ナタリー PowerPush - suzumoku
己の多面性を突き詰めた新作「キュビスム」
「モンタージュ」の主人公はどん底な自分
──僕の聴いた印象では、「モンタージュ」という曲も「蛹-サナギ-」や「真夜中の駐車場」と同じ主人公がいるような気がするんですが。
ちょっと感じますね。
──これはどういう状態の曲なんでしょう。
「モンタージュ」の主人公は、ハッキリ言ってどん底ですね。どん底な自分(笑)。なんていうのかな……東京に出てきてから自分なりに目指すものがあって毎日を過ごしているんだけど、なんかあまり変化がない、単調な日々になって、何しに来たんだろうな?って。自分の生きてる日常に対して疑問を持ち始めると一気にすべてが虚しくなったりする。そういう中で、ものすごく極端な発想が生まれてしまう。心に余裕がなくなってギリギリになってくると、犯罪を犯して有名になって新聞に載るとか、そういうことすら考えてしまう。
──危ういですね。
はい。やっぱりテレビに出ているような有名人がもてはやされているのに対してうらやましいっていうのもあるし。どうやったらあんなふうになれるんだろうとか、最低と最高を自分の中で考え出すんですよね。
──それは危険だ。
気付いたら、どっちかにならなきゃいけないとか、そういう感覚になってくるというか。気持ちが極端になればなるほど、何もできない自分っていうものがハッキリしてくるんですよね。結局、銀行強盗をするような勇気もないし(笑)。でも、なんかちょっとしたことでそういうのが晴れる瞬間があって。自分の影をなんとなく見つめる瞬間とか、そういうときに、それでもなんだかんだでなんとか生きてるんだなっていう。
──なるほど。そこでなんとか持ち直したわけだ。
そう。ギリギリのところで精神を盛り返す(笑)。最低だとか最高だとかになる必要はないんだと。日々生活していく中でいろんな選択肢があって、それを1つひとつ選びながら組み立てていくっていう。その中で自分の個性が組み上がっていくと思うんで。でも、ギリギリのところまで考えてしまう自分っていうのは、そういうことすらわかんないんですよね。
──なるほど。僕も同じようなタイプの人間だったので言いにくいですが、一言でいうと、非常に面倒くさい、厄介な人間だと思います(笑)。
ははは(笑)。そうですね。
──でも面白いのは、suzumokuさんってそういう内面がありつつ、生声でライブをやって、いろんな土地の人たちとコミュニケーションをしてるんですよね。それこそライブ会場になった各地のバーの店主さんと飲み明かしたりしている。
僕にとっての音楽って、ただ単に曲を作って歌うっていうことだけじゃないんですよね。コミュニケーションをもたらしてくれる、欠かせないものなんだろうと思います。もし音楽をやってなかったら、どうやってコミュニケーションを取ってたんだろうって思うし。
多角的なものが1つの世界として仕上がった
──もう1つ印象的だったのが、ラストの「リエラ」という曲。これはアルバムの中ではほぼ唯一のバラードですけれども、アルバムの中での位置付けは?
この曲はアルバムの中で唯一、目の前にもう1人いるようなスタンスの曲なんです。他の曲は主人公はいるんだけど……。
──基本的に自問自答ですよね。
そうなんです。ほかに誰も出てこない曲もあるし(笑)。「リエラ」は、このアルバムの中で唯一目の前の人に対して気持ちを訴えてる曲なので。より一層それが鮮明になるんじゃないかなと思うんですよね。
──こういうふうにいろんなタイプの曲が入っているアルバムのタイトルに「キュビスム」という言葉がついている。これはどういうところから?
