ナタリー PowerPush - suzumoku

力強いメッセージを込めたアコギ1本勝負作

面と向かって言えないから音楽で伝える

──このアルバムには過去の曲も多く収録されているので、改めて振り返って訊かせてください。攻撃的な曲調で、社会に対して問題提起するようなことを歌っているものが多いですよね。こういうモチーフはsuzumokuさんの中に昔からあったものなんでしょうか?

最初はなかったです。社会に対する不安とか不満って、ある程度までいくとただのワガママになってしまうと思うんです。どこまでがワガママで、どこからが正当な反論なのかもよくわからない。だから、最初は自分自身の葛藤とか不安について書いていました。自分の内側を向いていた曲が多かったと思います。でも、きっかけになったのは今回のアルバムにも入ってる「モダンタイムス」という曲を作ったときで。聴いてくれた人の反応をTwitterとかで見たりすると、賛否両論がすごくあったんです。そこで“否”の意見も出てきたことで、逆に少し自信がついたというところがあって。僕の性格的に、社会に対する不満を誰かに面と向かってなんて言えないんです。だからこそ音楽にして伝えているわけで。そこもちゃんと聴いてくれてる人がいるということがわかったという。そこで、「モダンタイムス」あたりから、だんだん外に発信するような曲になっていったと思います。

──あの曲は2011年の1月にリリースされたものでしたよね。2010年の後半って、例えば尖閣諸島の問題があったり、社会全体に何を信じたらいいのかわからないというムードがあったと思うんです。そういう空気とリンクしていた曲なんじゃないかと思うんですけれども。

かもしれないですね。テレビのニュースも信じられないし、ネットを見たってそれがほんとに正しい情報かもわからない。信じられないことばっかりなんですよね。政府がこうしたい、こうするべきだって方針を決めても、ほんとは裏があるんじゃないかって疑いたくなるようなことも多い。そう考えると、結局一番信用できるのは、自分が見ているものや感じているもので。僕の場合はそれが自分の作る音楽だったと思います。

希望につながるかけらを入れたい

──そして、2011年の3月11日にはsuzumokuさんはツアーで仙台を訪れ、そこで震災に直面して、その後すぐに「僕らは人間だ」という曲を発表してます。あの曲は突き動かされるような感情で作った、衝動的なものだったと思います。

そうですね。今までにないぐらい衝動的に作った曲でしたね。

──あの体験を振り返ってどう思いますか?

何よりも音楽が作りたかったんです。その気持ちに勝るものがなかった。最初は迷いもあったんです。こんなときに歌を作って、応援ソングのように歌ったりして、売名行為じゃないのかって言われるだろうなと思ったし。でも、やっぱり唯一信じられるのが自分の音楽だった。だから、したいと思うことに嘘をついたり、ズルズル何もしなかったら絶対後悔するんだろうなって思いましたし。だから、今は作って良かったって思ってますね。

──今年の3月11日には「蛹 -サナギ-」というシングルをリリースして、それには「僕らは人間だ」のスタジオ録音版も収録してます。改めてレコーディングすることって、この場合大きな意味が生じますよね。

インタビュー写真

ええ。「僕らは人間だ」っていう曲を歌っていく中で、曲のイメージが変わっていったんです。最初は震災から復興して、いずれ歌う必要にない曲になればいいのかなって思っていたんですけれども……。

──でも、そうじゃなかったんですね。

はい。結局、地震だけじゃないんですよね。天災はいつ来るかわからないし、事件や事故や戦争もいまだに起こっている。だからこそ、むしろずっと歌っていくべきなんじゃないかって。そういった意味で、もう1回バンドで録ろうと思いました。

──「モダンタイムス」や「真面目な人」や「蛹 -サナギ-」を聴くと、歌詞のモチーフは曲ごとに違えど、そこには共通したモノの見方があると思うんです。

言ってみれば、あんまり人に見られたくない部分ですね。みんなが隠したがる心の闇の部分や、後ろめたい部分。逆にそういったものがないと、希望は見えないと思うんですよ。真夜中は暗いけれど、そこでこそ星が見えるっていうのと一緒なんだと思います。苦しいことやつらいことのような負のベクトルがわからないと、何がうれしいことなのかわからない。前向きな希望ばかりを歌った曲があったとしても、つかみどころがないし、「なんで楽しいの?」って思っちゃうんです。だから、暗い曲調でも、「あれ、これはもしかして?」と思えるような、希望につながるひとかけらは絶対入れたいなと思ってますね。

ニューアルバム「80/20 -Bronze-」/ 2012年7月11日発売 / 2500円 / apart.RECORDS / APPR-2506/7

CD収録曲
  1. コワイクライ
  2. 退屈な映画
  3. 鴉が鳴くから
  4. プラグ
  5. モダンタイムス
  6. 身から出せ錆
  7. 蛹 -サナギ-
  8. ノイズ
  9. 盲者の旅路
  10. 真面目な人
  11. 週末
  12. 愛しの理不尽
80/20 -Bronze- - suzumoku

iTunes Storeにて楽曲配信中!

suzumoku(すずもく)

1984年生まれ、静岡出身のシンガーソングライター。名古屋の楽器制作の専門学校で、ギターやベースの製作を行いつつ、自身もロックやカントリーに影響を受けた音楽を制作するようになる。駅前のストリートやライブハウスでの活動を始めるものの、就職と同時に音楽活動を休止する。その後再び音楽の道を志し、2007年1月に上京。同年10月にアルバム「コンセント」でデビューを果たす。その後、精力的なリリースとともに、弾き語りやバンドスタイルでのライブを展開する。2011年7月にエレキギターによる弾き語りアルバム「Ni」を発表。「真面目な人」「蛹 -サナギ-」というメッセージ性の強い2作のシングルを経て、2012年7月にアコースティックギターによる弾き語りアルバム「80/20 -Bronze-」をリリースした。