どこまで“鈴木愛奈”を出して歌うか
──ここからはニューシングルについて伺います。表題曲「もっと高く」は、鈴木さんも四葉幸与役で出演されているアニメ「いわかける!」のオープニングテーマです。ポップでさわやかな、王道的なアニソンに仕上がっていますね。
今回、初めてオープニングテーマを歌わせていただけることになりまして。1stアルバムに収録されていた「ヒカリイロの歌」(テレビアニメ「はてな☆イリュージョン」エンディング主題歌)と、1stシングルの「やさしさの名前」(2020年9月発売 / テレビアニメ「モンスター娘のお医者さん」エンディング主題歌)でエンディングは歌わせていただいたんですけど、“アニメの顔”とも言われるオープニングということで、エンディングのときとは違う気合が入りました。
──「もっと高く」の歌詞は「いわかける!」という作品に沿うように書かれていると思いますが、鈴木さんご自身と重なる部分はありました?
すごく、ありました。もう頭サビの「もっと高く高く 手をのばしてみたい 目一杯 この道 信じて たどり着くまで」から、それこそ高校生のときにアニソンシンガーになりたくて、手探りでもがいていた自分が見えたり。2番のAメロの「言葉も落ちた夜 隅っこでたてひざ抱えて」も、オーディションに落ち続けて「私、歌手に向いてないのかな……」って落ち込むことがすごく多くて、そういうときは私も隅っこに行きがちで。そこですんすん泣きながら「でも、やっぱり歌いたい」と思っていたり。
──なるほど。
あとDメロの「闘うべき相手は 昨日の自分」も、本当にその通りだなと。誰かを目標にすることはすごくいいことなんですけど、結局その目標に届くためには自分の弱さに勝つことだと常に思っているので。
──めちゃくちゃ共感していますね。
ただ、そうやって自分とリンクする歌ではあるけれど、一番大事にしたことは、やっぱりアニメ「いわかける!」のオープニングテーマとして歌うことでした。主人公の笠原好をはじめとする花宮女子高校クライミング部の子たちが、物理的にも精神的にも上を目指して、何度もくじけながらも成長していく。その姿を私も幸与ちんを演じながら見ているので、彼女たちの強い意志を歌に込めさせていただきました。
──アルバムでノンタイアップ曲を歌うときとはアプローチの仕方が違うわけですね。
はい。実は「もっと高く」は歌い方にすごく迷った部分があって。この楽曲で普段通りに自分の民謡的要素を出して歌ってしまうと、作品の持つ元気さやさわやかさが損なわれてしまうんじゃないかと思ったんです。とはいえ、ただストレートに歌うだけだったら鈴木愛奈が歌う意味がないので、どこまで自分らしさを出すかみたいな配分をすごく考えました。
──そのお話ぶりですと、鈴木さんは事前にボーカルプランを練るタイプですか?
自分の中でプランを組み立てたうえで本番に臨むタイプですね。もちろん、それに対してプロデューサーさんがどう判断するかで現場での対応も違ってくるんですけど、いつも「どういう気持ちで歌えばいいか」という部分はしっかり作っておく感じです。
──「もっと高く」のミュージックビデオは無観客の横浜アリーナが舞台になっていて、鈴木さんもTwitterで「私の憧れの場所……!! いつか絶対立ちたいステージ!!」とツイートされていました。
アニソングランプリに話が戻ってしまうんですけど、もしアニソングランプリで優勝できていたら、翌年にアニソンシンガーとして横浜アリーナでライブができたんです。でも、本当にあと少しのところでそれを逃してしまったので、今でも悔しい思いが残っていて。いつかソロで横浜アリーナのステージに立ちたい。その目標に向かって今がんばってる途中です。
羽ばたいていかなきゃいけない
──先ほどコロナ禍は「自分を鍛え直すチャンス」というお話をされましたが、それをお聞きして、カップリングの「Cocoon」の歌詞の見方が少し変わりました。
そうなんですよね。私も最初に「Cocoon」の歌詞を見たときは「これは私自身のことだな」と。つまり自分はまだソロアーティストとしての道を歩み始めたばかりだから、もっと力をつけなきゃいけないというふうに解釈したんです。でも、レコーディング当日にプロデューサーさんとお話しして、実は「Cocoon」の歌詞は、今この状況下で、私も含めて身動きが取れなくなっている人たちがたくさんいるけど、その状況に対応していく力を身に付けて、そこから羽ばたいていかなきゃいけないというメッセージが込められていると気付きまして。私は自分のことしか考えていなかったので「アプローチが違ったな」と。
──現場でプラン変更を余儀なくされたと。
そうです。最初の声出しの段階からディレクションしていただきつつ、自分でも「ここはもうちょっと感情を込めてみよう」とか、改めてプランを練り直して。なので、普段のレコーディングよりも時間がかかった楽曲ではありました。
──「もっと高く」のボーカルは簡単に言えば明るくさわやかなボーカルでしたが、この「Cocoon」のボーカルは非常にシリアスですよね。その歌い分けも見事だなと。
ありがとうございます。「Cocoon」は世界観がガラッと変わるので、自ずと自分の気持ちも変わっていきました。私は事前にプランを組み立てるタイプではあるんですけど、やっぱりサウンドとかを体で感じて自然に出てくるものもあるのかなと。
──歌い分けに関して、声優であることの影響は感じますか?