これは、いわゆる芸術の世界でのキュビスムっていう表現の考え方からですね。普通の絵って、1つの角度から見たものを描くんですけど、キュビスム的な考え方って、上から、下から、斜めからって、いろんな角度から見たものを1つの画面の中で表現するやり方で。それが、今回アルバムの収録曲を全部録り終えて並べたときに、すごく「僕らしいな」と思ったんです。作ってる人は僕なんですけど、いろんな表情や角度があって、だけど1つのものに収まってるっていう。喜怒哀楽も相当入ってるし(笑)。多角的なものが1つのsuzumokuの世界として仕上がったなっていうことで、「キュビスム」というタイトルにしました。
全都道府県ツアーは日本再発見の旅
──アルバムのリリース後には再び全都道府県の弾き語りツアーに出るわけですけれども。去年やってみて、これは今後も続けてやっていくべきだと感じました?
そうですね。後半あたりから、改めてもう一度回ってみたいと思ってました。前回はかなり突貫工事で作ったスケジュールだったんですよ。なので、これをもうちょっと効率的にして、かつ、昨年と同じところも行ってみたいと思って。それでようやく、しっかり日本一周回ったぞっていう気持ちにもなれるのかなって。
──こういう感じでツアーをすると、普通に東京で暮らしてるのとは違う体験――メディアを通じて情報を受け取ってるのとは違う日本が見えてくるみたいな、そういう感覚があるんじゃないかと思うんですけど。
ほんとにそうですね。みんなやってみたらいいのになって思ったりします。特に「日本が好き」だと言ってる人たちは。やっぱりネットで情報は手に入れられるんですけれど、実際にその場に行って、見て、触れてみないと、ちゃんと自分の中で知識とならないと思うし。調べることはすぐにできるけれど、それを実際に自分の目で見て、それを食べ物であれば食べてみてどういう味がするのか。そこで初めて自分なりの意見が生まれて、やっと身に付くと思うんです。僕はそうすることで「日本っていい国なんだ」と、改めて思えたんですよね。
──例えば地方でもショッピングモールはどこも画一的かもしれないけれど、そこにいる、暮らしている人と直接話したらぜんぜん違うってことがわかるかもしれないし。
そうですね。繁華街に行くのもいいんですけど、個人的にはやっぱりそこから路地一本離れたところに行くのが好きなんですよね。いわゆる日常の風景っていうのかな。そこで暮らしてる人々の話し声、そのイントネーションで風景の見え方とかもぜんぜん変わってきたりするので。テレビもネットもきっかけを作るものだけど、それがすべてじゃないというふうに捉えるべきだなっていうふうに思います。
- 配信シングル「モンタージュ」 / 2013年2月27日発売 / 200円 apart.RECORDS
- 配信シングル「モンタージュ」
- ニューアルバム「キュビスム」 / 2013年3月27日発売 / apart.RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3000円 / APPR-3007/8
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3000円 / APPR-3007/8
- 通常盤 [CD] / 2800円 / APPR-3007 ※通常盤は初回限定盤がなくなり次第販売。
CD収録曲
- モンタージュ
- 蛹-サナギ-
- ノイズ
- 鴉が鳴くから
- メンドクセーナ
- 平々-ヘイヘイ-
- ブルーブルー
- どうした日本
- 真面目な人
- 真夜中の駐車場
- 僕らは人間だ
- リエラ
初回限定盤DVD収録内容
- モンタージュ
- リエラ
- 真夜中の駐車場
- 蛹-サナギ-
- 真面目な人
suzumoku(すずもく)
1984年生まれ、静岡出身のシンガーソングライター。名古屋の楽器制作の専門学校で、ギターやベースの製作を行いつつ、自身もロックやカントリーに影響を受けた音楽を制作するようになる。駅前のストリートやライブハウスでの活動を始めるものの、就職と同時に音楽活動を休止する。その後再び音楽の道を志し、2007年1月に上京。同年10月にアルバム「コンセント」でデビューを果たす。その後、精力的なリリースとともに、弾き語りやバンドスタイルでのライブを展開する。2011年7月にエレキギターによる弾き語りアルバム「Ni」を発表。「真面目な人」「蛹-サナギ-」というメッセージ性の強い2作のシングルを経て、2012年7月にアコースティックギターによる弾き語りアルバム「80/20-Bronze-」をリリースした。2013年3月にフルアルバム「キュビスム」を発表。