自分が作った歌を客観的に歌える日が来るかもしれない
──アルバムには本当にさまざまなタイプの楽曲が収録されていますからね。どんなアプローチをも恐れずトライして、それをすべてSuperflyとして昇華させている感じがあります。
もともと“ロックアーティスト”みたいにカテゴライズされることがイヤなので、いろんなジャンルをごちゃ混ぜにしたいんです。そのうえで今回は自分の“0”の状態をちゃんと認識できていたから、自分なりのジャズとか、自分なりのカントリーロックとか、そういうものに挑戦しやすかったような気がします。ジャズなんかはあくまでSuperfly流のジャズではあるんですけど、でもやっぱりポップスを歌うのとは感覚が違っていたのが面白かったです。リズムの取り方、間の取り方がロックやポップスとは全然違っていて、1小節の中の自由さをすごく感じることができて。そういう部分は今後、ポップスをやるときに取り入れてもいいかもしれないなと思いました。
──「Fall」がジャズっぽい雰囲気になったのは、「8ビートで時を刻むように進んでいく曲がイメージできなかったから」と以前おっしゃっていましたよね。
そうなんです。時を刻まないでほしいという反抗期のような時期がありましたから(笑)。それって要は、先ほどお話ししたアカペラの気持ちと同じなのかもなと今は思います。楽器が入る曲であっても、その日そのときのバンドと私の呼吸で演奏できるのがベストですから。今回はアルバムの全曲にそういう呼吸がちゃんと込められたかなとは思いますね。
──では、作詞に関しては何か変化を感じる部分はありますか?
Superflyの場合、「応援歌を作ってほしい」というご要望をいただくことがすごく多くて。今回もいくつかそういったタイプの曲が入っているんですけど、その書き方が少し変わったかな。今まではわりと聴き手を鼓舞するストイックな内容が多かったんです。でも今は“肯定力”を描いた歌詞が多いような気がします。私自身、お休みをしていたときに自分をもっと肯定したいと思ったし、肯定してあげることで強くなれることも知ったので、みんなにもそういった肯定力を持ってほしいなって。拳を強く突き上げて応援するのではなく、包み込みたい気持ちが今は自然と出ているのかもしれないですね。
──そういった思いが歌声にもしっかり表れた曲も多いですよね。「Ambitious」や「フレア」なんかは、すごくナチュラルな歌声で聴き手を癒してくれます。
そこは「Ambitious」のアレンジを手がけてくださった島田(昌典)さんからのアドバイスが大きかったと思います。私の場合、ついエモーショナルに歌いすぎる過剰演出をしてしまいがちなんですよ(笑)。でも島田さんが「もっとナチュラルでいいよ」とおっしゃってくれたことで、スッと力を抜くことができたんです。なので、そのあとに録った「フレア」でも過剰演出せずに済みました(笑)。曲によってはそういう歌い方をしたほうが聴きやすい、届きやすいものもあるんだということに改めて気付きましたね。
──過剰演出してしまいがちというのは、Superflyに求められているものに応えようという思いがあるからなんですかね?
と言うよりは、自分の思いが曲に入りすぎてしまうからだと思います。その曲に、その主人公に入ろう入ろうという気持ちがどうしても強くなってしまうから、たまに歌えなくなるくらい考えてしまうこともあって。「フレア」なんかにしても、サウンドで明るい印象にはなっているけど、すごく孤独な主人公を描いたものだから、そっちにフォーカスして歌うことも全然できてしまうんですよ。
──なるほど。感情を思い切り込めた歌い方でもアリなわけですよね。
そうなんです。でも今回は島田さんからのアドバイスもあり、心の奥底にある感情に寄せるのではなくて、あえて明るく歌ってみようと思いました。そうすることで奥にある気持ちがジワジワ伝わることにもなるんじゃないかなって。表現としては難しいんですけど、そういったアプローチもあるんだなと発見できました。
──ご自身で詞曲を手がけた曲だと必然的に思いが強くなってしまうところもありそうですからね。歌の表現のバランスはかなり難しそうです。
今回は「Bloom」だけが蔦谷(好位置)さんに作っていただいた曲なんですけど、やっぱり自分が作った曲とは歌い方が違うんですよ。「Bloom」はシンガーとしてしっかり向き合って歌えている印象があるんですが、ほかの曲は感情のコントロールがすごく難しかったです。「Lilyの祈り」なんかは、ツアーでずっと歌っていたことで音源以上にどんどんエモーショナルな歌になってますし(笑)。ただ、ここから何年か経ったときに、ちょっと客観的に歌えるようにもなるのかなと思ったりもしていて。自分で作った曲を、「Bloom」を歌っている自分に近い感覚で歌えるときがくるのかなって。それがちょっと楽しみです。「どうなるのかな?」って。
女性の再出発と花がミツバチへ抱く思い
──アルバムには3編の新曲が収録されています。まずは「キレートレモン」のCMソングとして流れている「サンディ」が満を持して音源化されています。
