Suspended 4th「KARMA」インタビュー|今こそ“刺さる音楽”を

Suspended 4thが4月20日に1stシングル「KARMA」をリリースする。

Suspended 4thは2019年7月にPIZZA OF DEATH RECORDSから1stミニアルバム「GIANTSTAMP」を発表。愛知県名古屋市栄を拠点としたストリートライブで養ってきた経験を武器に、全国区へとその名を知らしめた。しかし2020年に入り、コロナ禍の影響を受けて思うようにライブ活動ができない状況に。だがステージの光を浴びる機会が減っている間も、彼らは虎視眈々と爪を研ぎ続けてここまで活動してきた。

音楽ナタリーでは1stシングル「KARMA」のリリースを記念して、メンバー全員にインタビュー。約2年9カ月ぶりのフィジカル作品である「KARMA」の仕上がりや、大舞台に立つ機会の増えてきたサスフォーの近況を聞いた。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 藤川正典

2019年に飛躍するも2020年に現れたコロナ禍の壁

──Suspended 4thが初の全国流通盤となる1stミニアルバム「GIANTSTAMP」をリリースしたのが、2019年7月のこと。その年には全国ツアーも成功させ、いい感じに勢い付いたところで2020年に突入したと思います。

Kazuki Washiyama(G, Vo) そうですね。2019年は「俺たち、すげえ調子いいな!」と思っていたんですけど、それが2020年に入ってからコロナのせいで急に終わって、何が起こっているかもわからない感じでした。それで、バンドの動きが止まり、メンバーと会う機会もなくなり。

Suspended 4th

Suspended 4th

──その時期は皆さん、どう過ごしていたんですか?

Dennis Lwabu(Dr) 僕は家と近くの喫茶店を往復する毎日でした。そこのマスターのおじさんがピアノを弾ける人で、「君、ドラムをやっているんだったら一緒にやろうよ」みたいな感じで、喫茶店の営業終了後に2人でセッションしていました。

Seiya Sawada(G) 2020年はフェス出演も決まっていたのがなくなり、しかも一気に全部終わりじゃなくて徐々に、引っ張って引っ張ってなくなる。それが定期的にやってきて、ちょっとずつダメージが増えていく状態だったので、気を紛らわすために仕事を淡々とやっていました。

Hiromu Fukuda(B) 僕は何か自分にできる活動をと思ってYouTubeを始めて、真面目に動画を上げ続けていました。仮に僕がコロナ期間中に有名になれたら、コロナが明けたときバンドにいい影響があると思い、地道にインターネットを通して発信していました。

──そんな中、2020年5月に「Streaming Musician Summit」と題した音楽配信チャンネルを立ち上げます。これは有観客ライブの代替えとしての無観客ライブ配信というわけではなく、新しい表現の場という印象を受けました。

Washiyama ずっと何もできない状態だったので、配信ライブというものを通してそのシーンでのパイオニアになれたら、バンドのためにも、もっと言えば音楽業界のためにもなるのかなと思って、誰にも相談せずに個人的に立ち上げたんです。それこそ「STREET MUSICIAN SUMMIT」と同じようなテンションで、いろんなバンドを巻き込んで、ライブハウスに仮想空間を作ることを目標にやっていました。

──サスフォーとしては工場やストリート、あげくに山中から配信するなど、いろいろ趣向を凝らしていましたよね。

Washiyama 「Streaming Musician Summit」を通して音響チーム的にも映像チーム的にもやれることを増やして、コロナが明けたときに備えようぜってことでの挑戦みたいな感じでしたね。最初は工場から配信したんですけど、それは本当にいろんな人が力を貸してくれて、自分の力じゃオファーできないような映像チームが来てくれたりしたんですが、じゃあそれを自分たちの内々でできるのかという挑戦の集大成が山からの配信でした。

──サスフォーのライブスタイルは、ストリートやライブハウスでお客さんをどんどん巻き込んで、互いに熱量を高めていく印象があります。無観客配信というお客さんがいない状況、もちろん画面の向こうには観ている人がいるわけですが、演奏しているときのモチベーションはどういったものだったんでしょう?

