ニコ動には感謝している
──前作のアルバムはオリコンのデイリーで2位になりましたし(ウィークリーチャートでは4位)、2010年の日本ゴールドディスク大賞でベスト5ニューアーティストを受賞したりもしていますが、CDが売れないと言われてる中でそれだけ受け入れられている理由をご自身ではどう考えているのでしょうか?
自分だとわかんないですよね。最初に「メルト」がニコ動で人気になったときからそうなんですけど、なんでみんな聴いてくれるんだろうって。聴いてくれることはすごいうれしいですけど、そこから先って考えたことがないんですよね。「俺、すげえから」みたいに絶対思えなくて。あんまり自分のことを貶めると聴いてくれるファンの方にも失礼だって最近思い始めたんであんまり言わないようにはしてるんですけど(笑)、でも根底には「なんで自分が」っていう気持ちはあるんですよね。
──ニコ動というコミュニティで作品を発表したり、曲にイラストが付いていることの力は大きかったと思いますか? それとも自分の作る音楽にやっぱり何かしらスペシャルなものがあると感じますか?
どっちなんだろう。どっちと答えても傲慢に捉えられると思うんで答えるのが難しいですね(笑)。ただ、自分はニコ動がすごい好きなんですね。ニコ動がなかったら自分はいないと思っているんで感謝してますし、それを答えとさせてもらっていいですかっていう感じで。ニコ動ってもともとは面白いことをいかにやれるかっていうネタの場だと思っているんです。ニコニコ動画っていう名前もそうですし。最近はちょっと系統が変わってきているんでしょうけど、どんだけ笑えるかみたいなところがあるとは思うんで(笑)。だけど、自分はすっごくつまらない人間なんで、そういう場所に入っていってちょっとでも面白い人たちの輪の中に入れたなっていうのが誇りでもあります。
──ただ、ニコ動もそうですし曲とイラストが有機的につながっているような方法論には新しさは絶対あるでしょうね。
「なんか新しいですよね」ってよく言われるんですけど、その「なんか」とはなんなのかって考えたことがあって。普通のミュージシャンが自分の現場から出てくる、例えばライブハウスから出てきたりする、映画の作曲家として人気になったりするとかなら普通なんですけど、supercellってパソコンから出てきてるんですよね。要するに、普通だったらライブハウスとかテレビのブラウン管越しとかCD屋さんとかから得られる感情が、ネット上で生まれて、パソコンの画面を通しても得られるんだって思われたのが、みんなに「新しい」と思ってもらえたところなのかなって思うんですよね。で「あ、パソコンすげえ、しかもお金かかんないし」みたいな。
──ファンからの反響は目にしていますか?
いや、もうエゴサーチするのをやめてて(笑)、最初に「メルト」を出したときに、始めの1カ月はすごく面白くて、10万再生くらいまではもう毎日見て「わーすげえ面白いな」って思ってたんですけど、それでやりすぎたのか、食傷気味になったというか。そこからはなんですかね。プロ以上にプロ意識が高いような感じなのか、まあ勝手な自意識過剰なのかもしれないですけど、自分がやることをこれだけ面白がってもらえるんだったら、人の意見を気にせずにやったほうがいいなって思って。それで徹底して見ないようにして。
──よい意見であっても悪い意見であっても見ないということですか?
そうですね。自分はすごくみんなに喜んでもらいたいタイプなので「よい」って言われると「あ、みんなこういうのが好きなんだ。じゃあこういうのだけ作ろう」って思ったり、逆に「こういうのが嫌なんだ。じゃあ作るのやめよう」とか思ってしまうので。評価を気にせず、自分がやることは音楽を作ることだし、音楽に対して自分はどう自分の人生を捧げていけるか、表現したいことがあるのかっていうテーマを常に見つけて、作品として外に出すっていう意識だけを持つようにしてますね。だから今回のアルバムも、ヒマだったら「ヒマだ」っていう感情だったりとか、寂しかったら「寂しい」っていう気持ちを覚えておいて、それを曲に転化するような形で作ってます。
──前のアルバムのときからそういう気持ちがあったんでしょうか?
いや、前作はそこまでじゃなかったです。ある程度は享楽的にというか、そのときは別にプロになるとか何も思っていなかったんで。何も考えていなかったですね。
「モノ」になることがsupercellのゴール
──しかし「メルト」がこれほどの支持を集める中で、なぜメジャーデビューしてCDを作ろうということになったのでしょうか? というか、その前から同人でCDを作られたわけですけど、パッケージとしてCDを作るというのは自然な流れなんでしょうか?
最初に「メルト」を作ったときにイラストの119さんから「CD作りませんか?」って感じで聞かれて「えっ、CDってそんなに簡単に作れるの」って思ったんですよね。そしたら「できるできる」って言われて、自分はWAVデータだけ提出したらCDを作ってくれたんですよ。それで「へー作れるんだ!」って思ったのがsupercellの成り立ちだったので、逆に言えばCDというパッケージで何かをするっていうことありきなのかもしれないですね。
──なるほど。CDという形で製品化というか、モノの形にすることがゴールなんですね。
そうなんでしょうね、きっと。自分はWAVデータで波形しか提出してないですけど、こうしてモノになるっていうのが。
──それはつまり「今、CDが売れないから」とか「今、配信がすごく来てるから」とか、あるいは「でもsupercellはメジャーでもけっこう売れている」とか「オリコンで何位だ」とか、そういう意識とは全然切り離されたこととして、supercellとはこういうものを作るためのものだということでしょうか?
そうですね、現時点で最終形はこれですね。ライブをやるんじゃなくて、ニコ動に投稿してCDを作るっていう。でも、最近は自分で気軽にニコニコ動画に投稿もできないっていうのもあって、なら、ニコニコ動画の代わりとなる場所がライブなんだろうなって思い始めてたりします。まあでも、本当はニコ動に気軽にいろいろ投稿したいですけどね(笑)。
CD収録曲
- 終わりへ向かう始まりの歌
- 君の知らない物語
- ヒーロー
- Perfect Day
- 復讐
- ロックンロールなんですの
- LOVE & ROLL
- Feel so good
- 星が瞬くこんな夜に
- うたかた花火
- 夜が明けるよ
- さよならメモリーズ
- 私へ
DVD収録内容
- 「君の知らない物語」×アニメ「化物語」コラボCM
- アニメ映画「センコロール」トレーラー映像
- PCゲーム「魔法使いの夜」トレーラー映像
- 「ヤングジャンプ」新増刊雑誌「アオハル」トレーラー映像
- 新曲「Perfect Day」Music Clip
初回生産限定特典
- supercellオリジナル全36Pフルカラーイラストブックレット封入
- supercellオリジナルデザインピック封入
- supercellオリジナルデザインケース仕様(illustrated by redjuice)
- 新曲ビデオクリップなどが収録されたDVD付き
初回限定盤イラストブックレット 参加イラストレーター
三輪士郎 / redjuice / huke / 宇木敦哉 / コザキユースケ / 優 / こやまひろかず / 粉冬ユキヒロ / なぎみそ / マクー / スガ
supercell(すーぱーせる)
コンポーザーのryoと複数のイラストレーター・デザイナーによって構成。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。2009年3月に発表したメジャー1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、ゴールドディスクに認定された。続く1stシングル「君の知らない物語」もアニメ「化物語」の主題歌に起用され大ヒット。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリース。