絶対にリテイクしないから、好きなように書いてください
──次の新曲は、鈴木さんのデビュー当初から楽曲制作に携わっている白戸佑輔さん作編曲の「p.u.p.a.」です。
私には、このアルバムを作る前からずっとやりたいことがあって。白戸さんは2ndシングル「DAYS of DASH」(2012年11月発売)の頃からお世話になっていて、作家さんの中では一番身近な存在なんです。よく作家さんやスタッフさんとみんなでキャンプに行ったりホームパーティをしたりするんですけど、そういう場にもいつも来てくださいますし、それ以外でも普段から一緒にごはんを食べたりしているので、私のよりパーソナルな部分を知っている方なんですよ。そんな白戸さんに、タイアップも何もない状態で好きなように曲を書いてもらいたかったんです。「絶対にリテイクしませんから」と言ってお願いしました。
──とても信頼されていますね。そしてできあがった曲はかなりチャレンジングな曲です。
「そうきたか!」と(笑)。「白戸さんの脳内はどうなってるんだろう?」と思うと同時に、すごく白戸さんらしい曲だとも感じました。個人的に“爽やかで切なくて力強い”という3つが混在するのが白戸さんの曲の特長だと思っていて。この3つのバランスを取るのはすごく難しいはずなのに、それを得意とするのが白戸さんなんです。さらに曲のテーマが「とにかく自分を捨てること」だとおっしゃっていたので、「これはレコーディングが大変だなあ」と思いつつ、とてもワクワクしました。
──作詞はhotaruさんですが、それも白戸さんの采配で?
そうです。もう今の自分にドンピシャな歌詞だと思いました。これはデビュー当時は歌えなかったことだし、活動を続ける中で悩んだりもしたけれど、そういう自分を捨て去って新しい自分に生まれ変わりたいという意思が表れていて。たぶん、私自身が変わりたいタイミングだからいろんなチャレンジをしてるんだと思うんですよね。
──「私、変わりたいんです」みたいな作詞のオーダーをしたわけではないんですよね?
全然してないです。やっぱり白戸さんは身近にいる人なので、泣いてるところとかも何回も見せてしまっているんですよ。そういう今までのいろんな出来事がここにぎゅっと詰められてる感じもするし、痛々しいぐらいリアルな歌詞なんですけど、不思議と暗くなく、前向きな感じもします。
──それもご自身のパーソナリティと一致している?
していると思いますね。さっきも「自分は深く考えすぎてしまうタイプ」と言いましたけど、基本的にどん底まで沈むことはないので。日記とかを読み返すと「うわー、落ちてるな」って思うことはあるんですけど、それでも書いたあとはスッキリしてるし、寝て起きたら「よし、仕事がんばろう!」みたいな。
──日記を書いているんですね。
作詞を始めてから付けるようになりました。毎日じゃなくて、何か忘れたくないことがあったときだけ走り書きするような感じなんですけど、これは人には見せられないです。
──先ほど「これはレコーディングが大変だなあ」とおっしゃいましたが、実際はどうでしたか?
大変でした! セリフもあるし、歌のタイミングを取るのも難しいし、技術的にも多くを要求される曲で。私が白戸さんに“果たし状”を突きつけたつもりが、より難しい“果たし状”を突き返されたような感覚です(笑)。あと、白戸さんから「歌が始まる前と、歌が終わったあとで印象をガラッと変えたい」と言われたのをすごく覚えてますね。「また難題が来たなあ」と思いつつ、録り終わる頃には「ああ、こういうことか」と。軽快なイントロで始まるんですけど、歌詞の内容も相まって、終わったあとは胸に染みるものがあるというか、そういう表現ができたと思っています。
普段の私はこうなんです
──最後の新曲は「あなたが笑えば」。アコースティックギター弾き語りの極めてシンプルなバラードで、作詞は鈴木さんご自身が手がけられていますね。
今回どうしても新曲のバラードを入れたかったんです。ただ、バラードといっても音数の多いものではなくて、シンプルなバラードがやりたかった。もともと私はパワーバラードが得意というか、力強いボーカルを聴かせるタイプなんですけど、あえてそれを封印して、ライブの雰囲気を一変させるような肩の力が抜けた曲が欲しいと思ったんです。
──この曲で作詞をなさった理由は?