これは応援歌としてオーダーをいただいて書いた曲ですね。朝にたくさん流れるCMだと聞いていたので、出勤するときの歩幅を意識しながら、行進曲みたいなイメージで作っていきました。ただ、応援歌として書くにあたって、「誰を応援すればいいんだろう?」ってすごく悩んでしまって(笑)。そのときに、再出発をしようとしている友人のことがパッと浮かび、CMのテーマである「さあ、ここからだ」という気持ちで後押しできる曲にしたいと思いました。
──続いては、ライブでも披露されていた「Lilyの祈り」。これはライブのバンマスであるギタリスト・八橋義幸さんと共にアレンジされた楽曲ですね。
制作の最後から2番目に作った曲ですね。それまでにエレクトロな音が入ってきたり、複雑な構成の曲が増えてきたりもしていたので、ここではシンプルに、人力だけで演奏できる楽曲を、信頼できるミュージシャンの方と一緒に作りたいなと思って。八橋さんとは私がデビューする前からの付き合いなんですけど、曲を一緒にアレンジするのは初めてだったんです。だから最初はうまくまとまるかなってちょっと不安だったんですが、細かくアイデアを出し合いながらすごくいい曲に仕上げてくださって。
──歌詞では“愛されたい思い”を肯定してくれていますね。
「愛を知らない」という一木けいさんの本に感激したことがきっかけでできた曲です。大人になると“愛されたい”と思うのは恥ずかしいことで、与える側にいかなければいけないんだという風潮があるじゃないですか。でも、愛されることは自分にとっての自信にもなるし、何よりも愛されているからこそ愛せるんだと思うんですよね。要は、“愛されたい”と思うことは生きるうえでの本能。そんなことを、ミツバチさんに見つけてほしいがために美しく咲き誇るお花を見たときに思ったので、歌詞はお花目線で書きました。
──花目線なんですね。
そうなんです(笑)。この曲では私のロック魂のようなものが入ったような気がしますね。デビューのときくらいの太い声が自分からぶわっと出てきたのがわかりました。生楽器の音の中で、自分の居場所を探すようにそういった声が自然と引き出されたのかもしれないですね。その感覚が面白かったです。
「Gemstone」でやっと夢が叶いました
──そしてもう1曲は「Gemstone」。ファンが待ち望んでいたであろう、Superflyらしいロックナンバーになっています。
エレガントな大人の女性が歌うロックを作りたいなと思いまして。パッと思い浮かんだリフから作っていったんですけど、ほぼ感覚だけで最後まで作り切りましたね。それほど時間をかけることもなく。
──「今の向こうは 次のフェーズ ゼロな私で 勝負したい」という歌詞が象徴するように、今の志帆さんの思いがストレートに注ぎ込まれていますね。
そうですね。結果として、このアルバムで私が伝えたいことを象徴する曲になりました。今までだったらもうちょっとストイックな表現をしていたような気がしますけど、自分を鼓舞するような。自分の意志みたいなものがストレートに入ったと思います。書いていてすごく楽しかったですよ。
──こういったサウンドはやっぱり似合いますよね。サビに向けて熱量を高めていくボーカルが最高だなと。
歌に関してはAメロがすごく気に入ってるんですよ。こういった低くて落ち着いた声って、若い頃はなかなか出なかったんですよね。でもちょっと年齢を重ねてきたことで、ローの効いた声が出るようになった。昔からずっとこういうAメロを持った曲が作りたかったので、やっと夢が叶いました! ライブで歌うのも楽しみですね。
自然が形を変えたモノを研究中
──Superflyの新章突入を実感させる作品が完成したことで、未来に向けた新たなビジョンは見えてきたりしていますか? 「Gemstone」の歌詞を引用するならば、今の志帆さんは“完全無敵”な状態のようですが。
あははは(笑)。最後にすぐそういうこと言いがちですよね、“完全無敵”とか(笑)。でも今の精神状態を保っていられたら、ここからも楽しみながら活動を続けていける自信はありますね。音楽を作ることの面白さも改めて感じられたので、いろいろな曲をたくさん作っていきたい。そのうえで、例えばタイアップする作品であったり、ほかのミュージシャンの方とのコラボであったりで、自分から生まれたものが磨かれて形を変えていくさまを見るのも楽しみですね。
──曲作りのために何かインプットしていることってあります?
最近の自分にとっての刺激は、器とか仏像のような“モノ”なんですよ。それはお洋服でも紙コップでもなんでもいいんですけど、それって要は自然のものの再生じゃないですか。それが面白いなと思うんです。基本的に私は自然の中にあるものから刺激を受けることが多いんですけど、今はその先で形を変えた“モノ”に興味があるという。先日もお寺に行って平安時代の仏像をじっくり眺めてきたんですけど、曲線がものすごく美しくて、「はあ」ってため息が出ちゃいましたね。今後、仏像の曲ができるかどうかはわかりませんけど(笑)、最近はそういった研究に忙しくしております。
公演情報
- Superflyプレミアム・ライブ
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- 2020年4月23日(木) 神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA [1st STAGE]OPEN 17:30 / START 18:30 [2nd STAGE]OPEN 20:30 / START 21:30