鈴木瑛美子|ミュージカルで成長したゴスペル女子高生、亀田誠治と再タッグ

鈴木瑛美子の新作「After All」が10月28日に配信リリースされた。

「After All」はメジャーデビューから1年2カ月ぶりの新作。亀田誠治をサウンドプロデューサーに迎えた壮大なバラード「After All」や、トオミヨウがアレンジを手がけたジャジーなソウルナンバー「You gotta be」、渡辺善太郎がオルタナロックなアレンジを施した「Back Home」、多保孝一がサウンドプロデュースしたゴスペルロック「Hail! Mr. Happy Days」と、多彩なクリエイター陣が鈴木の歌の魅力を最大限に引き出す楽曲を提供している。さらに表題曲の英語バージョンを加えた全5曲が収録されている。

デビューからの期間でたくさんの成長を遂げたと実感する鈴木が、さらなる飛躍を求め、表現に徹することに挑んだ本作。音楽ナタリー2度目となる今回のインタビューでは、各楽曲の制作に込めたたくさんのこだわりについて、じっくりと話を聞いた。

また特集の最終ページでは、カメラが趣味だという鈴木が「2020年に大事にしたいこと」をテーマに今年撮影した写真4点を公開。鈴木に撮影当時の思い出を振り返ってもらいながら、こだわりポイントについて話してもらった。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 須田卓馬

ネガティブ思考を捨て、日々を楽しむ

──音楽ナタリーへのご登場は、メジャーデビューシングル「FLY MY WAY / Soul Full of Music」以来1年2カ月ぶりとなります。

鈴木瑛美子

もうそんなに経ったんですねえ。この1年2カ月は、自分を成長させる期間だったなと思っていて。舞台を経験したりとか、いろんな新しいことにチャレンジしてきたので、自分なりの成長は実感できています。

──その成長に伴って、具体的に変わった部分はありますか?

喉の使い方を研究したことで、歌い方がだいぶ変化したと思います。もともとハスキーで枯れやすい声だったんですけど、今は枯れさせることなく力強く歌う方法が身についてきました。あと内面的な部分で言うと、ネガティブな思考がどんどんなくなってきたんですよ。もちろん嫌だなって思うことは今もありますけど、それをすぐに切り捨てるのではなく、じゃあどうやって向き合っていくべきかをしっかり考えられるようになった。物事に対して、“How?”とか“What?”みたいなことをすごく考えるようになった結果、日々のすべての出来事が楽しく感じられるし、気持ちが豊かになったような気がします。

──先ほどチラッと話に出ましたけど、今年の3月から上演されたミュージカル「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド ~汚れなき瞳~」への出演はいかがでしたか?

初めての演技はものすごく難しくて、自分の実力不足を実感しました。ただ、ダブルキャストだったこともあり、自分にできること、自分がやらなきゃいけないことをものすごく考えさせられたので、そこでは成長できたかなと思っていて。舞台に立てたこと、共演者の方たちとご一緒できたこと含め、すべてが今の自分の糧になっていますね。

──アーティストとして楽曲を歌うこととミュージカルでの歌唱に違いはありました?

まったく違いました! 普段、歌手として歌うときは、歌詞の意味を1人ひとりの顔を見て届けたいっていう思いが強いから、ライブでは当然客席を見て歌っているんですよ。でもミュージカルの場合、舞台上にはお芝居のパートナーがいて、その方に向かって歌い、演技をしなきゃいけない。それがすごく難しいんですよね。気付くと、すぐ体や顔が客席の方を向きそうになってしまって(笑)。「ヤバいヤバい、これはアーティストとしてのライブとは違うんだ、ちゃんと切り替えないと」って常に言い聞かせてましたね。舞台で求められる表現は、今まで自分が持っていた知識を超えるものだったので、そこで手に入れたたくさんのものはアーティスト活動にもしっかり反映していけると思います。

