“魔女の歌声”でつながる2曲
──5曲目の「魔女ノ策略」は、1曲目の「WONDER MAP」と同じく加藤有加利さんと遠藤ナオキさんのコンビによる楽曲ですね。ワルツ風の曲ということもあり、やはりお二人が手がけた「antique memory」の闇堕ち版みたいな。
そうですね(笑)。実は「魔女ノ策略」は、「WONDER MAP」とつながっているんですよ。「WONDER MAP」の冒頭に「ふう~ううう~」という歌声が入っているんですけど、その歌声の正体がこの「魔女ノ策略」でやっとわかる。つまり魔女の歌声だったという。
──へええ。それは気付きませんでしたが、面白いですね。
私も、レコーディング当日に加藤さんから教えていただくまで気付かなかったんですけどね(笑)。その「ふう~ううう~」は、「WONDER MAP」と「魔女ノ策略」でテンポは違うけど、メロディは一緒だというのをお聞きして「すごい! ここで伏線回収するんですね!」と興奮しちゃいました。登場人物も魔女だけじゃなくて、コーラスの「Trick or Treat」は使い魔のカラスが担当していたりとか、そういう設定もあって。歌詞カードに書いてある物語を読みながら聴くと、よりこの世界に入り込んでいただけるんじゃないかと。
──その歌詞なのですが、この曲はスキャットを軸に構成されていて、まったく歌詞カードの通りに歌っていませんよね?
そうなんですよ。私も最初、歌うほうの歌詞を見たときに「おや?」みたいな(笑)。だから不思議な歌ではあるんですが、それを、黒いけどちょっとカートゥーン的な雰囲気もある私好みの曲に乗せるというのも面白いなって。
──僕は「魔女ノ策略」のボーカル、すごく好きなんですよ。きれいな表現が思い付かないのですが、ねばっこい歌声がクセになります。
うれしい。この曲はときにオペラのように、ときに口ずさむように、ときに鼻歌のように歌ったりと変化を付けるのが難しくはあったんですけど、私自身そういう歌い方をしてみたかったのですごく楽しかったです。
──そんなねばっこいボーカルとは対照的に、次の「Reverse-Rebirth」のボーカルはシャープでクリアに聞こえました。この曲はアニメ「逆転世界ノ電池少女」のエンディングテーマでもあります。
「Reverse-Rebirth」は、まさに今放送中のアニメのタイアップ曲ということもあり、実はアルバムの制作時期よりもかなり前にレコーディングもミュージックビデオの撮影も終えているんです。なのでちょっと時間軸が歪んでいるんですけど、鈴木愛奈としてここまでコントラストがはっきりした曲を歌うのは初めてだと思っていて。MVでも、白い衣装で光を浴びて命が宿るかのような神聖な雰囲気のシーンもあれば、暗い森の中で黒い衣装でクールに歌っているシーンもあって、自分の中ではかなり攻めた1曲になっていますね。
──「逆転世界ノ電池少女」には鈴木さんも蒼葉夕紀役で出演なさっていますが、「Reverse-Rebirth」にはアニソン然としたキャッチーさと爽快感もありますね。
この作品はオリジナルのロボットアニメで、やっぱりロボットアニメには熱い展開が付きものだと思うんですよ。なので、レコーディングしたときはまだアフレコも何も始まっていなかったんですけど、きっと熱い展開になることは間違いないだろうと自分の中で想像を膨らませて、今言った神聖さやクールさの中にも熱さが感じられるような表現を目指しました。
新たな引き出しができたような感覚
──ボーカルスタイルでいうと、8曲目のドラマチックでラウドなロックナンバー「暁のdetermination」はストレートに熱のこもったボーカルで、かつ民謡的な節回しが特に生きているのではないかと。
そうですね。ただ、「暁のdetermination」は一番レコーディングが大変だったというか、プロデューサーさんと方向性の違いでたくさん話し合った曲で。
──と言いますと?
この曲のデモを聴いたとき、私の憧れているあるボーカリストさんが歌ったら映えそうというか、その方が歌っていらっしゃるイメージが浮かんだんです。そのイメージを自分の中で消化しつつ、ちょっと懐かしさを感じさせるメロディやサウンドの中に見える意志の強さを表現したいと思っていたんですけど、それがプロデューサーさんのイメージと相違があったみたいで。そこのすり合わせがなかなかうまくいかず、でも最終的には私が表現したいように歌わせてくださいました。
──いいじゃないですか。
なのである意味、レコーディングで「Belle révolte」した曲ですね(笑)。
──うまいこと言いましたね(笑)。ボーカル面で話を続けると、僕がもっとも驚いたのが11曲目の夢見クジラさん作詞・作曲、大沢圭一さん編曲の「isolation」なんです。ピアノとバイオリンを効果的に使ったトラック自体も素晴らしいのですが、とにかく鈴木さんの歌が見事で。
ええー、ありがとうございます! すごく、難しかったんですけど。
──ですよね。メロディの跳躍も激しくキーも高いのですが、その中で軽やかさとエモさを両立しているといいますか。
それを目指すのが本当に難しかったんですよ。いつもの自分の歌い方ではこの曲のよさは引き出せないと思って同じようなテイストの曲を歌われているアーティストさんを聴き漁って研究しまして。でも、それを真似ただけでは自分の歌ではなくなってしまうので、自分なりのアプローチにたどり着くまでにめちゃめちゃ迷いました。先ほど言ったようにアプローチのすり合わせが一番大変だったのは「暁のdetermination」なんですけど、歌い方に関して「どうすれば歌いこなせるんだ!?」と一番悩んだのがこの曲ですね。
──どうやって正解にたどり着いたんですか?
