東京都が推進する「SusHi Tech Tokyo」プロジェクトをご存知だろうか。これは“テクノロジーの力でサステナブルな未来を作る”という理念を掲げた取り組みの総称で、都市課題の解決に向けたさまざまなアイデアや具体的な施策を国内外に広く発信していくというもの。行政や企業での取り組みはもちろん、一般向けのイベント開催なども含まれる包括的なプロジェクトだ。
そんな「SusHi Tech Tokyo」のコンセプトおよびネーミングに感銘を受けたシンガーソングライターのピコ太郎が、このたび同プロジェクトのCMに出演。映像の中で、彼は自身最大のヒット曲である「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」を下敷きにしたコラボレーション楽曲をご機嫌な様子で披露している。音楽ナタリーではそんなピコ太郎にインタビュー。2016年の発表以来、長きにわたって愛され続ける「PPAP」というサステナブルな代表曲を持つ彼は、都の取り組みをどんな目線で見つめているのか、じっくり話を聞いた。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 山崎玲士
「SusHi Tech Tokyo」は、前述の通り持続可能な都市を高い技術力で実現していく取り組みのこと。その理念を体現するひとつの形として、今年4月27日から5月26日にかけて「SusHi Tech Tokyo 2024」と銘打った大規模なイベントが東京ベイエリア一帯にて開催される。同イベントのPRも兼ねつつ、「SusHi Tech Tokyo」という名称そのものの認知向上を目的に制作されたのが、ピコ太郎を起用した今回のCMだ。
そもそも「SusHi Tech」とは、“Sustainable(持続可能な)”と“High Technology(先端技術)”という2つのキーワードを掛け合わせた造語。この発想は、ピコ太郎が代表曲「PPAP」の中でペンとアッポーを掛け合わせてアッポーペンを生み出すロジックと図らずも酷似している。そんな運命的なシンクロニシティを最大限に生かし、CM映像にはペンの代わりに“Sustainable”を、アッポーの代わりに“High Tech”を携えたピコ太郎がこの2つを「Uh!」することによって「SusHi Tech」を作り上げる様子が収められている。また、冒頭部分では逆に「SusHi Tech」をその2つの要素に分解できることをも示唆しており、初見の人が例外なく直面するであろう「まず“SusHi Tech”って何?」という素朴な疑問に快刀乱麻の回答を提示。観る者に直感的な理解を促す映像作品に仕上がっている。
この映像の撮影は3月某日、東京都内のスタジオにて行われた。演出意図を的確に汲み取りつつも要所にアドリブで小ネタを挟んでいくピコ太郎のパフォーマンスがほがらかなムードを醸成し、終始笑いの絶えない現場で撮影は順調に進行。そんな撮影の合間に彼を直撃し、今回実現した「SusHi Tech Tokyo」と「PPAP」のコラボレーションについて大いに語ってもらった。
「面白い」と思えるかどうかが大事
──まずは今回、ピコ太郎さんが「SusHi Tech Tokyo」とのコラボレーションを引き受けた理由を聞かせてください。
基本的に、いただいたお話はあまり断らないんですピ。出されたものは全部食うタイプなので“ボラ”と言われていますけども(笑)。それに加えて楽しそうだなと思いまして。だって「“Sustainable”と“High Tech”で“SusHi Tech”です」って、変じゃないですか(笑)。私自身の存在が変だと思うので、そういう変なものはもうやらざるを得ないというか。
──なるほど(笑)。共鳴するものを感じたわけですね。
あとはもちろん東京を拠点に活動している身として、この東京という街は未来永劫あり続けてもらいたいですし、みんなの希望の都市であってほしいですから。その「コンセプトが素晴らしいな」というのと「変で面白そう」というのが、いい具合に「Uh!」ってなった感じですねピ。
──ペンとアッポーのように。
そうです。と言っても僕は政治家じゃないので、コンセプト云々の理解はあとからなんですよ。やっぱり「面白いな」と思えるかどうかがまずは大事。きっと、その「面白いな」というものこそがみんなに伝わるんだと思いますピ。それ自体がどんなに素晴らしいものであっても、伝わらなければゼロに等しいので。
──確かにおっしゃる通りですね。しかも、それを伝えるうえでピコ太郎さんの力を存分に発揮できる企画内容ですし。
そうですね。僕は基本的に「A+B=AB」しかできないので、その部分がバッチリ合致したというのは大きいです。ある意味、僕の唯一の特技を生かせるお話だなと。何よりも、この「SusHi Tech」というネーミングの素晴らしさですよね。“スシ”も“テクノロジー”も世界で知らない人がいないほどの言葉だし、簡潔だから1秒で伝わる。そこから「え、何?」っていうふうに関心を得られていくものだと思うんで、これはちょっといい名前を思いついたなあと感じていますピコ。
──「SusHi Tech Tokyo」の“テクノロジーによってサステナブルな未来を作る”というコンセプトについて、どんな印象を持たれたのかもう少し詳しく教えてください。
ちょっと私、難しいことは……(笑)。プロデューサーの古坂(大魔王)さんは真面目な番組もやっていたりするんで、そういう話にも詳しいんですけどね。なので僕自身が話せることはそんなにないんですが……ただ、僕たち人間は基本サステナブルだと思うんですピ。
──基本サステナブル!
