鈴木愛理「ハートはお手上げ」レビュー|「かぐや様」をキラキラ輝かせる王道ポップソング

鈴木愛理のニューシングル「ハートはお手上げ」が6月1日にリリースされた。

「ハートはお手上げ」は4月より放送されているテレビアニメ「かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-」のエンディング主題歌。鈴木は2020年放送の「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」でも鈴木雅之とのデュエット曲「DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」で主題歌を担当しており、℃-ute / Buono!時代にも幾度かアニメソングを歌ったことがあったが、ソロとしてアニソンを発表するのは今回が初となる。本特集では鈴木のソロデビューから現在までの流れをレビューでたどり、アニソンとしての強度の高い“王道”ポップソング「ハートはお手上げ」の魅力を紐解く。

文 / 臼杵成晃

「鈴木愛理と言えば」の入り口

「鈴木愛理と言えば」の振れ幅が、ここにきてさらに広がっている。鈴木愛理と言えば──℃-uteの“絶対的エース”であり、並行して3人組ポップロックユニット・Buono!でも活躍した、アイドルが憧れるアイドル。ファッション雑誌「Ray」の専属モデルで「TOKYO GIRLS COLLECTION」をはじめとするファッションイベントには欠かせない常連メンバー。℃-ute解散後は1人で満員の日本武道館を沸かせるソロアーティスト……と、彼女の活動に触れる“入り口”は以前から複数存在していたが、近年ではNHK Eテレ「クラシックTV」やテレビ朝日公式YouTubeチャンネルの音楽番組「オーイシ×鈴木愛理アニソン神曲カバーでしょdeショー!!」での番組MC、6月23日(木)より配信が決定したABEMAオリジナル新ドラマ「ANIMALS‐アニマルズ‐」での初主演(参照:鈴木愛理、連ドラ初主演で“幸せ迷子のズタボロ女子”熱演)など、活躍の場をますます拡張している。

2017年6月、およそ12年におよんだ℃-uteの活動に幕を下ろしたのち(参照:℃-ute、4385日におよんだteam℃-uteとの歴史に幕)、鈴木は2018年4月に“15年目の新人”としてソロアーティスト活動をスタートさせた(参照:鈴木愛理、単独ライブでソロの第一歩「共に歴史を作っていこうじゃないか!」)。最初のソロ公演では、バックダンサーを従えキレのあるパフォーマンスを見せるダンススタイル、バックバンドの演奏に乗せて感情豊かに歌うバンドスタイルの2種類を展開。同年6月6日にリリースされた1stソロアルバム「Do me a favor」にはその2つのスタイルで表現された15曲が収録された。東京・日本武道館公演「鈴木愛理 1st LIVE ~Do me a favor @日本武道館~」(参照:鈴木愛理、初の武道館単独公演で13変化「私の15年すべてを背負って進んでいきたい」)を経ての初のソロツアー「鈴木愛理 LIVE TOUR 2018 "PARALLEL DATE"」では新曲が多数用意され(参照:鈴木愛理、初ソロツアーでこじらせ全開妄想パラレルデート)、それらの楽曲とツアーの世界観は2019年12月発売の2ndアルバム「i」へと結実していく。

2018年4月に開催した1stソロワンマンライブ「鈴木愛理 1st LIVE ~Do me a favor @ Zepp Tokyo / なんばHatch~」での鈴木愛理。

2018年4月に開催した1stソロワンマンライブ「鈴木愛理 1st LIVE ~Do me a favor @ Zepp Tokyo / なんばHatch~」での鈴木愛理。

2018年7月に開催した初の東京・日本武道館ワンマンライブ「鈴木愛理 1st LIVE ~Do me a favor @ 日本武道館~」での鈴木愛理。

2018年7月に開催した初の東京・日本武道館ワンマンライブ「鈴木愛理 1st LIVE ~Do me a favor @ 日本武道館~」での鈴木愛理。

“ポジティブの伝道師”と称される天真爛漫なキャラクター、ダンストラックで見せるクールな表情、優しいバラードやアコースティックナンバーで見られる等身大な表情。ソロデビューからの2年間は、ソロアーティスト鈴木愛理として何が表現できるか、「℃-ute / Buono!以降」をどう提示するかを模索する時間だったのだろう。そんな彼女の新たな扉を開いたのが、ソロデビューからちょうど3年、2020年4月にリリースされた鈴木雅之とのコラボレーションナンバー「DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」だ。

ソウルレジェンド・マーチンとの異色デュエットで歌うのは、テレビアニメ「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」のオープニング主題歌(参照:鈴木雅之「かぐや様」で再びアニソン歌唱、デュエット相手は鈴木愛理)。2人はこの楽曲で、世界最大級のアニメソングイベント“アニサマ”こと「Animelo Summer Live」にそろって出演を果たすことになる(参照:「アニサマ2021」に岡崎体育、スキマスイッチ、西川貴教、大黒摩季、鈴木雅之、鈴木愛理ら)。2人のアニソンシーンへの参加はアニソンファンにも大きな驚きを与えたが、ここでの経験は鈴木自身にも(おそらく2019年より「アニサマ」に出場しているマーチンにも)実りの多い刺激があったのではないだろうか。「アニサマ」参戦後にスタートしたYouTube番組「オーイシ×鈴木愛理アニソン神曲カバーでしょdeショー!!」ではアニソンアーティストとの交流を広め、鈴木自身もアニソン史に残る名曲の歌唱に挑戦。℃-ute在籍時に現役で慶應義塾大学に入学し、仕事と両立しながらきっちり4年で卒業した鈴木の勤勉さは、新たに飛び込んだアニソンの世界でも遺憾なく発揮される。長年の活動で培われた持ち前の歌唱力に加え、楽曲のツボをしっかり押さえた彼女の歌唱は、アニソンファンの間でも高く評価されている。

