ナタリー PowerPush - supercell×中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)

似た者同士の濃厚音楽談義

supercellでの活動やEGOISTのプロデュースなどで知られるryoが、かねてから大ファンであることを公言しているBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之(Programming, B)と対談を行った。

対談はryoが中野に対し、BOOM BOOM SATELLITESに対する熱い思いを語るところからスタート。そこからお互いの音楽に対する印象や、双方の楽曲をリミックスしたことで見えたもの、さらには楽曲制作に至るまで、興味深い会話が長時間にわたり続いた。

取材・文 / 有泉智子(MUSICA)

BOOM BOOM SATELLITESは自分に音楽を教えてくれた存在

──BOOM BOOM SATELLITESの15周年に際して「リミックスで関われたことは、自分史の中で大きな偉業となりました」というコメントを寄せているくらい、ryoさんにとってBOOM BOOM SATELLITESはリスペクトを捧げている存在なわけですが。

EGOIST「All Alone With You」イラスト

ryo はい。

──まずは、その思いの丈から伺いましょうか。

ryo そこから聞いちゃいますか(笑)。

中野雅之 ………ドキドキしますね(笑)。

ryo 最初に聴いたのは1998年くらい、(マキシシングル)「JOYRIDE」からなんですけど。(2ndアルバム)「UMBRA」がリリースされた頃にはもうBOOM BOOM SATELLITES以外は聴けない!みたいな状態になってしまって、ほかの音楽がぜんぜんよく思えなくなってしまったんですよ。で、このレベル以上に行かないと音楽を作る資格がないって思うようになって。

中野 買い被り過ぎだと思いますよ(笑)。

ryo いや、本当にそうなんです。だから自分の青春というか、ずっとそういう状態で。自分にとっては初めて聴く音楽のジャンルだったし、川島(道行)さんのシャウトもすごくカッコよかったし………語り始めると、1曲1曲いろんな思いがあってとても語り尽くせないんですけど(笑)。今でもそういうアーティストっていないんですよね。当時、Silent PoetsとかRyo Araiさんとか、あとNumbさんとかを聴いてて。

中野 あ、なるほど。

ryo 洋楽だとMASSIVE ATTACKとか、ダウナーなブレイクビーツみたいなものが好きだったんですけど、その中でもやっぱり別格だと思ってましたしね。だから、BOOM BOOM SATELLITESは本当に自分に音楽を教えてくれた存在なんです。で、自分自身はそういうものをずっと聴いてたんですけど、2007年に初音ミクが出てきて、「これなら自分もポップス作れるかも」と思って作り始めて、なぜか今ここに至っているっていう(笑)。

中野 へえ、不思議ですよね。僕自身が初めてsupercellを知ったのは、オリコンの対談企画のとき(2009年7月)だったんですけど。そのときにryoくんに「ずっと聴いてたんです」って熱く語ってもらって、ちょっと圧倒されて(笑)。

ryo あはは(笑)。

中野 それでsupercellを聴いてみると、ryoくんが好きだって言うBOOM BOOM SATELLITESの音楽的な要素とはぜんぜん違う軸で音楽を作ってるから、「へえ、こうなるんだ」っていうのは自分でも面白くて。僕らがやってないコードワークだったり、いわゆるポップスを巧みに作るっていうところでのスキルの高さ、あとアートワークも含めたマーケティングの巧みさ……アニメファンってより繊細な内面性を持ってる人が多い気がするんですが、そこをちゃんと突いてあげたりすくい上げてあげたりっていうのを、ちゃんと心に響く形でやってるところがソングライターとしてすごく優秀だなと思いました。それでリミックスをやらせてもらったんですけど。

リミックスすると自分が接していない世界を見ることができる

──BOOM BOOM SATELLITESがリミックスを手がけたのは、「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」と「The Everlasting Guilty Crown」ですね(前者はEGOISTの1stシングル「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」、後者は2ndシングル「The Everlasting Guilty Crown」に収録)。

中野雅之

中野 はい。僕らは普段、日本語詞を扱わないので、すごく面白かったですね。リミックスすると、そのアーティストを通していつも自分が接していない世界を見ることができて面白いんですけど、ryoくんの曲をリミックスするのはすごく勉強になります。

──どちらのリミックスも原曲に比べてより壮大かつドラマチックな、空間的な広がりの大きな楽曲に仕上がっているんですけど。これは中野さんから見たryoさんの音楽のイメージなんですか?