もともと1曲は作詞をしたいと思っていて、作詞するならバラードがよかったんです。加えて、より等身大というか、ステージに上がっていないときの自分の姿を歌詞にすることで「普段の私はこうなんです」というところを見せてアルバムを終わらせたくて。
──ということは、この曲の作曲は歌詞のテーマありきでお願いされたんですね。
そうなりますね。日常感があって、ちょっとフォークソング風というか「夜中にギターを抱えてポソポソ歌ってる感じ」みたいなことをお伝えしました。私はわりと夜型なんですけど……。
──そのようですね。「夜中3時長電話」という歌詞を拝読するに。
やっぱり夜が深まると考え事をしてしまうことが多くて、そういうときに自分がどん底まで落ちずに済むのは、歌詞の通り長電話に付き合ってくれる友達がいるからなんです。そこで最初は「ちょっと聞いてよ」って悩み相談をしてたのに、いつの間にかくだらない話で笑ってるみたいな。そういう日常の何気ないことが救いになるというか、もしかしたらいろんな悩み事も自分が笑ってしまえば、もしくは自分の周りの誰かが笑ってくれればどうってことないなって。そういう気持ちになることが最近すごく増えたんですよ。
──先ほどお話に出た日記も作詞に反映されていたりするのでしょうか?
反映されてますね。まさにこの「あなたが笑えば」は、確か「『大丈夫?』って聞かれたときに『大丈夫じゃない』って言える人がうらやましい」みたいな日記が起点になっていて。そこから「どうしても強がっちゃう自分がいるんだけど、それでも毎日前を向いていられるのはなんでだろう?」と考えていたら、今話したようなことに至ったのかな。
──「本当に言いたいことは 背中に隠しちゃうことばかり」という歌詞にも通じますね。
それも本当で、私がよく電話をするようになったのは、ここ1年ぐらいなんです。それまでは、例えば実家の母にもLINEはするけど電話はしないみたいな。電話だと、悩みを相談したくてもつい見栄を張ってしまうんです。たぶん東京でうまくやってると思われたいからなんですけど、それが最近はなくなったんですよね。だからこれはありのままの自分をさらけ出した歌詞ですね。
──歌声も自然体というか、おっしゃる通り肩の力が抜けていますね。
ありがとうございます。ただ、これは正解を見つけるのがなかなか難しくて、私が納得するのをみんなが待っていた感じだったのかもしれません。1曲通して何テイクも録っていたんですけど、ディレクターさんは「どれでもいいよ」って(笑)。
──どれでもいい(笑)。
装飾する必要のない曲なので、自分から自然に出てきた声でさらっと歌ったほうがよりよいものになると信じて、自然に出てくるのを待ちました。
──ここまで新曲についてお聞きしてきましたが、実にバラエティ豊かですね。
本当に、ライブでどうやってセットリストを組み立てようか迷ってしまうくらい。自分への“果たし状”はきっちり果たせたと思うので、あとは皆さんがこれをどう受け取ってくださるのかが楽しみです。
──11月にはツアーの国内編が始まりますね。
振り幅の大きな楽曲たちを携えてのツアーということで、その中身も刷新されるんじゃないかな。でも私のライブはシンプルかつストレートに音楽を届けるという点では変わりはないので、より歌力が必要になってくると思っています。派手に盛り上がりたい方にも、じっくり浸りたい方にも刺さるツアーにしたいですね。
ツアー情報
- 鈴木このみ「Konomi Suzuki Asia Tour 2019」
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- 2019年10月12日(土)上海 バンダイナムコ上海文化センター未来劇場
- 2019年10月26日(土)台北 NUZONE
- 2019年11月3日(日・祝)香港 Music Zone@E-Max
- 2019年11月10日(日)東京都 チームスマイル・豊洲PIT
- 2019年11月30日(土)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2019年12月1日(日)福岡県 LIVEHOUSE CB
- 2019年12月15日(日)宮城県 仙台MACANA
- 2019年12月21日(土)北海道 札幌KRAPS HALL
- 鈴木このみスペシャルライブ!in サンリオピューロランド ~世界一早いCOUNTDOWN~
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- 2019年12月31日(火)東京都 サンリオピューロランド 1Fエンターテイメントホール
- 鈴木このみ(スズキコノミ)
- 1996年11月5日生まれ、大阪出身の歌手。2011年開催「全日本アニソングランプリ」の第5回大会で優勝を果たし、2012年4月にシングル「CHOIR JAIL」でデビュー。同年11月にはテレビアニメ「さくら荘のペットな彼女」のエンディングテーマ「DAYS of DASH」、2014年5月にはテレビアニメ「ノーゲーム・ノーライフ」オープニングテーマ「This game」をリリースするなど、数々のアニメ主題歌を担当している。2018年に放送されたテレビアニメ「LOST SONG」では主演声優を務めたほか、オープニング主題歌「歌えばそこに君がいるから」も歌唱した。2019年5月にテレビアニメ「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」のエンディングテーマ「真理の鏡、剣乃ように」をシングルリリース。同年11月に4thアルバム「Shake Up!」を発売した。