瑛美子流の「紅蓮華」

──ミュージカル以降は、新型コロナウイルスの影響で音楽活動に制限がかかる状況だったと思います。以前、「何事にもリミッターをかけず活動していきたい」とおっしゃっていた鈴木さんですから、そこには悔しさもあったんじゃないでしょうか。

ライブが思うようにできなくなったし、そもそも人の前に立つことも難しくなってしまったから、そこへの悔しさは確かにありました。ただ、ネットを通してやれることもたくさんあるなと思ったし、そこに楽しさ、可能性を感じることもできたから、気持ちを切り替えてすぐに動くことはできたと思います。

──「a-nation online 2020」への出演や、ご自身の新作リリース記念ライブなど、オンラインでの配信ライブを積極的に行われていますよね。

配信ライブはスマホやパソコンで観られるから、アーティストとの距離を近く感じてもらえるのがいいところだと思うんですよ。実際のライブにあるステージと客席との物理的な距離がゼロになるわけですからね。あとはリアルタイムでお客さんからのコメントが見られるところもすごく面白い。皆さんけっこう素直な感想を書いてくれているから、アーティストとしてのモチベーションにもなると思います。

──また、5月にはYouTube上にご自身の公式チャンネルを開設し、カバー動画をはじめ、さまざまな映像をアップされています。

カバー動画はもう自分がやりたかっただけなんですよ(笑)。最初に上げたGleeバージョン(オリジナルはFun)の「Some Nights」以降、人気曲やファンの皆さんが歌ってほしいと思う曲をどんどん歌うようにしたら、観てくれる人の数も徐々に増えてきて。だんだんいい感じになってきました。自分としても歌いたい曲が歌える場として、素直に楽しんでますね。

──カバーを通して、シンガーとして鍛えられるところがあったりもするんですかね?

そういう感覚もありますよ。LiSAさんの「紅蓮華」は特にそうでしたけど、歌ってみると「わ、こんなに大変な曲だったんだ!」っていう気付きがあったりもして。いろんなジャンル、いろんな音域の曲を歌うことが勉強になっているところもあるんですよね。

──「紅蓮華」では、原曲でファルセットになっている部分を、鈴木さんは地声で歌いきっていて。そこがすごくカッコよかったんですよね。

あははは、ありがとうございます(笑)。あの曲は歌いやすさを考えて、キーを半音上げたんですよね。それによって瑛美子流のカバーになったかなと。どんな曲を歌っても、そこに鈴木瑛美子を感じてもらうっていうのが自分として目指しているところ。YouTubeでは、私の素をもっと見てもらう企画とか、カバー動画以外にももっといろんなことをやっていきたいと思っているので、これからも楽しみにしていてほしいですね。

自作曲は入れず、表現に集中

──今回配信リリースされる新作「After All」はすべて提供曲で構成されているんですよね。

はい。今回は自分で作詞作曲をしないことで、歌という表現に力を注ぐことをメインにしたかったです。ほかの方に作っていただくことで、曲のジャンルにも歌詞の内容にも幅が生まれると思ったし、そこに瑛美子らしさをしっかり注ぎ込むことで、ここまでに手にしてきた自分の成長も見てもらえるんじゃないかなって。

──自作曲だけにこだわらないところが鈴木さんらしいところですよね。

自作曲に関しては、最近自分なりのカラーやスタイルが見えてきた気がしているんですよ。曲調とか言葉選びに関して。でも、それはまたのちのち聴いてもらえばいいかなって(笑)。

──自分なりのスタイルが見えてきたからこそ、そこをさらに広げるために提供曲から何かを学び取りたい気持ちがあるのかもしれないですね。

あー、確かにそういう感覚はあります。自分の可能性を広げたいという思いが強いので、自作曲だけにこだわらず、マルチにやっていきたいっていう。私の場合、アップテンポな曲が苦手だったりもするので、そういうタイプの曲は提供曲を通して乗り越えられたらいいかなっていう思いもありますし。今作でも、いろいろなクリエイターの方々が作ってくださった楽曲を通して、新しい歌い方や表現方法をどんどん取り入れることができたと思います。