中野 そうですね。もちろん当時の自分たちのアルバム制作のモードも反映はされてるんですけど。ただやっぱり、ryoくんが作っている楽曲に対するオルタナティブな世界観を、まずryoくんに見せてあげたいし、ryoくんのファンにも見せてあげたいっていう思いがあるから、そこは丁寧にやりましたね。僕らの音楽ってryoくんのファンから見ると渋い……。

──渋いって(笑)。まあコアですよね。

中野 そう。展開もゆっくりだし、3秒に1回何か起きるみたいなことがないじゃないですか。でも、今の若いミュージシャンって、(音楽上で)常に何か起きてないと我慢できないから、次から次へと何でも起こしていくって作り方になる子が多い。

ryo すごくわかります(笑)。

中野 僕にとってはそれがつらいんですけど(笑)。自分は逆に、80年代の終わりから90年代頭にかけて、何も起きない中で同じフレーズを1分聴き続けて、1分後に何かワクワクしてるっていうのがすごく新しい音楽の聴き方だなって発見したタイプなんだよね。その発見って僕だけじゃなく、当時わりと世界共通の価値観としてアンダーグラウンドのクラブミュージックやレイブが盛り上がっていて。

EGOIST ニューシングル「All Alone With You」/ 2013年3月6日発売 / Sony Music Records
初回限定盤 [CD+DVD] 1680円 / SRCL-8238~9
通常盤 [CD] 1223円 / SRCL-8240
CD収録曲
  1. All Alone With You
  2. elbadaernU
  3. All Alone With You (TV Edit)
  4. All Alone With You -Instrumental-
  5. elbadaernU -Instrumental-
  6. All Alone With You (TV Edit) -Instrumental-
初回限定盤DVD 収録内容
  • 「All Alone With You」Music Video
  • 「PSYCHO-PASS サイコパス」Ending ノンクレジットムービー
supercell ニューシングル「The Bravery」/ 2013年月日発売 /
初回限定盤A [CD+Blu-ray] 1890円 / SRCL-8241~2
初回限定盤B [CD+DVD] 1680円 / SRCL-8243~4
通常盤 [CD] 1223円 / SRCL-8245
CD収録曲
  1. The Bravery
  2. She is my senior
  3. 青空
  4. The Bravery (TV Edit)
  5. The Bravery -Instrumental-
  6. 青空 -Instrumental-
  7. The Bravery (TV Edit) -Instrumental-
初回限定盤DVD / Blu-ray 収録内容
  • 「The Bravery」Music Video
BOOM BOOM SATELLITES アルバム「EMBRACE」/ 2013年1月19日発売 / Sony Music Records
初回限定盤 [CD+DVD+USB] 4750円 / SRCL-8162~4
初回限定盤 [CD+DVD+USB] 4750円 / SRCL-8162~4
通常盤 [CD] 3059円 / SRCL-8165
supercell(すーぱーせる)

コンポーザーのryoと複数のイラストレーター、デザイナーによって構成されたユニット。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。その人気はインターネットを通じて爆発的に広がり、2009年3月に待望のメジャーデビューを果たす。1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、翌年の「第24回日本ゴールドディスク大賞」にて「ザ・ベスト5ニュー・アーティスト」を受賞した。続く1stシングル「君の知らない物語」からはゲストボーカルにnagiを迎える。「君の知らない物語」はアニメ「化物語」の主題歌に起用され、こちらも大ヒットした。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリースし、オリコン週間ランキングで3位を獲得。その後、新ボーカリストを募集するオーディションを敢行し、2000人を超える応募者の中から福岡県出身のこゑだを選出。2012年12月にアニメ映画「ねらわれた学園」のオープニングテーマとなるシングル「銀色飛行船」をリリース。2013年3月にテレビアニメ「マギ」のエンディングテーマを含むニューシングル「The Bravery」を発表した。

BOOM BOOM SATELLITES
(ぶんぶんさてらいつ)

中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルからマキシシングル「JOYRIDE」をリリースし、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表した。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、アメリカやヨーロッパでもツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2004年には映画「APPLESEED」の音楽を手がけ、その後もさまざまな映画やアニメに楽曲を提供。デビュー15周年を迎えた2012年6月には約3年ぶりのシングル「BROKEN MIRROR」をリリースした。2013年1月、2年7カ月ぶりのオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表し、自身の楽曲のパーツを提供して、ニコニコ動画とコラボしたリミックスコンテストを開催するなど型にはまらない活動を展開。しかし同年1月、川島が脳腫瘍治療のためしばらくライブ活動を休止することを発表。そして2月末に、5月3日の日本武道館公演から活動を再開させることを宣言した。