ナタリー PowerPush - supercell
常に進化を続けるサウンド コンポーザー・ryoインタビュー
新ボーカリスト・こゑだの歌唱力とは?
──前作と同じく、こゑださんにはあまり歌い方のディレクションはしないんですか?
何も言わないですね。とにかくうまくて、まずピッチがずれないですし、スピード感もありますし、声量もありますし。ガーッて3テイクぐらい歌ったら1時間休んで、また3テイクぐらい歌ったら1時間休んでっていう感じでやるんで、演歌の大御所みたいに横から「いやあ、こゑださん良かったです」みたいなことを言ったりするだけです(笑)。で、録音したものをこゑだちゃんが自分で聴いて「今の良かったね」みたいな感じでチェックして、良かった点と悪かった点を反芻して、彼女が家に持って帰ってもう1回聴いてから本番に挑む、みたいな感じですね。それぞれのテイクの良かった部分だけを自分で残して歌えるから、パンチインで途中から歌い直しとかもあんまりしないんですよ。5分の曲だったら5分間きっちり歌う。もう、こゑだちゃんのライブみたいな感じですよね。
──単に声がいいとか曲に合っているというだけじゃなくて、ピッチがずれないみたいな基本的なことが完璧にできちゃうんですね。
そうですね。もうテクニック的にはどうとでも動けるので、あとはどういう気持ちで歌うかっていうところを一番重視できる。でも、だからこそ理想が高くて、うまく気分が乗らないと「いや、今日ダメだ」ってなることもある。ちょっとアスリートっぽいんですよ(笑)。
「ブラック★ロックシューター」主題歌に込めた思い
──「僕らのあしあと」はアニメ「ブラック★ロックシューター」のエンディング曲ですね。オープニング曲である「ブラック★ロックシューター」はsupercellのニコニコ動画での出世作の1つでもありますから、これがアニメのオープニング主題歌としてリアレンジされ、エンディング曲もryoさんが担当するというのには感慨深いものがあるのではないでしょうか。
でも「ブラック★ロックシューター」というキャラクターに自分が関わっていたのは、今回オープニング曲になった最初の初音ミクちゃんの曲だけなんですよね。それ以降はhukeくんがOVAでアニメを作って、ゲームを作ってと、そのほかの展開をいろいろ進めていったんです。だから今回のアニメ化に至るまで、実は自分は何もやってなくて、基本はhukeくんのサクセスストーリーなんですよ(笑)。自分が音楽を作っている間に、hukeくんはhukeくんで「ブラック★ロックシューター」っていうキャラクターをここまでにして、それぞれが歩んできた道のりが、こういう形になっている。今それを振り返ってみてこれからも歩いていけるっていうことを、今までの足跡を残しておくという意味で作ったのが「僕らのあしあと」という曲じゃないかと思います。
──しかし「ブラック★ロックシューター」は元々hukeさんの描いたキャラクターだったのを、ryoさんがいわば2次創作みたいな形で音楽を付けたんですよね。その2次創作がどんどん連鎖して、テレビアニメにまでなるというのはすごいですね。
CGM文化というか、ネットでいろんな人が2次創作を続けて生まれるものに、どこまでのアウトプットが必要かはわからないですけど、これが1つの到達点かなという感じはしました。
──確かに、テレビアニメ化というのは1つの終着点ではありますよね。あがりというか。
そう、あがりですよね(笑)。hukeくんは、最初に会った頃は「すごい生活も苦しいし、自分はこのままじゃマズいっすよ」みたいな感じだったんですけど、今は本当にうまくいってよかったって思います。だからやっぱり、アニメについても本編のストーリーがどうこうという点で気になるというよりは、自分にとってはhukeストーリーなんですよ。hukeくんがうまくいってくれてることが、うれしいんですよね(笑)。
──だからアニメのエンディング曲だけど、キャラクターやストーリーについて歌っているというより「僕らのあしあと」なんですね。
そうそう、そのままなんですよね。「これが僕らのあしあとです」っていう。
──でも、それはすごいことですね。自分や自分たちのやってきたことをryoさんが曲にしたっていうのは、supercellとしてはかなり珍しいんじゃないでしょうか。
そうですね。ただ「ブラック★ロックシューター」っていう曲自体もそういう自分のことを歌う曲なんです。心の中にいる「ブラック★ロックシューター」というキャラクターと自分自身とが、再生していくお話っていうつもりで作ったんです。だから「僕らのあしあと」も自分を振り返った曲っていうことで、一応そういう意味でのつながりがあることになりますね。オープニング曲をアニソンというかキャラソンとして聴くと、全く関係ないように思えるかもしれないですけど。
──なるほどなあ。ということはこのオープニング曲とエンディング曲は、ちゃんと対になっているというか、関係があるんですね。
そうそう、関係があるんです。アニメのストーリーに寄せた曲にしちゃうと学園ものみたいになっちゃうから、ここでそれをやってもどうかなと思ったので、「僕らのあしあと」を作って、これであがり、という感じがありましたね。「ブラック★ロックシューター」があって、その4年後の「僕らのあしあと」っていう景色を今ここに残して、この後どうなるんだろうっていう形になっているんです。
初回限定盤A・通常盤A CD収録曲
- 告白
- 僕らのあしあと
- カレ
- 告白(TV Edit)
- 告白 -Instrumental-
- カレ -Instrumental-
- 告白(TV Edit) -Instrumental-
初回限定盤B・通常盤B CD収録曲
- 僕らのあしあと
- 告白
- カレ
- 僕らのあしあと(TV Edit)
- 僕らのあしあと -Instrumental-
- カレ -Instrumental-
- 僕らのあしあと(TV Edit) -Instrumental-
supercell(すーぱーせる)
コンポーザーのryoと複数のイラストレーター、デザイナーによって構成されたユニット。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。その人気はインターネットを通じて爆発的に広がり、2009年3月に待望のメジャーデビューを果たす。1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、翌年の「第24回日本ゴールドディスク大賞」にて「ザ・ベスト5ニュー・アーティスト」を受賞した。続く1stシングル「君の知らない物語」からはゲストボーカルにnagiを迎える。「君の知らない物語」はアニメ「化物語」の主題歌に起用され、こちらも大ヒットした。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリースし、オリコンウィークリーチャートで3位を獲得。その後、新ボーカリストを募集するオーディションを敢行し、2000人を超える応募者の中から福岡県出身の15歳、こゑだを選出。同年11月に彼女がボーカルを務めたシングル「My Dearest」を発売し、2012年3月7日に両A面シングル「告白 / 僕らのあしあと」をリリースする。