歌い方の引き出しみたいなものは、声優をしているおかげで増えていると思います。「こういう歌い方もできるんじゃないか?」「次はこうやって歌ってみよう」みたいな選択肢が自分の中にあるし、そこから選んだものに対して、プロデューサーさんたちが「さっきのもよかったけど、今のいいね」とおっしゃってくださるので。
意志を貫き通すような楽曲が多い
──鈴木さんの引き出しの多さは1stアルバムでも十分に感じられました。メタルとソーラン節のミクスチャーと言えそうな「祭リズム」や「玉響」では民謡的な歌唱スタイルがハマっていましたし、他方で「アイナンテ」のようなキャラソン的なエレクトロポップもあり、実に多彩で。
実は、「アイナンテ」はアルバムの中で一番アプローチを考えた楽曲と言っても過言ではないです。このアルバムでは「遙かなる時空-そら-を翔ける 不死鳥-とり-のように」や「Butterfly Effect」や「antique memory」のようなアーティスティックな楽曲が並んでいるんですけど、プロデューサーさんは「そういう楽曲は、もしかすると鈴木愛奈を遠くに感じさせてしまうかもしれない」とおっしゃっていて。だから唯一のかわいい楽曲である「アイナンテ」では、等身大の鈴木愛奈として「私はここにいるよ」というのを表現する必要があったんです。でも、それがなかなか大変でした。
──どうやって答えを出したんですか?
歌っていく中で「こうかな? こうかな?」って、とにかく正解が見つかるまで片っ端から引き出しを開けていく感じだったと思います。
──今「Butterfly Effect」という曲名が出ましたが、「Cocoon」の歌詞にも「羽ばたく Just Like Butterflies」というフレーズがあります。鈴木さんにとって、蝶は重要なモチーフだったりします?
いや、特にそういうわけではないです。でも歌詞の傾向でいうと、それこそ「Butterfly Effect」とか「月夜見Moonlight」(「やさしさの名前」カップリング曲)のように、強い意志を持った「僕」が、その意志を貫き通すようなものが多いですね。
──今おっしゃった「月夜見Moonlight」は1990年代後半から2000年代初頭ぐらいのJ-POP感、もっと言えば当時のエイベックス感がありますよね。
確かに。
──その雰囲気は「Cocoon」にも引き継がれていると思ったのですが、こういうタイプの楽曲はお好きなんですか?
大好きです。「月夜見Moonlight」も「Cocoon」も最初にデモを聴いたときから「めっちゃカッコいい!」と思いました。
──そうした好みは制作チーム内で共有している?
そうですね。「こういう楽曲が好きです」というのはお伝えし、「じゃあ、次シングルのカップリングで挑戦してみようか」みたいな感じで反映していただいています。
──逆に、苦手意識を持っているジャンルなどはありますか?
特に苦手意識を持っているものはないのですが、強いて言えばアイドル系の楽曲かな。曲調とか楽曲の雰囲気とかは大好きなんですが。
──あれ? 鈴木さんはスクールアイドルをやっていませんでしたっけ?
スクールアイドルをやらせていただいて、いつも「シャイニー☆」と言わせていただいてるんですけど(笑)。Aqoursの小原鞠莉としてだったら大丈夫なんですけどね。
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皆さんの気持ちに応えられる歌を歌いたい