鈴木みのり|北川勝利(ROUND TABLE)×福田正夫(フライングドッグ)の“アキシブ系”タッグが引き出す素材の味

「ミノリンピック」が「上ミノ」に

──今回のアルバムは福田さんと北川さんの共同プロデュースということですが、どういう役割分担だったんですか?

福田 1stアルバムのあと、「ダメハダメ」(2019年8月発売)というシングルから次の動きが始まったんですけど、この曲はアニメタイアップだから(テレビアニメ「手品先輩」エンディングテーマ)次のアルバムに入れるだろうし、カップリングの「こいもよう」も本人作詞だから入れるだろう、次のシングル「夜空」(2020年2月発売。テレビアニメ「恋する小惑星(アステロイド)」エンディングテーマ)も入れるし、そのカップリングの「まぼろし」はこれまでにない方向性で歌もよかったからアルバムにも入れておきたい……と選んでいくと、すでに半分ぐらいは収録曲が決まっていると。ほかにもいくつか並行して制作を進めている中、アルバムの約半分を新しく作るとして、さてどうしようかと考えたときに……「北川くん助けて!」って(笑)。

──助け舟を(笑)。

福田正夫

福田 北川くんと出会ったのは2001年ぐらいで、かれこれ20年近く経つんですよ。ほぼ毎年、切れずに何かしら一緒に仕事をしているのは、たぶん北川くんだけなんです。僕が何をやりたくて、どういうことをやってきたかを誰よりもわかっている人なので、一番信頼がおける北川くんに共同プロデュースをお願いした、ということですね。前作と同じ12曲にするとして、既発曲が5曲あったので、「1曲は僕が新しく作るから、あと半分の6曲をお願い」と。

北川 1枚目からのつながりと、1stツアーのバンマスだったということもあって、次のツアーも見据えて協力してほしいというお願いだったので、僕もぜひやりたいですと。最初のコンセプト作りから意見を持ち寄って。

──全体像やコンセプト、アルバムタイトルなどはどのように絞り込んでいったんですか?

福田 1stアルバムよりは音楽的に方向性が見えるアルバムにしたいというのは最初に考えていて。タイトルはアルバムの顔なので、コンセプトを明確に表しつつ、ひと言タイトルを聞いただけで「あー、鈴木みのりはまた面白いことをやってるな」と思わせるものにしたかった。最初に考えたのは「ミノリンピック」だったんですけど……。

鈴木 うふふふ(笑)。

──2020年にリリースする作品として(笑)。

福田 ゴロがいいというか、口にして気持ちよかったんですよね。何度でも言いたくなっちゃうみたいな。

北川 福田さんから「『ミノリンピック』って、北川くんどう思う?」って言われて。

福田 「えーっ?」って言われるかと思ったら、「いや……アリなんじゃないですか」って(笑)。いくつか候補はあったんですけどね。本人にも聞いてみたら、意外とすんなり「面白いんじゃないですか」みたいな感じで。当初は実際にそのつもりで進めていたんです。歌詞を依頼するときには「その日が来る」というテーマを伝えて。半世紀に1度ぐらいしか訪れない長い周期の中で、今年だけに起こるスペシャルな出来事。そういうお題で歌詞をお願いしたんですけど、当の大会は延期になってしまって(笑)。でも、このインパクトは残したいな……と考え直していたときに、彼女のラジオ番組のタイトルを思い出したんです。

──「鈴木みのりと笑顔満タンで!」(文化放送 超!A&G+で放送中)ですね。

福田 略称が「ミノとタン」なんですけど、「ミノとタン……『上ミノ』っていいね」という話になったんです。「ミノリンピック」にもひけをとらないインパクトがあるし。とはいえ、歌詞はすでに発注していて。

北川 「上ミノ」で歌詞を書いて、って言われても困りますよね(笑)。特別な日をメインテーマにした歌詞が集まっている中でタイトルを考えていたんですけど……。

福田 特別なみのり、つまり「上ミノ」なわけですよ。つながったでしょ?(笑) このタイトルにはもう1つ理由があって。ビジュアルイメージを考えていたあるとき、「あれ? この子かわいくなったかな?」という瞬間があったんですよ。今まで面白いビジュアルをやりすぎたけど、今度のアルバムは大真面目に、鈴木みのりをいかに美しく撮れるかに挑戦してみようと思っていたんです。最上の鈴木みのりをビジュアルで作るんだ、と思ったときに「上ミノ」がうまくハマった。みのりちゃんに「上ミノ」ってタイトルを伝えたときは一瞬顔が曇ってましたけど(笑)。

鈴木 あははは(笑)。候補の中にはほかにもいいなと思うものがあったんですけど、ジャケットの案まで聞いたら「確かにおしゃれかも」と納得しました。

新たな挑戦にも気負いなくのびのびと

北川勝利

北川 前作は音楽的な方向性もビジュアルも、どこか飛び道具的な要素があったけど、2枚目はそうじゃないというのが福田さんの中に明確にあったんですよ。

──確かに、前作は全方位的に振り切ったようなバラエティに富んだ内容でしたが、今作は中盤にグッと大人びた雰囲気の曲が並んでいたり、既発曲を織り交ぜながらも全体的に落ち着いたトーンがありますね。

