Superflyが約4年半ぶりのニューアルバム「0」を1月15日にリリースした。
「0」には、休養を経て新たな始まりを告げたシングル「Bloom」や、テレビドラマ「わたし、定時で帰ります。」の主題歌「Ambitious」、映画「プロメア」主題歌 / エンディングテーマとして書き下ろされた「覚醒」「氷に閉じこめて」、「第85回NHK全国学校音楽コンクール」中学校の部課題曲となった「Gifts」などのシングル曲に新録ナンバーを加えた全12曲を収録。ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を越智志帆自らが手がけ、これまでにも増して多彩な音楽ジャンルを飲み込んだ本作は、Superflyの新章を強く実感させる仕上がりとなっている。
フラットな心の状態を数字の“0”に込め、そこに秘められた無限の可能性を楽曲として紡いでいったという越智に、ここ数年での気持ちの変化からアルバム制作にまつわる話まで、じっくりと語ってもらった。
取材・文 / もりひでゆき
今までで一番笑ったアリーナツアー
──昨年9月から12月まで、アルバムのリリースに先駆けて「Superfly Arena Tour 2019 "0"」が開催されましたね。
今までで一番よく笑ったツアーでしたね。周囲の方からもそう言われました。バンドメンバーのみんなも楽しくやろうという気持ちを大切にしてくれていたので、ツアーの最後のほうはユーモアの追求みたいな感じになっていて(笑)。とにかく明るく楽しいツアーでした。
──約3年半ぶりのアリーナツアーに対してのプレッシャーはなかったですか?
始まる前は、体力が持つのかなという心配はありましたけど、実際ステージに立てば筋肉が思い出すというか、あんまりブランクは感じなかったです。ライブの内容に関しても、すごく気楽にできました。今回は映像を含めた演出についてもメンバーだと思っていたので、すごく安心感があったんです。それによって、すべてを自分が仕切らなきゃいけないというプレッシャーが少なかったような気がしていて。
──今回のライブでは「I Remember」をアカペラで披露されていました。ものすごく感動的なシーンでしたが、あの場面はさすがに緊張したのではないですか?
いやいや、アカペラもすごく気楽だったんです(笑)。だって、テンポもその日の感じでいいわけだし、誰に合わせる必要もないわけですから。止まりたければ止まればいい、やり直したければやり直してもいいっていう、あの自由さはものすごく心地よくて。つくづく私はソロアーティストなんだと思いました。協調性があるようでないんだなって(笑)。
──そんなことはないと思いますけど(笑)。
(笑)。アカペラは毎回「今日は喜びを感じながら歌ってみよう」とか「今日は孤独感を軸にして歌おう」とかテーマを決めて歌ったりもしていたんですよね。ちょっと風邪気味で鼻声だったときは、「じゃあもっと鼻にかけてセクシーに歌ってみよう」とかね。以前だったら歌い方を決め込んで、それを毎回再現していたと思うんですけど、今回はそのときどきの自分の感情の核となる部分を歌に乗せることができた。それも面白かったですね。
“0”はすごく幸せな状態
──ライブではツアータイトルとニューアルバムのタイトルに掲げた“0”という数字について、「今の自分の心の状態」だと説明されていましたね。
はい。完成したアルバムを見つめ直したときに、そこにはプラスでもマイナスでもないフラットな自分、心の状態が“0”の自分がいるなと思ったんですよね。その状態の自分に可能性がたくさんあるということにも気付けましたし。だからアルバムもツアーもタイトルを「0」にすればいいんじゃないかなと思ったんです。
──志帆さんが心を“0”の状態にできたのは、2016年7月からの休養期間が影響しているともおっしゃっていましたね。
そうですね。以前の私はけっこう落ち込みやすく、心の揺れがすごく激しかったんです。気持ちがマイナスになってしまったときには、それをプラスの状態まで持っていくためにものすごくがんばらなきゃいけないからけっこう大変で。そういうことを続けていると揺れがさらに激しくなったりもするし。でも、自分のペースで日々を過ごしていくと、だんだん本当の自分にちゃんと向き合うことができて、いつの間にか心の揺れが穏やかになってきたんです。「私ってよく笑うんだな」「実は面白いことが好きなんだな」みたいな、自分の本質がどんどん見えてきたというか。
──以前はそのことすら忘れてしまっていたわけですか。
はい。わからなくなっていたんですよね。実際は全然そんなことはないのに、「真面目でいなきゃいけない」と思い込んでいたりとか(笑)。でも、そんなふうに思う必要がないということが、スーッと自然にわかってきた。それで、フラットな心の状態には無限の可能性があるのではないかなとも思ったんですよね。自分の本質がわかっていることで自然と伸びていくものもあるだろうし、逆にがんばらなきゃいけないところも見えてきて。私の場合、“0”の状態だと自分の好きなものがたくさん見えてくることにも気付けました。要は、今がすごく幸せな状態なんだなと思えたんです。
歌だけではなくサウンド面も含めて
──そういった状態で音楽に向き合うことで、何か変化を感じる部分もありましたか?
自分にできること、できないことがあるんだとはっきり気付きましたね。アーティストとしてこうあるべき、こうあってほしいみたいな理想像は私の中にも、スタッフの中にもあるとは思うんです。でもそこにこだわるのではなく、フラットな状態の自分がキャッチするものこそが大事なのかなって。だから自分の感じることを、自分の意志を持って、自分の言葉で伝えるようになったところはすごく大きく変わったところだと思います。
──ここ最近の志帆さんがご自身で作詞も作曲も手がけ、アレンジにまで深く関わるようになったのにはそういった思いが影響しているんでしょうね。
そうですね。アルバムの制作初期はよりそういう思いが強かったと思います。例えば「覚醒」みたいな曲は、自分の頭の中で明確な音が鳴り続けてはいるけど、それを言葉で説明することが難しかったりもして。なので、それを伝えるために一生懸命ポチポチとボタンを押しながらベーシックアレンジを打ち込みました。そういう作業を自分なりに手探りでやっていく大変さはもちろんあるんですけど、それによって頭の中のイメージを形にするバランス感覚みたいなものに対しての自信はすごく付いたような気がします。曲自体がいい方向に進んでいるのか、ちょっと間違った方向に行っているのかのジャッジがしやすくなったというか。
──ご自身のクリエイティブへの欲求を色鮮やかに楽曲へ落とし込む作業は、きっとものすごく楽しいことなんだろうと思います。
はい。すごく面白いです。もともとアレンジのフレーズを考えたり、音の肌触りを決めていく作業が好きではあったんですけど、今まではそこを担ってくれる人がほかにいらっしゃったので、どうしても歌中心の表現にはなっていて。でも今回の制作を通して、私はサウンド面も含めて表現をすることが好きなんだと改めて感じられたんです。昔以上にいろいろなフレーズが頭の中にぽんぽんと浮かんでくるようにもなりましたし。もちろん、音楽理論はわからないのでスケールから外れているものもきっとたくさんあるだろうし、タブーなこともしちゃってるとは思うんです(笑)。でも「面白い気がする!」みたいなところを信じてやれていると思います。結果として新しい曲たちも皆さんがちゃんと受け入れてくださっているので、これでいいのかなって。
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自分が作った歌を客観的に歌える日が来るかもしれない