ええ、遺伝子情報をつないでいくという意味では。何十万年とサステナブルにつながってきた人類の歴史の中で、本来であれば100年かかっていた進歩が、知恵を使うことで70年で実現できるようになり、50年で実現できるようになった。それは人類にとってうれしい、楽しいことですよね。そのためにはテクノロジーというものは絶対に必要だと思いますピ。そんな中、僕らの若い頃は「実現のために24時間戦おう!」と無理くり回していくような感じがあったんですけど、自然にやって自然に進んでいくというのがサステナブルなのかなと。
──無理をするとどこかに歪みが生じて、結果サステナブルとは正反対の結果を招きがちですもんね。
古坂さんのところに5歳と3歳のお子さんがいらっしゃるんですけど、彼は「子供が生まれた瞬間に未来を感じるようになった」と言っていましたね。以前までは「自分が死んだあとのことなんてどうでもいい」と言ってたんですけど、今は子供たちが生きる未来のことをちゃんと考えるようになったみたいですピ。そんなふうに身内の幸せを考えることが地域の幸せにつながり、そこから国の、世界の、というふうにつながっていくんだと。そういう意味では、「SusHi Tech Tokyo」のコンセプトには僕よりも古坂さんのほうが切実に共感しているかもしれませんね(笑)。
心の伝播はサステナブルですんで
──ピコ太郎さんは音楽活動の中で、例えば曲作りの際にサステナビリティを意識したりはしますか?
意識はしないですピ。いいものさえ作れば……もちろんアンサステナブルなものは作ったらダメですけど、心の伝播はサステナブルですんで。実は先日、古坂さんがある小学校を訪れる機会があったんですね。1年生から6年生まで全校生徒が集まったところでお話をしたんですけど、1年生まで含めて全員が「PPAP」を知っていたんですよ。8年前の曲ですよ?
──1年生はまだ生まれてもいないですね。
そうなんです。つまり、ある程度響けばおのずとサステナブルになる、ということなのかなと。サステナブルは結果なんです。作るときにそれを狙うのではなく、あとから振り返ったときにサステナブルだったらいいなっていう考え方ですねピコ。
──では、曲作りの際に一番意識するのはどういうポイントでしょうか。
基本は、いつも言ってるんですけどファーストインプレッションで笑ったもの。「PPAP」も、歌詞を書こうと思ったときにペンがあったからなんの気なしに「アイ・ハブ・ア・ペン」って言ったら、一緒に作業していた作家さんが笑ってくれたんですよ。で、古坂さんは青森出身なんでそこにリンゴもあったんですね。それで「アイ・ハブ・アン・アッポー」って言って、なんとなく「Uh!」ってやったらみんなが笑ったっていう。「何それ?」「アッポーペン」って言って笑った。だからあれ、45秒の曲を45秒で作ったんですピコ。
──おお、名曲誕生エピソードとしてたまに聞くような話ですね。
多くの人はそれをもとに作り直すんですけど、得てしてこねくり回すことで最初にあった核の部分が薄まってしまいがちなんですピ。なのでうちはファーストインプレッションを“神”と捉えて、不可侵なものとして扱います。もちろんアレンジとか細かい部分の調整はしますけども、「最初にこれで笑った」という原型は絶対に変えない。ちょっと特殊なやり方ですけども、感情の、特に笑いの部分というのは、その瞬間に感じたことがすべてだと思うので。
──「PPAP」がこんなにも長く愛されると予想していましたか?
世界で一番予想していなかったのが僕だと思いますピ。きっとね、いじりやすいフォーマットだったことがたまたまハマったんでしょうね。「AがあってBがある」→「Uh!」→「AB」というだけのことなんで(笑)、みんながそれぞれの「PPAP」を作りやすいっていう。
──何を入れても成立する、容れ物としての強度が高いってことですよね。
何かと何かをくっつけるって、イノベーションなんですよ。イノベーション、つまり新たな価値を生み出すことの快感を、「PPAP」をいじることでみんなも感じてくれたんだと思っています。これは完全に後付けの理屈ですけど(笑)。誰かがそんなことを言ってるのを聞いて「そ、それです!」って言いましたピ。即ライドオンしましたね。
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