色タイムカプセル
- 好き勝手いうな
- うたかた、夏の終わりに隠した
- 嘘つきピーターパン
- 独りの君と一人の僕に
- Valedictory
スズム
ボカロP、作詞家、作家として活動するクリエイター。2011年の初投稿以来、さまざまなオリジナル曲、カバー曲を動画共有サイトに投稿し、通算3000万再生を記録する。またその一方で2012年には音楽と物語のメディアミックス企画「終焉ノ栞プロジェクト」に作詞家兼ストーリーテラーとして参加し、2013年には、プロジェクトの首謀者・150Pによるメジャーアルバム「終焉-Re:write-」に歌詞を提供したり、プロジェクトのストーリーをノベライズした「終焉ノ栞」を刊行したりと多彩な才能を発揮する。さらに同年には、クリエイター集団・あすかそろまにゃーずの盟友にしてボーカリスト、そらるとの共作でシングル「絶望性:ヒーロー治療薬」をリリース。表題曲がアニメ「ダンガンロンパ The Animation」のエンディングテーマに採用される。そして2015年2月、完全新作のオリジナルアルバム「八日目、雨が止む前に。」をリリースした。