鈴木 作家さんの中には1stアルバムでご一緒した方もいらっしゃるんですけど、前作とはちょっと違うパターンの楽曲を書いてくださって。新しい挑戦もあったけど、どの曲ものびのび歌えたなという達成感があります。「2ndアルバムだからこうしなきゃ!」という気負いは特別なかったですね。

──新しい切り口という意味では、ハイスイノナサの照井順政さんが書いた「茜空、私がいた街」は意外な人選で驚きました。

北川 sora tob sakanaが出てきたときから興味を持っていて、いつか一緒に仕事してみたいなと思っていたんです。何人かはダメ元で当たってみたいと思っていたし、このアルバムなら合うかもしれないと思ってお願いしてみたら、わりとすぐ「やりますやります」とお返事をいただいて。

──個性の強い作家さんだから、先にクレジットを見たときは「どうハマるんだろう」と思ってたんですけど、聴いてみたらアルバムの流れともうまくハマってましたね。

北川 どうやったらみのりちゃんに合うかなとかは全然考えてなくて、むしろいつもの照井くんのままでいいと思ってたんですよ。たまに作家さんで遠慮して寄せてくれる人もいるんですけど、「言われるの嫌でしょうけど、できるだけいつも通りの感じでお願いします」と伝えました。

作詞家・鈴木みのりの挑戦

──チャレンジという点で言うと、「月夜の夢」はリズムも複雑だし、しかもそこにご自身が歌詞を乗せるというのは鈴木さんにとって大きな挑戦だったんじゃないかと思うのですが。

鈴木 「月夜の夢」は、福田さんがmyuさんとご一緒したいという思いを持っていたところから始まって。私自身もmyuさんが楽曲を担当されているアニメを観て興味を持っていたんです。最初は歌詞も書いてくださるのかなあと思っていたら、私が書くことになって(笑)。歌詞を書くこと自体には前向きな気持ちなんですけど、myuさんの楽曲を知っていたからこそ、あの世界観に合う歌詞を私が書けるんだろうか……と不安でした。私の歌詞は、読んだらすぐわかる具体的なものばかりで、もっと抽象的な歌詞も書けるようになりたいなあ、と頭の中でやんわりと考えていたんですけど、そんなときにmyuさんの曲で歌詞を書くというお話が来たので、がんばって挑戦してみようと。すごくいい経験になりました。

北川 確かに、この曲で歌詞を書くのめちゃ難しそう。

鈴木 音が複雑なので……最初は私、楽譜を見ずに音を聴いて書いていたので、ちょっと解釈を間違えてたんですよ。

福田 どこまでがAメロでどこからがBメロなのか非常にわかりにくい曲で、Bメロに入ってもまだAメロのセンテンスが続いていたりとか(笑)。myuさんはいかに難しいことをやるかを突き詰めるのが持ち味だと思うから、「思いっきり変なことをやってください」とお願いしました。

鈴木みのり

──本人作詞の比重はかなり大きくなりましたよね。

鈴木 少しずつ新しい自分を見せられるようになってきたなというのもありつつ、声優を離れたところでの音楽活動を体験して、「もっとがんばらなきゃな」というざっくりとした目標が芽生えてきて。音楽を聴くときも、今までは自分が楽しむためだけに聴いていたんですけど、今は「こういう音なんだな」「こういう歌詞の書き方もあるんだな」と気にするようになりました。まだまだこれからですけど、少しずつでも自分なりの個性が出せるようになるといいなと思っています。

──新しい面を見せつつも、1曲目の「Now Is The Time!」は鈴木さんになじみの深い、「これぞ北川節」と言えるような福田ワークスの王道サウンドだったりして。こちらも作詞は鈴木さんですが、アルバムリリース発表時のコメントでは2ndツアーのサブタイトルにもなったこの曲のタイトルについて「予期せずして、表現者として今1番叫びたい言葉になりました」とおっしゃってました。歌詞にはどういう思いが込められているのでしょうか。

鈴木 私の仕事は声優と歌手ですけど、セリフも歌も、まったく同じニュアンスは2度と出ないんです。そういう気持ちと、なんとなく「今年はいい年になる気がする」という思いがあったので、その2つをテーマに歌詞を書き始めたんですけど……作詞をし始めたのがちょうどコロナが広がる少し前で、制作の途中でステイホーム期間に突入してしまったんです。

──そうだったんですね。華やかなサウンドにぴったりな明るい内容だったので、ちょっと意外です。

鈴木 曲を聴いてすぐにショータイムのイメージが浮かんだし、ライブでは絶対に1曲目に歌いたい!と思ったんです。それでタイトルは先に決めていて……曲調に合った明るい歌詞を書きたかったんですけど、どうしても明るいワードが出てこなくて。そんな中でも、自分の好きなアーティストさんたちが「この状況をどうするか」と前向きに動いている姿を見て、私もそれに感化されるように、聴いてくれる人の気持ちに寄り添えるような歌詞を書いてみようと。北川さんも「音楽を止めたくない」「エンタテインメントを止めたくない」という気持ちをより強く出したらいいかもねって。そこから書き進めて、「同じような毎日でも自分の考え方1つで変わるから、ポジティブなほうがよくない?」と最近思っていたことを歌詞にしました。それが今のこの状況にも当てはまるかもしれないなって。