「あ、自分に向かって歌ってもいいんだな」って
──ボーカルにはどんな思いを乗せましたか?
ここ最近はとにかく感情を込めて、歌詞の1文字1文字にこだわりを持って臨んでいたんですけど、この曲に関してはわりとさらーっと歌ってますね。「もうちょっと淡々と歌ってみてもいいと思いますよ」という島田さんからのアドバイスもあったので、感情を上乗せしすぎず素直に歌いました。それでも十分気持ちは乗るし、ちゃんと成立するんだなっていうのはちょっと意外な発見でしたね。それはもしかすると歌詞や曲を作る段階で自分の気持ちがしっかり注がれているから、無理に歌で説得力を持たせようとする必要がなかったということなのかもしれないです。
──ただ、平メロとサビでは歌の温度感が異なっている印象もあって。サビでは、そこで伝えたい思いを強く放つように歌っていますよね。
ああ、それは自分への応援歌として歌っているからだと思います。今回は作詞でかなり悩んだので、以前からお世話になっている作詞家の方(jam)に手伝っていただいてるんですよ。そこで要は自分以外の人の言葉が加わっているので、聴いてくださる方を応援する曲であるのと同時に、私を応援してくれている曲でもあるなと思えるようになったんです。そうやって自分を励ます歌は今までにはなかったからすごく新鮮だったし、なんだかうれしくなったんですよね。その気持ちがサビの歌には出ているんだと思います。
──そういうお話を聞くと、ラストの「格好いい私になれ」というフレーズに胸打たれる感じもありますよね。これは志帆さんが自分自身にも向けて歌っているのかと。
そうそう。ここはかなりグッときましたね。制作の過程では、「このフレーズはいったい誰に向かって歌えばいいのかな」とちょっと迷っていたところはあって。でも最終的にはストンと腑に落ちたというか。「あ、自分に向かって歌ってもいいんだな」って。そういう感覚もまた面白かったです。
私なりのマントラを作ってみました
──―そしてカップリングに収録される「覚醒」「氷に閉じこめて」の2曲は、現在公開中の劇場アニメーション「プロメア」のために書き下ろされたものですね。
はい。「プロメア」には戦闘シーンが出てきますけど、主人公の2人にはそれぞれの正義があって、別に誰かを傷付けたいがために戦うわけじゃないんですよ。そこが物語の中でも特に印象に残ったので、曲を作る際にも大事にしたいなと思ったポイントでした。そのうえで「覚醒」に関しては、戦いの前夜に「守るための戦いなんだ」という気持ちを清め、心を落ち着かせるための儀式をしているイメージで作っていったんですよ。儀式で瞑想しているときに流れている曲というか。
──なるほど。だから呪文のような言葉が何度も出てくるんですね。
そう。実際の瞑想ではマントラを唱えるんですけど、意味のない言葉を何度も繰り返すことで自分の本当の気持ちにたどり着く効果があるそうなんです。なので私なりのマントラを作ってみました(笑)。この曲は戦闘シーンで使われることが決まっていたので、映像の邪魔をしたくない思いもあったんですよ。それもあって意味のない言葉を使うことにしたんですけど、試写を見せていただいたらいろんなシーンでけっこう何度も使っていただいていて。であれば、呪文のパターンをもう1つくらい作っといたほうがよかったかもな、ってちょっと思いましたけどね(笑)。
──ループする不思議な呪文に加えて、ころころと景色を変えるサウンドがかなり面白い仕上がりになっていますよね。
サウンドをコラージュしていく感じにしたかったんですよ。同じようなメロディや言葉が繰り返されているんだけど、リズムがシンコペーションしたり、いきなり激しくなったり、おとなしくなったり、周りの景色がぐるぐる変わっていくという。でも瞑想している人の気持ちはブレることなく、1本筋が通っていることが伝わるような曲になればいいかなって。
──アレンジャーは蔦谷好位置さんですけど、大本となるベーシックアレンジは志帆さん自らが作られたそうですね。
この曲のイメージは口頭で説明するのがすごく大変そうだったので(笑)、アレンジしたデモをスタッフには聴いてもらったんですよ。それによって私のイメージはすぐ納得していただけたようでしたね。ただ、実際の音源にする作業は私にはできないので、そこは蔦谷さんにお願いして。そこでも「下から突き上げてくるようなキックの躍動感が欲しいです」とか細かくイメージを伝えながら作ってもらいました。
──歌は感情的になりすぎないテンションで歌われています。そこも瞑想というイメージによるものなんでしょうね。
そうですね。声を荒げて歌わないというイメージではありました。まさに瞑想しているような気持ちで歌えたらなあと。この曲は、より歌詞の情景に沿った歌い方をしましたね。
──呪文を歌うのはどうでした?
謎の呪文パートがけっこう多かったんだけど、でもすごく楽しかったですよ。そこはもう歌うというか、唱えた感じです(笑)。
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「プロメア」のエンディングで流れた瞬間「あ、よかった」