Sawada 僕は最初、シンプルに音を出せることがうれしかったですね。エレキギターをアンプにつないで、大きい音で弾く。しかも、誰かが聴いてくれているという状態が、シンプルに楽しくて。

Washiyama スタジオにもずっと入ってなかったもんね。

Sawada だから、根源的な「音楽って楽しい!」というマインドに立ち返れた瞬間でもあったかなと。

Fukuda 確かに。初配信の頃は観ている人がどうという意識は、あまりしていなかったかな。家ではもちろん練習していたんですけど、やっぱりアンプから体に伝わる低音だったり、バンドメンバーとひさしぶりに会って音を合わせることを純粋に楽しんでいた感じですね。

Dennis 最初の配信のときは半ば引退していたぐらいの気持ちだったので、再び出勤かぐらいの感覚というか(笑)。スタジオジブリの宮崎駿さんが作品を出すごとに「引退する」と言っているじゃないですか。その宮崎さんの感覚ってこうなんだろうなと思いながらやっていました。

Washiyama その引退してから復活する感覚を、どのアーティストもこの期間に味わったんじゃないですかね。だから、コロナを経て発表された最近の新曲を聴くと、みんなちゃんとレベルアップしていて、考え方や価値観が変わったことが音に表れているんですよ。

──サスフォーは2021年の「もういい」以降、新曲配信を続けてきましたが、コロナ禍での生活が及ぼした影響が反映されている?

Washiyama 「もういい」は2020年にレコーディングした曲なんですけど、書き始めたのも完全にコロナの期間。これまではストリートやライブハウスという、オーディエンスがいる場所でライブをして、そこからインスピレーションを得て曲を書いていたんですけど、そういうことがまったくできないから、その頃は何を書いていいかわからなくて。お客さん主体というか反応に応じて曲を書いていたんだなということがひとつわかったんですけど、それがわかったとはいえ書けない。そこで、自分の思っていることを1回素直に書いてみようかと思ってできたのが「もういい」なんです。でも、あんまりしっくりこなかったというか。

──というのは?

Washiyama 言いたいことは言えたし、その言いたいことに合わせた演奏もできているとは思うんですけど、どうしてもお客さんがいるビジョンが見える曲じゃないというか。ちょっとアーティスティックになりすぎていて、そこに違和感がある制作だったと思ったんです。しかも、メンバーともスタジオにあまり入れない状態だったので、楽曲をそんなに合わせることもできなくて。普段はストリートで演奏しながらその曲を強くしていくんですけど、そういう工程も一切なかったので、あまり手応えを得られる制作ではなかったですね。

Kazuki Washiyama(G, Vo)

Kazuki Washiyama(G, Vo)

2021年に見出した活路、豪華競演の数々

──2021年以降に少しずつ有観客ライブが実現したことは、それ以降の曲作りに変化を与えたのではないでしょうか?

Washiyama そうですね。中でも一番大きいのは、競演させてもらえるバンドが規模の大きい方々ばかりだったこと。すごくいい経験になったと同時に、2019年を振り返って「あの頃はすごく調子に乗っていたんだな」と反省した1年でもありました(笑)。特に、Fukudaくんの周りの人間関係がかなり変わったよね。

Fukuda そうですね。例えば、僕らが中学生の頃に画面越しで観ていた方々と競演させてもらえる機会が増えて、そこからのつながりで一緒に食事に行ったりと、僕の身の回りの関わる人たちがめちゃくちゃ変わった感じがして。

Washiyama それがいい効果を生んでいるというか、バンドに還元されている気がするよね。

Fukuda 仲よくなっていくことによって、そこから「何か一緒にやろうよ」という話も上がりますし、ありがたいですよね。

Hiromu Fukuda(B)

Hiromu Fukuda(B)

Washiyama だって、IKUOさん(Cube-ray、BULL ZEICHEN 88、Rayflower、The Choppers Revolutionなどで活躍するベーシスト)と何か一緒にやるなんて、2019年には考えられなかったし。

Fukuda IKUOさんは2021年10月の「October Junkies Tour」追加公演にゲストとしてお声がけして。そうしたら、二つ返事で快諾してくれて、本当にうれしかったですね。

Washiyama ああいう大御所たちの音を目の当たりにすると、今までの自分たちの音が全然まだまだだったことに気付かされますね。それによって書く曲も変わるし、やりたいことのスタンスも変わってくるし。