語弊があるかもしれないんですけど、この曲にはちょっとボカロ感があると思ったんです。私はボカロが好きなのでいろいろ聴いていて、テンポの速さや展開、サウンド感に相通ずるものがあるんじゃないかなと。そういう要素もとっかかりにしつつ、試行錯誤していった感じですね。
──歌詞の内容も「手放したら 私じゃなくなる こんなに大嫌いなのに」など、面倒くさいと言っていいぐらい複雑な気持ちを表していると思うのですが、その悲哀みたいなものもちゃんと歌声に乗っていますよね。
そう言っていただけて、がんばった甲斐がありました。この曲はハモリも全部自分の声で録っていて、その音程もあっちこっちにいくので大変だったんですけど、おかげで新たな引き出しができたような感覚があります。
“きれいな部分”も嘘偽りのない私の素直な気持ち
──そして最後の曲「愛の名が響く場所」は、もう曲名から察してくださいという感じだと思いますが、例えば歌詞に「あの日々の孤独は未来への扉だったんだ」とあるように、最初のほうでお話ししていた1stライブツアーを経た、鈴木さんの今の気持ちが表れているのかなと。
そうですね。この曲はミッキー(酒井ミキオ)さん、ちのぴ(知野芳彦)さん、ha-jさんという、一緒に1stライブツアーを回った“愛奈バンド”のメンバーが作ってくださったんです。ドラムも同じく愛奈バンドの一Q(一ノ瀬久)さんに叩いていただきました。ツアー中もずっと私を支えてくださっていた方々であり、そこで私がMCでお話ししたことも歌詞に反映されていて。過去、現在、未来の鈴木愛奈を照らし合わせつつ、私が本当に伝えたいことを作詞のミッキーさんが歌にしてくださいました。曲名にも「愛の名」と、私の名前を忍ばせてくださって。レコーディングではちのぴさんがディレクションしてくださったんですけど、ちのぴさんはすごく物腰が柔らかい方なので優しさに包まれながら歌えたというか、本当に幸せなレコーディングでした。
──歌声からもそれは伝わってきます。今回のアルバムにおける新曲の歌詞は全体として必ずしも愉快なものではありませんでしたが……。
確かに、愉快ではない(笑)。
──「愛の名が響く場所」は祝福と感謝にあふれていますね。
本当にそうですね。この曲はライブの終盤かアンコールで歌ったらすごく映えるんじゃないかと思います。早く皆さんの前で歌いたいですね。
──歌詞の話をもう少し引っ張ると、このアルバムでは既存曲を含む全12曲中、「魔女ノ策略」と「Reverse-Rebirth」、「月夜見Moonlight」(シングル「やさしさの名前」カップリング曲)の3曲を除くすべての曲で「僕たち」「君」「みんな」という言葉が用いられています。そこに鈴木さんとファンとの関係性が表れているというか、鈴木さん自身がそのことに対して自覚的なのかなと思ったのですが。
うんうんうん。ただ、私がそういう言葉を入れてくださいとお願いしたわけではなくて、愛奈チームの皆さんや作家さんが察してくださったんじゃないかなと思っていて。最初のほうでお話ししたように、このアルバムでは私の本心を見せているんですけど、例えば感謝の気持ちですとか、そういう“きれいな部分”も嘘偽りのない私の素直な気持ちなんです。それを、私が言わずともチームの皆さんに汲み取っていただけたというのも、すごくうれしかったですね。
──さて、もうすぐ今年も終わってしまいますが、最後に2021年の総括と2022年の展望をお聞きしてよいですか?
今年は、去年に引き続きコロナ禍ではあったんですけれども、その中でツアーをやり切るというのを目標の1つにしていたんです。そのツアーをやり切ったことで、それ以前よりも自分の意志を自分の言葉でしっかり言えるようになったという、大きな変化があった年でした。来年は、まだ状況がどう転ぶかわからない部分はありますけど、少しずつ皆さんにお会いできる環境が整ってきてはいるので、よい方向に転がることを期待しつつ、今言った自分の意志やこのアルバムで表現した本当の自分というものを直接皆さんにお届けしていきたいです。率直に言えば、もっとライブがしたい。願わくば、そこで皆さんの声をたくさん聞きたい。それは本当に、デビューしてからずっと思っていることなので。
──ですよね。「祭リズム」(アルバム「ring A ring」収録曲)の「ソーランソーラン」といった掛け合いなども、声出しでやりたいですよね。
そう! 声出しNGでも十分盛り上がる曲ではあると思うんですけど、やっぱりライブで披露するとなったら、皆さんの声が加わって初めて完成する曲と言っても過言ではないので。仮にそれがすぐには叶わなくても、これからも皆さんと一緒にたくさんのライブを作っていきたいです。
プロフィール
鈴木愛奈(スズキアイナ)
1995年7月23日生まれの声優 / アーティスト。高校時代に「全日本アニソングランプリ全国決勝大会」でベスト3入りを果たしたほか、数多くの民謡全国大会にて優勝の実績を持つ。2014年にテレビアニメ「アカメが斬る!」メズ役で声優デビュー。2015年に「ラブライブ!サンシャイン!!」の小原鞠莉役として、スクールアイドルグループAqoursの活動を開始した。2020年1月に1stアルバム「ring A ring」でランティスよりソロアーティストデビュー。9月に1stシングル「やさしさの名前」、11月に2ndシングル「もっと高く」を続けて発表した。2021年2月よりライブツアー「Aina Suzuki 1st Live Tour ring A ring - Prologue to Light -」を開催。12月に2ndアルバム「Belle révolte」をリリースした。