鈴木愛理、“王道”を歌う

2022年2月2日、吉澤嘉代子や杏沙子といった世代の近いソロアーティストとの邂逅でさらなる表現の広がりを見せる3rdアルバム「26/27」を発表した鈴木。6月1日には、彼女の最新楽曲となるシングル「ハートはお手上げ」がリリースされた。この曲は現在放送中のテレビアニメ「かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-」のエンディング主題歌。「かぐや様」シリーズ連続起用で、今回はソロアーティストとしてエンディングを担っている。作詞を高橋久美子、作曲を水野良樹(いきものがかり、HIROBA)、編曲およびサウンドプロデュースを本間昭光が担当した、1980年代の王道アイドルソングを彷彿とさせるポップでキラキラとした楽曲だ。楽曲に初手からロマンチックな印象を付けるイントロ、「Yes!」と軽快に始まるサビ頭、切ないメロディとメリハリのあるアレンジでサビに向けての開放感を加速させるA~Bメロ、2コーラス後のギターソロ&ピアノソロ、ラブソングとしての切なさをグッと強調させるDメロ、からの落ちサビ!と徹頭徹尾“王道”要素で構成された3分48秒。歌詞、メロディ、アレンジが渾然一体となり、まるでよくできたアトラクションのようにリスナーを心地よく物語の世界へと運んでくれる、職人たちのイイ仕事。「アニサマ」で3万人の観客が一糸乱れぬコールを上げる様子が目に浮かぶ……だけにコロナ禍明けが待ち遠しい。8月開催の「Animelo Summer Live 2022 -Sparkle-」では初日のステージに鈴木の出演が決定している。タイミングとして当然「ハートはお手上げ」の生披露が期待できるだろう。

フルサイズでの“王道”としての完成度はもちろんのこと、この楽曲は1分29秒という限られたアニメソング尺の中でも最大限の効果を発揮するよう作り込まれており、「TV Size Ver.」も楽しめるのはアニソンシングルならでは。また、このシングルにはほかにも「Instrumental」と「Karaoke」の2バージョンが収められている。「Instrumental」は文字通りフルサイズ音源のインストバージョン。「Karaoke」はインスト音源に鈴木のコーラス音声を加えたものだ。鈴木本人のコーラスをバックにカラオケができるというぜいたくな仕様だが、通常は音像全体の中で陰に隠れているコーラスパートをじっくり聴くことができるのがこの「Karaoke」バージョンの密かなポイント。「Instrumental」もストリングスの細やかな表情など、名匠・本間が仕込んだ王道の粋を心ゆくまで堪能できるので、ぜひ4バージョンすべてにじっくりと耳を傾けてほしい。

「ハートはお手上げ」のミュージックビデオより。

「ハートはお手上げ」のミュージックビデオより。

「ハートはお手上げ」のミュージックビデオより。

「ハートはお手上げ」のミュージックビデオより。

ピンクを基調としたビジュアル、大きなハートを擬人化したようなピンクのドレス……鈴木はジャケットやミュージックビデオに至るまで、この「ハートはお手上げ」という楽曲の“王道”感を徹底的に楽しんでいるように見える。ご陽気なキャラ全開のMVメイキング映像も見どころ満載。周囲を明るくする“ポジティブの伝道師”鈴木愛理の活躍は確実に日本の、世界のムードを明るくポジティブに変えてくれる……と書くとずいぶん大げさだと思われるかもしれないが、筆者はわりと本気でそう思っている。急に個人的な感情を挟み込んでしまったが、閑話休題。鈴木愛理というアーティストが持つ歌唱力と声色、柔軟性がアニソンと高い親和性を持つことが本作で証明されたことにより、今後は「かぐや様」以外のアニメ作品でも彼女の歌声が聴ける機会は増えてくるかもしれない。「鈴木愛理と言えば=アニソンの人」という新たな入り口が開かれたことで、新たなファン層も拡大しているだろう。ドラマ初主演ではさらなる入り口が開くとともに、彼女自身の表現者としての新たな扉が開くことにもなるのか。拡張する鈴木愛理ワールドから目が離せない。

プロフィール

鈴木愛理(スズキアイリ)

2002年、8歳のときに約3万名の中からハロー!プロジェクト・キッズに選ばれる。2003年にハロー!プロジェクト内のユニット、「あぁ!」のメンバーとしてCDデビュー。2005年6月に℃-uteを結成する。2007年より℃-uteと並行してBuono!としても活動開始。圧倒的なパフォーマンス力で人気を集め、女性ファッション誌のモデルとしても活躍中。2017年5月に神奈川・横浜アリーナで行われたライブ「Buono! ライブ 2017 ~Pienezza!~」をもってBuono!の活動が終了。その後2017年6月に埼玉・さいたまスーパーアリーナで℃-uteのラストコンサートが開催され、約12年におよぶグループ活動に幕を閉じた。℃-ute解散公演をもってハロー!プロジェクトを卒業し、2018年3月にソロ活動をスタート。同年6月に初のソロアルバム「Do me a favor」をリリースし、7月9日は東京・日本武道館でワンマンライブ「鈴木愛理 1st LIVE ~Do me a favor @日本武道館~」を開催した。2019年12月に2ndアルバム「i」、2022年2月に3rdアルバム「26/27」を発表。また2020年4月には鈴木雅之とのコラボレーションでテレビアニメ「かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~」のオープニング主題歌「DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」を歌った。2022年6月には同アニメの続編「かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-」のエンディング主題歌「ハートはお手上げ」をニューシングルとしてリリースした。8月にはアニメソングイベント「Animelo Summer Live 2022 -Sparkle-」への出演が決定している。