──それこそ、昨年12月にはSiMとの対バンに加え、MAN WITH A MISSIONの全国アリーナツアーのゲストとして大阪城ホールのステージにも立ちました。

Washiyama マンウィズとかSiMとか、フェスでの話題をかっさらっていくようなバンドと一緒にやらせてもらったことで、まず俺らが出している音がストリートの規模感の音で、ちょっとクラシカルな音像で挑んでいたことに気付かされたし、ステージがデカくなればデカくなるほど現代の音に近付いていって、そうしないと伝わり切らないことにも気付かされた。かなり葛藤したよね。

Dennis 本当は僕、バスドラにマイクを立てないでほしいぐらいなんですけど、どうしても低音くださいっていう環境なので……。

Sawada 仕方なく、と折れてくれて、バスドラにマイクを差すために穴を空けてくれたんです。それって、Suspended 4thというバンドとしてはすごい進歩だよね。

Dennis コロナ以前の僕だったら、そんなことを言わせもしない空気感だったと思う。

Sawada そこはいい方向に作用したよね。

──世の中の状況的にはあまりよろしくはなかったけど、バンドとしては決してマイナスなことばかりじゃない2年だったと。

Washiyama プラスにはなりました。ただ、2019年のまま調子に乗れたら、それもそれでよかったかなとも思います(笑)。ずっと尖った状態でいくという、そういう未来も見てみたかったです。

結成時の音源をリアレンジした「KOKORO-DOROBOW」

──そういう期間を経て、フィジカルとしてはひさしぶりとなるのが今回の1stシングル「KARMA」です。収録されている2曲のうち「KOKORO-DOROBOW」は初期から存在する楽曲で、2020年末に通販限定でリリースされた無観客一発録りライブCD「BECAUSE IT'S 2020」にも収録されていました。

Washiyama 結成当初にSawada氏と作ったデモCDの中の1曲で、古い曲の多くは最近やっていないんですけど、これは唯一と言っていいぐらい生き残っていて。お客さんからも「正式にレコーディングしてほしい」という声が挙がっていたんですが、今回リアレンジした形でレコーディングできたので、すごく手応えがあります。

Dennis ドラムに関してはもう、好きなだけ音を入れてやろうって感じ。疾走感のある曲なので、外で軽くジョギングしてきて、そのままドアを開けてスタジオ入りして演奏したぐらいの空気感を出したくて、そこを意識して演奏しました。

──中盤、スウィングするようなビートにテンポチェンジしますが、そこでテンションが落ちることもなく、アッパー感をキープしながら楽しめました。

Washiyama だって一番得意なことだもんね、ああいうスウィングは。

Dennis 歌詞も物語調になっていて、曲が進むにつれていろいろ展開していくので飽きないアレンジになっているし、それが疾走感を生み出しているんじゃないかなと思います。

Fukuda ベースに関しては、フェスや城ホールのような大きな会場でのライブを経て、音作りの考え方がすごく変わったんですね。今まではローがあまりないと言われ続けてきて、そこがネックでもあったんですけど、今回は足元のエフェクター類を変えて、プレイのフレーズに関しても既存のものに新たな要素をプラスしていて、ベースとしての役割をちゃんとこなせるようなロー感が出せているんじゃないかな。かつ、スウィングパートに関してはエロく弾くという。今まではわりと平坦で、均一感のある弾き方ですけど、ここではダイナミクスの差を埋めるような弾き方に変えました。

Sawada 僕は、逆にフレーズについてはあえて変えずに、そのまま弾くことに徹していて。その一方で、昔から知っている人たちが聴いたときに、フレーズ自体は変わっていなくても「あれ、変わった?」と感じてもらえるようなプレイも心がけました。

Washiyama ギターソロが全然違うじゃん。

Sawada ギターソロは、そのときのフィーリングで弾いているんです。昔よりもどんどん弾けるようになっているので、今回もほぼ一発録りで、そんなにテイクを重ねていない。ドラムもベースもそうなんですけど、全体的に楽器隊のレベルが上がっているので、昔の音源と比較したらそのレベルの違いを楽しめるんじゃないかな。

Washiyama 俺のギターソロは、スウィングしているときに裏で鳴っているフレーズ。今回はインストバージョンも入るので、歌の裏で鳴っているソロをぜひじっくり聴いてほしいですね。