信頼する亀田誠治にお任せ

──表題曲の「After All」は亀田誠治さんプロデュースによる、壮大でドラマチックなラブバラードです。亀田さんとは今回が2度目のタッグになりますね。

はい。私が高校を卒業するギリギリくらいのタイミングで、映画の主題歌(2018年公開の「恋は雨上がりのように」の主題歌「フロントメモリー」。神聖かまってちゃんのカバー)を歌わせてもらったんですけど、そのときのプロデューサーが亀田さんだったんですよね。アレンジに寄り添った声の出し方とか、映画にマッチする表現とか、あのときは本当にいろんなことを学ばせていただいて。その記憶が強く残っていたので、今回アレンジャーの方を決めるミーティング中、真っ先に亀田さんにお願いしたいなと思ったんです。「あ、この曲を亀田さんのアレンジで聴きたいな」って思いました。

──約2年ぶりとなる亀田さんとの作業はいかがでしたか?

アレンジに関しては亀田さんが上げてきてくださったものが本当に素晴らしい仕上がりで。もう何も言うことはなかったです。自分の想像していた以上に、壮大できれいな曲にしてもらうことができたからうれしかったですね。歌に関しても亀田さんが私に任せてくださって。だからこそ私なりに最高の歌でこの曲にトッピングしなきゃなってすごく思いました。

──鈴木さんと亀田さんとの間にしっかりとした信頼関係があるからこそ、お互いの感性に委ねることができたんでしょうね。

そうですね。信頼感があるからこそ、お互いにマックスの力でぶつかり合うことができて、最高の曲を作ることができたんだと思います。

鈴木瑛美子

──歌に関してはどんな表現を心がけましたか?

相手に対しての「愛してる」という思いをしっかり伝えられる歌にしたいなって思いました。あとは英語と日本語が混ざった歌詞になっているので、違和感なくなじんで2つの言語が聞こえるように意識したところもありました。

──曲の後半で主メロにフェイクが重なり合ってくるところなんかはものすごくグッとくる展開ですよね。フェイクは現場でアイデアを出すんですか?

そうですね。その場で考えはしましたが、ライブでのアドリブとは違って、ちゃんとした形のフェイクとしてレコーディングすることは意識しました。音源はずっと残るし、何度もリピートして聴いてもらうものなので、そこはしっかりメロディを決めたものにしないとなって。

──今回の歌に関して、亀田さんは何かおっしゃっていましたか?

「光と影を表現した歌がすごくよかった」と褒めていただけて。ここまでに私ががんばって成長したことをしっかり感じ取ってくださっていたのが本当にうれしかったですね。あと、「見た目も成長したよね」とおっしゃっていただけたんですけど、それはたぶん髪を切って染めたからだと思います。最初にご一緒したときと同じ黒髪ロングだったら「変わらないね」って言われてたと思う(笑)。

──「After All」はMVも素敵な仕上がりになっていますね。

曲調的にはせつなさがあるけど悲しいラブソングではないので、微笑みを浮かべた表情や手の動きであたたかい愛を伝えられるよう意識しました。花びらを使ったシーンはすごくきれいだったし、撮影していても楽しかったですね。私は実際に歌いながら撮影をするので、その大変さはありましたけど。

──え、リップシンクではなく、本当に声を出して歌っているんですか?

そうなんですよ。リップシンクだとノドの動き方が変わってしまうので、毎回ちゃんと歌うのが私のこだわりなんです。だから何度も歌うと大変なんですけど、でもその都度、表現の仕方を考えることもできるし、今回の撮影場所はすごくきれいな新しいホールで、衣装も素敵だったので、終始テンション高く撮影に臨むことができました。

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